鈴木直美の「PC Watch先週のキーワード」
第204回:4月8日~4月12日


■■キーワードが含まれる記事名
●キーワード


4月8日

■■ AMD、MIPSコアの組込プロセッサ「Alchemy Au1100」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0408/amd.htm

●MIPS

(1) MIPS Technologies, Inc.および同社が開発した、32bitおよび64bitのRISCプロセッサ。

 80年代初頭、1クロックで実行できる簡単な命令セットとパイプラインを使い、コンパイラによって最適化したコードを高速に実行するRISC(Reduced Instruction Set Computer)技術の研究開発が、米国の2つの大学で次々にスタートした。'80年に始まったカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の「RISCプロジェクト」からはRISC-I/RISC-IIマシンが生まれ、その研究成果は'87年にリリースされたSun MicrosystemsのSPARC(Scalable Processor ARChitecture)に受け継がれている。

 MIPS(Microprocessor without Interlocked Pipeline Stages)は、'81年に始まったスタンフォード大学(Stanford University)のプロジェクトで、その成果を活かすべく、同校のJohn L. Hennessy教授(2000年に学長に就任)らが'84年にMIPS ComputerSystemsを設立。32bitのR2000('86年)、R3000('88年)シリーズに続き、'91年には初の64bitプロセッサR4000シリーズをリリース。歴代のチップは、SGI(Silicon Graphics, Inc.)をはじめとする各社のワークステーションに採用され、Unixはもとより、Windows NTも4.0まではMIPSプラットフォームをサポートしていた。

 '92年、同社はSGIに買収されるが、'98年に独立(完全に切り離されたのは2000年)し、組み込みプロセッサ向けのMIPS32/MIPS64アーキテチャ、及びこれらプロセッサコアのIPベンダとして再スタート(もともとファブレスベンダーで、チップはNECや東芝などが製造していたが)。有名なところでは、ソニーや任天堂(※1)の家庭用ゲーム機、Windows CEベースのPDAなどにMIPS技術が応用されている。

※1 PlayStationファミリーとNINTEDO64がMIPSベースで、任天堂のゲームキューブはPowerPCベース。

※2 Windows CEは、MIPSのほかに、SH、ARMプラットフォームをサポートしている(プラットホーム間でのバイナリレベルの互換性はない)。

(2) 1秒間に実行することのできる命令数。

 プロセッサの性能を表す指標に使われる単位で、「Millions of Instructions Per Second」の略。1MIPSは、100万命令/秒。同様のものには、浮動小数点演算の実行回数を示すFLOPS(Floating-point Operations Per Second~フロップス)がある。

□MIPS Technologies, Inc.
http://www.mips.com/


4月9日

■■ BHA、mp3PROに対応した音楽CDライティングソフト「B's Menuet」
   ~再生/編集/エンコード/CD書き込み/ラベル作成機能などを統合
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0409/bha.htm

●mp3PRO
   エムピースリープロ

 Thomson multimediaが2001年に発表した、MP3の拡張フォーマット。

 MP3(MPEG Audio Layer 3)は、MPEG-1、MPEG-2のオーディオ部分に使われている圧縮符号化技術の1つである。MPEG Audioの圧縮は、主に聴覚的に影響の少ない成分を切り捨てることによって圧縮効率を上げており、比較的単純なロジックからより高度ものまで3つの実装レベル(Layer1/2/3)を規定。中でも最も高度で高音質が得られるコーデックが、MP3でおなじみのLayer3である。

 高音質とはいえ、もともとが比較的高ビットレートの下で放送品質のクオリティ(※1)実現を目指した技術であるため、実用的な圧縮率(放送品質を維持する上での)はMP3でも約1/11の128kbps程度。さらに圧縮率を上げてしまうと(ビットレートを下げると)、倍音成分を含む高域側が大幅にカットされ特性が劣化してしまう。

 mp3PROは、この失われてしまう高域成分を、Coding TechnologiesのSBR(SpectralBand Replication)技術を使って復元することにより、特性の劣化を抑えつつ、既存のコーデックをそのまま使った低ビットレート化を実現。半分のビットレートでも、従来並みの音質を再現できるとしている。同様の技術には、ケンウッドが開発(現在はケンウッドジオビットに移管)した「Supreme」がある。Supremeは、エンコード済みのデータから高域成分を推測して復元する再生専用の技術なのだが、SBRの方はエンコード時にも作用し、復元に必要なデータを生成。非常に高い精度で高域を復元する。

