WinHEC 2002 ポール・オッテリーニ氏 基調講演レポート

誰にでも、いつでもどこでもコンピューティングを
~遂に“本物”のBaniasが公開!

Intel社長のポール・オッテリーニ氏

会期:4月16~18日

会場:Wasington State Convention & Trade Center



 別レポートで紹介したビル・ゲイツ氏の講演の後に登場したのが、今年Intelの社長に昇格したポール・オッテリーニ氏だ。オッテリーニ氏は、Intelの戦略などについて聴衆に語りかけたが、その中で、同社が2003年にリリースする予定のモバイル向けプロセッサ“Banias”について言及し、初めて正式に“本物”のBaniasを公開した。

 また、同時にクライアントPCにおけるHyper-Threading Technologyについても初めてデモが行なわれ、Windows XP ProfessionalにおけるクライアントPCでのイネーブリングプログラムが今後行なわれていくことや、成熟市場と成長市場という新しいセグメント分けなどが明らかにされた。


●BaniasはIEEE 802.11のキャパシティを持ったプラットフォームである

 オッテリーニ氏は「Intelはマイクロプロセッサのメーカーだが、それだけに留まっていない。我々としては人々が望む新しい形のコンピューティングや通信を提供していきたい。そして最終的には、誰にも、いつでもどこでもコンピューティングが行なえる環境を提案していきたい」とIntelのビジョンを述べ、Intelのゴールが、いわゆるユビキタスコンピューティング環境をエンドユーザーすべてに行きわたらせるということを強調した。

 その第1の要素として、コンピューティングと通信の融合ということをあげた。「以前はPCと通信というのは別々の要素だった。だが、それがインターネット、特にブロードバンドの普及で融合が始まりつつあるのが今日の状況だ。だが、将来はいつでもどこでも使えるワイヤレスのインフラといつでも使えるモバイルデバイスにより、この2つの融合は進む」と述べ、IntelとしてはいつでもどこでもIntelベースのデバイスが動作していることを目ざしたいと述べた。

 そのいつでもどこでも使えるモバイルデバイスを実現するピースとして、オッテリーニ氏は2003年に同社がリリースを予定しているBanias(バニアス、開発コードネーム)をあげた。OEMメーカー筋の情報によれば、BaniasはIntelがモバイル専用に開発しているCPUで、2003年の第1四半期に1.6GHzでリリースされる予定となっている。Baniasに関する詳細は後藤弘茂氏の「これがBaniasだ--来年第1四半期に1.6GHz、LV/ULV版も続けて登場へ」が詳しいので、ここでは繰り返さないが、チップセットとしてOdem(単体)とMontara-GM(統合型)の2つがあり、サウスブリッジにはICH4-Mが採用される予定となっている。

デモに使われたBaniasのシステム。2月のIDFではあった、変換ボードは無くなっている

 2月に行なわれたIDF Spring 2002では、CPUにモバイルPentium 4を利用したチップセット(Odem)のデモだけが行なわれたのだが、今回はCPUにBaniasそのものを利用して、実際に動作している模様がデモされた。ただし、実際には“動作している”というレベルで、Baniasの特徴である、低消費電力である点などに関するデモは行なわれなかった。

 Baniasに関してオッテリーニ氏は「2002年に関してはモバイルPentium 4-Mでパフォーマンスをモバイル市場にもたらす。2003年にはBaniasを投入し、シームレスなワイヤレス環境、高性能、長時間バッテリー駆動、省スペースなどを実現する」と述べ、Baniasはそうしたバランスの上にたったCPUであると強調した。また、オッテリーニ氏は「BaniasはIEEE 802.11の可能性を持ったプラットフォームになる」と述べ、Baniasにおいて標準でIEEE 802.11ベースの無線LANがサポートされると述べた。

 Banias用のチップセットであるOdemやMontara-GMのサウスブリッジはICH4のモバイル版であるICH4-Mだが、現時点では無線LANの機能は内蔵されていない。可能性があるとすれば、内蔵されているMACがIEEE 802.11に対応している可能性だが、どうもその可能性も低そうだ。というのも、今回のOdemベースのデモでも、無線LANの機能はPCカードによりもたらされていた。つまり、PCIバス経由で接続されていたということだ。IDF Spring 2002のレポートでも述べたように、Intelは自社のIEEE 802.11a、さらにはIEEE 802.11bチップを計画している。これらをバンドルすると考えるのが、可能性としては最も高そうだと言えるだろう。


●「成熟市場と中国などの成長市場は別セグメントとして考えていく」

 さらに、オッテリーニ氏は「Pentium 4ベースのプラットフォームへの切替が最初に進んだ国はどこだと思うか?」という質問を投げかけ、それは「中国だ」と答えを明らかにした。「これから成長する市場では、信頼性、入手性、使い勝手などが重要視される。これにたいして既に成熟した市場では、可能性、可搬性、いつでもどこでもという要素が重要視されるというように、ニーズは異なっている」と述べ、日本や米国など、すでにPCがかなり普及してきた市場におけるニーズと、中国などのこれから成長していく市場においては、PCに対するニーズが異なっていると指摘した。

