●発売後いきなりトップシェアの快挙
2月9日に発売となったソニーのバイオWが好調な売れ行きを見せている。
「単一機種としては、バイオシリーズ最高の出荷台数を目指す」(ソニー)という意欲的な製品だけに、その達成に向けては、順調な滑り出しだといえるだろう。
主要パソコンショップの売れ筋データを集計するBCN総研の調べによると、発売直後の2002年2月4日~2月10日の集計では、発売日の9日および10日のわずか2日間の集計分しか反映されていないにも関わらず、デスクトップ分野で1位と4位を獲得、さらに、翌週の2002年2月11日~2月17日では、1位と2位を獲得、しかも3位以下を大きく引き離す格好となった。2002年2月11日~2月17日の集計では、ホワイトとブラックをあわせて、17%近いシェアを獲得しており、パソコンショップにおける強力な春の目玉商品となっている。
【デスクトップの製品別上位5製品】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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※BCN総研調べ |
従来からのバイオユーザーに加えて、初心者層の購入も目立っており、初期出荷段階から、幅広いユーザー層に受け入れられているのが特徴だ。
斬新なデザインを採用したパソコンの場合、人気商品になるか、否かの明暗がはっきり分かれる。
その最大の成功例は初代iMacだといえ、苦戦を強いられた例としては、NECのsimplem、富士通のプリシェなどがある。
今回のバイオWは、初代iMacほどのブームではないものの、一躍トップシェアに躍り出る出足の良さに加えて、マニアだけに留まらない幅広い顧客層に受け入れられており、現時点では、明らかに成功の部類に入るといっていいだろう。
●デスクトップではないバイオW
ソニーによるとバイオWは、デスクトップパソコンという分類でありなからも、「デスクトップパソコンではない」と、その製品コンセプトを位置づける。
デスクトップパソコンの代わりにソニーが用意した言葉は、「AVクライアント」である。
AVクライアントの機能としては、テレビの受信、HDD録画などが挙げられ、これにインターネット機能、パソコン機能、ワイヤレス機能が融合し、これまでのAV機器では実現できなかった使い方が可能になるという。
詳細な機能については、他の記事でも詳しく紹介されているのでそちらに譲るが、これらの機能を実現したことで、「ITとAVの融合」を掲げてきたソニーがようやく到達した、ひとつの完成型がバイオWといえる。
もちろん、将来のホームサーバーに対するAVクライアントというスタンスを表した言葉でもあるのは間違いない。
●AVクライアントとしての3つのコンセプト
メーカー各社に新製品のコンセプトを聞くと、実は、後づけで用意したものが意外にも多い。
だが、ソニーの幹部に話を聞くと、バイオWは、明らかに「AVクライアント」という、パソコンとは別のものを作ろうという点に、開発当初からこだわっているのがわかる。
それは、次の3つの点からもわかる。
1つは、今回の製品で「バイオカラー」を採用しなかったことだ。
「バイオカラー」と呼ばれる薄紫色のカラーは、コンシューマパソコンでトップシェアを獲得しているソニーのバイオシリーズで採用されている象徴的な色である。周辺機器メーカーがバイオカラーを採用した製品を続々と投入しているのを見ても、いまや、コンシューマパソコンの代表的カラーにまで成長しているといっていいだろう。
だが、ソニーのバイオデスクトップコンピュータカンパニーの石田佳久プレジデントによると、「バイオWには、最初からバイオカラーを採用するつもりはなかった」と明言する。
これは明らかに、これまでのバイオシリーズとは一線を画す製品を狙ったことの裏づけともいえる。
石田プレジデントも、「バイオカラーを採用しないことで、新しいイメージを作りたかった」と言及する。
バイオW ホワイト PCV-W101/W |
バイオW ブラック PCV-W101/B |
「事前に、いくつかの色に対して調査を行なったが、結局はホワイトとブラックに人気が2分した。しかも、ホワイトは若い人たちに、ブラックは高年齢層に人気が高かった」という。
パソコンであれば、まずはこの手の商品の飛びつく若者をターゲットとするだろう。だが、高年齢層に受けのいいカラーを同時に用意するところにも、AVクライアントとして高年齢ユーザーを獲得したいという読みがあったといえる。
2つめは、価格設定である。
ソニーの発表ではオープン価格だが、すでに実売価格では15万円台となっている。これも事前のアンケートで興味深い結果が出ている。
ソニーによると、「いくらならば、この製品を買うか」というマーケティングを発売前に行なっているが、その結果最も多かったのが、「20万円を切れば買う」という回答だったという。
だが、ソニーは、それを遙かに下回る15万円台という価格づけを行なった。
この背景には、パソコンならばいくらで買うか、というものではなく、AVクライアントならばいくらで購入するか、という発想がある。それが、15万円台という結論だった。
その価格を実現するために、部品価格が安いデスクトップパソコンの部品を多用し、コストを抑えることに成功した。
そして、それらの部品を使いながらも、ソニーが得意とするデザイン性によって、省スペース化を実現、設置スペースでは、ノートパソコンよりもバイオWの方がコンパクトであるという点を見ても、それがわかる。
昨年10月の段階で、同カンパニーは、安藤国威社長のもとに、バイオWのモックアップを持ち込んだ。それを見た安藤社長は、ひとこと「すばらしい」と答えたという。バイオ事業の生みの親である安藤社長のお墨付きを得た「AVクライアント」のデザインなのである。
3つめには、液晶ディスプレイに代表される「パソコンを意識しない」製品づくりである。
バイオWでは、15.3インチのワイド型の液晶ディスプレイを搭載しているが、これは、ノートパソコンやデスクトップパソコンで採用されている15インチの通常サイズの液晶ディスプレイに比較すると、縦方向が短くなる。そうした意味では、明らかにマイナス要素となるものだ。
ノートパソコンやデスクトップパソコンという競合のなかで製品化するのであれば、開発段階において、マイナス要素となる15.3インチのワイド液晶の搭載は見送ったに違いない。
だが、AVクライアントとして、テレビを閲覧しながらインターネットを見たりといった使い方をするのであれば、ワイド液晶の方が利便性が高いとの判断が強く働いたのだ。パソコンとしての画面サイズにはこだわらない考え方が、15.3インチのワイド液晶には込められているのである。
ここにも他社にはない「AVクライアント」の発想があるといえるだろう。
●次の一手はホームサーバーとの組み合わせ
好調なAVクライアントの出足は、次の開発戦略を加速させることになるだろう。その次の戦略というのがホームサーバーということになる。
ソニーは、バイオMXやRXの進化系としてホームサーバーを開発していく考えであり、すでにその製品化に向けた開発が始まっている。
「問題はいかにコンセプトを認知してもらえるか」だと石田プレジデントは話す。石田プレジデントは、米国でのバイオ事業の経験から、認知度を高めることの重要性を強く感じているという。
日本においては、バイオそのもののブランドイメージは定着しているが、これをホームサーバーと、AVクライアントという形のコンセプトに置き換えるのは、ソニーにとって、これからの重要な仕事だ。
バイオWで新たなソニーの挑戦が始まったといえる。
□関連記事
【1月10日】ソニー、液晶とキーボード一体型の新デスクトップPC「バイオW」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0110/sony1.htm
【2月1日】【HotHot】ソニーから液晶一体型PC「バイオW」登場!
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0201/hotrev149.htm
(2002年2月25日)
[Reported by 大河原 克行]