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Intelのメモリ戦略
~DDR IIは2004年で進行、DDR400は可能性を検討中


●波乱はなかった今回のDRAM戦

 Intelは、DDR333とPC1066 RDRAMメモリのサポートを第4四半期の早期に行なうことを公式に表明した。DDRとRDRAMは、2003年から2004年に渡っても平行してサポートを続ける。また、Intelは、DDR400メモリについて採用の可能性を探っていることを明らかにした。一方、次世代メモリDDR IIのサポートについては、2004年予定のまま変わっていないと説明した。IDFで示されたおおまかなロードマップは下の「Intel Memory Technology Roadmap」図の通りだ。

Intel Memory Technology Roadmap

 Intelは、9月10日から開催された開発者向けカンファレンス「IDF(Intel Developer Conference) Fall 2002」で、今後のメモリ戦略を包括的に説明した。ここ数年、IDFでのIntelのメモリ戦略発表は波乱含みのことが多かった。例えば、昨春のIDFではいきなりRDRAM路線への復帰がアナウンスされた。

 しかし、今回は、ほぼ予想通りの展開だった。このコラムでレポートしてきたラインとそれほど大きく変わらない。逆を言えば、DDR400に対してはどの程度本気なのか、DDR IIは前倒しになる可能性があるのか、RDRAMは来年でサポートをうち切るのではないのか、といった疑問はそのまま残った。

●DDR333とPC1066はレディ

 Intelは、IDFで各メモリ技術の開発とサポートのプロセスについて説明した。

 まず、DDR333は、サポートに必要なプロセスのほとんどが終了し、準備は整ったと説明する。DDR333は、DDR266からモジュールの変更が必要となり、JEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の事実上の標準化団体)で新モジュールのリファレンスを策定した。現在は、新リファレンスに沿ったモジュールは、6~7月にサンプルが出ており、Intelは互換性検証を終えている。メモリ側はほぼ準備ができたことになる。業界関係者によると、Intelは10月第2週にDDR333サポートの「Intel 845GE」と「Intel 845PE」チップセットをリリースする予定だ。

 PC1066も準備ができたという。IDFでは、モジュールとマザーボードとも最小限の変更でPC1066に対応できると説明。互換性検証もほぼ終わったと説明した。業界関係者によると、Intelは、従来の「Intel 850E」チップセットで、PC1066をサポートする見込みだ。

DDR333、PC1066ともに準備は整ったという

●DDR IIサポート計画は変化なし

DDR IIについては特に変更はなかった

 IntelはDDR IIを2004年のメインメモリとして採用する計画を今年2月のIDFで公式に明かした。現在のところ、この計画とスケジュールに変更はないようだ。

 DDR IIは、すでにエルピーダメモリなどからサンプルチップが出ている。しかし、これはまだJEDECの予備スペックに沿ったもので、今年に入って変更されたスペックに沿ったものではない。JEDECで最終的に策定されたスペック(On-Dieターミネーションやオフチップドライバキャリブレーションを搭載する)に沿ったDDR IIのサンプルチップは年末になるという。これもDRAMベンダー側の説明と合っている。

 今後のスケジュールは、フルスペックのサンプルが出揃ったところで、プロトタイプシステムとの間でテストを行ない、その結果、DRAMチップとモジュールの最終スペックを決定する。つまり、実際にIntelが対応するDDR IIチップの量産開始は、その最終スペックに沿った修正が行なわれた設計でということになる。さらに、立ち上げ前に、量産チップをベースに、評価(Evaluation)と認定(Validation)を行なう必要がある。

 こうした過程を残したDDR IIは、まだ開発サイクルの比較的前の段階にある。そのため、懸念材料も残っているとIntelは説明する。IntelのKyle Fukuda氏(Platform Memory Operations)によると「DDR IIでの懸念材料は、歩留まりと価格で、これはまだ不鮮明」だという。また、DDR IIは電源電圧(Vdd)とI/O電圧(Vddq)がDDR Iの2.5Vから1.8Vに下がるため、1.8V駆動に適したプロセス技術(0.13~0.11μm以下)の立ち上がりも重要となる。一部のDRAMベンダーにはDDR IIサポートを早めたい意向もある。しかし、今回のIDFでの説明では、Intelは2004年という路線を崩していない。

 ちなみに、Intelは来年中盤のチップセット「Springdale(スプリングデール)」から、デスクトップPCをデュアルチャネルDDR333メモリへと移行させる。2003年のパフォーマンスデスクトップPCは、デュアルチャネルDDRメモリ化してゆくと見られる。これはDDR IIでも継続される。「DDR IIもデュアルチャネルになると推測している」とIntelは説明する。DDR IIは400MHzからスタートして、533MHz、そして667MHzまでが予定されている。もし、DDR IIもデュアルチャネルだとすると、メモリ帯域は下のようになる。

