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2台のThinkPad Xシリーズ


品名ThinkPad X24 2662-L3J
購入価格218,000円(税、送料等含まず)
購入日2002年7月4日
試用期間約20日

「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです。

 「ついに来たか」1年8カ月の間、毎日使い続けてきたIBM ThinkPad i1620(2661-2DJ)の液晶ディスプレイに常時表示されるようになった1本の緑の線を見てつぶやいたのは、6月の半ばのこと。PC Watch編集部には筆者のほかに2人のThinkPadユーザーがいるが、2人ともこの症状を体験したことがある、と聞いた。どうやら最近のThinkPadの持病のようだ。この線、30分ほど使っているうちに自然消滅したり、液晶ディスプレイの裏をトントンと軽くたたくと消えたりしていたのだが、1週間ほどするとついに消えなくなった(どころか赤や黄色の線まで表示されるようになった)。

 「今年いっぱいi1620を使い倒し、冬のボーナスでTablet PCに乗り換える」という筆者の目論見は、この線のおかげで崩れた。i1620はタフで大きさ/重さと性能のバランスがとれた名機だ。愛着もあるし、性能向上や修理のために、なんだかんだと10万円は投資してきた。だが、低電圧版モバイルCeleron 500MHz、メモリ最大320MB、モデムとIEEE 1394以外にネットワークアダプタは無し、というノートPCをあと半年使うために、最低でも4万円、最悪10万円の修理代を払う気力はない。というわけで、ThinkPad X24(2662-L3J)を購入した。購入価格は、本体価格218,000円に消費税、送料と銀行振り込み手数料まで含めて、総額でほぼ23万円の買い物だった。というわけで今回の買い物山脈は、新旧ThinkPad Xシリーズのお話。

ついにキター! i1620の“線”。この症状は、Xシリーズ以外のThinkPadでもあるようだ というわけでやってきたX24。壁紙とキーボード上のおもちゃはNASAの実験機X-24A。名前以外、なんの関係もないうえに本体にも付属しません。念のため i1620とX24の外観の最大の違いは色。i1620(左)はソフトブラック・メタリック。X24はマットブラック
上がX24。背面のUSBコネクタの位置が変わり、ネジの本数が増えた 底面。一見同じだが、メモリスロットの位置が違う。右がX24 X24では、IEEE 1394の脇に赤外線ポートができた。i1620のPCカードスロットは取れてしまった

 ところで筆者は「次もThinkPadじゃなきゃヤダ」とX24を買ったのではない。むしろ、ThinkPad以外のノートPCを一生懸命探していた。ThinkPadはよいノートPCだが、PCメディアの編集者としてはできるだけいろいろなPCを所有してみるべきだと思うし、20万円以上ものお金を払ったら、これまでとはまったく違う新しい経験をしたいものだ。その一方で、筆者にとってノートPCはもっとも長時間接するPCだから、スペックなどを妥協するわけにはいかない。自宅でのメインマシンはノートPCだし、自宅や出先で仕事をすることだってある。1.5kg程度で、それなりのパワーと12インチ程度のディスプレイが備わっていないノートPCでは困るのだ。

 で、「Pentium III 800MHz以上/メモリは最低512MB(VRAM領域やコードモーフィングエリアを除く)/12インチ前後の液晶/無線LANアダプタ内蔵/重量1.5Kg前後/ポインティングデバイスはトラックボールかスティックポインタ」という条件に合致するノートPCを探したら、X24しか思いつかなかった。

 ネックはポインティングデバイスだ。ここを妥協すれば選択肢は相当広がるのだが、一番妥協したくないポイントでもある。筆者はパッド系ポインタの感触にどうしてもなじめない。256MB以上のメモリを搭載できたなら迷わずLet's note PRO A3を買っていたに違いないし、バイオノート505やDynaBook SSやMURAMASAにパッド以外のポインタが付いていれば、もっと迷っただろう。もし視線入力や思考制御ポインティングデバイス付きのノートPCなんてのがあったら、家族の非難や周囲の嘲笑(賞賛?)を覚悟のうえで50万円程度はローンを組んだかもしれない。

