「東芝 DynaBook P5/S24PME」を試す
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東芝「DynaBook P5/S24ME」 |
東芝のDynaBook P5/S24MEは、大型の16型液晶ディスプレイ、CPUにはモバイル用ではなくデスクトップPC向けのPentium 4 2.40GHzを搭載しているなど、ノートPCとして非常に高性能な製品だ。最近では、こうしたデスクトップ向けCPUを利用したノートPCは増え続けている。
今回はその背景を考えるとともに、本製品の魅力に迫っていきたい。
●モバイルPC向けではなく、デスクトップPC向けのPentium 4 2.40GHzを採用
東芝のDynaBook P5/S24ME(以下本製品)はCPUに、IntelのPentium 4プロセッサ(以下Pentium 4)の2.40GHzを採用している。このPentium 4は言うまでもなく、通常はデスクトップPC向けに利用される製品で、熱設計時に参照する熱設計消費電力(TDP、ワースト時の消費電力)は57.8Wと、現在のモバイル向けの最高クロックとなるモバイルPentium 4プロセッサ-M(以下モバイルPentium 4-M) 2GHzの32Wに比べて倍近い消費電力となっている。
しかも、熱設計の難易度の指標となる熱抵抗値は、どちらもケース内温度が摂氏45度だと仮定する(実際にはデスクトップPCとノートPCではケース内温度が異なるが、ここでは比較するために両方とも同じと仮定したい)と、Pentium 4 2.40GHzはTcase(ヒートスプレッダの最高稼働保証温度)が摂氏70度なので(70-45)/57.8=0.433となるが、モバイルPentium 4 2GHz-Mの方はTj(モバイルPentium 4はヒートスプレッダが無いため、ダイ自体の温度となる)が摂氏100度であるので、(100-45)/32=1.78となる。熱抵抗値が低ければ低いほどヒートシンクへの要求は大きくなるので、圧倒的に前者の方が放熱が難しい計算になる。
従って、本製品ではデスクトップPCでさえ搭載するのが大変なPentium 4 2.40GHzを内蔵すべく、工夫が行なわれている。
外見からはほとんど見えないが、やや大型のCPUクーラーが採用されており、ノートPCとしては回転数が速そうなファンが採用されている。「速そうな」と書いたのは、実際にどの程度の回転数であるかは公表されていないためだが、起動時にものすごい騒音が起こるのがその何よりの証明だ。だが、安心してほしい。決してずっとうるさいというわけではなく、うるさいのは起動時に一瞬全開で回るのと、CPUに多大な負荷をかけてCPUが発熱してきた時だけだ。通常の使い方であれば、CPUがフルで回ることは少ないはずで、あまり気にする必要はないだろう。
ファンは底面に用意され吸気する | 側面に用意されているヒートシンクを風が通って放熱し、廃熱する。ヒートシンクには銅が利用されており、熱伝導率を高めるなどの工夫がされている |
●PCメーカーがデスクトップPC向けCPUをノートPCに使う理由
さて、最近では本製品のように、ノートPCにデスクトップPC向けCPUが採用される例が増えてきている。実際、6月の終わりにニューヨークで開催されたTECHXNY/PC EXPOでも、東芝やHPが展示していたほか、6月に台北で開催されたComputex TaipeiでもODMメーカーなどにより多数の製品が展示されていた。
一部では「デスクノート(Desk-Note、デスクトップPCとノートPCの融合製品という意味)」とも呼ばれるこうした製品が登場した背景は2つある。1つはノートPCの液晶パネルが年々大型化するにしたがって、本体のケース自体も大型化し、熱設計的に余裕がでてきたからだ。本製品では後述のように16型という大型の液晶を採用しており、その大きさで本体サイズが決まっていると言ってよい。このため、内部には以前に比べて大分余裕を持たせることが可能になり、熱設計に利用できるスペースも増えてきたうえ、表面積が増えてきたため、自然放熱も以前より期待できるようになったのだ。
