●台湾には1カ月前に伝えられたDDR333サポート計画
Intelのメモリサポート戦略が、また変わった。今回はDDR333サポートの前倒し。Intelは現在、9月にDDR333サポートの新チップセット「Intel 845GE(グラフィックス統合版)」と「Intel 845PE(ディスクリート版)」をリリースするとOEMにアナウンスしている。これで、DDR333サポートは来年Q2から約3四半期分前倒しになったことになる。
IntelがOEMにDDR333サポートの前倒しを最初に伝えたのは、4月23日に開かれた台湾IDFでのこと。と言っても、IDFの中で発表したのではなく、裏舞台でのOEMとのミーティングでの席でのこと。ある業界関係者は、Intelの担当副社長から口頭で、DDR333の計画が伝えられたと語っていた。ちなみに、その前週に開催された日本のIDFでは、バックステージでもDDR333サポートの話は出ていなかったようだ。
さらにその翌週には、台湾ベンダに対して、台湾のIntelからDDR333サポートチップセットの計画概要が伝えられた。この時は、口頭だけでなく、正式な文書が示されたという。その時点で、正式名称がIntel 845PEとIntel 845GEになることと、スケジュールなどが通知されている。ある日本の業界関係者によると、日本のOEMに伝えられたのはその後だったという。
こうして見ると、DDR333サポートは台湾OEMに対して先行するカタチで進められたことが伺われる。台湾だけ先行するのは最近は珍しくないが、わざわざ口頭で事前に伝えるあたりに、DDR333サポートが台湾OEM対策であることが見て取れる。
●DDR333には懐疑的だったIntel
そもそも、Intelは年内はDDR266だけをサポート、DDR333への対応は2003年Q2のデュアルチャネルDDRメモリのチップセット「Springdale(スプリングデール)」まで持ち越す計画だった。それは、IntelがDDR333の供給を、かなり疑問視していたからだ。
実際、昨年中盤には、いったんDRAMベンダーに対してDDR333の2003年のイールド(歩留り)予想を打診している。その結果、DDR333では30~40%のイールドしか望めないと知り、DDR IIテクノロジのDDR400で行くことに決定したという経緯がある。もっともこの時は、結局、DDR IIが遅れることになったため、SpringdaleはDDR333デュアル構成に決まった。しかし、DDR333が2003年でも高い歩留りで取れず、2002年中はかなり供給が限られることは、Intelも十分承知しているはずだ。
では、なぜ無理をしてDDR333サポートを前倒ししたのか。業界関係者によると、Intelはその理由として「マーケットシェアが第一」と言ったという。つまり、チップセットでもシェアを維持する戦略に転換、その結果、Intelチップセットのフィーチャを他社に合わせるため、1サイクル遅れているメモリサポートを追いつかせる計画に変わったようだ。
しかし、供給が限られるDDR333を、PCベンダーがこぞって年内に採用に走るとは思えない。採用があるとしてもメーカー製PCは一部モデルに限られ、DDR333は主にチャネルマーケットでの展開になると推測される。となると、IntelのDDR333サポートはチャネルマーケット対策と、イメージ対策ということになる。チャネルではDDR333が潤沢に供給されるかどうかはともかく、今年後半には確実に“DDR333サポート”という付加価値は必要になる。そこで、他社のチップセットと同列に並べることに意味があると、Intelは考えたということだろうか。
●DDR333は533MHz FSBでのみサポート
845PEと845GEはそれぞれ845Eと845GのDDR333対応版の扱いだ。しかし、中身は多少異なっている。
まず、845GEはDDR333サポートに加えて、性能も845Gから引き上げられる。これは、グラフィックスコアの周波数を200MHzから266MHzに上げるためだ。DDR333でメモリ帯域も上がるため、グラフィックスのパフォーマンスはそこそこ上がると推測される。
一方、845PEは機能的にはDDR333互換だが、ピン配置が845Eとは異なり、845Gとピン互換になっている。また、ECCメモリサポートもなくなっている。こうしたことから、845PEは、845GEのグラフィックスコアを殺したバージョンになると推測される。
845GE/PEはどちらもFSB(フロントサイドバス)で400MHzと533MHzの両方をサポートする。ただし、DDR333は533MHz FSBとの組み合わせでのみのサポートとなる。
FSB | DRAM | 845PE | 845GE | 845E | 845G | 845GL |
