元麻布春男の週刊PCホットライン

光デジタル端子付きCNRサウンドカードを試す
~CNR普及を妨げる問題点を考える


●CNRサウンドカードが流通開始

【写真1】今回試用したSC-CORE 6 DIGITAL(左)と、これまで筆者が常用してきたYMF744ベースのPCIサウンドカード(右)。カードが小型になっていることがわかる。また、CNRスロットはシャシーのブラケット固定部をPCIスロットと共有することになっているため、カードの部品面がPCIと反対になっていることがわかる
 3月下旬、秋葉原にCNR対応サウンドカードが登場した。CNRに対応したカードというと、一時期Intel製のEthernetカードやモデムカードが販売されていたことがあったが、サウンドカードはこれが初めてのこと。流通したのはごく少量だったようだが、入手できたので試用してみた。

 初めて市場に出回ったCNR対応のサウンドカードは、Hercules(Guillemot)がインテグレータ向けに販売しているもの。2個のAC97 CODECチップを搭載し、4ch分のアナログ出力が可能な「SC-RISER 6」、SC-RISER 6に光デジタル(S/PDIF)出力機能を加えた「SC-RISER 6 DIGITAL」、3個のAC97 CODECチップを搭載し6ch(5.1ch)分のアナログ出力と光デジタル出力をサポートした「SC-CORE 6 DIGITAL」の3種類がラインナップされている。

 同社のホームページ( http://asia.hercules.com/products/products_sound.html )によると、SC-RISER 6シリーズはオンボードでAC97 CODECチップを搭載したマザーボードに加えることで、オンボードのステレオサウンド機能に4ch分のサウンドを追加し、6chのサラウンドを可能にするアップグレードカードとして、またSC-CORE 6 DIGITALは、オンボードでサウンド機能を持たないマザーボードに対して加えることで6chのオーディオ出力を可能にするカードとして、それぞれ位置付けられている。

 今回試用したのは6ch分の出力を備えたSC-CORE 6 DIGITALだが、写真1を見ればわかる通り、3個並んだAC97 CODECチップが特徴の小ぶりなカードだ。ただ、PCIカードのような大きなチップ(サウンドコントローラ)がないとはいえ、C/Rのようなパッシブ素子を含め、意外と部品点数が多いようにも思う。カード左上(写真2)には、内部接続用のアナログ入力端子が3つ、ブラケット(写真3)には6ch分のアナログ出力端子(ラインレベル)とライン入力、マイク入力、そして光デジタル端子が用意されている。

【写真2】内部接続用のコネクタ。左から補助入力(AUX IN)、ビデオ入力(VIDEO IN)、CD入力(CD IN) 【写真3】ブラケットに用意された各種コネクタ。左からセンター/サブウーファ、リア(ステレオ)、フロント(ステレオ)、ライン入力(ステレオ)、マイク入力、光デジタル出力

 このSC-CORE 6 DIGITALの動作条件(SYSTEM REQUIREMENTS)はWeb上に掲載されているものの( http://asia.hercules.com/products/SC-Core_6_Digital/techspecs_SC-Core_6_Digital.html )、一貫性に欠けており(プロセッサにPentium III、Pentium 4、Celeronが挙げられているのに、ノースブリッジの項目にはIntel 815しか挙げられていない、など)、必ずしもどのようなシステムで動くのかハッキリしていない(基本的にこのシリーズの製品はインテグレータ向けの製品であるせいか、このあたりの情報提供にもあまり力が入っていないように見受けられる)。そこで、ここではホームページ上で推奨されている構成(Intel製のサウスブリッジチップとCNRスロットを持つマザーボードで、オーディオ出力機能を持たないもの)に極力沿ったマザーボードであるIntel D850GBでまずテストしてみた。


●IntelのPentium 4用マザーボード「D850GB」でテスト

 D850GBは、Socket 423対応の第1世代のPentium 4対応マザーボード。Rambus対応のIntel 850チップセットを搭載したもので、サウスブリッジはAC97コントローラ機能を内蔵するICH2だ。幸い、筆者の手元にあるものは、CNRスロットを持つものの、オンボードではサウンド機能を持たないため、SC-CORE 6 DIGITALの推奨構成といって良い(Socket 478世代のIntel純正マザーボードは、標準的な構成ではマザーボード上にAC97 CODECを持つものが多く、SC-CORE 6 DIGITALの推奨構成と若干異なる)。

【画面1】
 SC-CORE 6 DIGITALのD850GBに対するインストールは、ほとんどPCIのサウンドカードと同じだ。CNRスロットにカードを挿せば、OS(Windows XP)は自動的に追加されたハードウェアを認識する。

