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PlayStation 3のグラフィックスチップはこんな構成になる


●4パターンが考えられるグラフィックスパイプ

 姿が見え始めた、第3世代PlayStation分散環境。では、そのうち、実際に家庭に入ってくるボックス“PlayStation 3”のハードウェアとソフトウェアはどうなるのだろう。ここにはいくつかの疑問がある。今回は、まず、グラフィックスがどんなアーキテクチャになるのかを推測してみた。

 まずアーキテクチャ全体で見ると、グラフィックスはどこで処理するか、つまりどんなチップ構成になるかが問題となる。ごくベーシックなことを言えば、PlayStation 3のCPUであるCellを複数個並べて、ジオメトリからピクセルレンダリングまで全部をやらせてしまうこともできる。あるいは、PlayStation 2と同様にCPU側でジオメトリをやらせて、ピクセル処理は別チップにする可能性もある。組み合わせとしては次の4つが考えられる。

 ジオメトリレンダリングビデオメモリ
ACellCellCell内蔵
BCellレンダリングチップレンダリングチップ内蔵
Cジオメトリチップレンダリングチップレンダリングチップ内蔵
Dジオメトリ&レンダリングチップ外付け

 このうちAのパターンはおそらくない。まず、下流のピクセルエンジンとして、Cellとは別な特定ハードウェアがあるのはかなり確実だと思われる。これはなぜかというと、最新フィーチャのピクセルプロセッシングは、ハードワイヤードで処理する方がシリコンコスト的に有利だからだ。PlayStation 2でも、CPU&ジオメトリの「Emotion Engine(EE)」と、ピクセル側の「Graphics Synthesizer(GS)」は分離されていた。実際に、SCEIが2005年に向けたGS3を開発していると語る人もいる。


●対ライバルを考えるとグラフィックス性能を上げる必要が

 では、PlayStation 3では、上流のジオメトリ側はどうなるのか。これはCPU「Cell」が、高い浮動小数点演算性能を持っているならそこで実行もできる。つまり、Bパターンはありうる。実際にそう考えている可能性もあるとは思う。しかし、複数の理由から別チップになっている、あるいはそう検討している可能性があると考えている。その理由のひとつは、Xboxの衝撃だ。

 Xboxがあれだけのグラフィックスパワー&生産性で登場したことは、SCEIにとって衝撃だったはずだ。NVIDIAのチップの開発期間は、おそらくSCEIの半分程度。しかも、CPUはできあいを買い叩いて、お手軽に(ただしトータルコストは高いが)あれだけのパワーのマシンを作ってしまった。DirectXのおかげで比較的生産性も高い。

 SCEIとしては当然、Xbox 2、あるいは同様のPC系テクノロジを使った新参アーキテクチャを警戒しなければならない。そのため、当初の計画よりグラフィックスに対する要求水準が上がっている可能性がある。そして、フルプログラマブルなCellより、パフォーマンスが必要な部分は専用ハード化している現在のグラフィックスチップの方がシリコンコストに対するパフォーマンスでは有利となるし、ソフトウェアの生産性も高くしやすい。前回のコラムで、ジオメトリもCellではないだろうと推測したのはこうした理由のためだ。

 ただし、その場合はパーティショニングの問題が生じる。つまり、Cパターンになると、ジオメトリとレンダリングの2チップができてしまう。ところが、Dパターンでジオメトリとレンダリングを一緒にすると、ビデオメモリは現在のGSのように混載にできない(チップサイズの問題)。このビデオメモリについては、また別な見方もある。


●2005年のメモリの配置は大きな問題

 2005~2010年のディスプレイ環境を考えると、ゲーム機もHDTV対応は必須となる。それも、“HDTVに表示できる”機能ではなく、“HDTVで3Dグラフィックスができる”機能が求められている。これは、イコール、相当な量のグラフィックスメモリが必要であることを意味している。つまり、フレームバッファがHDTVに十分な量があればいいのではなく、テクスチャバッファなどそのほかのバッファを含めてトータルな量が問題となる。最低限でPlayStation 2の4倍(16MB)だが、テクスチャを展開したり、5年間のCGの進歩を含めて考えれば、64MB程度は欲しいだろう。

