Intel Developer Forum Conference Fall 2002 基調講演レポート

Banias、LaGrande、Madisonなど盛りだくさんの内容
~Hyper-Threadeing対応Pentium 4も年内に登場

基調講演を行なったIntelの社長兼COOのポール・オッテリーニ氏

会期:9月9日~12日(現地時間)
会場:San Jose Convention Center



 Intelの開発者向けカンファレンスであるIntel Developer Forum(IDF)は、9日午後(現地時間)ポール・オッテリーニ社長兼COOの基調講演で幕を開けた。オッテリーニ氏は、「シリコンこそが、コンピューティングとコミュニケーションが融合するエンジンとなり、新たな将来性をもたらす」ことを強調。そのビルディングブロックとしてBanias、Hyper-Threading TechnologyをサポートしたHTテクノロジ対応のPentium 4 3.06GHzや、同社の次世代プロセッサなどに搭載される予定のセキュリティ機能のLaGrande Technology、そしてItanium 2プロセッサの後継となるMadisonなどに関する発表を行なった。

●シリコンがコンピューティングとコミュニケーションの統合を実現

 オッテリーニ氏は、はじめにコンピュータの進化の歴史を振り返り、「当初の利用形態は、メインフレームを端末から利用するというものだった。それがPCになり、さらに現在では複合的に様々なデバイスが利用されるに至った。こうした時代では、いつでも、どこでもコンピューティングができるようになることが求められている」と述べ、マイクロプロセッサだけでなく、コミュニケーションの重要性が向上し、それらが融合しあってきていることを指摘。

 そこで、Intelの社名(INTegrated ELectornics=INTEL)にもなっている統合化された電子チップという方向性に触れ、「シリコンはすべての進化のエンジンになっている。古くはDRAM、そしてPCの時代ではマイクロプロセッサとして、そして最近ではコンピューティングとコミュニケーションの融合にもシリコンが推進エンジンとなっている。すべてのコンピュータはコミュニケーションの機能を持ち、逆にすべてのコミュニケーション機器はコンピュータの機能を持っている。そのため、今後は両者の融合がより進んでいくだろう」と語った。そのような中Intelはリーダー的役割を今後も務めていくことを強調した。

メインフレーム、PCと進化してきたコンピュータも今後は複合デバイスへと進化していく シリコンは今後も進化のための推進役となる

●Starbucksも注目するBaniasプラットフォーム

IDFとは思えない、Starbucksの社長とオッテリーニ氏のトーク。ホットスポットの重要性がアピールされた

 コンピューティングとコミュニケーションの統合例として、最初にあげられたのがBanias(開発コードネーム)だ。BaniasはIntelが来年の第1四半期(公式には来年前半)に導入を予定しているモバイル専用のプロセッサで、高いパフォーマンスを実現しながら、消費電力は現在のモバイルPentium 4-Mよりも下がるため、モバイルPC用のCPUとして大きな注目を集めている製品だ。

 今回は、Baniasを搭載した製品を利用したデモが行なわれた。壇上に登場したIntelのモバイル担当者が、Baniasを搭載したDellのノートブックPCを利用し、会議室に行き、Banias以外のCPUを持っている別の担当者とミーティングする様子というコミカルな劇が展開された。

 もう一人の担当者は最初にACアダプタを探しに行くと、Banias搭載ノートPCを持っている担当者は内蔵されている無線LAN機能を利用してネットワークにアクセス。Baniasを持っていない担当者が無線LANカードをPCに挿している間に、オレゴンの研究所の別のメンバーとの打ち合わせを完了し、「情報システムの担当者にBaniasを搭載したノートがいつ入荷するか聞いてごらん」というオチだった。

 さらに、その後、壇上に用意されているStarbucksのお店にIntelの担当者とオッテリーニ氏がいき、同社がサービスを開始している無線LANのホットスポット機能を利用していると、壇上にStarbucksの店員がやってくる。

 だが、この店員は単なる店員ではなく、実はStarbucksの社長兼CEOであるオリン・スミス氏なのだ。スミス氏は「我々のビジネスはお客様に快適さを与えることだが、顧客からインターネット接続への要求が増えたため、Hewlett-PackardとT-Mobileの協力により、その環境を整えることができた」と述べ、ホットスポットに対する顧客の関心が非常に高いことを説明。さらに、「Baniasのプラットフォームが登場することにより、より顧客がホットスポットに関心を持つようになれば、我々のビジネスにとっても有益だ」と述べた。

