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Blu-ray DiscがDVDフォーラム外から立ち上がった理由を考える


●Blu-ray Disc発表の驚き

Blu-ray Discロゴ

 少し前のニュースになるが、2月19日、日立製作所、LG電子、松下電器、パイオニア、フィリップス、サムスン電子、シャープ、ソニー、トムソン・マルチメディアの9社は、波長405nmの青紫色レーザーを使ったビデオレコーダー向けの大容量光ディスクについて「Blu-ray Disc」という統一規格を策定することで合意したと発表した。ちょうどこの直後にIDFが開かれたりした関係で、この話題について触れる機会を逸してしまっていたが、忘れないうちに取り上げておきたいと思う。

 このニュースが発表された時、誰しも驚いたのは、発表メンバーの中に現在のDVD規格の取りまとめ役をつとめた東芝の名前がなかったことだろう。実際には、上記9社はみなDVDフォーラムのメンバーでありながら、Blu-ray DiscはDVDフォーラムの新しい規格として出てきたわけではない。Blu-ray Discは敢えてDVDフォーラムとは無縁のところから出てきたものであり、だからこそDVDフォーラムの取りまとめ役である東芝は、Blu-ray Discの発表メンバーに名を連ねることができなかったのではなかろうか。

 どうしてBlu-ray DiscはDVDフォーラムとは別のところから登場してきたのか。それは、DVDが規格としては、失敗に終わったからだと筆者は考えている。ただし、断っておきたいのは、規格としての成功/失敗と、商品の成功/失敗、あるいはフォーマットの成功/失敗は、必ずしも一致しない、ということだ。すでにDVD-Videoはビデオソフトを流通させるパッケージとしてVHSを上回っている。DVD-Videoというフォーマットの良し悪しとは関係なく、DVD-Videoというフォーマットは商業的な成功(それも大成功)を収めているわけだ。


●DVDは規格としては失敗だった?

Blu-ray Disc

 筆者が規格としてのDVDが失敗したと考える最大の理由は、フォーマットの乱立にある。よく知られている通りDVD、特に記録型のDVDは、DVD-R、DVD-RW、DVD-RAM、DVD+R、DVD+RWと、多くの規格が乱立している。しかし、乱立しているのは、こうした物理フォーマットばかりではない。たとえばDVD-RAMには、利用可能な論理フォーマット(ファイルシステム)として、FAT32、UDF 1.02、UDF 1.5、UDF 2.0、UDF 2.01、UDF/ISOブリッジなど、多数が存在する。さらに、アプリケーション(ビデオ)を記録するフォーマットとしても、DVD-Video互換のビデオフォーマット、リアルタイム録画用のVRフォーマットの2種類(MPEG-2を単にファイルとして書き出すことまで含めれば3種類)が存在する。

 物理フォーマット、論理フォーマット、アプリケーションフォーマットの3つについて、すべての順列組合せが実際に使われているわけではないが、こんなに多くのフォーマットは不要なハズだ。もちろん、複数のフォーマットが乱立していても、ユーザーが自分のニーズを把握し、フォーマットの中から取捨選択を行なえば問題なく使えるわけだが、こうした取捨選択をユーザーに強いるということ自体、規格としてのDVDが破綻していることを示唆するものだろう。Blu-ray DiscがDVDフォーラムと別のところから登場したのは、失敗したDVD規格という過去と、一線を画す必要があったのだと思う。そして、DVDの幹事会社である東芝は、これを絶対認められなかったのではなかろうか。

 冒頭に述べたBlu-ray Discのプレスリリースには、現行のDVDとの互換性には全く触れられていない。逆に言えば、DVDとの互換性に触れたくないのだと考えられる。だからといって、Blu-ray DiscがDVDとの互換性を全く持たない、ということが考えにくい。おそらくBlu-ray Discのプレーヤーのほとんどは、DVD-Videoの再生機能を備えるハズだ。しかし、では記録型DVDとの互換性はどうか、となると、途端に話がややこしくなってくる。上記のように、記録型DVDは規格が乱立しており、すべてをサポートすることが難しい(あるいは著しいコスト高につながる)状況にあるからだ。

 もし、現行の記録型DVDとの互換性について、統一を行なおうとすると、まとまるものもまとまらなくなってくる。特に標準化をDVDフォーラムで行なうとなると、現在のDVDフォーラム規格に対する継承性の問題が避けて通れなくなる。これでは、たとえばDVDフォーラム外の規格であるDVD+RWを推すメーカーは話に乗れない。この部分に関しては、各メーカーそれぞれの判断に委ねることにしたい、というのがBlu-ray Discの本音なのではないだろうか。つまり、PanasonicブランドのBlu-ray DiscレコーダーはDVD-RAMとの互換性を標榜する可能性が高く、同様にパイオニアブランドのBlu-ray DiscレコーダーはDVD-RWとの互換性、フィリップスのレコーダーはDVD+RWとの互換性をそれぞれうたう可能性が高い、ということである。



