バイオU発売“勝手に”記念特別レポート(その2)
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前回のレポートではお約束の“ばらし”を行なってみた。「組み立てたあと動いたのですか?」という問い合わせメールを何件かいただいたが、今のところ無事動作しているようなので、安心? していただきたい。
さて、その2となる今回のレポートでは、パフォーマンスについて追求していきたい。筆者的には、パフォーマンスで気になる点が3つある。1つはCrusoeのパフォーマンス、もう1つは1.8インチハードディスクのパフォーマンス、もう1つが3セルで11.1V/1,800mAhというバッテリでどのくらいのバッテリ持続時間があるのか、という3点だ。
●Crusoe 867MHzというCPUの処理能力
TransmetaのCrusoe TM5800 867MHz |
実は、筆者がTransmetaのCrusoeを搭載したマシンを購入するのは今回が初めてだ。というのも、ご存じの方もいると思うが、筆者はこれまでほとんど日本IBMのThinkPadシリーズを購入してきた。何故かといえば、ThinkPadシリーズが採用しているスティックタイプのポインティングデバイスであるTrackPointに指が馴染んでしまって、なかなか他社のノートPCに乗り換えられなかったからだ。
ところが、日本IBMはCrusoeを採用したノートPCをラインナップしていない。このため、筆者はCrusoeを搭載したノートPCを1台も持っていなかった。そんな背景があり、今回は筆者にとって初めてのCrusoe搭載製品なので、実際にどの程度のパフォーマンスを持っているのか、これまで筆者が使ってきたThinkPadシリーズに搭載されているIntelのCPUと、どの程度パフォーマンス差があるのかというのを探っていきたいと思ったわけだ。
さて、Crusoeを評価するにあたり、CrusoeとはどんなCPUなのかをもう一度復習しておこう。Crusoeはx86互換のCPUだが、チップそれ自体はVLIW(Very Long Instruction Word)のRISCプロセッサで、コードモーフィングソフトウェア(CMS)というソフトウェアがx86命令をCrusoeのネイティブ命令に変換することでx86命令を実現している。
Crusoeが採用しているRISCプロセッサは、他のx86互換CPU(例えばPentium IIIやAthlonなど)と比べて消費電力が少ないのが特徴の1つといえる。消費電力が少ない=発熱量が少ない、ということになるので、バイオUのような小型のフォームファクタのPCに向いているとされている。
さて、そんなCrusoeの評価を行なうにあたり注意したいことは、Crusoeがいわゆる32bitx86命令の拡張命令には対応していないことだ。
現在のCPUで、x86互換を名乗るには、IntelがIntel 386で規定した32bitのx86命令と互換であるのが必要条件となっている。だが、最近のIntelやAMDのCPUは、こうした32bitx86命令以外にも、MMX命令、ストリーミングSIMD拡張命令(SSE)、ストリーミングSIMD拡張命令2(SSE2)、3DNow! Technology、エンハンスト3DNow! Technologyなどの、いわゆる拡張命令セットをサポートしている。アプリケーションがこれらの拡張命令をサポートしている場合、拡張命令を利用しない場合に比べて高速に処理を行なうことができるのだ。
ところが、CrusoeはMMX以外の拡張命令には対応していない。すでに述べたように、Crusoeのx86互換はCMSにより実現されているので、CMSのバージョンアップにより実現可能だと思われるのだが、これまでのところMMX以外の機能については実現されていない(逆にいえば、将来対応できる可能性は秘めている)。現在のアプリケーションはOSも含めて拡張命令への対応が進んでおり、拡張命令に対応しているアプリケーションやベンチマークでは不利な結果となる可能性が高い。
【お詫びと訂正】初出時、Crusoeは拡張命令には対応しないと明記しておりましたが、正しくはMMX命令のみ対応します。ご指摘いただいた読者の方々に感謝するとともに、お詫びして訂正させていただきます。
●超低電圧版モバイルPentium III 600MHzを搭載したs30にやや劣る程度の処理能力
さて、そのあたりをふまえた上で、実際にベンチマークを利用して計測していきたいと思う。
