●CNRサウンドカードが流通開始
【写真1】今回試用したSC-CORE 6 DIGITAL(左)と、これまで筆者が常用してきたYMF744ベースのPCIサウンドカード(右)。カードが小型になっていることがわかる。また、CNRスロットはシャシーのブラケット固定部をPCIスロットと共有することになっているため、カードの部品面がPCIと反対になっていることがわかる |
初めて市場に出回ったCNR対応のサウンドカードは、Hercules(Guillemot)がインテグレータ向けに販売しているもの。2個のAC97 CODECチップを搭載し、4ch分のアナログ出力が可能な「SC-RISER 6」、SC-RISER 6に光デジタル(S/PDIF)出力機能を加えた「SC-RISER 6 DIGITAL」、3個のAC97 CODECチップを搭載し6ch(5.1ch)分のアナログ出力と光デジタル出力をサポートした「SC-CORE 6 DIGITAL」の3種類がラインナップされている。
同社のホームページ( http://asia.hercules.com/products/products_sound.html )によると、SC-RISER 6シリーズはオンボードでAC97 CODECチップを搭載したマザーボードに加えることで、オンボードのステレオサウンド機能に4ch分のサウンドを追加し、6chのサラウンドを可能にするアップグレードカードとして、またSC-CORE 6 DIGITALは、オンボードでサウンド機能を持たないマザーボードに対して加えることで6chのオーディオ出力を可能にするカードとして、それぞれ位置付けられている。
今回試用したのは6ch分の出力を備えたSC-CORE 6 DIGITALだが、写真1を見ればわかる通り、3個並んだAC97 CODECチップが特徴の小ぶりなカードだ。ただ、PCIカードのような大きなチップ(サウンドコントローラ)がないとはいえ、C/Rのようなパッシブ素子を含め、意外と部品点数が多いようにも思う。カード左上(写真2)には、内部接続用のアナログ入力端子が3つ、ブラケット(写真3)には6ch分のアナログ出力端子(ラインレベル)とライン入力、マイク入力、そして光デジタル端子が用意されている。
【写真2】内部接続用のコネクタ。左から補助入力(AUX IN)、ビデオ入力(VIDEO IN)、CD入力(CD IN) | 【写真3】ブラケットに用意された各種コネクタ。左からセンター/サブウーファ、リア(ステレオ)、フロント(ステレオ)、ライン入力(ステレオ)、マイク入力、光デジタル出力 |
●IntelのPentium 4用マザーボード「D850GB」でテスト
【画面1】 |
ただWindows XPは、同じコントローラ(ICH2が内蔵するAC97コントローラ)を用いるせいか、このSC-CORE 6 DIGITALを、オンボードのAC97 CODECチップによるサウンド機能と区別することができないようだ。このため、Windows XPはOSに付属するオンボードサウンド用のドライバを自動的にロードした上で、デバイスに「!」をつけてしまい、サウンド機能を利用することができない(画面1)。
とはいえ、ここでカードに付属のドライバをインストールすれば、問題なくサウンド機能を利用することができた。ディテールに違いがあるものの、PCIのカードと使い勝手的に大きく異なることはない。
このドライバのインストールでわかったのは、SC-CORE 6 DIGITAL用のドライバは、WDMに準拠したもののみである、ということ。つまり本製品を使うには、OSがWDMをサポートしたWindows 98 SE以降でなければならない、ということになる(ホームページではWindows 98 SEは動作条件から外されている。また、Windows以外のOSのドライバはCDには含まれていない)。
【画面2】 |
【画面3】 |
サウンドハードウェアとしてのそのほかの機能は、なかなか充実している。ホームページによると、本カードは、SPX、EAX 1.0/2.0、A3D 1.0、Sensaura MacroFX/ZoomFXなど多彩な3Dサウンドに標準で対応する(これらについては、今回実際のゲームで効果を確認することはしていない)。
基本的なサウンド効果の設定は、Sensauraの技術を用いたもので、スピーカー設定、アコースティック環境の設定に加え、有償アップデートによる聴感モデルのカスタマイズやヘッドフォンによるバーチャルシアターサウンドも可能だ(画面4)。MIDIは、標準でヤマハの4MBのサウンドセットが添付されているが、DirectXのDLSに対応している(DLS-1/2)ため、これに対応したサウンドセットによるアップグレードもできる(画面5)。