●Blu-ray Discへの要望

 Blu-ray Discの登場がもっと先なら、記録型DVDのデファクトスタンダードが市場で決する可能性もある。そうであれば、Blu-ray Discはデファクトスタンダードとの互換性をうたえば済む。しかし、早ければ2003年にも、というタイミングではそれは無理。むしろ、市場で決着がつき、明らかな敗者が生まれる前に移行した方が、次世代の規格を統一しやすい、ということがあるかもしれない。

 さて、筆者もBlu-ray Discが次世代の真の統一規格になって欲しいと願っているが、それにはDVDの失敗から学ぶ必要がある。果たしてBlu-ray DiscはDVDの失敗から十分に学んでいるだろうか? まだ、Blu-ray Discに関してはアプリケーションフォーマットなど、不明なことも多いが、1ユーザーである筆者の希望を述べてみたい。

 結果として規格の乱立を招いたDVDの失敗は、再生専用のプレスメディアの規格を先行させたことだと筆者は思っている。DVD-Video(が採用するビデオフォーマット)は、ちょっとしたゲームが作れるほど複雑なオーサリング機能など、非常に凝った機能をサポートしている。その充実振りは、時に再生互換性の問題さえ生むほどだ。こうした複雑な機能を持つフォーマットは、リアルタイム録画には実装が難しく、それが簡易版とでも言うべきVRフォーマットを生む原因になったように思う。その結果、レコーダーでは、先行した再生専用機では再生できないフォーマット(VRフォーマット)が広く使われることになってしまった。ユーザーとしては、動画を記録するのに、似て非なる規格は2つも要らない。

 もしハリウッドなどコンテンツベンダが、著作権保護の観点から、再生専用フォーマットと記録型のフォーマットの分離を要求するのであれば、完全に分離して記録型フォーマットは使い勝手を重視して欲しい。現行のDVD-RやDVD-RWではつきもののファイナライズ処理は、技術的必然性はあるにせよ、ユーザーには必然性が全くない。こうした処理は取り除かれるべきだ。

 Blu-ray Discの場合、とりあえず記録型のフォーマットが先行することになっている。より広い市場を持つであろう再生専用機が後から出てくるわけで、先行した記録型メディアの再生ができない、という事態は回避できそうだ(逆に、後発の再生専用フォーマットを、先行したレコーダーで再生できない、という問題が生じる可能性はあるが、再生専用機の方が安価であることを考えれば、この方がユーザーの負担は小さい)。互換性のため、1GBまでダミーデータを書く、といった処理も不要になるだろう。


●容量的には不満が残る

 Blu-ray DiscがDVDの失敗から学んでいない、と思えるのは記録容量だ。Blu-ray Discは当初23.3GBから27GBの容量を持つ片面1層ディスクがリリースされることになっている(その後片面2層で50GB、あるいは片面1層で30GBを目標に大容量化を図る予定)。27GBという容量は、大きいように思えるが、プレスリリースによるとデジタルハイビジョン映像の場合、「記録時間は2時間以上」に過ぎない。これでは現在ユーザーがD-VHSに記録している映像を、そのまま(画質を落とさずに)Blu-ray Discに置き換えることは不可能だ。現在の片面4.7GBの記録型DVDの場合、最高画質モード(もちろんNTSC)での記録時間は約1時間に過ぎない。それよりはマシではあるものの、果たして十分な記録時間と言えるだろうか。逆に、27GBのBlu-ray Discの登場で、NTSCレベルでのビデオ録画に、ようやく十分なメディア(現在のDVDの最高画質で約6時間)が出てきたようにさえ思う。努力目標といわず、片面2層の50GBメディアを具体的な目標として開発すると同時に、このメディアを前提にした互換性を最初から確保して欲しい。

 DVDが登場する前、ひょっとするとDVDはビデオ用途よりもデータ用途(コンピュータ用途)が主流になるかもしれない、と言われていた。しかし、フタを開けてみると、DVDの用途は圧倒的にビデオ録画(民生機、コンピュータを問わず)が占めているように思える。これには急速なハードディスクの大容量化(によるDVD容量の相対的な減少)という要因もあるだろうが、一番大きな原因は規格を統一できなかったことである。Blu-ray Discの場合、現時点でコンピュータ用途には全く触れられていないが、順当に統一規格が成立すれば、コンピュータでも利用したい、という声が必ず出てくるに違いない。願わくば、Blu-ray Discはそういう声がどんどん出るようなものになって欲しいものだ。

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【2月19日】次世代光ディスク「Blu-ray Disc」に関する発表会を開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0219/dvd.htm

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(2002年4月5日)

[Text by 元麻布春男]


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