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●販売時のリサイクル費用徴収に抵抗するメーカー
「この記事は、誤報ですから」--産業構造審議会での家庭向けパソコンリサイクル法の討議の席上、大手パソコンメーカーの幹部は、日本経済新聞の記事を掲げて訴えた。
日本経済新聞は、12日13日付けの朝刊で、家庭向けパソコンのリサイクル費用は、販売時点での徴収になる公算が強いと報道した。
パソコンメーカーは、パソコン廃棄時点でのリサイクル費用の徴収が最適だとして、販売店側などが推進する販売時徴収の制度に強く反対しており、産構審においても、それを巡って熾烈な議論が交わされていた。
今年7月から有識者および業界関係者、関連省庁の担当者を交えて開かれていた環境庁、産業経済省の合同作業部会では、11月14日の会合終了時点で、座長を務める永田勝也氏(早稲田大学教授)が、販売時徴収の手法で取りまとめる指針を示し、これに反対するメーカー各社を押し切る姿勢を見せていたという経緯があった。つまり、11月14日に続く、12月13日の会合は、メーカー側に残された極めて重要な反論のタイミングであったというわけだ。だが、会合当日の日経朝刊の記事掲載である。まるで、決定事項であるかのような記事内容に、メーカー幹部が声を荒げるのも無理はなかったというわけだ。
家庭向けパソコンのリサイクル費用の徴収方法で、意見が分かれているのは、それぞれの方法にメリットとデメリットがあるからだ。
販売時点でパソコンの本体価格に、リサイクル費用を事前に上乗せする販売時徴収の最大のメリットは、不法投棄を減らす効果が見込まれる点だ。事前にリサイクル費用を徴収しておけば、パソコンが不要になった場合、その制度を利用することで、ユーザーは新たな出費がなくリサイクルが可能になる。だが、これが廃棄時徴収だと、わざわざリサイクル費用を払ってまで廃棄するということを嫌がるユーザーが、不法にパソコンを投棄する可能性があるというのだ。すでに、今年4月から開始されている企業向けパソコンのリサイクル費用の徴収方法は、廃棄時徴収を採用しているが、これは企業倫理の観点から、不法投棄が少ないという前提にたって行なわれたものだといえる。
だが、販売時徴収を採用した場合、これまでリサイクル費用を徴収していない現行パソコンについては、廃棄時点での徴収を一部採用する公算が強くなり制度が混乱すること、販売時の徴収しておいたリサイクル費用と廃棄時のリサイクルにかかわる費用との間に格差がでる可能性があること、販売時に徴収した費用をプールしておく仕組みが必要となること、また、パソコンの販売価格にリサイクル費用が上乗せされることで、やや割高感がでる恐れがあり、現在の停滞するパソコン需要にはいい影響を与えないといった声もあがっている。
細かい話だが、個人で購入したパソコンに販売時点でリサイクル費用を支払ったが、その後、個人で独立して個人用パソコンをそのまま仕事用のパソコンに転用した場合、廃棄時時点では、企業用のパソコンとして再度、リサイクル費用が徴収されることになるのか、といった指摘も出ている。
また、新たなパソコンを購入する度に、中古販売店にパソコンを売っているというユーザー(とくにパワーユーザーに多いだろうが)は、自らはリサイクルをしないのに、リサイクル費用を次から次へと支払う必要が出てくるということになる。
いずれにしろ、制度が複雑化するというデメリットは見逃せない。
一方、廃棄時徴収においては、実際にリサイクルの仕組みを運用するメーカーにとっては、制度が簡単であることのメリットは大きい。企業向けパソコンや家電4品目(テレビ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機)が同様に廃棄時徴収の制度をとっていることでも、同じ仕組みを応用できることは大きな利点だろう。
だが、販売店側では、これが値引きの対象となり、余計な価格競争を生みだし、事実上、販売店の持ち出しになっているという実態が、すでに家電4品目で見られており、パソコンでは、なんとしてでも、これを避けたいという思惑がある。
メーカー、販売店は、それぞれの立場によって、大きく意見が異なっているのだ。