【画面4】 | 【画面5】 |
●マザーボードを変えてみる。~CNRの動作の特徴をチェック
ところが、CNRスロットにSC-CORE 6 DIGITALを挿すと、BIOSセットアップでの選択肢は、Disabled、Onboard PCI、AC97の3つに増える。ここでAC97を選ぶと、結果は上のD850GBと同じ。ドライバをインストールすることで、きちんと動作した。
次に用いたのはPC133 SDRAMに対応したIntel 845チップセットベースのD845HV。Pentium 4に対応したmicroATXフォームファクタのこのマザーボードは、オンボードでAC97 CODEC(SC-CORE 6 DIGITALと同じAnalog DevicesのAD1886。ホームページなどの情報ではAD1885になっているが、筆者が用いたD845HVにはAD1886が使われている)を持つ。CNRスロットにSC-CORE 6 DIGITALを挿すとどうなるだろうか。
まずチェックしたのが、BIOSセットアップの設定項目。選択肢はEnabledとDisabledの2つのみだ。まずDisabledに設定してSC-CORE 6 DIGITALをCNRスロットに挿してみたが、何も起こらない。Windows XPはオンボードのAC97 CODECが切り離されたことは認識しているものの、新たに追加されたCNRカード上のAC97 CODECチップを検出していない。つまり、システムにはAC97 CODECが1つもない状態に認識されてしまった。どうやらDisabledの設定では、ICH2内蔵のAC97コントローラ自体が無効になってしまうようだ。
そこで今度はEnabledに設定して、SC-CORE 6 DIGITALをインストールしてみた。この状態ではオンボードに1つ、CNRカード上に3つ、計4つのAC97 CODECがシステム内に存在することになる。この構成の結果はD850GBの時と同じだ。
Windows XPはSC-CORE 6 DIGITALをオンボードのAC97 CODECと勘違いし、オンボードCODEC用のドライバをロードするものの動作せず、デバイスには「!」が付けられている。ここでSC-CORE 6 DIGITAL用のドライバをインストールすると、正常に動作した。サウンドが出力されるのはCNR側のみで、マザーボード上のコネクタからはサウンドは出力されていない。つまり、CNRスロットにSC-CORE 6 DIGITALを挿すことで、オンボードのAC97 CODECは自動的に無効になり、SC-CORE 6 DIGITALのみが有効になったのである。
●互換性維持が難しいCNR規格
もし、CNRの仕様がこれだけだったら、話はかなり単純だった(少なくともサウンド機能だけを考える限り)。しかし、冒頭で述べたように、CNRのオーディオカードには1個あるいは2個のCODECしか持たないものもある。これらのカードは、本来はオンボードでCODECチップがなければプライマリのCODECチップとして(つまりフロントのステレオスピーカーをサポートするCODECチップとして)動作し、オンボードにCODECチップがある場合はセカンダリ以降のCODECチップとして(リアのステレオスピーカー、センター/サブウーファをサポートしたCODECチップとして)動作しなければならない。もちろん、こうした動作を実現するには、単にCNRカードの設計だけでなく、マザーボードやBIOSもそのように設計されている必要がある。
ここで話をさらに難しくするのは、オンボードのCODECチップとCNRカード上のCODECチップをどう組み合わせても良い、とは限らないことだ。たとえば、オンボードのCODECがSigmaTel製で、CNRカードのCODECがAnalog Devices製の場合、実際に両者を組み合わせて使うことは難しい。それは、SigmaTelのサウンドドライバはAnalog DevicesのCODECをサポートしないだろうし、また逆も真であるからだ。1つのデバイス(1つのAC97コントローラ)に対応するドライバが1つである以上、上記のような組合せはハードウェア的にコンフィギュレーションすることが可能でも、両者を組み合わせて(2社のドライバを組み合わせて1つのデバイスをサポートするドライバとして)動作させることはできないのである。