 X24の発注ボタンをクリックする直前にhp omnibook 510という選択肢を思いついたが、筆者の行動範囲では実機を見かけたことが無い。稀に耳にする評判はよかったし、たいへん気になるPCではあったのだが、実機を触らないまま購入する勇気はなかった。それに、1週間後の海外出張までに環境を整え、慣れるためには、もう発注しないと間に合わなかった。あと1週間余裕があって実機を見ることができれば、omnibookを買っていた可能性は高い。

筆者の気になるノートPC。左がLet's note PRO A3。元Let's note miniユーザなので“使えるトラックボールマシン”に飢えている。が、A3は筆者の要求からはメモリが足りない。右はコンセプトやスペックがX24によく似たhp omnibook 510(写真は500)。メモリが1GBも積めるあたりがX24よりエライ。HP200LXやhp jornada 720を所有しているので、HPのモバイル製品に対する信頼感は高いが、実機を触れないのでは……

 さてどちらかといえば「消極的選択」で手にすることになったX24だが、使用感は快適至極、今となっては「無理にほかのPCにしなくてヨカッタ」と思うほど。なにしろCPUはモバイルPentium III-M 1.13GHz、メモリは最大容量640MBだ(買ってすぐにグリーンハウスのGH-SNW133/512M 21,000円を装着した)。i1620で仕事をするときは、スタートアップフォルダとタスクトレイをほぼからっぽに、Windows XPの設定はパフォーマンス最優先にしたうえで、やたらとウィンドウを開かないような心がけが必要だった。

 X24のタスクトレイにはNorton AntiVirusをはじめいくつものアイコンがひしめいているし、「スタートアップ」フォルダにはMicrosoft Office Startupなど3つのショートカットが入っているが、これらを取り除きたくなったことは今のところないし、こんな状況でもおかまいなくIEのウインドウを5枚、秀丸を2枚開き、PhotoshopとBecky!とViXと世界時計を起動しっぱなしにし、さらに辞書ソフトを起動する気になれる(実際、海外出張中はそうやって仕事をした)。

 パフォーマンスの向上ぶりを具体的な数字で確かめるべく、ベンチマークソフト「HDBENCH」をi1620とX24で実行してみたところ、総合結果がi1620で「8,999」、X24で「17,613」と、ほぼ2倍の数値となった。特に向上著しいのがビデオ関係で、Rectangleがi1620の「5,170」からX24では「12,752」に、Textが「5,598」から「13,397」と大幅に向上している。

 X24は超低電圧でも低電圧でもないモバイルPentium IIIを搭載しているので、バッテリでの駆動時間が短くなりそうなものだが、むしろカタログスペックはi1620より1時間伸びているし、そのとおりに体感もできる。ただし、底面はすこし熱くなったように感じる。自宅ではソファに腰かけ、足の上にThinkPadを置いて使う、というのがi1620の使用スタイルだったのだが、X24を長時間使う際は熱くて我慢できず、小さなコーヒーテーブルの上に乗せるようになった。もっとも、そのわりにはファンの動作時間は延びていないようで、騒音の度合いも変わらない(だから熱く感じるのも、Pentium III搭載という先入観のせいかもしれない)。なお、ACアダプタやバッテリはi1620のものが何の支障も性能低下もなく使えている。そのうえ、ACアダプタは小型化された。

 i1620ではPCカードスロットからいつもはみ出していた無線LANのアンテナが、X24では液晶パネルの両脇にすっきりと収まったのもうれしい。これでアンテナを折ったり、PCカードスロットを破損する可能性が減ったし、有線/無線のPCカードを入れ替える手間も省けるようになった。Ethernet機能付きチップセットを搭載したマザーボードに一新し、Mini PCIスロットを無線LANに明け渡した効果は大きい。なお、NEC WARPSTAR WL30A、メルコWLA-L11G、Mac OS 9上で動作するソフトウェアAirPortなどへの接続を確認している。

X24付属のACアダプタ(左)はi1620付属のものより小さい i1620では無線LANのアンテナ(その前はEthernetの“尻尾”)がいつも顔を出していた。Fnキーが汚れているのは、接着剤のせい。PCカード上部の筐体がひび割れてしまい、瞬間接着剤で応急修理していたから(PCの上に本を置いたり、子どもがのっかたりすりゃ割れて当然)。効果は上がらず、結局筐体を取り替えた