 その上で、オッテリーニ氏は「中国などの成長市場は2000年で20%の成長率を記録しており、さらに2006年には40%に達する見通しだ。今後、5年間は、それぞれをセグメント化し、別々の市場として価格、性能、フォームファクターなどの要求を最適化していく必要がある」と述べ、今後は日米欧などの成熟市場と中国などの成長市場を別セグメントとしてあつかっていくということを明らかにした。その上で、今回集まったWindowsベースの製品を作るエンジニアに対しても、そうした市場のセグメント化を行なって、それぞれのニーズを満足できる製品を作って欲しいと促した。

最も早くPentium 4に切りかわったのは中国市場だった 成長市場では2006年に40%もの成長が期待できる


●ムーアの法則にプラスするもの、それがHyper-Threadingだ

 さらに、オッテリーニ氏は「ムーアの法則にプラスするもの」ということで、“Hyper-Threading Technology”について言及した。Hyper-Threadingとは、1つの物理プロセッサを2つのCPUがあるように見せ掛け、CPUのリソース(実行ユニットやキャッシュ)などをより効率よく活用することで、CPUのパフォーマンスを上げていく技術だ。

 既にサーバー向けのXeon MPや、サーバー/ワークステーション向けのXeonなどで導入されているが、クライアントPC向けには2003年の後半にリリースされる予定の“Prescott”においてサポートされる予定となっている。

Hyper-Threading Technologyのデモに使われたクライアントPC

 今回オッテリーニ氏は、クライアントPCにおけるHyper-Threading Technologyのデモを行なった。オッテリーニ氏によれば公開されたシステムはPentium 4 3GHzを搭載したマシンで、それぞれHyper-Threading Technologyなしとありの両方で動画ファイルのエンコードを行ない、Hyper-Threading Technologyありの方が高速になるということをアピールした。オッテリーニ氏は「Hyper-Threading Technologyを利用することで、10~30%程度の性能向上が期待できる。今後Intelはソフトウェアベンダに対して、コンパイラの提供などのイネーブリングプログラムを行なっていく予定だ」と述べ、ベンダに対して、Hyper-Threading Technologyへの対応を呼びかけた。

 IntelはストリーミングSIMD拡張命令(SSE)やストリーミングSIMD拡張命令2(SSE2)の立ち上げ時において、ソフトウェアベンダに対して人的、資金的な援助を行なうイネーブリングプログラムを展開してきた。新しい拡張命令への対応などには、こうしたプロセスは欠かせないモノで、Hyper-Threading Technologyに関してもソフトウェア側で若干の最適化が必要になるため、そうしたIntelからソフトウェアベンダに対する何らかの支援は非常に重要と言える。現時点ではどのようなプログラムが展開されるのかは明らかではないが、2003年のPrescottリリースに向けて、Intelが超えてゆかなければならない重要なハードルだと言えるだろう。


Hyper-Threadingを有効にすることでパフォーマンスが向上するというデモが行なわれた ソフトウェアベンダに対するイネーブリングプログラムが行なわれることも明らかにされた


●成熟市場のニーズにもマッチした製品の投入を期待したい

 今回のオッテリーニ氏の基調講演の中で、最も重要なアナウンスは、成長市場と成熟市場を別のセグメントとして扱うということだろう。

 これまでIntelは成長する市場に対して、それに見あった製品を投入してきた。だが、既に日米欧の市場は成熟し、より新しい可能性が求められている。例えば、17日にソニーが発表したバイオUや、日本独自の省スペースデスクトップなどはその最たる例だろう。

 これまでIntelはこの要求のすべてに答えてきたとは言えないと思う。筆者がIntelの幹部に話を聞くたびにSFF向けのCPUの話やより低電圧なモバイルCPUの可能性について話を聞くと、「ワールドワイドで市場占有率があまり高くないので、重要性は低い」という類の答えが返ってくることが多かった。Intelのような大きな会社の場合、大多数の要求に答えるのが第一だということはわかる。特に、今後中国市場のような非常に大きな成長がのぞめる市場では、ニーズは明らかに日本の要求とは異なっているわけで、そちらを優先しなければならなかったという事情も理解できる。

 しかし、それでは新しい市場というのは出来ていかないわけで、そこを上手くついたのがTransmetaのCrusoeだった。そのような状況があることをIntelみずから認識したからこそ、オッテリーニ氏は成熟市場と成長市場はそれぞれ別のセグメントにと言いだしたのだろう。筆者は、Intelのこのメッセージは、日本のユーザーにとって歓迎すべきことだと思う。成長市場と成熟市場を別のセグメントと考えることで、今後それぞれのニーズに合致した新しい製品の投入も期待できる。Baniasはそうした歩みの第一歩と言えるわけで、さらに日本のニーズに合致した製品の投入を期待したいところだ。

□WinHEC 2002のホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/winhec/
□関連記事
【3月5日】【IDF】Intel、802.11a/b両対応の無線LANチップを計画
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0305/idf06.htm
【4月15日】【海外】これがBaniasだ--来年第1四半期に1.6GHz、LV/ULV版も続けて登場へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0415/kaigai01.htm

(2002年4月19日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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