今回、評価対象として用意したのはIBMのThinkPad i Series s30(超低電圧版モバイルPentium III 600MHz搭載)、ThinkPad X22(低電圧版モバイルPentium III 800MHz-M搭載)の2つのノートPCと、デスクトップPC(自作、Pentium 4 1.7GHz、Intel 845BG、Intel 845チップセット、DDR SDRAM)の3つだ。いずれもメモリは256MBで、ThinkPad X22とs30はHDDを30GBのものに交換してある。
利用したベンチマークはBAPCoのSYSmark2002のOffice ProductivityとInternet Contents Creation、eTesting LabsのWinBench 99 Version1.1に含まれるCPUmark99、FPU WinMark 99だ。SYSmark2002では拡張命令をサポートした最新のアプリケーション環境におけるパフォーマンス、WinBench 99では拡張命令を使わない場合のパフォーマンスを見ることにした。
グラフ1 | グラフ2 | グラフ3 |
SYSmark2002(グラフ1)のOffice Productivityだが、見てわかるようにTM5800 867MHzを搭載したバイオUは、超低電圧版モバイルPentium III 600MHzを搭載したThinkPad i Series s30に若干劣る程度となっている。
Internet Contents Creationに関しては、s30では完走しなかったためわからないが、モバイルPentium III 800MHz-Mに比べると、低いことがわかる。CPUmark99(グラフ2)に関しても同じような傾向といえるが、FPU WinMark 99(グラフ3)に関しては、s30にかなり劣っている。
こうしたところを見ると、TM5800 867MHzはPentium III 600MHzにやや劣る程度と考えていいだろう。正直なところ、Crusoeのパフォーマンスは同クロックのモバイルPentium IIIに比べてやや低いパフォーマンスであると思うし、実際筆者の体感でもs30とバイオUは体感的にあまり変わらなかった。
Pentium III 600MHzに若干劣るパフォーマンスをどのように受け取るかは人それぞれだと思うが、筆者個人の主観としては「若干我慢しなくてはいけないのは事実だが、我慢できない程度ではない」というのが結論だ。
●1.8インチハードディスクも性能低下はほとんどない
次にディスクのパフォーマンスだが、こちらもあまり遜色ないことがWinBench99のDisk WinMark(グラフ4)などの結果からわかる。ビジネスアプリケーションを利用している時のランダムアクセス時の性能を指し示すBusiness Disk WinMark 99は、2.5インチのドライブを採用しているX22、s30、デスクトップPCに比べて遜色ない。
だが、シーケンシャルアクセスであるDisk Transfer Rate(グラフ5)では、2.5インチのドライブを採用しているX22、s30が20MB近辺から始まっているのに対して、1.8インチを採用しているバイオUでは16MBから始まるなど、転送レートがやや低いというのがわかる。これは、1.8インチドライブが2.5インチに比べてディスクの直径が小さいためだ。
グラフ4 | グラフ5 |
バイオUに内蔵されている1.8インチのハードディスク(右) |
ハードディスクは外周部がもっとも高速な転送レートを実現できる。1.8インチでは当然ながらディスクの直径が小さいため、外周部の円周が2.5インチに比べて小さく、最外周におけるデータ転送速度が2.5インチに比べて低くなるのだろう。
内周部(Disk Transfer Rate/End)では逆に2.5インチのドライブを上回っており、実際の利用環境ではさほど差はないと考えていい。
●JEITA測定法で3時間強のバッテリ駆動時間
バッテリの持ちだが、業界標準のバッテリ駆動時間測定法である、“JEITAバッテリ動作時間測定法(Ver 1.0)”を利用して測定してみた。
JEITAバッテリ動作時間測定法(Ver 1.0)は、業界団体であるJEITA( http://www.jeita.or.jp/ )が策定したバッテリ駆動時間測定法で、最近PCメーカーが配布するカタログにも記載されていることが増えてきた標準的な方法だ(興味がある方はJEITAのWebサイト( http://it.jeita.or.jp/mobile/index.html )を参考にしてほしい)。
JEITAバッテリ動作時間測定法(Ver 1.0)では、MPEGファイルの再生(A)と何もさせない状態で放置(B)という2つの測定を行ない、その平均をとるやり方で、バイオUのカタログでは“約3時間”と表示されている。筆者が測定したところでは、以下のような結果となった。
(A) 2時間31分*1
*1 輝度は最低状態から2つあげた状態
結果、JEITA測定法では(A)+(B)÷2が結果となるので、
