Thoroughbredコアを採用したAthlon XP 2200+がついに登場! |
AMDがAthlon XPの最新グレードであるAthlon XP 2200+(クロック1.8GHz)をリリースした。
Athlon XP 2200+は、AMDの新しい0.13μmプロセスに基づく最新製品で、プロセスルールが微細化されたことでより高クロックを実現可能とされており、Opteron/次世代AthlonがリリースされるまでのAMDの主力製品となる。
今回は、Athlon XP 2200+のサンプルを利用して、そのパフォーマンスを探っていきたい。
●基本的な機能はPalominoコアと大きな変更はなし
今回登場したAthlon XP 2200+は、採用されているコアが従来のAthlon XP 2100+(1.73GHz)に採用されていた製造プロセスルール0.18μmのPalominoコアから、0.13μmのThoroughbredコアに切り替わっている。表はK7世代のCPUコアの変遷だが、見てわかるように'99年に導入された最初の0.18μm世代であるK75以来、Thunderbird、Palominoと2コアを経て0.13μmに切り替わったことになる。
【K7世代CPUコアの変遷】K7 | K75 | Thunderbird | Palomino | Thoroughbred | ||
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シリコン仕様 | 製造プロセスルール | 0.25μm | 0.18μm | 0.18μm | 0.18μm | 0.13μm |
トランジスタ数 | 2,200万 | 2,200万 | 3,700万 | 3,750万 | 3,750万 | |
ダイサイズ | 184平方mm | 125平方mm | 120平方mm | 128平方mm | 80平方mm | |
拡張温度管理機能 | - | - | - | ○ | ○ | |
キャッシュ | L1(命令+データ) | 128KB(64KB+64KB) | 128KB(64KB+64KB) | 128KB(64KB+64KB) | 128KB(64KB+64KB) | 128KB(64KB+64KB) |
L2 | 512KB(オフダイ) | 512KB(オフダイ) | 256KB | 256KB | 256KB | |
ハードウェアプリフェッチ | - | - | - | ○ | ○ | |
エクスクルーシブ制御 | - | - | ○ | ○ | ○ | |
エクスクルーシブTLB制御 | - | - | - | ○ | ○ | |
拡張命令セット | MMX | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
エンハンスト3DNow!テクノロジ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
ストリーミングSIMD拡張命令 | - | - | - | ○ | ○ | |
システムバス | 200MHz | 200MHz | 200/266MHz | 266MHz | 266MHz | |
最高クロック製品 | 700MHz | 1GHz | 1.4GHz | 1.73GHz | 1.8GHz | |
発表時期(デスクトップPC向けとして) | 1999年8月 | 1999年10月 | 2000年6月 | 2001年10月 | 2002年6月 |
表で見ても明らかなように、ThoroughbredはPalominoコアと機能面では変わりが無く、トランジスタ数もPalominoコアと同じ3,750万で、その点からも機能的にはPalominoと変わらないことを裏付けている。つまり、クロックが同じであればThoroughbredとPalominoの性能はほぼ同じであると考えてよいだろう。ただ、実際にはPalominoコアの1.8GHzという製品は存在しないわけで、高クロック版を出せるようになった点がThoroughbredのメリットと考えられる。
なお、AMDのロードマップによれば、K7世代の機能アップデートとなるCPUは、Thoroughbredの次世代にあたるBartonで、今年後半にリリースされる予定となっている。Bartonでは、L2キャッシュが現行の256KBから512KBへと増量され、より高いパフォーマンスを期待することができるだろう。
●これまでと同様の熱設計が必要とされるThoroughbred
さて、プロセスルールが微細化されるメリットはいくつかあるが、主に
(1)ダイサイズの縮小によるコストメリット
という3つがあげられることが多い。一般的に半導体は、ウェハと呼ばれる丸形の板の単位で製造される。ウェハのサイズは決まっているので、これからとれる半導体の数はダイの大きさに反比例する。ダイが大きければ大きいほど1枚のウェハからとれる半導体の数は減少し、逆にダイが小さければ小さいほど増えることになる。基本的に1枚のウェハを製造するコストは同じなので、ダイサイズが小さくなればなるほど、1つの半導体を作るコストは減少する。
第2に動作クロックの向上という点が上げられる。プロセスルールが微細化すると、半導体を構成するトランジスタの電気特性が改善され、より高いクロックで動作させることができるようになるのだ。一昨日の後藤弘茂氏のコラムでも解説されているように、プロセスルールが微細化することで1.5~1.8倍にクロックは向上する。
もう1つのメリットが消費電力の低減だ。だが、この消費電力はThoroughbredでは思ったほど下がっていない。詳しい解説は前出の後藤氏のコラムが詳しいのでそちらに譲りたいが、動作電圧も1.65VとPalominoに比べて0.1V下がっただけで、TDPもあまり下がっていない。さらに、Tdieと呼ばれるケース内温度が摂氏85度と、Palominoの摂氏90度に比べて下がっているため、結局のところ熱設計の厳しさというのはあまり変わっていないと言ってよい。
このため、ThoroughbredコアのAthlon XP 2200+を利用してPCを自作する場合には、これまでと同様、CPUの取り扱いには細心の注意を払う必要がある。CPUクーラーに関しては、従来通りのものを利用する必要があるし、ケースにはできるだけ大型のケースファンを取り付けて利用するなどの注意も払った方がいいだろう。
●Pentium 4 2.20GHzと同等かやや下回るAthlon XP 2200+
それでは、実際にベンチマークを利用してAthlon XP 2200+のパフォーマンスを探っていこう。比較対象としては、以前Pentium 4 2.53GHzをテストした時に利用したPentium 4 2.53GHz~1.8GHzまでの結果と、Athlon XP(Palominoコア)の2100+(1.73GHz)~1800+(1.53GHz)までの結果だ。環境は表2の通りで、基本的にCPU、チップセット、メモリなどCPUに依存するもの以外(ビデオカード、ハードディスク)などに関してはそろえてある。