 ただWindows XPは、同じコントローラ(ICH2が内蔵するAC97コントローラ)を用いるせいか、このSC-CORE 6 DIGITALを、オンボードのAC97 CODECチップによるサウンド機能と区別することができないようだ。このため、Windows XPはOSに付属するオンボードサウンド用のドライバを自動的にロードした上で、デバイスに「!」をつけてしまい、サウンド機能を利用することができない(画面1)。

 とはいえ、ここでカードに付属のドライバをインストールすれば、問題なくサウンド機能を利用することができた。ディテールに違いがあるものの、PCIのカードと使い勝手的に大きく異なることはない。

 このドライバのインストールでわかったのは、SC-CORE 6 DIGITAL用のドライバは、WDMに準拠したもののみである、ということ。つまり本製品を使うには、OSがWDMをサポートしたWindows 98 SE以降でなければならない、ということになる(ホームページではWindows 98 SEは動作条件から外されている。また、Windows以外のOSのドライバはCDには含まれていない)。

【画面2】
 画面2はSC-CORE 6 DIGITALが備える光デジタル出力端子の、インストール後の初期状態における設定(デバイスドライバのプロパティ)だが、光デジタル出力はドルビーAC-3のリダイレクト出力専用になっており、WAVファイルや本カードにバンドルされるソフトウェアMIDIシンセサイザ(ヤマハXGLite)の出力はデジタル出力されない設定になっている。つまり、SC-CORE 6 DIGITALの光デジタル出力は、光デジタル出力をサポートしたDVDプレイヤー専用、とでもいうべき状態になっている(表記はAC-3となっているが、ドルビーAC-3だけでなくDTSのリダイレクト出力も可能)。これを変更するには、画面2のS/PDIF Data Typeの設定をAC-3 or PCM Audioに変更すればよい。こうすることで、WAVファイルやMIDIの出力も光デジタル出力端子から出力されるようになる。

【画面3】
 困るのは、本製品が備えるアナログ入力(ライン入力やビデオ入力など)をデジタル出力する機能が欠けていることだ(マイク入力を録音可能なことからいって、A/D変換機能そのものを持たないわけではない)。現在ではWAVファイルやMIDIに限らず、音楽CDもATAPIバス経由のデジタル再生が一般化しており、アナログ入力の必要性は低下している。とはいえ、TVチューナーカードなど、サウンドカードとアナログ接続しなければならないデバイスはまだ残っている。筆者のように、TVチューナーを利用し、しかもPCのサウンド出力を完全にデジタル出力しているユーザーは要注意と言えるだろう。ちなみに画面3は筆者が常用しているYMF744の出力設定画面だが、こちらにはアナログ入力も含めて、すべてをデジタル出力する、というオプションが用意されている。

 サウンドハードウェアとしてのそのほかの機能は、なかなか充実している。ホームページによると、本カードは、SPX、EAX 1.0/2.0、A3D 1.0、Sensaura MacroFX/ZoomFXなど多彩な3Dサウンドに標準で対応する(これらについては、今回実際のゲームで効果を確認することはしていない)。

 基本的なサウンド効果の設定は、Sensauraの技術を用いたもので、スピーカー設定、アコースティック環境の設定に加え、有償アップデートによる聴感モデルのカスタマイズやヘッドフォンによるバーチャルシアターサウンドも可能だ(画面4)。MIDIは、標準でヤマハの4MBのサウンドセットが添付されているが、DirectXのDLSに対応している(DLS-1/2)ため、これに対応したサウンドセットによるアップグレードもできる(画面5)。

【画面4】 【画面5】


●マザーボードを変えてみる。~CNRの動作の特徴をチェック

 さて、D850GBでSC-CORE 6 DIGITALの動作を確認したところで、ほかの環境での動作チェックを行なってみよう。まず用意したマザーボードは、IntelのD815EEAだ。このPGA370対応のマザーボードは、D850GBと同じICH2を搭載しているが、オンボードでPCI接続のサウンドコントローラ(Creative Audio PCI)を持っている。BIOSセットアップのAudioの項目は、CNRスロットにカードを挿していない状態では、提供される選択肢はEnabledとDisabledの2つのみ。もちろんこれでAudio PCIの有効/無効を設定する。

 ところが、CNRスロットにSC-CORE 6 DIGITALを挿すと、BIOSセットアップでの選択肢は、Disabled、Onboard PCI、AC97の3つに増える。ここでAC97を選ぶと、結果は上のD850GBと同じ。ドライバをインストールすることで、きちんと動作した。

