●PlayStation 3の3つの素朴な疑問
PlayStation 3と第3世代PlayStation分散コンピューティング環境には、まだかなり謎が多い。例えば、素朴な疑問としては次のようなポイントが浮かび上がってくる。
・PlayStation 2との互換性はどうなるのか
・PlayStation 3はブロードバンドネットワークが必須になるのか?
・ゲームは全てオンラインゲームになるのか?
今回は、これらの疑問について考えてみたい。
まず、SCEIの戦略を考えた場合、PlayStation 3では、PlayStation 2との互換性は必ず取らなければならない。そして、互換性を取る方法はハードウェアベースになるに違いない。
互換性の取り方だが、PlayStation 3はPlayStation 2のCPU「Emotion Engine(EE)」とグラフィックスチップ「Graphics Synthesizer(GS)」に相当するチップまたは機能を内蔵してしまうと思われる。ちょうど今のPlayStation 2がPlayStationのチップを搭載して、ハードウェアレベルでの互換を実現しているのと同じように。SCEIには、そうしなければならない理由がある。
それは、PlayStation 2では各ゲームデベロッパが直接ハードにアクセスするコードを書いているからだ。標準ライブラリがあって、ハードアクセスはダメというDreamcastのようなプラットフォームと違い、PlayStation 2には当初標準ライブラリがなかった。そこで、デベロッパは電話帳のような分量のマニュアルを見ながら、それぞれ独自のライブラリを作り、直接ハードを叩いた。
そのため、PlayStation 3でPlayStation 2との互換を取るためには、APIレベルで互換性を保つのではなく、ソフトウェア側からはまるごと互換ハードに見える環境を用意しないとならない。これはソフトウェアで実現しようとするとかなりやっかいで、完全に近い互換性を保ちにくい。そのため、PlayStation 3では、間違いなくPlayStation 2ハードを搭載するに違いないと思われる。
半導体的に見ても、EEとGSの搭載は可能だ。0.25μmの初代EEとGSは、どちらも200平方mmを超える大型チップ(Willametteクラス)だったが、0.10μmプロセスで製造すれば2つ合わせても100平方mm以下の小さなチップになる(論理的には約1/8だが、ボンディングパッド面積の制約があるのでロジック回路のシュリンク分より大きなチップになる)。
ちなみに、EE2とGS2を搭載するPlayStation 2.5のプランがないと思われるのは、この互換性のためでもある。もし、PlayStation 2.5を出してしまうと、PlayStation 3にEE2とGS2を搭載しないとならなくなる。ところがEE2とGS2だと、0.10μm時のダイは2倍以上になってしまうと推定される。これはコストがかかりすぎる。つまり、ハード互換のためにも、5年というインターバルはちょうどいいというわけだ。
●互換性の維持はゲーム業界のパターンを崩すため
では、なぜSCEIはそこまでして、互換性を重視するのか。それはゲーム業界のパターンを崩し、支配力を継続するためだ。これまで、ゲーム業界は、ハードの世代の変わり目で覇権が覆ることがありえた。例えば、前々世代では任天堂が覇権を握っていたのが、PlayStationに崩されてしまった。つまり、世代の変わり目ではリセットスイッチが押されてゼロから始まるので、どれだけインストールドベースを握っていても次の世代の覇権を採れるとは限らなかったのだ。これは、いったん覇権を握ると、ネットワーク効果で支配を継続できるPCの世界とは大きく違う。
ではなぜPCと違うのか。それは、PCでは同じアーキテクチャの上でハード/ソフトが継続的に切れ目なく進化して行くのに対して、ゲーム機では5年に1度ハードの互換性が切れてしまうからだ。だったら、ゲーム機もソフト資産を継続できるようにすれば、PCと同じ継続性を手に入れられる=覇権を継続できる、というのが、SCEIの基本戦略だと思われる。
もっとも、ゲームの場合、PCソフトと違って、古い飽きられたゲームには価値がないというのがこれまでだった。しかし、ゲーム市場がこれだけ広がり、ユーザー層も広がると、ソフト資産にはそれなりに価値が出てくる。
ちなみに、MicrosoftもおそらくXbox2では現在のXboxとの互換を取ると思われる。互換によるソフト継承は、PC市場でのMicrosoft成功の鍵だったからだ。そして、Xboxの場合は、デベロッパはAPIレベルでアクセスしているため、ソフトウェアレベルでの互換を取りやすい。ソフトウェアレイヤで解決するというMicrosoftの流儀から考えても、Xbox2はXboxとソフト互換のボックスになるだろう。これは、EEやGSのような盲腸チップを搭載しないで済むという意味で、Xboxにとって有利になる。