【テスト環境】CPU | Pentium 4 with 533 system bus | Pentium 4 | Athlon XP 2200+ | Athlon XP 2100+~1800+ |
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チップセット | Intel850E | Intel850 | VIA Apollo KT333 | VIA Apollo KT266A |
マザーボード | Intel D850EMV2 | Intel D850MDL | GIGA-BYTE GA-7VRXP | EPoX EP-8KHA+ |
チップセットドライバ | 3.10.1008(2001/10/8) | 3.10.1008(2001/10/8) | 4in1 v4.38 | 4in1 v4.38 |
メモリ | Direct RDRAM | Direct RDRAM | DDR SDRAM | DDR SDRAM |
メモリモジュール | PC800-40 | PC800-45 | PC2100(2-2-2) | PC2100(2-2-2) |
容量 | 256MB | |||
ビデオチップ | NVIDIA GeForce3(64MB、DDR SDRAM) | |||
ビデオドライバ | NVIDIA Detonator XP(v28.32) | |||
ハードディスク | IBM DTLA-307030 | |||
フォーマット | NTFS | |||
OS | Windows XP Professional |
利用したベンチマークはいつもこのコーナーで利用しているBAPCoのSYSmark2002に含まれるOffice Productivity、Internet Contents Creationの2つのアプリケーションベンチマーク、MadOnion.comの3DMark2001とid SoftwareのQuake III Arenaの3つの3Dベンチマーク、BAPCoのWebMark2001というインターネットベンチマーク、MadOnion.comのPCMark2002に含まれるCPU TestsというCPU単体のパフォーマンスを計測するベンチマークの合計6つのテストだ。結果はグラフ1~グラフ6、全結果に関しては別途掲載しておくので、興味があるユーザーは参考にしてもらいたい。
グラフ1 | グラフ2 | グラフ3 |
グラフ4 | グラフ5 |
グラフ6 | グラフ7 |
アプリケーションベンチマークのSYSmark2002に含まれるOffice Productivity、Internet Contents Creationの結果はPentium 4が有利という結果となった。Athlon XP 2200+とPentium 4 2.20GHzを比較すると、Office Productivityでは6.9%、Internet Contents Creationでは27.4%も下回る結果となった。
これに対して3Dの結果である3DMark2001 Second Edition、Quake III Arenaではほぼ同等か上回るという結果となった。Pentium 4 2.20GHzとの比較では、3DMark2001 SEで6%上回り、Quake III Arenaでは2%下回った。さらに、インターネットアプリケーションを利用する際のパフォーマンスを計測するWebMark2001ではPentium 4 2.20GHzに13%下回った。なお、CPU単体でのパフォーマンスを計測するPCMark2002では、0.6%上回った。
こうした結果からわかることは、モデルナンバーベースで比較した場合、リアルタイムで処理するような3DアプリケーションのようなタイプではAthlon XPがリードし、SYSmark2002、WebMark2001のようなアプリケーションベンチマークではPentium 4にアドバンテージがあると考えることができる。Athlon XP 2200+は正直なところPentium 4 2.20GHzを上回っているとは言い難いが、同等か若干下回る程度の処理能力は備えていると考えていいだろう。
●コスト的にもPentium 4 2.20GHzと大きな差はない
現時点ではまだAthlon XP 2200+は市場に登場していないので、市場価格がどの程度かは不明だが、発表時にAMDから公開された1,000個ロット時の価格は241ドルと、Intelが6月9日付けで改訂したPentium 4 2.20GHzの価格の241ドルと同じになっている。どちらを買うかは、何を重視するかによる。新規に買うユーザーであれば、目的別に選べばよいだろう。
ベンチマーク結果からわかるように、Athlon XP 2200+とPentium 4 2.20GHzを比較すると、通常のアプリケーションではPentium 4、3DではAthlon XPという結果となっている。また、既にSocket A環境を持っているユーザーであれば、BIOSをアップデートするだけでAthlon XP 2200+にアップグレード可能であるので、高速なCPUを検討しているのであればよい選択だと言えるだろう。
さて、Intelに遅れること約半年で、ようやくAMDのデスクトップPC用CPUも0.13μm世代に移行することになる。どのような事情でこの差ができたかはここでは論じないが、実際のクロックにせよ、モデルナンバーにせよ、Intelに若干の差をつけられてしまったことは事実だろう。AMDがこの状況を逆転するには、BartonのリリースやOpteron/次世代Athlonのリリースを待たなければならない。Opteron/次世代Athlonに関してはあと、半年もあるわけで、それまでは現在の状況が続く可能性が高い。
AMDのPC業界やエンドユーザーに対する功績は、なんといっても高価格なレンジにとどまっていたIntelのCPU価格を競争により下げさせたことだ。
AMDが劣勢だった時代には、もっとも高クロックのCPUが1,000ドルを超えるような時代もあった。それをIntelが下げざるを得なくなったのは、なんといってもAMDというライバルの存在があったからこそだ。現在Pentium 4の高クロック版である2.53GHz、2.40GHzなどはそれぞれ637ドル、400ドルと高い価格レンジにとどまっている(以前に比べて圧倒的に下がったとはいえ、それでも高いことにはかわりがない)。ぜひともAMDにはこれらのCPUの値段を下げるような高い性能を持ったCPUの投入を早期にお願いしたいものだ。
Opteron/次世代Athlonに関してはまだまだ時間がかかるだろうから、AMDができるだけ早くBartonを市場に投入することを切に願いたい。
□バックナンバー(2002年6月14日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]