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先週の段階で、ソニーが人気商品のバイオWをマイナーチェンジの形を取りながら、事実上の値上げに踏み切ったのに続き、アップルコンピュータも同様に、人気を博している新iMacで2万円の価格引き上げを発表。価格上昇の兆候が早くも出ている。まずは人気機種からの価格改訂だが、5月にも発売される夏モデルでは軒並み価格が上昇することは間違いなさそうだ。そして、この動きは来年まで続くことになる。
なぜ、ここにきてパソコンの価格が上昇しているのか、そして、この傾向はなぜ長期化するのか。それには5つの理由がある。
●パーツ価格の上昇
新iMac |
今回のバイオWおよびiMacの値上げの直接的な理由は、このパーツ価格の上昇だと言っていい。Apple Computerのスティーブ・ジョブズCEOは、Macworld Expo Tokyo 2002の基調講演で、「悪いニュースがある」として、iMacの値上げを発表したが、その理由を次のように説明した。
「1月に新iMacを発売した時に比べて、コンポーネントの価格が上昇している。フラットパネルスクリーンは25%もコストが上がり、メモリのコストは200%上昇した。コストは3倍になっている。いま、パソコンメーカー各社は選択を迫られている。それは、現行製品をプロダクトラインから外すか、それとも、値上げをするか。あるいは、メモリの容量を小さくするなどして機能を落とすか。新iMacに対する評価は、コンフィギュレーションが最高であるというものだ。その結果、アップルコンピュータは値上げを選択した。」
米国では100ドルの上昇であるのに対して、日本では2万円の価格引き上げというのは、いくら円安だといっても、便乗値上げの感がある点はいただけないが、それだけパーツ価格の値上がりが大きくのしかかっているのだ。
バイオW |
ソニーによると、もともと20万円を切る価格ならば購入したいというユーザーが多かったという発売前のアンケート結果があり、今回の価格引き上げもその範囲内のものといえる。しかし、以前は16万円前後で売られていたものが2万円高になるという点を果たしてユーザーはどう判断するのか。バイオシリーズとしては、単一機種で過去最高の販売台数を目指すとしていた戦略的製品だけに、人気がこれを払拭するのか、それとも値上げの影響を受けるのかが気になるところだ。
いずれにしろパーツ価格の高騰は、パソコン価格の上昇に大きくのしかかってくる。なかでも、メモリの価格高騰は当面続きそうであり、液晶ディスプレイの方が早めに安定してくるだろう、というのが業界筋の見方である。
●円安の影響
第2の理由は、円安の影響だ。
構成パーツの多くを海外製に頼っているパソコンの場合、130円台で推移している現在の円安状況は、パーツ価格の高騰として日本市場に影響を及ぼす。もちろん、水平分業の仕組みを採用し、海外生産を推進している国産メーカーにとっては、決していい状況とはいえない。
これは国産パソコンメーカーに留まらず、外資系企業でも同様だ。アップルコンピュータも、今年1月時点でのiMacの価格設定に頭を悩ませた。同社の製品はシンガポールから輸入する形をとっているため、円安は日本における価格設定に大きく影響する。戦略的な価格設定をしたかったアップルコンピュータの日本法人にとって、「円安の影響で、当初考えていたよりも、利益率は厳しいものになった」(原田永幸社長)というなかでの価格設定だった。
一方で、円安の影響を受けた顕著な例として、こんなことも起きている。インテルは先頃、サーバー向けのプロセッサXeon MPを発表したが、日本における価格が、IA-64のItaniumよりも高く設定されるという異常な事態となった。
米国では、当然のことながら、Itaniumの価格の方が高いのだが、これも昨今の円安を反映した結果、今よりも円が高い時に価格が設定されたItaniumの方が、日本では安くなるという逆転現象が起こったのである。
●パソコンリサイクル費用とOEM Office XPの値上げ
第3、第4の理由は、パソコンの価格上昇が長期化する要因といえるものだ。
ひとつは、すでに報道されているが、個人向けパソコンのリサイクル費用の負担が上乗せされる点だ。実際に施行されるのは、来年4月以降の公算が強いが、パソコン購入時点でデスクトップパソコンで4,500~5,500円、ノートパソコンで2,000~2,500円の費用がかかる。さらに、現在所有しているパソコンを廃棄しようとすれば、施行前のパソコンに関しては廃棄時徴収となることから同様の費用が上乗せされることになる。
デスクトップパソコンからデスクトップパソコンへ買い換えると、1万円前後のリサイクル費用が徴収されることになるというわけだ。もし、仮に来年4月時点で、メモリ価格が安定し、パソコン本体の価格が下落傾向に転じたとしても、ユーザー負担は、リサイクル費用の分だけ自動的に上乗せされることになる。
そして、もうひとつは、マイクロソフトが今年4月以降、一部メーカーに対してOffice XPのOEM料金を引き上げる計画があることだ。これは、パソコン本体にプレインストールして出荷されるOffice XPに対して、パソコンメーカーがマイクロソフトに支払う費用が上昇するということであり、一般のOffice XPパッケージの値上げではない。
すでに主要パソコンメーカーには交渉に入っているようで、当然、この価格引き上げは、パソコン本体の価格上昇という形で転嫁されるのは間違いない。
メーカーのなかには、これを嫌って、夏モデル以降でOffice XPの搭載を見送るかどうかを検討している例もあるというが、もし搭載されないモデルが増加したとしても、これだけOfficeが普及している状況を考えると、後からユーザー自身がOffice XPを別途購入せざるを得ないということになるのは明白だ。いずれにしろ、ユーザー側に負担が及ぶのは間違いない。価格上昇の傾向が長期化するというのも、こうした要因が見逃せないのだ。
●低価格パソコンから高機能パソコンへとシフト
そして最後は、メーカー戦略として、価格上昇の方向を模索している点だ。
市場状況を分析してみると、昨年と今年の大きな差として、10万円以下の低価格パソコンが売れなくなっていることがわかる。一部調査会社などの調べによると、昨年前半には、ソーテックなどの躍進で、販売台数の20%を超えていた実売価格10万円以下のパソコンが、今年は一転して5%前後まで激減している。それに変わって、20万円以上のパソコンの販売比率が拡大しているのだ。
先頃、業界団体である電子情報技術産業協会が発表した四半期ごとの平均単価推移でも、昨年10~12月は、2000年7~9月から5四半期連続で続いた下落傾向から、価格上昇へと転じたのである。
その理由としてあげられるのが、パソコン普及率の上昇だ。パソコンの家庭への普及率は50%を突破。関係者の間では、「現段階では、少なく見積もっても57~58%程度に達しているはず」との見方が強い。
つまり、この数字は、新規購入よりも、買い換えが中心になってきていることを裏付けるものになっている。その結果、「とりあえず最初は、安いパソコンを購入しておこう」という初心者が減り、自らがやりたいことを実現するために、高機能パソコンを選択する例が相次いでいるのだ。
同協会でも、「DVDなどを搭載したオーディオ・ビジュアルパソコンや、Pentium 4を搭載したパソコンが主流になっている」と分析する。
こうした市場環境を見据えて、パソコンメーカー各社も、製品投入のメインストリームを、低価格パソコンから高機能パソコンへとシフトしようとしており、これもパソコンの高価格化に影響するというわけだ。
半年や1年という長期的な視点で購入を検討している人は、慌てずに、まず、春からの値上げの状況と、5月以降に各社から投入される夏モデルの価格と仕様をじっくり分析することをお勧めしたい。
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【3月19日】ソニー、バイオWをマイナーチェンジし、実質値上げ
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(2002年3月26日)
[Reported by 大河原 克行]