 mp3PROエンコーダは、エンコード時にMP3データとこのSBRデータをMPEGのビットストリームの中に格納。メインのコーデックは従来のMP3そのままなので、既存のプレーヤはこれまで通りに、ストリームの中のMP3データを再生できる。ただしこの場合の音質は、従来のMP3のままだ。SBRに対応したmp3PROプレーヤなら、SBRデータを使って広域成分を補い、高音質で再生することができる。

※1 CDは、人間の可聴帯域といわれる20KHzまでをカバーしており、無圧縮の時代にはこれを「CD品質」。若干高域が落ちたもの(15KHz程度まで)を「放送品質」といって区別していたことがある。現在、「CD並み」と評価されているものは、ことばの上では「CD品質」だが、内容は以前の放送品質にあたる。

□mp3PRO Zone
http://www.mp3prozone.com/
□Thomson multimedia
http://www.thomson-multimedia.com/
□Coding Technologies
http://www.codingtechnologies.com/
□mp3/mp3PRO Patent and Software Licensing Information
http://mp3licensing.com/


4月10日

■■ 本田雅一の週刊モバイル通信
   ナノテクが実現していく夢のモバイルデバイス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0410/mobile148.htm

●燃料電池(fuel cell)
   ねんりょうでんち

 水素と酸素を電気化学的に反応させ、電気を取り出す装置。

 化学的あるいは物理的エネルギーを電気エネルギーとして取り出す装置を電池といい、一般には化学エネルギーを使う化学電池と呼ばれるタイプが使われている(※1)

 従来の電池は、イオン化傾向(溶液中で陽イオンになりやすい度合い)の異なる2種類の金属を電解液に入れ、化学反応に伴うエネルギーを電気として取り出している。イオン化傾向の大きな金属(陰極)はイオン化して液中に溶けだし、残された電子によって-に帯電。両極を導線でつなぐと陽極から陰極に電子が移動し、陰極でイオンを還元。これが繰り返されて電流が流れ続けるというしくみである。

 一方の燃料電池は、水素と酸素を化合させることによって、電気エネルギーを取り出す。水素と酸素をまともに化合させると、すごい勢いで酸化が進んで爆発してしまうが(例えば混合気体に火をつけると一気に化合するので危険)、これを穏やかに進行させつつ、エネルギーを電気として取り出すのである。

 理科の実験に水の電気分解というのがあったと思う。少量の電解質を加えた水(※2)に2本の電極を入れて電気を流すと、両極からじわじわと泡が出てくるアレだ。電極に試験管を被せ、水上置換でガスを集めると、陰極側に水素、陽極側に酸素が2:1の量で溜まる。

 燃料電池は、これとまったく逆のプロセスを同じくらいのペースでじわじわ進行させる。例えば、今後の主流と見られている固体高分子型燃料電池(PEFC~Polymer Electrolyte Fuel Cell)の場合には、固体高分子膜と呼ばれる薄い膜を、白金などの触媒を含む微粒子のカーボン電極ではさんだ構造になっており、一方の電極に燃料の水素(純粋な水素を扱うのは難しいため、実際の燃料はメタノールなどの水素を多く含む化合物)、もう一方に酸素(実際には空気)を供給する。水素側を燃料極、酸素側を空気極といい、水素は燃料極の触媒作用によってイオン化され、高分子膜の中に浸透。残された電子で-に帯電する。両極を導線でつなぐと、燃料極から空気極に電子が移動して電気が流れ、空気極側では高分子膜中を移動した水素イオンと酸素が結びついて水が生成される(エネルギーの使われ方は異なるが、前述の爆発の場合にも結果として水が生成される)。

※1 光のエネルギーを使う太陽電池(光電池)などは、物理エネルギーを使う物理電池である。

※2 電解質は化学反応そのものには直接関与しないが、酸化還元を促進させるためののもので、純粋な真水では電気分解が起こらない。

[Text by 鈴木直美]

(2002年4月19日)


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