もう1つはデスクトップPC向けとモバイルPC向けのCPU価格の差が大きいことだ。たとえば、IntelのWebサイトで公開されているCPUの価格をみると、Pentium 4 2.40GHzの価格は400ドルで、仮に同じ価格でモバイル専用プロセッサであるモバイルPentium 4-Mを選択したとすると、1.90GHzにしかならない。つまり、同じ価格であるのに、デスクトップPC専用にすれば+500MHzとなるのだ。
もし、ショップの店頭で、CPU以外のスペックは同じだが、通常のPentium 4 2.40GHzとモバイルPentium 4 1.90GHzを搭載した製品が並んでいたとすれば、どちらを購入するだろうか? 筆者が答えを書くまでもないだろう。
確かに、モバイルPentium 4をチョイスすれば、SpeedStepテクノロジやDeeperSleepなどのかなり強力な省電力機能を利用することができる(実際DeeperSleepは省電力にかなり強力な武器となっている)が、16型の液晶ディスプレイを搭載し、重さが4.4kgのマシンを持ち運んで利用するだろうか? せいぜい会社では会議室から自席への移動とか、家では自室からリビングへの移動という程度だろう。
そうした使われ方であれば、このメリットは全くないと言ってよい。そう考えれば、東芝(に限らず多くのノートPCベンダもだが)が本製品にデスクトップPC用のPentium 4を採用した理由がわかるし、今後もフルサイズのノートPCに関してはこういう流れがトレンドになるだろう。
なお、チップセットに関してもモバイル用のIntel 845MPではなく、Intel 845(Bステップ)が採用されている。前述のようにモバイルPentium 4-MのみがサポートしているSpeedStepやDeepSleep/DeeperSleepなどの省電力機能をサポートしていないデスクトップPC向けPentium 4を採用しているため、それらの省電力機能を実現するのに必要なモバイル向けのチップセットを利用する必要がないからだ(ついでに言うなら、Intel 845MPよりもIntel 845の方が価格が安いという背景もあるだろう)。
メインメモリはDDR266で、メモリの増設には200ピンSO-DIMMのPC2100が利用でき、標準で256MB、最大で1GBまでの増設が可能になっている(ただし、標準の256MBのモジュールははずす必要がある)。なお、ハードディスクは標準で30GBで、光学ドライブにはCD-RW/DVD-ROMのコンボドライブが採用されている。
●16型の大型液晶とNVIDIAのGeForce 4 440 Goを採用
すでにCPUのところでも述べたように、本製品は16型液晶という非常に大型の液晶を搭載している。これまでのノートPCでは15型が最大サイズだったが、ソニーが春モデルでバイオノートGRXに採用し始めて以来、採用メーカーが増えつつあり、今年のフルサイズノートPCのトレンドの1つとなっている。解像度は1,280×1,024ドットで、32bitカラー表示が可能となっている。
本製品に採用されているのは、視認性の良さで定評のあったSuperView液晶をさらに改良し、左右視野角が50%アップ、コントラスト比で2倍となったFine SuperView液晶だ。非常に明るく、かなり横から見ても画面を視認することが可能であり、表示クオリティは十分満足できると言っていいだろう。
グラフィックスチップにはNVIDIAのGeForce 4 440 GOが採用されている。GeForce 4 440 GOは、昨年のCOMDEX/FallでNV17Mとして発表された製品で、GeForce 4 MXのモバイル版となっている。ハードウェアT&Lエンジンを備えており、レンダリングエンジンは2パイプラインで、パイプライアンあたり2テクスチャユニットを備えている(つまり2P2T構成だ)。ビデオメモリには32MBのDDR SDRAMが備えられており、現時点ではノートPC用のグラフィックスチップとしては最高峰と言ってよい。最新の3Dゲームであってもほとんど問題なくプレイできるはずだ(ベンチマークについては後述)。
●はずして使えるキーボードとワイヤレスマウスが添付