・DDR II 400MHz 6.4GB/sec
・DDR II 533MHz 8.5GB/sec
・DDR II 667MHz 10.7GB/sec

 そうすると、DDR IIに帯域を近づけるため、FSB(フロントサイドバス)も800MHz(6.4GB/sec)に引き上げられる可能性もある。

●DDR400は可能性を検討の段階

DDR400は検討段階

 Intelは、今回のIDFで、初めて公式にDDR400サポートについて触れた。といっても、それほど積極的な姿勢ではない。IntelのKyle Fukuda氏(Platform Memory Operations)は「まだ可能性を探る(feasibility)段階だ。課題は数多く残っている」と説明する。つまり、業界での標準化の予定はなく、堅牢なプラットフォームのインプリメントはまだ探っている最中で、消費電力と発熱の問題もある。そして、さらに大きな問題としてアベイラビリティと価格がある。

 実際、DDR400に関しては、最大手のDRAMベンダーであるMicron TechnologyとSamsung Electronicsは生産するが、エルピーダとInfineonは今のところ生産の計画がない。

 これにはいくつか理由があるが、最大の理由はDDR400ではDRAMメモリセルアレイの周波数を200MHzに上げなくてはならないからだ。通常のDRAMベンダーのセルアレイは、100~133MHzが比較的容易に達成できる周波数で、167MHzも到達できるが、200MHzになると高歩留まりで採るのはほぼ不可能になるという。つまり、DDR333までは行けるが、DDR400になると、かなり難しいというわけだ。また、パッケージもCSPにする必要がある。そのため、プロセスの微細化が進んでいて、CSP製品も開発している最大手2社以外は、DDR IベースのDDR400に乗り気ではない。

 例えば、InfineonのChee Ho氏(Director, Product Marketing)は「DDR400を実現するには、メモリコア自体を再エンジニアリングしないとならない。しかし、それにはかなり時間がかかり、そうしているうちにDDR IIが立ち上がってしまう。DDR IのDDR400か、それともDDR IIのDDR400かという問題になる」と説明する。

 また、Intelは2003年中はFSBを667MHzまでしかアップしないと見られる。そうすると、DDR400デュアルチャネルメモリの6.4GB/sec帯域は、667MHz FSBの5.3GB/sec帯域より大きくなりあまり実質的な意味はない。また、ベース167MHzのFSBとベース200MHzのメモリでは、同期性も悪い。IntelがDDR400の可能性を探っているのは、あくまでもマーケティング上の問題からと考えるのが妥当だ。

●継続してひとつのDRAM技術でカバーする戦略のIntel

 また、Intelは今後のDRAMサポートの大まかな方向性も示した。

 IntelはDRAM技術で3つの要求があるという。まず、今後も広がるCPUとメモリ間のギャップを埋めるための広メモリ帯域。それと同時に、モバイルやブレードサーバーなどのために必要な、現状と同レベルかそれ以下の電力消費。また、ハイエンドサーバーや今後のOSのメモリ容量要請のための、継続した大容量化。

 ポイントは、Intelがこうした多様化する要求に対して、継続してワンコア技術(ひとつのDRAM技術)による解を求めているということだ。

 「ワンコア技術ですべてを得るのは難しいが、Intelは全ての要求に合うメモリ技術を求めている」「なぜ、ひとつの技術にこだわるのか? それは、もし個々の市場毎に特殊化されたメモリ技術となったら、価格も特殊化(specialize)されてしまうだろうからだ。DRAMでは、スケール経済の利点を享受することが必要で、コア技術をひとつに保つことが必要だ」とIntelのFukuda氏は説明する。

 DRAM業界には、ひとつのDRAM技術が市場のほとんどを占める「コモディティDRAM(汎用DRAM)」の時代が続くのか終わるのかという、大きな議論がある。Intelは、今後も、継続してワンコア技術が支配する(コモディティDRAMの)方向を目指していることを明確にした。

 Intelは、現在は、明らかにDDRメモリをコモディティDRAMの座につけようとしている。そして「DDR IIもワンコア戦略に沿っている。全てのセグメントで使われるようになるだろう。DDR IIIは、議論を始めたばかりだが、これもワンコアテクノロジになると考えている」とIntelは説明する。

 皮肉なことに、この路線から外れているのは、じつはIntelが一時推進したRDRAMだ。はたしてIntelはRDRAMをどう見ているのか。IDFで出たその質問に、Intelは「RDRAMももうひとつのコア技術」と苦しい答えを返していた。

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(2002年9月13日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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