こうした異なるメーカーのCODECの組合せという問題だけでなく、CNRにはほかにも互換性問題を生じさせる要因が潜んでいる。CNRはAC97リンク、USB、MII、SMBusなどのインターフェイスをまとめたものだが、たとえばここに提供されるUSBは1.1でも2.0でも構わない。USB 2.0の帯域を前提に製造したCNRカードが、USB 1.1しかサポートしていないマザーボード上のCNRスロットで、所定の動作を行なうことは難しい。こうした互換性の問題は、PCIスロットには存在しないこと(してはいけないこと)だが、CNRには存在する。そして、こうした互換性問題はCNRに本質的に存在するものとして認められている。だからこそ、CNRカードは、インテグレータ向けの製品(OEM製品)としてのみ販売され、ユーザーサポートが必要なパッケージ販売(エンドユーザー向けの販売)が行なわれない理由となっている。
●規格の外にも互換性問題が存在
Disableに設定すると、VT8233が内蔵するAC97コントローラ機能自体が無効になり、OSからオンボードのCODECもCNRカード上のCODECも見えなくなってしまうのはD845HVの時と同じだが、Autoに設定しておいても、Disableの時と同じ結果となってしまった。Autoの場合、CNRカードが挿されたことは認識し、オンボードのCODECを無効にするところまではちゃんと動作したようだが、CNRカードを有効にすることができなかったようだ。
SL-85DRVのマニュアルには、CNR関連の注意事項として、
1. モデムCNRカードをインストールする場合、プライマリとしてインストールすること
2. LAN CNRカードはサポートしていない
3. オーディオCNRカードをインストールし、かつオンボードAC97 CODECを有効にする場合、オーディオCNRカードをセカンダリの設定にすること
と書かれている。今回関連するのは3だが、CNRカードをジャンパスイッチなどで、プライマリやセカンダリの設定を行なうことはCNR System Design Guide Rev 1.1で禁じられており、BIOSなどによるPlug and Playが要求されている。このマニュアルの記述を見る限りでも、SL-85DRV側に全く問題なしということはないように思うが、原因がマザーボードか、チップセットの仕様か、BIOSなのか、まではわからない。ひょっとしたら、SC-CORE 6 DIGITALがIntel製サウスブリッジ固有の何らかの機能を利用している可能性だって考えられる。要は、こうした事態がCNRでは起こり得るし、起こり得ることが許容されてもいる、ということである。
●互換性以外にもCNR普及を妨げるさまざまな問題が……
CNRはOEMが安価かつ容易にシステム構成の変更が可能なよう考案されたもの。しかし、現時点ではPCIに比べ量産規模が小さく、コストメリットが価格に反映されていない。今回用いたSC-CORE 6 DIGITALの市販価格は3,980円だが、この価格でS/PDIFをサポートしたPCIのサウンドカードなどいくらでも買えるのが実情だ。安くないから使われない、使われないから安くならないの悪循環から抜け出せていないのである(コストと価格は別物であり、価格はあくまでも市場で決まるもの。コストと価格が直接連動しないのは、DRAMの例でも明らか)。
加えて、エンドユーザー向けのドライバサポートがないことも、不安な点として挙げられる。とりあえず添付のCD-ROMには、現行のバージョンのWDMに対応したドライバが収録されているが、将来アップグレードが必要になった時に、それが提供されるかどうかはわからない。少なくとも、現時点でHerculesのホームページでCNRに対応したドライバは提供されていないが、製品がインテグレータ向けとされていることを考えれば、これも無理からぬ話だろう。
それでも、将来的な方向性として、AC97コントローラとAC97 CODECによるサウンド機能の実現、オンボードサウンドに対するアップグレードとしてのCNRカードというアイディアは悪くないと思う。PCIにぶら下がっていたIDEインターフェイスがチップセットに内蔵されたように、サウンドコントローラもチップセットに内蔵されるのが自然な流れだ(すでにヤマハは新規のサウンドコントローラ開発を行なっていないようだ)。今は割高なCNRカードも、量産規模がPCIカードと同レベルになればCNRの方が安くなるだろうし、オンボードサウンドの普及でPCIベースのサウンドカードのニーズが減少していることも、相対的にCNRの価格競争力を高める可能性がある。ただ、現時点ではCNRのアイディアが開花する環境がまだ整っていないということだ。
□関連記事
【3月30日】【AKIBA】サウンド関連製品の新製品「Guillemot(Hercules) SC-CORE 6 DIGITAL」
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20020330/ni_i_sc.html
(2002年4月10日)
[Text by 元麻布春男]