本製品の他製品との最も大きな違いは、本体にビルトインされているキーボードが取り外し可能で、ワイヤレスキーボードとして利用できることだろう。本体との通信は無線で行なわれており、赤外線方式と違って、どんな角度でも利用することができる。
キーボードにはバッテリが内蔵されており、本体に装着された状態で充電され、フル充電状態で20時間程度の連続利用が可能であるという。また、同じようにワイヤレスマウスも付属している。本製品ではデフォルトのポインティングデバイスは本体に据え付けのパッドタイプのため、キーボードをはずした時に一緒にはずすことができず、不便だからだ。
すでに述べたように、本製品は重さが4.4kgもあり、外に持ち運んで利用するというよりは、簡単に持ち運べる省スペースデスクトップPCの代わりとしての用途が主だと思う。そうした時に、デスクトップPCと同じような姿勢で利用でき、かつ必要のない時にはしまっておける本製品のようなコンセプトは、ユーザーの実利用環境に沿ったものだと言ってよく、ユーザビリティが高いと評価して良いだろう。
無線キーボード | キーボードとマウスがワイヤレスで利用できる |
●バッテリ駆動時間は2.5時間だが、使用用途を考えれば問題ない
付属のバッテリ、リチウムイオンで、5850mAhという大容量となっている |
本製品のバッテリは14.8V、5,850mAhのバッテリが添付されており、メーカーが公表しているバッテリ駆動時間はJEITA測定法で2.5時間の駆動が可能になっている。割と大容量のバッテリであるのに、2.5時間とは短い気もするが、16型液晶、デスクトップPC用のPentium 4などバッテリに厳しい条件がそろっていることを考えると、妥当なところだと思う。
すでに何度も述べたように、本製品は4.4kgという重さから持ち運んで利用するユーザーよりも、むしろ部屋の中で移動する程度の使い方がされると考えられる。バッテリは停電時のための無停電電源装置(UPS)のようなものだと考えて方がいいだろう。
●モバイルPentium 4 1.80GHz-M搭載ノートPCを大きく上回るパフォーマンス
それでは、実際に処理能力を探っみよう。比較として用意したのは、以前このコラムで紹介したThinkPad T30(2366-92J)で、モバイルPentium 4 1.80GHz-M、256MBメモリ、40GB HDD、MOBILITY RADEON7500(16MB)というスペックになっている。解像度は1,024×768ドット/16bitカラーで、SYSmark2002と3DMark2001をベンチマークとして利用した。
結果はグラフの通りで、もちろんクロックが800MHzも上回っているDynaBook P5がどちらのテストでも上回った。
【グラフ1】 | 【グラフ2】 |
●ノートPCと省スペースデスクトップPCの境界線上にある製品
以上のように本製品は、デスクトップPC向けのPentium 4 2.40GHzを搭載することで、これまでのモバイル向けモバイルPentium 4ーMを搭載したノートPCよりも一段上の性能を、同程度の価格で実現し、コストパフォーマンスに優れた製品となっている。
また、ワイヤレスキーボード、そしてマウスを実現したことにより、省スペースデスクトップPCと同等の使い勝手を実現しているのも特筆できる。実際、ワイヤレスキーボードとマウスを利用していると、本製品がノートPCであることを忘れてしまいそうだ。
そうした意味で筆者は、本製品はノートPCではなく、あえて超省スペースデスクトップPCと呼びたい。実際、本製品の質量は液晶を入れても6.4リッター、液晶をのぞけば3~4リッター程度でしかない。これは液晶を採用した省スペースデスクトップとしては非常に小さいということができ、まさに超省スペースデスクトップPCなのだ。そうした観点で考えれば、35万円弱という価格も決して高くない。
これまで、クロックがデスクトップPCに比べて低いノートPCはイヤだけど、省スペースデスクトップも移動するのは面倒だ、と敬遠していたユーザーであっても、本製品であれば満足できることは間違いない。そうした究極の省スペースデスクトップPCを探していたユーザーであれば、真っ先に検討してみたい製品だ。
□関連記事(2002年8月23日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]