元麻布春男の週刊PCホットライン

ポルシェデザインの17インチLCD「Samsung SyncMaster 171P」を試す


●現実的な選択肢となってきた17インチ液晶

 今から約1年前、筆者の手元に2台の液晶ディスプレイが届けられた。2台ともPC Watch編集部から借用したSXGA(1,280×1,024ドット)解像度のもの。1台は18.1インチのソニーSDM-M81、もう1台が16インチのEIZO(ナナオ)のFlexScan L461である。それから1年、一時は液晶パネルの価格が大幅に値下がりし(特に14~15インチクラス)、15インチでXGA解像度の液晶ディスプレイが3万円台で購入可能なほどだった。それに比べれば、1万円ほど値上がりしたといはいえ、液晶ディスプレイが手ごろな価格で購入可能なことに変わりはない。

SyncMaster 171P

 SXGA解像度の液晶ディスプレイも、17インチサイズのものが現れ、7万円~9万円前後で購入可能となった。昨年は、16インチと18インチが多く、あまり目立たなかったサイズだ。今回試用したSamsungのSyncMaster 171P(直販価格89,800円)も、このジャンルに該当する液晶ディスプレイである。

 実はSyncMasterブランドのディスプレイは、筆者にとって懐かしさを感じるものだ。筆者が最初にPC/AT互換機を個人輸入した15年前、PCのディスプレイ標準はデジタルRGBのEGAから、アナログRGBのVGAに移り変わろうという時代だった。'87年にPS/2の上位モデルに採用されてデビューしたVGAだが、当時非常に高価で(IBM純正のVGAカードは、ISAカードで1,000ドル以上したと記憶する)、とても筆者の手の届くものではなかった(すでに米国では1,000ドルあれば、PCを購入可能だった)。が、アナログRGBの時代に備え複数の解像度に対応可能なマルチシンク型にしようと、ディスプレイだけは、ちょっと贅沢をした。その時選んだのが、15インチCRTのSyncMasterである。このSyncMasterは、EGA、VGA、そしてAXのJEGA(EGAをハードウェア的に拡張し、日本語対応した日本独自のグラフィックス規格)と、活躍してくれた。

 それから15年、ディスプレイがすべてマルチシンク型に切り替わったとはいえ、いまだにVGAと、VGAがもたらしたシュリンク15ピンD-SubコネクタのアナログRGBインターフェイスが生き残っているのは驚異だ。グラフィックス標準としてVGAを置き換える予定のUGAは、まだ紙の上の存在でしかないし、DVIもとても普及したとは言えない段階である。だが、15年ぶりにやってきたSyncMasterは、DVIとアナログRGBの両方に対応したディスプレイ。DVIが将来の標準になると信じ、先行投資するのも良いかもしれない。PCと違って、ディスプレイは長くつきあうことになるデバイスであるからだ。アナログ入力1系統のみの液晶ディスプレイと、本機のようなアナログ/デジタル2系統入力のディスプレイの間の価格差は、5,000円~1万円というところ。この程度の差なら先行投資しても良いように思う。


●デザイン性重視の「171P」と実用性重視の「171T」

アイ・オー・データの17インチ液晶「LCD-AD17CES」(左)と。同クラスながら171Pは大きい 背面から、ケーブルは専用 縦位置にも回転できる

 さて、箱からSyncMaster 171Pを取り出してまず思ったのは、意外と大きい、ということだ。最近の液晶ディスプレイのデザインの主流は、液晶パネル回りのフレーム(よく「額縁」と称される)を小さくする、ということ。これは省スペース性はもちろんのこと、複数台設置したマルチディスプレイ環境を構築する際にも、非表示部分を小さく出来て都合が良いから。Samsung製のディスプレイでも、18インチタイプのSyncMaster 181Tなどは、このデザイントレンドに沿ったものになっている。しかし、このSyncMaster 171Pは、また別のデザインポリシーに基づいている。この171Pのデザインを手がけたのは、F.A. Porscheである。

 写真を見れば分かる通り、171Pのデザインは、「モダン」とか「クール」といった形容詞が似合いそうなもの。丸い電源スイッチ以外の、メニュー等にアクセスするスイッチにもタッチタイプが採用されており、全体のデザインとマッチする。ただ、単体で見たり、ショールームのような人工的な環境では映えるとしても、現実のオフィスや自宅に持ち込んで、周囲と調和がとれるかとなると、わが国の環境では厳しいかもしれない。また、フレームはメタリックシルバー塗装の樹脂製だが、金属製ならもっとデザインがひきたったのではないか、とも思う(Aura Designのアンプか何かと並べたい感じになったのではないか)。

171Pと同等の液晶パネルを備えた「SyncMaster 171T」

 難しいのは、本機のリリース後に、ほぼ同じ仕様の液晶パネルを用いた通常デザイン? の液晶ディスプレイとして、SyncMaster 171T(直販価格79,800円)が発表されたこと。後述するように、ある意味本機をしのぐ機能性を備えながら、1万円安いことを考えると一般的なオフィス向けには171Tかなぁ、という気がする。SyncMaster 171Pはデザインにこだわりがあり、なおかつ自分の環境とデザイン的な調和を図れる自信のあるユーザー向きかと言えるもしれない。

 SyncMaster 171Pのもう1つの特徴は、2系統ある入力用のケーブル(シュリンク15ピンD-SubおよびDVI-D)が、スタンド部から直接出ていること。電源もACアダプタ方式である。これに対して1万円安い171Tは、ケーブルが取り外し式(アナログケーブルとDVI-Dケーブルの両方が標準添付)で、電源内蔵となっている。また、171Pがアームに対応しないのに対し、171TはVESAアームにも対応する。デザイン性はともかく、機能性だけを考えれば、171Tの方が完成度が高い。なお、いずれのディスプレイも、付属のスタンドはディスプレイを縦横に回転できるタイプ。ディスプレイの回転に合わせて画面表示を回転させるピボットソフトウェア(Windows専用)も添付されている。回転できないより、回転できた方が便利だし、Webページの閲覧時もスクロールの回数が減るのは事実だが、15インチ/XGA解像度の時ほど切実な必要性は感じなかった(ディスプレイパネルを回転させるため、スタンドが大きくなっているのも事実だろうが)。


●表示性能は極めて良好

171P前面に配置されたタッチパネル

 さて、実際の表示だが、パネルの生産でも最大手に数えられるSamsungのハイエンドモデルだけに、非常に良好な印象を受けた。輝度250cd/平方メートル、コントラスト比500:1、視野角が水平170度、垂直170度、応答速度25msというパネルのスペックはダテではない。アクションゲームのような、高い書き換え速度を必要とするものでも、ほとんど問題を感じなかった。もちろん、フォトレタッチや動画の編集といった、極めて高い色再現性が要求される用途には、まだ厳しい面もあると思うが、それは本製品の問題というより、液晶ディスプレイ全体にいえることであり、このSyncMaster 171Pが極めて優秀なディスプレイであることは間違いない。少なくとも表示品質において、一般的なオフィスや家庭環境で不満を感じることはほとんどないハズだ。

 もう1つ、実際に使ってみてとまどったのは、タッチ式のスイッチの使い勝手だ。機械式スイッチのような押下感がない上、入力信号に同期するまで無反応であるため、アレッと思ってしまう。慣れの問題ではあるのだが、こうした点を考えても、操作に通常の機械式スイッチを用いた171Tの方がなじみやすい。やはり一般的には、非常にソツのない秀才タイプの次男(171T)を選んだ方が、芸術家肌の長男(本機)より無難、ということなのだろうか。

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(2002年4月16日)

[Text by 元麻布春男]


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