第165回:快適さとパフォーマンスの非線形な関係



 ある企画で何台ものモバイルPentium 4-M搭載PCを使う機会があった。登場した当初は、クロックあたりのx86命令スループットが低過ぎると批判されたPentium 4だが、Windows XPを含めてPentium 4に最適化されたソフトウェアが広まったことで、そのパフォーマンスは“快適”と表現するにふさわしいものになってきた(もちろん、クロック周波数の向上に負う部分も大きいが)。

 しかし本来、“快適さ”はパフォーマンスだけで評価できるものではない。キーボードやポインティングデバイス、それに液晶ディスプレイなどの品質、それに発熱や動作音なども含め、使用感の良いものこそが“快適な”製品と言えるはずだ。

 モバイルPentium 4-Mに限らず、モバイルAthlon 4採用機など、ハイパフォーマンスなプロセッサを搭載したノートPCはたくさんあるが、様々なアプリケーションがサクサクと動作するかどうか? という視点での快適性は、どの製品も一様に高いが、総合的な使用感はまちまちだ。

 製品評価ではハイスペックの高速機を指して“快適なパソコン”という言い回しがされるが、実際の快適さはパフォーマンスと線形に対応する関係にはない。

●数値化できない快適さ

 非常に曖昧な要素というのは、記事ではとても扱いにくいものだ。その1つが快適さ。最新のプロセッサ搭載で快適に○○が動作する。といった書き方を良くするが、製品全体の快適さとなると、パフォーマンスだけでは測れなくなってきてしまう。

 たとえば自作デスクトップPCでも、小型化や静音化が話題になり、それらを目的としたパーツが販売されていることからもわかるように、人によっては最大パフォーマンスを生み出すことよりも、必要な機能とパフォーマンスをより静かな環境で使いたいと思うものだろう。現在の僕の仕事部屋はサーバーとデスクトップが同居し、それぞれの電源ファンが回り続けているから、静粛とはかけ離れた環境である。もちろん、これが快適だとは全く思っていない。しかし、一度立ち上げたシステムを移行させる手間を考えると、なかなか踏み切れないでいる。

 どうせならお金を多少かけてでも、もっと快適に過ごせる部屋にすることを優先すれば良かった。そう思っても後の祭りだ。

 ノートPCの場合、それはさらに顕著である。底面が熱くなるので、膝の上にとてもパソコンを載せてられない。パームレストが熱すぎる。冷却ファンの音はどうにかならないものか? などなど、今までこの手のメールはたくさんいただいてきた。

 自分自身の経験からも、やはり同じ事を痛感している。特に手元が熱くなるパソコンは、使用時の不快度が特に高い。そうした製品は、あまり長い間使いたいとは思えなくなってくる。

 ただ、プロセッサのパフォーマンスが向上してきたように、ノートPCの冷却技術もだんだんと進化してきた。モバイルPentium 4-M搭載機の消費電力が多いからといって、それがそのまま不快度に繋がっているわけではない。また、省電力機能が進化したおかげで、平均の消費電力はそれほど大きくない。つまり、負荷がそれほど大きくなければ、不快な熱や冷却ファンの騒音に悩まされることはない。

 だが、そう簡単に割り切れない部分も残っている。

●快適モードの提案

 というのも、各社製品のデフォルト設定では、AC駆動時に最大パフォーマンスが出るように設定されてる。もちろん、最大パフォーマンスが発揮される設定であっても、負荷の低い時はプロセッサが休んでいる時間が長いため、大きな熱を生み出すことはない。しかし、ひとたび負荷がかかりはじめると、とたんに熱気を帯びてくる。プロセッサだけでなく、すべてのデバイスが最大限のパフォーマンスを引き出そうとするためだ。

 平均の消費電力は、確かに様々な努力によって大幅に増えないまま性能が向上してきたが、負荷の高い作業をし始めると、すぐに熱く、そして暑くなるようだと、それだけで使用感をぶちこわしてしまう、と思うのは僕だけだろうか?

