●今秋の目玉はデュアルDDRチップセット
IntelがIntel 845ファミリチップセットを拡充したことで、今年前半のチップセット合戦は一段落ついた。では、今年後半のチップセットとメモリはどうなるのか。
今年後半のトピックスは、デュアルチャネルDDRメモリのチップセットとIntelのDDR333サポートになる。DDR333サポートのIntel 845PE/GEの経緯は来週詳しく解説するとして、デュアルチャネルDDRはどういう流れになっているのか。
まず、今秋までにIntel、VIA Technologies、SiSの3社が、それぞれデュアルチャネルDDRのディスクリートチップセットを投入してくるからだ。そのため、秋冬時期にはチャネルマーケットは、デュアルDDRで盛り上がっていることは間違いない。しかし、この動きはほぼチャネルに限定される。つまり、PCメーカーからデュアルDDRマシンがこぞって出てくるという動きにはなりそうもない。
デュアルチャネルDDRは、論理的にはPentium 4向けのよきソリューションとなる。それは、DDR I規格のメモリ帯域では、シングルチャネルである限りPentium 4/Prescott(プレスコット)のFSB(フロントサイドバス)帯域にマッチしないからだ。533MHz FSBの4.2GB/secにマッチするのは、DDR266デュアルでピッタリというわけだ。
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●IntelはGranite Bayをデスクトップに
IntelのデュアルチャネルDDRでは、まず、今年Q4の頭に「Granite Bay(グラナイトベイ)」が登場する。Granite Bayは、エントリレベルのシングルプロセッサワークステーション向けのチップセットだが、デスクトップPC向けマザーボードにも搭載されてくる。実際、昨秋の頃からすでに台湾ベンダーの一部は、IntelがGranite BayをハイエンドデスクトップPC向けに使うのを認めるつもりだと語っていた。つまり、Intel 850Eの代わりに据えようというわけだ。
その背景にはRDRAMソリューションが尻すぼみになりつつある状況がある。少なくとも、Intelの一部には、メインストリーム(が約束されている)DRAMテクノロジで、Pentium 4の帯域にマッチできるチップセットを早期に提供したいと考えているようだ。デュアルDDRのデスクトップPC向けチップセットでは、来年Q2に大本命の「Springdale(スプリングデール)」が控えているわけだが、それまで待てないということらしい。
Granite BayはQ4頭発表の予定であるため、多くのマザーボードベンダーが、9月頃には提供する予定でいる。対応メモリはDDR200/266だが、DDR333についても発表後に(別バージョンで)サポートが加わる可能性が高い。ワークステーション向けであるGranite Bayは、AGP 8Xもサポートしており、これも“売り”になるとボードベンダーは見ているようだ。ちなみに、Granite BayのサウスはICH4になる。
Granite Bayは価格的はやはりやや割高になる可能性が高いが、スペック先行のチャネルマーケットでは、それなりに魅力的な商品になりうる。そこで、VIAもSiSも対抗するデュアルDDRチップセットを急いでいる。それぞれ、自社の事情があり、是が非でもIntelより先に出したいようだ。
●VIAはP4X333上位のP4X600で先行する
VIAのデュアルDDRチップセットは「P4X600」で、VIAはQ2中にサンプルを出すつもりだ。VIAのスケジュールの通例だと、Q3に発表で、Intelにやや先行できることになる。
VIAはライセンス問題以降の市場シェアのダメージがあるため、Intelに対してスペック上の優位は保ちたい。つまり、常にIntelよりも先に新フィーチャをチップセットに取り込みたい。だから、デュアルDDRは先行させたいと考えているわけだ。
しかし、P4X600のIntelに対するスペック上の優位は、デスクトップPC用途では、DDR333サポートと、サウス側でのATA133サポート。このうち、DDR333のデュアルチャネルは、FSBが533MHzである間はほとんど実質的な意味はない。ポイントは、やはり価格となるだろう。