400MHz | PC133 | × | × | × | ○ | ○ |
400MHz | DDR200 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
400MHz | DDR266 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
400MHz | DDR333 | × | × | × | × | × |
533MHz | DDR200 | × | × | ○ | ○ | × |
533MHz | DDR266 | ○ | ○ | ○ | ○ | × |
533MHz | DDR333 | ○ | ○ | × | × | × |
●JEDECモジュールを基準に考えるIntel
845PEと845GEは、いずれもサンプル6月、製品出荷9月(10月になる可能性もあるとの情報もあり)が予定されている。あるOEMによると、これはDDR333メモリの互換性検証と、グラフィックスのWHQL(Windowsロゴを取得するための認定テスト)取得に時間がかかるためだという。そもそも、Intelは6月からDDR333の互換性の内部テストを本格的にスタートさせるつもりでいた。あるOEMによると、これは6月にJEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)規格のコモン(共通)ガーバーに準拠した「PC2700」モジュールが出てくるからだとIntelが説明したという。
現在のPC2700は、基本的にDDR266のモジュールPC2100と同じデザインを使っている。しかし、JEDECでは、DDR333での安定性と信頼性を向上させるため、新規のシリアル抵抗を加えるなどの改良を施した新モジュールを策定した。安定性を重視するIntelは、この新モジュールだけで、互換性検証を行なうつもりでいるらしい。
しかし、JEDECモジュールは、仕様は決定したものの、様々な事情で遅れており、各社ともまだ生産に入っていない。845PE/GEの9月ラウンチは、JEDECモジュールをベースに立てられたスケジュールのようだ。
ただし、IntelのDDR333サポート前倒しは、メモリ業界にとっても予想外だったため、多少の混乱が生じている。例えば、あるDRAM業界関係者は、PC2700のコモンガーバーに適合したシリアル抵抗がまだ生産体制に入っていないため、量産ができないとうち明ける。DRAMデバイスもガーバーもあるのに、抵抗がないという意外な落とし穴。もちろん、抵抗は複雑な部品ではないため、対応すればすぐに供給はできるが、このあたりにIntelのメモリ戦略の変化が象徴されている。
Intelは、以前はメモリサポートに当たっては事前に十分な準備をしてから行なってきた。失敗したRDRAMの立ち上げの時ですら、膨大な手間暇をかけて準備していた。だが、現在は、状況に応じてどんどんメモリ戦略を変えており、そのため、準備期間はミニマムになっている。メモリ業界側も、振り回されている格好だ。
●流転するIntelのメモリ戦略
そもそも、Intelのメモリサポート戦略は昨秋以来、4回も大変更された。IntelのパフォーマンスデスクトップPC向けメモリ戦略の変遷は次の表のようになる。
2002前半 | 2002後半 | 2003前半 | 2003後半 | 2004 | |
昨年前半 | DDR200 | DDR266 | ADT | → | → |
昨年10月 | DDR266 | → | DDR II | → | ADT? |
昨年12月 | DDR266 | → | DDR333(Dual) | → | DDR II |
現在 | DDR266 | DDR333 | DDR333(Dual) | → | DDR II |
これを見ると、3~4カ月毎にどんどんメモリ戦略が変わる様子がよくわかる。方向性は明らかで、IntelはDDRメモリのサポートを次々に前倒ししている。その一方で、Intel主導で策定が始まったADTメモリは消え、DDR IIもIntelの提案した仕様変更により登場が3四半期後ろへずれ込んだ。つまり、DRAMへの新テクノロジの導入はずれ込み、その一方で既存技術のDRAMの高速化が促進されるロードマップに変わったことになる。これは、製造キャパシティをどんどん次世代プロセスに置き換えて行けるだけの体力のあるDRAMベンダーに有利な構図となる。
もっとも、今回のDDR333サポートは、流れに大きな影響は与えないだろう。DRAMベンダー側でそもそもDDR333をハイイールドで取ることが難しいからだ。DDR333は年内は自作PC系の世界に止まりそうだ。
(2002年5月28日)
[Reported by 後藤 弘茂]