 もちろん、うまく熱処理を行なっている製品もある。たとえばIBMのThinkPad A31シリーズは、それなりに熱は発生するものの、あらゆる場面で手元が熱いと感じたことはなかったし、冷却ファンの騒音も常識的なものだった。またソニーのVAIO NVも、筐体サイズが大きいという理由もあるだろうが、熱に関してはほとんど気にならない。ヒートシンクや冷却ファンのサイズが大きく、ファンの回転数が低いため、騒音レベルも非常に低い。

 ちなみに、後藤弘茂氏のTDPロードマップによると、現在のフルサイズノートPC向けプロセッサは30Wの熱設計枠をターゲットに開発されているそうだが、今後はクロックアップにより35Wぐらいまで増加する。最近はコストを意識してデスクトップPC用のプロセッサを使うケースも増えているぐらいだから、本体のサイズをあまり気にしなければ、高TDPのプロセッサを搭載可能になってきている。

 つまり、載せる載せないの話しは、あまり問題ではない。「うちの技術なら、このサイズにも30W枠で詰め込める、いやもう少しコストをかければ35W枠もいけるか」と考え、薄型化を進めてしまうと快適性は総じて下がるものだ。手元へ熱気が漏れやすくなり、冷却システムの小型化によりファンの回転数増加による騒音の増加などが考えられるところだ。

 ならばひたすらにサイズを大きくすればいいか、といえばそうも言っていられない。商品として大きくなることを正当化するためには、特別に大きなディスプレイを搭載するとか、高音質のスピーカーを内蔵させるとか、デタッチャブルのベイを追加して付加機能を与える等々、何らかのアプローチが必要だろう。

 そうした製品とは別の方向で、薄型化を行なった製品も必要である。ただ、薄型のモバイルPentium 4-Mが、常に不快なパソコンというわけではない。製品による違いも大きいし、低負荷時はどれも快適だ。そしてバッテリ駆動時は熱さが気になることが少ない。

 だから僕は、新しいノートPCを自分で購入すると、必ずAC駆動時のパフォーマンス設定を変更し、自分が設定できる範囲で発熱が少なくなるように配慮する。また、僕が使っているDynabook SSは、プロセッサの冷却をファン冷却優先かCPU速度併用か、それともCPU速度低下を優先かで選択できる。ここで併用モードに設定することで、冷却ファンが回っている時間が多少なりとも減ってくれる。

 超低電圧版モバイルPentium IIIを搭載するDynabook SSでパフォーマンスを落としてもいいという設定は、できればやりたくない(なにしろ、元々高速ではないのだから)。しかし、もっとハイパフォーマンスなプロセッサを搭載する機種ならば、こうした選択肢はあってもいい。

 というわけで、BIOSレベルや省電力ユーティリティ類も含めて、発熱や冷却ファンの騒音を抑えられる動作モードを、簡単に設定できるようにしてもらえないだろうか? と思ったら、NECのLaVie Proがその機能を持っていた。静音モードとのことで、冷却ファンと共にハードディスクの回転音も抑えてくれる。また、実際に使ってみると手元に漏れる熱量も減少することが体感できた。

FLORA王将 330W・静音モデル

 一方、昨日は日立が「FLORA王将」を発表した。日立は以前から静音型の省スペースデスクトップPCに取り組んでいた。同シリーズには水冷ノートPCモデルも追加されるという。プロモーションのアプローチ手法は、なんとも独特ではあるが、快適性を求めた製品作りは個人的にとてもいいと思う。水冷ノートPCの静粛性と手のひらで感じる熱の少なさは特筆できる。

 せっかくパフォーマンスが向上し、アプリケーションの処理速度は快適になっているのだから、それを今さら遅くしろとは言わない。しかし、静かに、あるいは涼しくパソコンを使いたい人のため、動作モードを簡単にカスタマイズする機能も欲しい。ユーザーは、常に最大パフォーマンスを必要としているわけではないのだから。



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【8月6日】日立、対局室の緊張感を味わえる静音将棋PC「FLORA王将」
~10月には水冷モデルを投入予定
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【6月25日】【本田】そういうあなたはどんなノートPCを使ってるの?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0625/mobile159.htm

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(2002年8月7日)

[Text by 本田雅一]


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