もっとも、P4X600にはもうひとつの狙いがある。それは、サーバー用途だ。P4X600はP4X266/P4X333同様にデュアルプロセッサをサポートする。つまり、Xeon DP(Prestonia:プレストニア)を使ったデュアル構成が可能なシステムを作ることができる。デュアルDDRだと、帯域を倍にできるだけでなくメモリ搭載量も2倍にできるので、サーバーには向いている。VIAは、サーバー向けチップセットなら、IntelやServerworksに大きく価格差をつけられるため、有利と見ているようだ。ちなみに、P4X600は36bitアドレッシングもサポートし、4GB以上のメモリもサポートする。
●SiSはデュアルDDRとデュアルRDRAMの2本立て
SiSのデュアルチャネルDDRメモリのチップセット「SiS655」。こちらも、VIAとほぼ同じスケジュールで動いており、VIA同様にDDR333もサポートする。
SiSは自社Fabを建造して以来、市場シェアを拡大しなければならないという圧力にさらされている。というのは、経済的なFabは一定の製造キャパが必要で、一定のキャパを維持するには、一定の製品ニーズが必要だからだ。そして、この狭いチップセット市場でFabを維持するに足るだけのシェアを得ようとしたら、(Intel以外の)トップベンダーになる以外にない。そのため、SiSの合理的な戦略は、VIAにブレーキがかかっているこのチャンスに、トップチップセットベンダーに躍り出て、一気にシェアを獲ることになる。そして、2年前までローエンドチップセット専業メーカーだったSiSに必要なのは、ハイエンドイメージを作ることだ。
そういった事情でハイエンドデスクトップにも攻め込むSiSの戦略のユニークなところは、デュアルチャネルRDRAMのチップセット「SiS R658」も平行して開発していることだ。SiSは、このRDRAMチップセットをほぼデュアルDDRのSiS655と同時期に計画している。よりメモリ帯域の広いデュアルDDRのSiS655の方を、パフォーマンス的には上位に位置づけているようだ。
いきなりのRDRAMサポートは、メモリベンダの働きかけがあったとウワサされていたが、これには別な思惑もあるようだ。このあたりは、また機会を改めてレポートしたい。
●現状では効果/費用が薄いデュアルDDR
というわけで、秋頃にはデュアルDDRチップセットの競演となる。しかし、ほとんどのエンドユーザーにとって、このデュアル化でのパフォーマンス面の影響は小さいだろう。現状では、メモリの問題は帯域よりむしろレイテンシにあるからだ。Intelがメモリ帯域の拡大にこだわるのは、メモリ帯域を圧迫するアプリケーションのためだけでなく、将来のCPUのためでもある。スレッドレベルの並列処理技術で、メモリのレイテンシを隠蔽するといった方向を考えているから、膨大なメモリ帯域が必要になると試算していると思われる。
しかし、当面は、デュアルDDRは、得られる効果の割にはコストが高くつく。つまり、マザーボードのレイアウトは難しくなり、メモリ帯域のためには最低2DIMMが必要となり……といったペナルティだ。サーバー&ワークステーションにはいいが、デスクトップPC向けではない。少なくとも、128bit幅のメモリインターフェイスの配線をしなければならないデュアルDDRが、設計者に嫌がられるソリューションなのは間違いない。VIAやSiSのマザーボードが比較的安く手に入るなら、ハイエンドユーザーにとってはOKかもしれないが。
それから、デュアルDDRの時代もそんなに長くは続かない。デュアルDDRは、来年のSpringdale+Prescottで、Intel本流のソリューションとなる。しかし、2004年前半には、DDR II(DDR400とDDR533)が来てしまうので、すぐに衰退することになるだろう。
もっとも、来年のPrescottでFSBは667MHzとなり帯域は5.3GB/secに上がる。DDR533でも、FSBにマッチする帯域を提供することができない。そのため、IntelはDDR333デュアルを暫定的にしばらくの間ハイエンドに残し、メインストリームにシングルチャネルのDDR IIを導入して行くことになると推測される。
(2002年5月24日)
[Reported by 後藤 弘茂]