 今のPlayStation 2アーキテクチャは、ビデオメモリの少なさ(4MB)とメモリの配置によってテクスチャバッファリングが最大の弱点になっている。それは、SCEIも当然意識しているはずで、ビデオメモリについて慎重に検討しているはずだ。しかしやっかいなのは、半導体技術の進歩を計算に入れると、ちょうどHDTVをサポートできるメモリアーキテクチャが微妙なラインにあることだ。

 つまり、現在のPlayStation 2のグラフィックスチップ「Graphics Synthesizer(GS)」のようなメモリ混載か、それともメモリ外付けかの選択だ。混載だとエンベデッドDRAM技術で32MB(256Mbit)~64MB(512Mbit)程度ならグラフィックスチップに載せられそうだが、それでも足りないとまた言われるかもしれない。

 その一方で、外付けDRAMの場合、容量は十分(128~256MB)になるが、2チップ構成でどれだけのメモリ帯域が確保できるかに疑問がある。2005年の時点なら、DDR IIのポイントツーポイントでピン当たり800MT/secが達成できるはずで、x32の2個構成なら6.4GB/secを達成できる。これは、x32のDDR 4個構成のXboxのメモリ帯域と同じだ。問題は、6.4GB/secで足りるかどうか。もちろん4個構成にすれば帯域は2倍に上がるが、DRAMコストも2倍になってしまう。DRAMコストは、ゲーム機のライフサイクルの最後の方で大きく響いてくるので、SCEIとしては増やしたくないはずだ。

 また、Dパターンを取る場合には、それまで開発していたチップをご破算にして、新しくジオメトリ+レンダリングのデザインを設計しないとならない。時間的にはかなり厳しい。もっとも、これにはウルトラCの解決策がある。それは、Xboxと同様に、グラフィックスアーキテクチャを買ってしまうことだ。グラフィックスチップベンダーの開発サイクルは早いので、PlayStation 3用に今からカスタマイズしてもらうにしても間に合う。


●プログラマブル化へ向かうグラフィックス

 以上は、完全に推測に過ぎないし、実際にはSCEI内部でまだ複数のプランがあって決まっていない可能性すらある。だが、ジオメトリがCellでないとしても、PlayStation 3のグラフィックスが、オーソドックスなハードワイヤード型のグラフィックスチップになる可能性は低い。

 というのは、3D CGでは、3Dツール側のテクノロジの流れがShader Centric(シェーダ中心指向)へ向かっているからだ。MicrosoftのDirectX 8~9は、まさにこの流れに対応して、シェーダをプログラマブルなシェーダハードウェアにインプリメントできるようにしようとしている。シェーダセントリック化がCG業界の流れである以上、ゲーム機ハードウェアも影響を受ける。その点では、CellやEEは、確かにそうした流れには適したハードだ。フルプログラマブルなエンジンなら、いろいろなアルゴリズムのシェーダを載せられる。

 それから、第3世代PlayStation分散環境がシミュレーション性能を飛躍的に強化するなら、それに伴ったグラフィックスフィーチャが必要となる。例えば、物理的に正しいゲーム世界を作ろうとしようとすると、3Dグラフィックスも物理的に正しいレンダリングか、物理的に正しいように見せかけたレンダリングが欲しくなる。ちゃんとセルフシャドウイングしないとダメだとか、単純なバンプマッピングで見かけ上の形状を作りだすだけだとダメといったケースだ。もちろん、キャラクタも能面マッピングのままじゃあダメで、フェイシャルアニメーションは必須となる。

 つまり、第3世代PlayStationの焦点は、シミュレーションにあるが、グラフィックスもやはり最先端性能&フィーチャが必要だということだ。

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【3月28日】【海外】PlayStation 3はどんなゲームを実現するのか--それはワールドシミュレーション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0328/kaigai01.htm


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(2002年3月28日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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