いよいよAMDの0.13μm版Athlon XP「Thoroughbred(サラブレッド)」が姿を現した。Thoroughbredは「モデルナンバー2200+(実クロック1.8GHz)」で登場、今後、1.867GHz、そして2GHzへとクロックを引き上げるとある関係者は言う。現在見えている限りでは、Thoroughbredのモデルナンバーは、2500~2600に達する見込みだ。実際、AMDが昨年11月に開いたアナリストカンファレンスでは、Thoroughbred/Barton世代で2600まで予定されていることが示された。
Athlon XP 2200+ |
もちろん、これは不思議ではない。通常、プロセス技術が1世代微細化すると、1.5~1.8倍にクロックが向上し、その一方で、消費電力やTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が下がるからだ。
もっとも、Thoroughbredの場合は、こうしたプロセス微細化の利点は、理論値ほど効いていない。それを象徴するのがThoroughbredのTDPだ。熱設計という面から見ると、Thoroughbredは意外なほど熱く、扱いにくいCPUとなっている。
例えば、Thoroughbred 2200+のTDPは最大値で67.9Wと、ほぼ70W近い。これは、0.18μm世代のAthlon XP(Palomino:パロミノ)の72Wと、4W程度しか変わらない。それどころか、CPUの熱設計のもうひとつの重要なパラメータTdie(CPUの半導体本体の上限温度)は、Palominoの90度に対してThoroughbred 2200+は85度と低い。Tdieは低ければ低いほど熱設計が難しくなるので、Thoroughbredは相変わらず扱いにくいCPUのままだ。
AMDはデスクトップPC向けCPUのTDPは、最大70Wをメドに開発している。つまり、ThoroughbredのTDPは現状でも限界に近いことになる。実際、AMDはOEMメーカーには今後のバージョンのThoroughbredも、同じレベルのTDPに納めると説明しているという。つまり、TDPを上げずにすむように、比較的低い消費電力で高クロック駆動できるチップを選別して、高クロック品として提供するわけだ。
ThoroughbredのTDPが高い原因は明白で、それは電圧だ。Thoroughbredは0.13μm版CPUの中で比較すると、もっとも電圧が高い。他のCPUが1.4V前後なのに対して、現在の2200+のコア電圧は1.65V。これはPalominoの1.75Vと比べて0.1Vしか下がっていない。また、AMDはThoroughbredの熱スペックをリリース前に変更しており、電圧は以前の計画より上がっている。ここから推測できるのは、AMDが現行の0.13μmプロセスでの低電圧化に苦労しているということだ。低電圧で高クロック駆動ができるなら、AMDはすぐさまそうしていただろう。
いずれにせよ、その結果Thoroughbredはまた冷却しにくいCPUとなっている。例えば、ヒートシンクに要求される熱抵抗値は0.63度/Wと、これまで(最小で0.67度/W)よりさらにきつくなった。ダイの熱破壊に関係する、電力密度(Power Density)も上がった。Thoroughbredでのヒートシンク選びは気をつけないとならない。
ここで出てくる疑問は、これがThoroughbredだけの問題なのか、それともAMDの0.13μmプロセスの問題なのかだ。AMDは、Hammerファミリでは同じ0.13μmプロセスでもSilicon-on-Insulater(SOI)テクノロジを使う。SOIの最大の利点は、パフォーマンス当たりの電力消費を抑えること。AMDがSOIにこだわるのは、そうしないとHammerを、許容できるTDP範囲に収めることができないからかもしれない。
ちなみに、AMDはHammerの熱設計についても、方向性をすでに示している。「HammerはAthlonと同じ温度特性(Thermal Profile)を持つ。つまり、最高クロック版でも70W(Thermal Design Power:熱設計消費電力)だ」とAMDのリチャード・ハイ(Richard Heye)副社長(Platform Engineering & Infrastructure)は説明する。AMDは2月のIDF時にも、HammerがAthlon XPと基本的に同じ冷却システムを使うことができると説明している。もちろん、HammerはμPGAパッケージとなるため、パッケージサイズやピンの違いは考慮しなければならない。だが、説明通りなら熱設計コストはHammer世代でも基本的には増えないことになる。
●Thoroughbredの333MHz FSB対応は将来もなし