ビデオ中で公開された松下電器のBanias搭載ノートPC デモに利用されたBaniasを搭載したデルのノートPC。A4薄型のノートPCのようだ IDFのStarbucksはマイクロソフトのジム・オルチン副社長も利用。オルチン氏は、Tablet PCやMiraなどをアピール

●Mobilityをアピールするための戦略

 今回Intelが、わざわざStarbucksの社長まで呼んでアピールしたかったことは、いうまでもなく“Mobility(機動性)”に今後付加価値がでてくるということを考えているからだ。すでにTECHXNY/PC EXPOのレポートでも述べたように、IntelのBaniasに対するマーケティング戦略は、CPUだけでなくチップセットや無線LANといったプラットフォームまで含めた“Mobility”をアピールするというものだ。

 実際、IntelはBaniasというブランド名をCPUだけでなく、チップセットや無線LANまでも含めたBaniasプラットフォームに対してもつけようとしている。また、デュアルバンド(IEEE802.11aと11b)に対応した無線LANのmini PCIカードを非常に安価にBaniasにバンドルする予定もある(このあたりの事情は後藤弘茂氏の記事に詳しいので参照していただきたい)。

 Intelがこうした戦略に出るのは、1つにはBaniasのメリットが、単なるパフォーマンスでは語れないためだ。仮にBaniasのメリットがパフォーマンスであれば、後述するPentium 4のように、クロックを上げていったり、古い世代のプロセッサと競争させたりということを行なうだろう。

 だが、Baniasの魅力はそこにはない。Baniasの魅力というのは、無線LANを内蔵していつでもどこでもシームレスにネットワークにアクセスしたり、長時間バッテリーで利用したりするといった“クロック”という数字には表れない部分だ。だからこそ、そうした魅力を語るために、ITとはこれまで無縁だったはずのStarbucksの社長を招き、その必要性を語ってもらったとわけだ。

 もちろん、Intelもそうした目に見える部分だけでなく、陰の部分でも努力している。Intelは、ホットスポットを整備するのに必要な会社に投資したり、Intel自身がホットスポットの設営に直接協力している例もある。つまり、Intel全体として、Baniasをアピールするマーケティング戦略(Mobilityを実現する)という方向に向かって動いているということだ。今回の基調講演はそれを非常にうまくアピールするものだったといっていいだろう。

●HTテクノロジ対応Pentium 4プロセッサ 3GHzは第4四半期に発表

 引き続きオッテリーニ氏は、デスクトップPC向けプロセッサに関する話題へと移った。最初に見せたのは、舞台袖に用意された簡易ラボにおける、Pentium 4の高クロック動作デモだ。前回のIDFでは4GHz動作をさせて見せたが、その後に行われたCeBIT Hannoverでは4.1GHzを動作するなど徐々にクロックが上がってきていたが、今回は4.1GHzからはじめ、4.5GHzを超え、最終的にはブルースクリーンがでる直前に4.7GHzが実現された。

Pentium 4のクロックをあげていく様子。4.1GHz付近から始めて最終的に4.7GHzまで到達したところでハングアップした

 ただ、これはあくまでラボでの話で、実際の製品では今すぐに実現される話ではない。そこで、オッテリーニ氏が近い未来の話として始めたのが、Hyper-Threading Technologyに対応したPentium 4だ。Hyper-Threading(以下HT)は、1つのCPUを2つの論理CPUに見せかけることで、CPUのリソースをこれまで以上に活用し、CPUのパフォーマンスを25%(以前は30%といわれていたが、やや控えめな数字となっている)向上させる技術。

 Intelはこの技術に対応したPentium 4に、HTテクノロジ対応Intel Pentium 4プロセッサ(HT Technology Intel Pentium 4 Processor)というブランド名を冠し、第4四半期に3GHz(ソースによれば3.06GHz)でリリースすることを正式にアナウンスした(ロゴにもHTの2文字が入る)。