●ブロードバンドはアーキテクチャを考えると必須
PlayStation 3はブロードバンドネットワークが必須になるのか? この答えは、おそらくイエスでもあるしノーでもある。
第3世代PlayStation分散環境の目的は、ネットワーク経由でほかのCellリソースに、コンピュテーションやデータを分散させることにある。それによって、単体のPlayStation 3ボックスでは実現不可能なパフォーマンスやデータを利用できるようになる。これがストーリーだ。
ところが、ブロードバンドネットワークにつながっていないPlayStation 3は、Cell分散コンピューティング環境を利用できない。そうすると、SCEIが第3世代PlayStationで目指しているレベルのコンピューティングは実現できないことになる。
もう少し細かく見て行こう。まず、PlayStation 3のOSとその上のゲームタイトルやアプリケーションは、必ず高度にスレッド化されたものになると想像される。現在の想定では、PlayStation 3ボックスに搭載されているセル自体も、複数のプロセッサを搭載したチップを、単数あるいは複数個搭載したものになっていると見られる。そのため、ローカルの処理だけでも、マルチスレッドの並列処理となる。そして、おそらく、PlayStation 3のOSとネットワーク側のミドルウエアは、バックエンドの分散環境が利用できる時は、そちらへも処理をどんどん割り振ると思われる。
ちなみに、以前、このコラムで第3世代PlayStation分散環境でのOSはLinuxになりそうだと推測したが、こうやって考えると、それは間違いだったかもしれない。Cellのフィーチャを活かした、まったく新規のOSの可能性もある。確実なのは、Linuxが、現行ハード(PlayStation 2やサーバー)で、グリッドコンピューティングのプロトコルをテスト&研究するためのものであることだ。
●おそらく段階的アプローチも視野に入れた開発を
話を戻すと、第3世代PlayStationがこうしたアーキテクチャだと想定した場合、理想的なのは、アプリケーション側は分散化を意識しないでも、自動的に分散化がされる仕組みを提供することだ。もしそうなっているなら、アプリケーションはスレッド化する以外は、分散化を意識した作りにしなくてもいい。だとしたら、原理的にはPlayStation 3がネットワークにつながっていてもいなくても、アプリケーションを走らせることはできる。つまり、必要なプログラムとデータが全てディスクの中にあれば、PlayStation 3単体で走らせることが原理上はできる。
ただし、そのアプリケーションが、単体PlayStation 3以上のプロセッシングパワーを要求したり、あるいは、ネットワーク上にあるオブジェクトを利用したりする場合は話が違ってくる。その場合は、第3世代PlayStation分散環境がなければ、利用できないか、内容が限られたものになってしまう可能性がある。このあたりは、Microsoftの.NETのストーリと非常に似ている点がある。Microsoftは、.NETでアプリケーションはWebサービスへと進化すると言ったが、同じことが第3世代PlayStation分散環境用アプリケーションでも起こる。
とはいえ、マーケティングを考えたらブロードバンドネットワークがないと使えないマシンというのは、2005年でもさすがに売りにくい。日本はどうにかなったとしても、米国でそんなマシンを売れるとは思えない。いずれにせよ、ワールドワイドでは、ブロードバンドを前提には売れない国が存在する可能性がある。そうすると、下手をするとブロードバンドネットを必須としない、ほかのゲーム機アーキテクチャに市場をさらわれる可能性もある。
そうしたことを考えると、最初からネットワーク必須としてPlayStation 3ボックスを売ることができるとはあまり思えない。単体でも十分なパフォーマンスを用意しておき、段階的にネットワークに移行させるのが現実的な解になる。というか、そうした段階的アプローチも可能なアーキテクチャにしておいて、今後2年、ブロードバンドネットワークの普及状況を眺めながらどうやってローンチするかを考えるのではないだろうか。
□関連記事
【3月28日】【海外】PlayStation 3のグラフィックスチップはこんな構成になる
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0328/kaigai02.htm
【3月27日】【海外】なぜPlayStation 3は2003年ではなく2005年なのか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0327/kaigai01.htm
(2002年4月4日)
[Reported by 後藤 弘茂]