Thoroughbredについては、FSB(フロントサイドバス)を現行の266MHzから333MHzに拡張したバージョンが出るというウワサもあった。しかし、これに対しては「ノープランだ」と、AMDのマーク・ボディ(Mark Bode)ディビジョンマーケティングマネージャ(Division Marketing Manager, Desktop Product Marketing, Computation Products Group)は明確に否定する。
実際、チップセットベンダーもAMDにはその気がないと答える。例えばSiSのネルソン・リー(Nelson Lee)シニアテクニカルマーケティングマネージャ(Sr. Technical Marketing Manager, Integrated Product Division)は「当社では、チップセットをDDR333対応にした時に、合わせて333MHz FSBもサポートできる設計にした。だが、AMDに333MHz FSBについて打診をしたが、回答はノーだった」と説明する。また、VIA Technologiesのシー・ウェイ・リン(Che-Wei Lin)シニアディレクタ(Senior Director of Product Marketing)も「KT333ですでに333MHz FSBサポートに必要な、チップセット側の設計は終わっている。AMDがチップさえ出せばテストができるが、AMDはどうやらK8(Hammer)にフォーカスしているようだ」と答える。つまり、チップセット側は、いずれもAMD側の問題だと言っている。
AMDのハイ副社長は、その理由を次のように説明する。
「それ(Athlon XPの333MHz FSB化)をしないのはHammerへのフォーカスを弱めるからだ。FSBを改良しようとすると、まず社内のエンジニアリングリソースが必要となる。また、AMDだけでなく、インフラ(マザーボード)にも変更が必要となる。その分、Hammerへ向かう勢いを削ぐことになる。結局は、現在に精力を集中するのか、それとも未来に向かって精力を集中するのかという選択となる。マーケティングガイ(担当者)は、“両方にフォーカスする”というだろう(笑)。でも、現実にはどちらかしかフォーカスできない。そして、AMDはHammerにフォーカスしている」
333MHz FSB非対応は、マーケットを考えた場合もまあ理にかなっている。DDR333が本格的に浸透してくるのは来年で、来年になるともうThoroughbred/Bartonはパフォーマンスデスクトップからは消え始める。メインストリームデスクトップの中の、比較的廉価なレンジに収まるようになる。それなら、無理してDDR333に合わせて、333MHz FSBをサポートする必要性は薄いというわけだ。
●Duronブランドの行方
AMDは、この春、Duron向けの0.13μm版CPUコア「Appaloosa(アパルーサ)」をキャンセルした。その結果、“Duron”は、徐々に市場から消えてゆくことになった。つまり、Thoroughbredと、その後継のCPUコア「Barton(バートン)」が、バリューPC市場も占めるようになる。
ここで不鮮明なのは、なくなるのはDuronコア(=Appaloosa)だけなのか、それともDuronブランド自身もなくなってAthlon XPがバリュー市場のCPUになるのかという点だ。AMDは、Duronブランドがなくなるとは、まだ言っていない。
「この件についてまだ討議しているというのが正しい答えだろう。Duronはバリューセグメントのブランドだ。2003年においてはClawHammerはバリューではなく、K7コアがその市場を占める、これは明確だ。しかし、ブランドに関しては…… 今のところは、AthlonとDuronのブランド(の並列)を保つことを考えている。Duronブランドの製品は非常に多いからだ」とハイ副社長は説明する。
Athlonを担当するボディ氏も「Duronブランドはおそらく2003年も継続するだろう。つまり、2003年の時点では、Duron、Athlon XP、そしてClawHammerベースのAthlonの3ブランドが並ぶ」と答える。
流れとしてはDuronコアはなくなるが、Duronブランドは継続される可能性が高い。つまり、どこかの時点でThoroughbredかBartonコアのDuronブランドCPUが登場することになると、推測される。
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【6月7日】【海外】AMDのRichard Heye副社長がHammerの現状について答える
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0607/kaigai01.htm
(2002年6月12日)
[Reported by 後藤 弘茂]