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4チャネルRDRAMチップセットも検討するSiSのRDRAM戦略


 RDRAMチップセット「R658」を発表、いよいよRDRAMベースの市場にも入ったSiS(Silicon Integrated Systems)。同社のAlex Wu(アレックス・ウー)氏(Senior Marketing Director)に、RDRAM戦略をうかがった。

●RDRAMには関心があっても不安が強いPC業界

[Q]IntelがRDRAMサポートを縮小しつつある時、SiSがその市場に入ってきた。なぜなのか。

[A] もちろん、我々は自分たちがIntelより優れているとは思っていない。我々がやろうとしているのは、Intel製品とは差別化した製品を作ることだ。RDRAMは疑いなくいいテクノロジだ。高パフォーマンスで、安定していて互換性も高い。しかし、RDRAMには、いいプラットフォーム(チップセット)と確かなストラテジがなかった。

 だから、誰にでもチャンスがあると考えている。もちろん、我々が、RDRAMで成功できるかどうか予期できないが、少なくとも試す価値はあると考えた。

[Q]RDRAMチップセットR658に対する顧客の反応はどうなのか。

[A] 顧客からのフィードバックでは、RDRAMの今後について心配の声がまだ多い。顧客は、もちろんデュアルチャネルDDRチップセットがもうすぐやって来ることを知っている。そして、(デュアルチャネル)RDRAMがデュアルチャネルDDRに太刀打ちできるかどうか疑っている。その理由のひとつは、RDRAMの価格構造。もうひとつの理由は、RDRAMの市場シェアが全体の10%程度でしかないこと。

 RDRAMマザーボードの価格を130~140ドル近辺に維持するとしても、RDRAMメモリモジュールはDDRメモリよりずっと高価格のままだ。そうすると、顧客の利益はメモリコストで削られてしまう。また、10%程度のシェアだと、将来に不安があると顧客は考えている。こうした事情があるため、顧客はRDRAMに関心を持っているものの、新しい製品を設計するのはあまり気が進まない状況にある。

[Q]R658はこの状況を変えられるのか。

[A] R658には多くの利点がある。Intel 850Eがサポートしていない最新のテクノロジ、例えば、AGP 8X、USB 2.0、IEEE 1394にも対応し、高速版RDRAM「PC1066」を最初にサポートした。また、IntelがサポートしないPC1066-35(より歩留まりの高いPC1066)にも対応した。ECCメモリもサポートしたので、ローエンドサーバー市場向け製品もできる。

 i850Eでは必ず同容量のRDRAMモジュールを2個組み合わせなければならないが、我々のDRAMテクノロジは非常にフレキシブルでスケーラブルな組み合わせが可能だ。1モジュール(1チャネルだけ)、2モジュール、2つの異なるメモリサイズのモジュールといった組み合わせができる。また、ローコストに実装したいなら、4i RDRAM(低コスト版RDRAM)も対応できる。

[Q]顧客がRDRAMベースで高付加価値という組み合わせに惹かれると見込んでいるのか。

[A] RDRAMベースのシステムはハイエンド製品で、顧客は一般にハイエンド製品では保守的になる。それでも、R658はいくつかのモデルに採用されるチャンスがあると思う。顧客は、彼らのRDRAMモデルで、AGP 8XやUSB 2.0といった最新テクノロジを追いかけることができる。

 また、我々のRDRAMインターフェイスはスケーラブルなので、RDRAMモデルをメインストリームに持って行くことすらできる。実際、顧客とそうしたアイデアを話し合っている。しかし、この方向に進むには、RDRAM価格が下がることが必要で、その鍵はSamsungが握っている。RDRAMではSamsungが支配的なサプライヤだからだ。SamsungのRDRAM価格戦略次第だ。

●デュアルチャネルDDRに対する利点

[Q]デュアルチャネルDDRとデュアルチャネルRDRAMでどちらがパフォーマンスが上なのか。

[A] シミュレーションではデュアルチャネルDDRが優れていると出た(笑)。しかし、それは単にシミュレーションデータに過ぎない。まだ、実際のシリコンでテストはできていない。シミュレーションということなら、DDR400も非常に優れていた。しかし、実際のシステムにインプリメントすると、たいていそうではない(笑)。

[Q]デュアルチャネルDDRに対するRDRAMの利点は。

[A] デュアルチャネルDDRは、最初はチップセットとマザーボードのコストが高くつく。コストでRDRAMの方が利点がある。

[Q]デュアルチャネルDDRの方がダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくなると聞いた。

[A] そうだ。それから、デュアルチャネルDDRはフリップチップ実装にしなければならないので、パッケージコストも2倍になる。現在のチップセットと同じレベルのコスト構造にまで下げるには、おそらく1年かかるだろう。

 最初はマザーボードも高くつく。基板は4層のままだが、マザーボードベンダーは128bit幅のメモリインターフェイスの経験を積む必要がある。現在のマザーボード製品と同じ歩留まり、同じコスト構造にするには、多分6カ月くらいかかるだろう。