 HTテクノロジを利用したデモも行なわれ、HTが有効なPentium 4 3GHzと無効な3GHzで、実際に3Dゲームを遊びながらビデオをエンコード。HTが有効な方はちゃんと音も含めて完全にエンコードされたのに対し、HTが無効な方では音がエンコードされずコマ落ちが多かった。また、引き続きExcelでマクロを実行しながら、ファイルを圧縮するデモが行なわれ、こちらもHT有効の方がより短時間で実行することができた。最後にウィルススキャンを行ないながら、PowerPointファイルを表示するデモも、HT有効の方が高速に処理を行なった。

 オッテリーニ氏は「2003年にはパフォーマンスデスクトップの25%、ワークステーションの60%、サーバーの80%がHTテクノロジ対応となるだろう。これは、ソフトウェア開発者にとっても新しいチャンスの到来であり、ぜひHTテクノロジへの対応を進めてほしい」と、ソフトウェア業界に対してHTテクノロジへの対応を呼びかけた。

Hyper-Threading Technologyに対応したHTテクノロジ対応Pentium 4 3GHzを第4四半期にリリース Hyper-Threading Technologyのデモ。左側がHT対応、右側がHT未対応。左側のPowerPointのスライドは表示されているが、右側はまだ表示されていないことに注目 2003年にはデスクトップPCの25%がHyper-Threading Technologyに対応する

●PCにセキュアな環境をもたらすLaGrandeテクノロジーの概要を発表

将来的にPCの基本的な機能となるLaGrandeテクノロジ

 次にオッテリーニ氏はPCのセキュリティ環境について触れ、同社が今後リリースするCPUおよびチップセットにLaGrande(ラグランド)テクノロジを導入し、よりセキュアなPCを実現すると宣言した。

 LaGrandeテクノロジは、現在IBMがThinkPadシリーズなどに導入しているセキュアチップが持っている機能を、プロセッサやチップセットに導入し、PCのセキュリティを高めるというものだ。また、マイクロソフトが推進している“Palladium(パラディウム)”にも対応した環境になるという。

 導入時期に関しては、今後2~3年と述べられたが、基調講演後の質疑応答で、「次世代のマイクロアーキテクチャが導入されるタイミング」(オッテリーニ氏)と詳細が語られた。Intelが2003年の第3四半期に投入を予定しているPrescottは、現在のNetBurstマイクロアーキテクチャを拡張したものとなる予定で、Prescottの後継となるTejasも基本的にはNetBurstマイクロアーキテクチャの延長上にある製品となる。となると、Tejasの後継になる製品が、このLaGrandeテクノロジに対応した製品となる可能性が高いと思われる。

●2003年に導入される0.13μmプロセスのMadisonをデモ

 最後にオッテリーニ氏は現在のItanium 2(コードネーム:McKinley)の後継として2003年に導入が予定されているMadison(マディソン、開発コードネーム)に関するデモを行なった。

 MadisonはMcKinleyの製造プロセスルールを0.13μmに微細化し、L3キャッシュの容量を3MB/4MB/6MBに増やしたもので、現在のMcKinleyと同じパッケージ(PAC611)、同じソケット(mPGA700)で利用することができるサーバー向けプロセッサ。

 今回はUNISYSのES7000という16ウェイのItanium 2サーバーで、4つのItanium 2が搭載されたノードを抜き出し、4つのMadisonが搭載されたノードと交換して、すぐに性能が向上するという様子のデモを行なった。

 また、NECのItanium 2を32個搭載した32ウェイサーバー(NEC TX7)を紹介し、この製品がTPC-Cのベンチマークで、308,620トランザクション/分を実現したことをあわせて明らかにした。このシステムは、Windows .NET Server 2003 64bit版、SQL Server 2000 Enterprise Edition 64bit版で構成されており、従来WindowsベースのTCP-Cの倍近い結果となっているという。LANPACKのHPCにおいても101GFLOPSが実現されたという。

McKinleyのノードを、Madisonのノードに交換すると、すぐにパフォーマンスが上がった MadisonはMcKinley 1GHzの30%増しの性能となる。クロックなどは未公表 TCP-Cの最高性能を実現したNECのTX7

□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2002/
□関連記事
【7月29日】【海外】Intel、Banias後継の第2世代モバイルCPU「Dothan」を来年後半に投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0729/kaigai01.htm
【6月28日】【TECHXNY】IntelがBaniasに向けて2種類のブランドを検討中
~Baniasはデュアルバンドの無線LANをサポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0628/tech10.htm

(2002年9月10日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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