2時間31分+3時間50分÷2=3時間10分30秒
となり、ソニーのカタログ通りの数値がでていることがわかる。
●DVD再生は1時間20分ぐらい、ジョグダイヤルで快適なトラック送り
引き続き、オプションで用意されているIEEE 1394接続のDVD-ROMドライブを利用してDVDビデオの再生をバッテリでやらせてみた。
筆者が購入したのはPCGA-DVD1というソニー純正オプションで、バイオUに用意されている専用DCアウトに対応しており、本体のバッテリで駆動させることができる。このため、このPCGA-DVD1とバイオUを持っていけばポータブルDVDプレイヤーに早変わりとなるわけだ。専用DCアウトには、「また独自規格を」という向きもあるだろうが、筆者は割と評価している。というのも、外に持ち出した時に内蔵バッテリだけでDVDビデオを閲覧するにはこうした手段が有効だからだ。
現在こうしたサブノートやミニノートにDVDドライブを接続する場合、USBポート、PCカード(16bit)、PCカード(32bit CardBus)、IEEE 1394(4ピン)という4つの手段が考えられる。
このうち、USBとPCカード(16bit)はインターフェイス経由でドライブに対して給電が可能だが、インターフェイスの速度がDVDビデオを再生するには足りず、DVDを再生するとコマ落ちが発生する。
これに対して、PCカード(32bit)やIEEE 1394(4ピン)はインターフェイスの速度は十分なのだが、ドライブに対して給電を行なうことはできない。このため、出先などで外付けドライブを利用してDVDビデオの再生を行ないたい場合には、外付けDVDドライブ自体がバッテリを備えるか、何らかの形で本体から給電する必要があった。
そこで、バイオUが持っているような(実際にはバイオSRXや最近のC1も搭載)専用DCアウトを利用すれば、IEEE 1394(4ピン)を利用した場合でも本体のバッテリで外付けドライブを駆動でき、バッテリでDVDビデオを見るという使い方ができるというわけだ。
今回は、PCGA-DVD1にバンドルされているWinDVD Version 3.1をインストールして、DVDビデオを再生してみたが、ジョグダイヤルでトラック送りができるようになっているなど、使い勝手は良好だった。
さて、気になる再生パフォーマンスだが、バッテリに切り替えて再生させてみたが、特にコマ落ちなどは気にならなかった。そこで実際に映画を再生させてみたところ、バッテリでは1回目は1時間15分、2回目は1時間20分の再生が可能だった。2時間には届かないので、映画一本というのはちょっと難しく、テレビ番組の再収録のDVDなど、1プログラムの時間が1時間以内のコンテンツを楽しむのが精一杯というところだ。
ソニー純正オプションとして用意されているPCGA-DVD1。IEEE 1394と専用DCコネクタで本体に接続する | バイオUに用意されている専用DCコネクタ |
●パフォーマンスは必要最低限はクリア、大容量バッテリに期待
以上のように、筆者が気になったポイント、
(1) Crusoeのパフォーマンス
の3点に関して、(1)、(2)に関しては、超低電圧版モバイルPentium III 600MHzを搭載したThinkPad i Series s30にやや劣る程度のパフォーマンス、(3)に関しては通常使用時で3時間強、外付けドライブを利用してのDVD再生時に1時間20分ぐらいという結論となった。パフォーマンスに関しては十分とまではいえないが、必要最低条件はクリアしているのではないかと考えている。
ただ、バッテリに関しては、やや心許ないかもという気はしている。というのも、本製品を使う場合にはスタンバイボタンで、サスペンド状態にして持ち歩くという使い方をすることになると思う。となると3時間程度の駆動時間では1日持ち歩いて使うというのは難しそうだ。
また、DVDドライブを利用してDVDビデオを楽しむ場合にも、やはり最低でもバッテリで映画1本(2時間)はクリアしたいところ。そうした意味では大容量バッテリの登場に期待したい。ちょうど、本体の裏側には大容量バッテリの存在をにおわすような取り付け穴もあるので、おそらく将来的には9セルバッテリなどが登場する可能性はかなり高いと思われる。
さて、前回は内部をチェックし、今回はパフォーマンスをチェックした。いよいよ最終回となる次回は実際にどのようなシーンに使えるのか、ユーセージモデルについて考えていきたい。
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0417/sony1.htm
(2002年5月8日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]