 次に用いたのはPC133 SDRAMに対応したIntel 845チップセットベースのD845HV。Pentium 4に対応したmicroATXフォームファクタのこのマザーボードは、オンボードでAC97 CODEC(SC-CORE 6 DIGITALと同じAnalog DevicesのAD1886。ホームページなどの情報ではAD1885になっているが、筆者が用いたD845HVにはAD1886が使われている)を持つ。CNRスロットにSC-CORE 6 DIGITALを挿すとどうなるだろうか。

 まずチェックしたのが、BIOSセットアップの設定項目。選択肢はEnabledとDisabledの2つのみだ。まずDisabledに設定してSC-CORE 6 DIGITALをCNRスロットに挿してみたが、何も起こらない。Windows XPはオンボードのAC97 CODECが切り離されたことは認識しているものの、新たに追加されたCNRカード上のAC97 CODECチップを検出していない。つまり、システムにはAC97 CODECが1つもない状態に認識されてしまった。どうやらDisabledの設定では、ICH2内蔵のAC97コントローラ自体が無効になってしまうようだ。

 そこで今度はEnabledに設定して、SC-CORE 6 DIGITALをインストールしてみた。この状態ではオンボードに1つ、CNRカード上に3つ、計4つのAC97 CODECがシステム内に存在することになる。この構成の結果はD850GBの時と同じだ。

 Windows XPはSC-CORE 6 DIGITALをオンボードのAC97 CODECと勘違いし、オンボードCODEC用のドライバをロードするものの動作せず、デバイスには「!」が付けられている。ここでSC-CORE 6 DIGITAL用のドライバをインストールすると、正常に動作した。サウンドが出力されるのはCNR側のみで、マザーボード上のコネクタからはサウンドは出力されていない。つまり、CNRスロットにSC-CORE 6 DIGITALを挿すことで、オンボードのAC97 CODECは自動的に無効になり、SC-CORE 6 DIGITALのみが有効になったのである。


●互換性維持が難しいCNR規格

 実は、こうした動作はCNRの規格に定められたもの。AC97の規格上、オーディオ/モデムのCODECは、最大でも3個しか内蔵することができない。CNRでCODECチップが追加された場合に、オンボードとCNRカード上のCODECがどのような構成にならなければならないか、ということがCNRの規格で定められている。たとえば、3個のCODECチップを搭載したCNRカードの場合、必ずCNRカードが有効になり、オンボードのAC97 CODECは自動的に無効になる。CNRの規格に準拠する以上、マザーボード上のハードウェアデザイン、CNRカード、システムBIOSのすべてが、そのように作られていなければならないのである。

 もし、CNRの仕様がこれだけだったら、話はかなり単純だった(少なくともサウンド機能だけを考える限り)。しかし、冒頭で述べたように、CNRのオーディオカードには1個あるいは2個のCODECしか持たないものもある。これらのカードは、本来はオンボードでCODECチップがなければプライマリのCODECチップとして(つまりフロントのステレオスピーカーをサポートするCODECチップとして)動作し、オンボードにCODECチップがある場合はセカンダリ以降のCODECチップとして(リアのステレオスピーカー、センター/サブウーファをサポートしたCODECチップとして)動作しなければならない。もちろん、こうした動作を実現するには、単にCNRカードの設計だけでなく、マザーボードやBIOSもそのように設計されている必要がある。

 ここで話をさらに難しくするのは、オンボードのCODECチップとCNRカード上のCODECチップをどう組み合わせても良い、とは限らないことだ。たとえば、オンボードのCODECがSigmaTel製で、CNRカードのCODECがAnalog Devices製の場合、実際に両者を組み合わせて使うことは難しい。それは、SigmaTelのサウンドドライバはAnalog DevicesのCODECをサポートしないだろうし、また逆も真であるからだ。1つのデバイス(1つのAC97コントローラ)に対応するドライバが1つである以上、上記のような組合せはハードウェア的にコンフィギュレーションすることが可能でも、両者を組み合わせて(2社のドライバを組み合わせて1つのデバイスをサポートするドライバとして)動作させることはできないのである。

 こうした異なるメーカーのCODECの組合せという問題だけでなく、CNRにはほかにも互換性問題を生じさせる要因が潜んでいる。CNRはAC97リンク、USB、MII、SMBusなどのインターフェイスをまとめたものだが、たとえばここに提供されるUSBは1.1でも2.0でも構わない。USB 2.0の帯域を前提に製造したCNRカードが、USB 1.1しかサポートしていないマザーボード上のCNRスロットで、所定の動作を行なうことは難しい。こうした互換性の問題は、PCIスロットには存在しないこと(してはいけないこと)だが、CNRには存在する。そして、こうした互換性問題はCNRに本質的に存在するものとして認められている。だからこそ、CNRカードは、インテグレータ向けの製品(OEM製品)としてのみ販売され、ユーザーサポートが必要なパッケージ販売(エンドユーザー向けの販売)が行なわれない理由となっている。