●制度全体の見直しを求めるNEBA
もともと、家庭向けパソコンのリサイクル法の施行は、企業向けパソコン同様、今年4月から開始される方向で議論がすすめられていた。だが、意見の調整がつかず、企業向けパソコンだけが先行し、家庭向けパソコンは、「2002年度中の実施を予定する」という形で、先送りにされてきた経緯がある。
当初は、暗黙の了解として、2002年4月の実施が、基本的な目標時期とされていたようだが、関係者の間では、「このままでは来年4月の実施は難しい」との声が大勢を占めている。2002年度中の実施予定であることから、2003年3月末までに実施に移されればいいのだが、意見調整に手間取れば、実施時期はずれ込むばかりだ。
大手家電量販店が加盟している日本電気大型店協会(NEBA)では、基本的に販売時徴収の立場をとりながらも、「このままでは、基本的な話し合いがなされないまま試行に移されることになる。もう一度、グランドデザインを考え直すべき」として、抜本的な意見調整が必要だとしている。
NEBAによると、今回のリサイクル法に関しては、リユースという観点での議論が行われておらず、すべてのパソコンがリサイクルに回されることになる。ユーザーは使えるパソコンまで費用を払ってリサイクルしなければならず、環境保護という面でも問題がある点を指摘。さらに、パソコン本体だけの議論ですすめられており、パソコン周辺機器などを含めた回収といった点での話し合いが進められていないことを問題視している。
NEBAの岡嶋昇一会長(=エイデン社長)は、「パソコンのリサイクル制度が決定した後に、かならずプリンタはどうするのか、ゲーム専用機はどうなるのか、といった議論が出てくることになる。その際に、また関係者が集まって議論して、個別に費用の徴収方法を決定するというのはあまりにも非効率的。大局的な視点で議論すべき」だとコメントする。
現在、NEBAでは産業構造審議会には参加せず、外野から意見を述べる立場に留まっている。
「家電4品目のリサイクルに関しても、我々の意見が尊重されずに実施に移されたが、決して効果をあげているとはいえない。5年後には、制度の見直しを検討するということだが、これも前倒しで実施するように働きかけている段階。NEBAの立場は、廃棄時あるいは販売時という議論ではなく、考え方そのものを見直すというものだ。仮に、産業構造審議会に参加すると、我々が現在の話し合いの制度を肯定したことにもつながり、単に販売時か徴収時かという議論になってしまう恐れがある」(岡嶋会長)からだという。
こうした有力業界団体の意見がありながら、販売時徴収の方向で、強行的に意見をとりまとめる方針を出すことには、疑問を感じざるを得ない。
●デスクトップPCで5千円前後が上乗せ!?
ところで、販売時にしろ、廃棄時にしろ、来年4月以降のどこかのタイミンクで、パソコンの価格に費用が上乗せさせることになるのは明らかだ。
果たして、いくらぐらいの上乗せになるのだろうか。
環境省、経済産業省の試算によると、デスクトップパソコンでは4,500~5,000円程度、ノートパソコンでは2,000~2,500円程度がリサイクル費用として徴収されることになりそうだ。デスクトップパソコンでは256MBメモリの実売価格に換算されるほどの金額だといえる。
少なくとも、来年3月までは、リサイクル費用を支払わずに購入できるが、現在の方向性で進められると、4月以降、パソコン購入時点で数千円を上乗せして支払うことになる。
つまり、パソコンを購入する際には、本体価格+消費税+販売店独自の長期(5年間)保守費用(これはユーザーによるが)+リサイクル費用という計算が必要になってくる。これらの付け足し金額は、意外と馬鹿にならない額に膨れ上がる。
実は、業界内では中古パソコンが脚光を浴びるとの見方も出ている。販売時徴収ならば、中古パソコンはリサイクル費用徴収の対象にはならないし、廃棄時徴収が採用されたとしても、リサイクル費用を支払うよりも、中古パソコン店に持ち込んだ方が得策という動きが出てくるからだ。リサイクル法の施行は、中古パソコン店にとっては思わぬ追い風になるともいえそうだ。
(2001年12月17日)
[Reported by 大河原 克行]