 ネットワークといえば、X24に付属するIBM独自のネットワーク設定アプリケーション「IBM Access Connections」は便利だ。複数のネットワーク環境設定を瞬時に切り替えられるもので、設定には有線/無線といったアダプタの違いはもちろん、DNSやDHCP、SSIDやWEP、プロキシサーバーや、はてはWebブラウザのホームページ(起動して最初に表示されるページ)、標準プリンタまで含まれる。設定はウィザード形式で作成でき、慣れれば十数秒で作成、切り替えが可能だ。

 もうひとつ便利なThinkPadオリジナルのユーティリティが「ThinkPad ソフトウェア導入支援」だ。ドライバやThinkPadユーティリティを更新するには、IBMのサイトから必要なものをダウンロードし、自分で解凍してインストールする必要がある。ダウンロードした自己解凍ファイルを既定フォルダ(C:\driversやC:\ibmtools)に解凍しておけば、このソフトがそれらを検知し、ウィザード形式でインストールしたり、削除できる。どのバージョンのドライバがインストールされているのかなどを簡単に一覧でき、複数のドライバ類を一気にインストールできるので、手間も省ける。

 ただしこの「導入支援」、デフォルトのままではHDDにあるドライバ類をすべてインストールしてしまう。筆者はデフォルトのまま実行してしまったため、2662-L3Jには無いBluetoothアダプタ用ソフトまでインストールされてしまった。このソフトを使えば削除も簡単だし、そもそもウィザード画面でインストールするドライバをちゃんと指定してやればこんなことをは起きないが、もうちょっと賢くなってほしいと思う部分ではある。

「ThinkPad ソフトウェア導入支援」。チェックしたドライバ類がインストールされるが、デフォルトですべての選択肢にチェックされてしまっている 「IBM Access Connections」。ネットワークへの接続状況がアニメーションで表示される。この画面は最新のバージョン2.12のもの。出荷状態のX24にはバージョン1.05が入っていたが、ネットワーク接続のトラブルシューティング過程でアップデートした。画面のデザインが大きく異なる ネットワーク接続設定の作成画面。ウィザード形式で設定できる

 X2xシリーズには冒頭のディスプレイの線のほか、「左クリックボタンのクリック感がなくなる」という持病がある。i1620でも買ってすぐにこの症状が現れたが、すぐにクリック感が無い状態に慣れてしまった。X24では今のところクリック感は健在で、その気持ちよさを再度味わっているところだ。

 そんなわけでX24は“とても実用的でお買い得”だし、たいていの人にお勧めできるマシンだ。i1620の使い勝手を継承した上で、パフォーマンスが確実に2倍は向上し、無線LANのような今日では必須のデバイスも内蔵し、ACアダプタのような細部も着実に進化している。

 だが、6月に発売されたばかりの新しい製品を、20万円以上ものお金を払って買った、という感じがあんまりしないのがちょっと物足りない。日常操作している筆者の目には、i1620とあまり変わらない景色が映っているのだ。だからといって、筐体の色を変えたり、「ギガヘルツのPentium IIIが乗ってまーす」と大書きしてほしいとも思わない。むしろX24の控えめな態度は好ましいし、いまどき2年近くも同じルック&フィールで市場に出ているPCのほうが珍しく、誇るべきことだ。物足りなさは、筆者ががまんすればいいだけのこと……ちょっとだけ愚痴らせてもらえるなら、ノートPCのポインティングデバイスが判を押したようにパッドポインタになってしまっているのは健康的じゃないと思うのだけど。

□製品情報
http://www-6.ibm.com/jp/pc/thinkpad/tpx2426/tpx2426a.html
□関連記事
【2000年8月28日】IBM、チタン複合素材を採用したB5ファイルサイズノート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000828/ibm.htm
【6月4日】IBM、モバイルPentium III-M 1.13GHz搭載の「ThinkPad X24」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0604/ibm1.htm

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(2002年7月29日)

[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]


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