●規格の外にも互換性問題が存在

 だが、実際のCNRの非互換性は、規格が認めるもの以上に存在するようだ。今回、Herculesが動作を保証していないサードパーティ製チップセット(サウスブリッジ)を用いたマザーボードとして、SoltekのSL-85DRVにもSC-CORE 6 DIGITALをインストールしてみた。Pentium 4とDDR SDRAMをサポートしたSL-85DRVは、VIAのP4X266チップセットベースのマザーボードで、サウスブリッジにはAC97コントローラ機能を持つVT8233を採用している。オンボードにはVIA製のAC97 CODECチップ(VT1611A)があり、BIOSセットアップでAC97オーディオについて、AutoとDisableの2通りの設定が可能となっている。

 Disableに設定すると、VT8233が内蔵するAC97コントローラ機能自体が無効になり、OSからオンボードのCODECもCNRカード上のCODECも見えなくなってしまうのはD845HVの時と同じだが、Autoに設定しておいても、Disableの時と同じ結果となってしまった。Autoの場合、CNRカードが挿されたことは認識し、オンボードのCODECを無効にするところまではちゃんと動作したようだが、CNRカードを有効にすることができなかったようだ。

 SL-85DRVのマニュアルには、CNR関連の注意事項として、

1. モデムCNRカードをインストールする場合、プライマリとしてインストールすること
2. LAN CNRカードはサポートしていない
3. オーディオCNRカードをインストールし、かつオンボードAC97 CODECを有効にする場合、オーディオCNRカードをセカンダリの設定にすること

と書かれている。今回関連するのは3だが、CNRカードをジャンパスイッチなどで、プライマリやセカンダリの設定を行なうことはCNR System Design Guide Rev 1.1で禁じられており、BIOSなどによるPlug and Playが要求されている。このマニュアルの記述を見る限りでも、SL-85DRV側に全く問題なしということはないように思うが、原因がマザーボードか、チップセットの仕様か、BIOSなのか、まではわからない。ひょっとしたら、SC-CORE 6 DIGITALがIntel製サウスブリッジ固有の何らかの機能を利用している可能性だって考えられる。要は、こうした事態がCNRでは起こり得るし、起こり得ることが許容されてもいる、ということである。


●互換性以外にもCNR普及を妨げるさまざまな問題が……

 実際には、今回のような例外を除き、基本的にCNRカードがエンドユーザー向けに市販されることはないハズだ。したがって、ユーザーがCNRの互換性問題に頭を悩ませる心配はほとんどない。また、仮に市販されたとしても、現時点ではほとんどメリットがない。

 CNRはOEMが安価かつ容易にシステム構成の変更が可能なよう考案されたもの。しかし、現時点ではPCIに比べ量産規模が小さく、コストメリットが価格に反映されていない。今回用いたSC-CORE 6 DIGITALの市販価格は3,980円だが、この価格でS/PDIFをサポートしたPCIのサウンドカードなどいくらでも買えるのが実情だ。安くないから使われない、使われないから安くならないの悪循環から抜け出せていないのである(コストと価格は別物であり、価格はあくまでも市場で決まるもの。コストと価格が直接連動しないのは、DRAMの例でも明らか)。

 加えて、エンドユーザー向けのドライバサポートがないことも、不安な点として挙げられる。とりあえず添付のCD-ROMには、現行のバージョンのWDMに対応したドライバが収録されているが、将来アップグレードが必要になった時に、それが提供されるかどうかはわからない。少なくとも、現時点でHerculesのホームページでCNRに対応したドライバは提供されていないが、製品がインテグレータ向けとされていることを考えれば、これも無理からぬ話だろう。

 それでも、将来的な方向性として、AC97コントローラとAC97 CODECによるサウンド機能の実現、オンボードサウンドに対するアップグレードとしてのCNRカードというアイディアは悪くないと思う。PCIにぶら下がっていたIDEインターフェイスがチップセットに内蔵されたように、サウンドコントローラもチップセットに内蔵されるのが自然な流れだ(すでにヤマハは新規のサウンドコントローラ開発を行なっていないようだ)。今は割高なCNRカードも、量産規模がPCIカードと同レベルになればCNRの方が安くなるだろうし、オンボードサウンドの普及でPCIベースのサウンドカードのニーズが減少していることも、相対的にCNRの価格競争力を高める可能性がある。ただ、現時点ではCNRのアイディアが開花する環境がまだ整っていないということだ。

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【3月30日】【AKIBA】サウンド関連製品の新製品「Guillemot(Hercules) SC-CORE 6 DIGITAL」
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20020330/ni_i_sc.html

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(2002年4月10日)

[Text by 元麻布春男]


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