●Hammerは年末登場、来年Q1に本格的に立ち上げ
今回の「COMPUTEX TAIPEI」の主役の1つは、間違いなくHammerだ。AMDはHammerを大々的にアピール。発表会場にはHammer向けマザーボードも並び、今にもHammerが離陸しそうな雰囲気だ。もっとも、Hammerの実際のデビューはまだ先だが……。
「我々は今年の年末、Q4にHammerを売ることができると考えている。しかし、現実的な製品立ち上げという観点から見ると、量産が始まるのは来年Q1となるだろう。そこから、Hammerのインフラを確立するのに、さらに2~3四半期はかかると考えている。これはAthlonの時と同じで、移行には時間がかかり、徐々にマーケットを広げてゆくことになる。最初のターゲットは、現在のAthlonが占めている32bitCPUのマーケットだ」とHammerプログラム全体を統括するAMDのRichard Heye(リチャード・ハイ)副社長(Platform Engineering & Infrastructure, Computation Products Group)は説明する。
半導体製品はウエーハをFabに入れてから製品として出荷するまでにタイムラグがある。そのため、設計がフィックスしても、しばらくは大量に出荷することができない。Heye氏の説明で、ランプが1四半期ずれているのはそのためだ。うまく行けば、年内に少量を出荷して、来年Q1に本格的に出荷を開始、来年後半までにインフラ(マザーボードなど)を確立するというコースだろう。インフラに関しては、今回はCPUとサードパーティチップセットがほぼ並んで走っているので、比較的速いかもしれない。
では、このコースに向けたHammerのサンプル出荷はどうなっているのか。
「我々は、すでにHammerのサンプルをOEMベンダーとボードメーカー、チップセットベンダーのいずれにも提供している」とHeye氏は説明する。
実際、多くのチップセットベンダーやマザーボードベンダーが、すでにAMDからサンプルを受け取っていると証言している。例えば、VIA TechnologiesのChe-Wei Lin氏(Senior Director of Product Marketing)は「K8のシリコンですでにHyperTransportの検証を行なっている。HyperTransportバスは今のところ良好だ」と言う。
しかし、以前レポートしたように、ベンダーの中には、現在のHammerのサンプルには問題があるとも言うところもある。あるチップセットベンダーは「未だにK8(Hammer)のシリコンは来ていない。つまり、完全に動くシリコンは来ていないという意味だ」と語る。また別なベンダーは「現状のサンプルは、HyperTransportバスのデバッグができる程度のものだ。動作周波数はターゲットにはほど遠い」と言う。
●Hammerサンプルの謎に答えるHeye氏
AMD Richard Heye副社長 |
これに対して、AMDのHeye副社長は次のように説明する。
「それは半分しか真実ではない。パーツ(CPU)の製造を始めたばかりの段階では、我々はプロトタイプサンプルをそんなに数多くは作らない。そして、サンプルのうちいくつかは全機能が動作するが、いくつかはそうではない。これは、イールド(歩留まり)問題で、特別なことではない。
そこで、問題は、一部の機能、例えば、キャッシュが動作しないパーツがあったとする。それを破棄するかという話になる、そうすると、マザーボードメーカーなどが、“サンプルをくれ、それ(チップ)をムダにしないでくれ”と言ってくるわけだ。彼らはエンジニアで、彼らのマザーボード製品のデバッグのためだけにサンプルを必要としている。例えば、HyperTransportインターフェイスのデバッグのためだけに使うなら、全機能が動作している必要はない。だから、我々は彼らにそうした(不完全な)サンプルも渡している。
これが、現在AMDのしていることだ。しかし、OEMに対しては完全に動作するサンプルを約束している。理解して欲しいのは、これはイールドイシューであり、イールドを上げるのに時間がかかるのは常だということだ」
つまり、Hammerはデザインに問題があって全てのサンプルがきちんと動作していないわけではない。イールドで、1枚のウエーハから、完全動作品も採れれば、そうでないチップも採れる。現状では、流しているウエーハの数が少ないのでサンプルの数が少なく、デバッグ用に不完全なチップも流しているだけというわけだ。
実際、AMDは完全動作サンプルでデモをしているので、この説明は説得力がある。そもそも、現状でクリティカルなバグがあるなら、AMDもこれほど自信を持ってスケジュールを示さないだろう。
とはいえ、Hammerがまだ、パフォーマンスチューンも終わって、大量にサンプルを作れる段階には至っていないのも確かだ。そうした状況を考えると、Hammerのスケジュールが前倒しになってモノが早く手に入るといった、過剰な期待はできない。
●DDR IIへのロードマップも
以前レポートしたように、Hammerプラットフォームの最大のチャレンジは、CPUサイドのメモリインターフェイスだ。例えば、あるボードベンダーは、CPUがソケットに装着されるため、基板直付けのノースブリッジチップより高速メモリのサポートが難しくなると指摘した。それに対してAMDのHeye氏は次のように答える。
「CPUソケットがメモリの高速化にとってチャレンジになるか、という質問に対する答えはイエスだ。その通りだ。しかし、我々はそれを解決できると考えている」、「Hammer自体は、技術的にはローンチの時点でDDR333をサポートできる」
しかし、AMDとしては、デスクトップエリアでHammerがDDR333で登場するとは考えていないという。
「私は、DDR333がすぐにHammerデスクトップにやってくるとは思っていない。それは、パーツ(DRAMチップ)のコストが問題だからだ。今年のQ4では、DDR333はまだコモディティのデスクトップメモリになっていないだろう」とHeye氏は説明する。DDR333については、むしろDRAMサイドの供給にまだ疑問符がつくというスタンスだ。
また、HammerはDRAMインターフェイスを搭載したため、CPUの設計段階で次世代メモリを予測して対応してゆかなければならない。次のチャレンジはDDR IIだ。Heye氏は、AMDのメモリ戦略について次のように説明する。
「HammerはDDR333でスタートするが、我々はすでにDDR IIへのトランジションのロードマップも作っている。まだ、いつ移行するかは話せないが、我々はDRAMメーカーのジェネラルマネージャ達と緊密な関係を持っている。だから、DRAMのロードマップもよく把握している。我々は、DDR IIに急いでジャンプしたいとは思っていない。そのDRAMパーツがコモディティになった時点でサポートしたい。DDRではわれわれはうまくやった。DDR IIでもうまくやれるだろう」
実際、IntelがDDR IIでDRAM業界との協調路線に完全に戻って以来、AMDもDRAMサイドとの関係を強化しようとしているフシがある。例えば、あるDRAM関係者は、AMDがJEDECの有力メンバーに(AMDに来ないかと)声をかけたというウワサを伝える。真偽はともかくとして、AMDもHammerのために、DRAMの標準化プロセスにもっと食い込もうとしているのはありうる話だ。
いずれにせよ、今回でAMDがHammerに注力する姿勢は鮮明になった。しかし、その反面、Athlon XPの位置は大きく後退した。AMDにとって、Hammerへの期待を盛り上げれば盛り上げるほど、現行のAthlon XPの位置が下がるというジレンマがある。これをどうハンドルするかが、今年後半のAMDの課題となりそうだ。
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【6月5日】【海外】COMPUTEXで見えてきたHammerチップセットの混沌とした状況
hhttp://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0605/kaigai01.htm
(2002年6月7日)
[Reported by 後藤 弘茂]