[Q]つまり、マザーボードとチップセットの価格はデュアルチャネルRDRAMの方が当面は安くなる。

[A] そうだ。しかし、RDRAMメモリモジュールの高価格は障害となる。実際のところ、DRAMでは仕様や速度はあまり重要ではなく、価格とボリュームが重要となる。だから、私はSamsungとRambusに念押しをした。「もし、RDRAMをPCプラットフォームで生き残らせたいと望むなら、急いでRDRAMの価格を競争力のあるものにしないとならない。そうしないと、デュアルチャネルDDRが市場に登場した時点で、もうチャンスがなくなってしまう。テクノロジのよしあしではなく、タイミングの問題だ」と。

●RDRAMシェアを15%程度に

[Q]そもそもRDRAMチップセット参入で、Rambusとはどういう話合いをしたのか。

[A] RambusはPC市場では複雑な立場にある。彼らは最初、Pentium 4ではメインストリーム市場を狙える最高のチャンスがあった。なのに失敗してしまった。そこで、SiSは次のステップのアイデアについて、Rambusや彼らのパートナー(DRAMベンダー)と話し合った。我々の参入によって、ある程度の市場シェアを維持するというアイデアだ。今後もRDRAMを続けるには現在の10%のシェアでは小さすぎる。15%程度のシェアを得なければならない。

[Q]15%は低い目標なのか高い目標なのか(笑)。

[A] 私は、RDRAMがDRAMテクノロジのメインストリームに戻るとは思わない。なぜなら、顧客は、Samsungだけがサプライヤであることを心配しているからだ。Samsungは顧客に製品の継続的な提供を保証しているが、PCメーカーは常にセカンドソースの不在を心配する。価格だけでなく、有力なセカンドソースがないことにも問題がある。

[Q]もう1社、エルピーダメモリがいる。

[A] 確かに、彼らは、既存のRDRAM需要を満足させている。しかし、残念なことに、顧客の多くは、彼らをアグレッシブで重要なセカンドソースと見なしていない。そうなるためには、彼らは真剣に投資を続けなければならない。しかし、どのDRAMベンダーにとっても、このDRAM価格の状況では、積極的な投資を続けるのは難しい。これは、エルピーダのせいではなく、DRAM業界、いやPC業界全体の落ち込みの問題だ。

※エルピーダはRDRAMで0.15μmをスキップしたために高速品の提供が遅れている

●次期RDRAMチップセットでは4チャネルも検討

[Q]RDRAMチップセットでローエンドサーバー市場もターゲットにすると聞いた。

[A] そうだ。RDRAMは非常に安定していて互換性が高いからサーバーにも向いていると考えている。ただし、サーバーへと考えているのはRDRAMだけではない。

[Q]デスクトップがメインで、次にサーバーなのか。

[A] まず、年末までに、ハイエンドデスクトップ市場が先に立ち上がると信じている。ローエンドサーバーは次のステップで、来年には参入するチャンスがあると思う。

[Q]RDRAMベースで4チャネルメモリのスーパーハイエンド製品や、より高周波数のRDRAMをサポートする「R659」も検討していると聞いた。

[A] まだ、最初のRDRAMチップセットを発表したばかりだから、全戦略を発表するつもりではない。だが、実際にそういった提案が社内であり、議論をしたのは確かだ。しかし、まだ決定には至っていない。それぞれのプランが、異なるパフォーマンスレンジをターゲットにしているからだ。検討したプランのひとつは4チャネルRDRAM、もうひとつは進化版のプラン、残るひとつは単なるR658のリフレッシュ版だ。

 RDRAMの周波数の向上だけなら、リフレッシュ版で対応することができる。他のプランはさらにRDRAMチップセットを進化させるプランだが、こうしたプランを推進するには、最初のシリコン(R658)で、成功することが必要だ。

 私は、この戦略はSamsungに依存していると思う。なぜなら、現在のRDRAMのキーファクタは、SamsungのDRAM価格戦略にかかっているからだ。価格の割高感がなくなるなら、顧客をもっとRDRAMに引き寄せることができる。

 それには、RDRAMがDDRメモリと同じ価格である必要はないと思う。価格が10%高くても、RDRAMは十分に魅力的だ。しかし、差が10%以上だと難しい。現在のDDR400メモリモジュールは高価だが、RDRAMはそれよりももっと高い。これは、Samsungの価格戦略に依存している。

[Q]RDRAMチップセット開発はSiSにとってどんな意味があるのか。

[A] よい製品を作ること以外にも意味がある。実際、我々の目的のひとつは、RDRAMテクノロジを実装すること自体だった。RDRAMをインプリメントすることで、SiSのエンジニアに、異なるテクノロジについての経験を積ませることができる。もうひとつの意味は、SiSのポジションを引き上げることだ。堅固で安定したハイエンドテクノロジを、SiSが提供できることを示すことにも意味がある。R658開発では顧客のコミットメントはなかったのに、我々は開発費としてすでに100万ドル以上を投資した。しかし、それだけの価値があると思っている。

[Q]経験が主目的なのか(笑)。

[A] もちろん、そんなことはない(笑)。市場に提供するとなった時点で全く異なるストーリになる。開発を失敗したら100万ドルを失うが、製品化に失敗したらさらに100万ドルを失ってしまう。だから、製品は、なんとしても成功するように持って行きたい。

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(2002年8月26日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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