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●年明けからシェアは3位に転落
NECのパソコン事業にまったく勢いが見られない。
シェアという側面で見るのならば、残念ながら、かつてのトップシェアメーカーとしての威厳はまったく消え失せたといってもいい。
全国の主要パソコンショップのPOSデータを直接集計しているBCN総研の調べによると、今年1月14日~20日の集計では、ソニー、富士通に続き、シェアは3位。1月21日~28日の集計でも、同様に3位。しかも、トップのソニーとの格差は約2倍。それぞれ1週間という、いわば瞬間風速の集計だということもできるが、それでも、これほどまでに、トップと差を広げられたNECを見たのは初めてのことだ。それだけをとっても、勢いのなさを感じざるをえない。
NECがシェアを落とした背景には、次期製品への切り替え時期に、人気機種を中心に品薄状態に陥ったことがあげられる。とくに、シェアを3位に落とした1月14日以降の週では、2位に浮上した富士通が新製品への切り替えがすすんだのに対して、NECは、新製品への切り替えが行なわれないまま、旧来製品の品薄が続くという状況になっていた。
もちろん、品薄と製品切り替え時期という、この現象だけを捉えれば、NECのシェア下落は一時的なものともいえる。だが、現在のNECが、あまりにもシェアへのこだわりを持たない事業推進体制をとっていることが気になる。一時的とはいえ、2週間続けて、3位に落ちたという事実に対しての危機感がないのだ。
NECは、昨年末から今年1月にかけての年末年始商戦において、NECは、前年同期に比べて大幅に生産数を絞り込む施策に打って出た。関係者などの声をまとめると、前年比20~30%減という生産数量に絞り込んでいる。
12月は、業界全体で前年同月比10%減程度だったといわれていることから、NECの20~30%減という生産数量では、すぐに品薄になり、そして、需要に追いつかなかった分がシェアの減少につながったといえる。
●パソコン事業の黒字化が至上命令
コンシューマ市場で、年間最大の商戦期となる年末年始商戦に、NECが、あえて生産量を絞り込んで臨んだ背景には、パソコンの需要が低迷し、生産数を絞り込まざるを得ない、という外的要因と、パソコン事業の黒字化を至上命題にしていたという内的要因がある。
とくに、後者に関しては、「シェアよりも、利益を優先」という意識を徹底した上で取り組んだものだ。
同社幹部の間からも、「余った商品を叩き売ってシェアを維持するよりも、品薄でも確実に利益をあげられるビジネスの方を優先すべき」(NECカスタマックス 片岡洋一社長)との号令がかかっており、その考え方が、昨年10月以降、社内に浸透してきた。
これまでコンシューマパソコンの場合、シェアを優先するばかりに、大量に製品を生産し、売れ残ると処分価格で販売する、という構図ができていた。だが、処分販売の際には、メーカーが販売店に対して、販促補填金を支払うというのが前提。これが、パソコンメーカーの収益を悪化させ、NECのパソコン事業を赤字化させていたのだ。
いくらシェアをとっても赤字では事業を行なっている意味がない。その本質的意味合いからも、パソコン事業の早期の黒字化は必須課題だったのである。
今回の年末年始商戦で見せた生産数量を絞り込み、一定数量を売り切るという仕組みこそが黒字化への最短距離であり、そのために、「シェアを捨てた」というわけだ。
だが、今年度下期の黒字化を目指していた同社のパソコン事業は、残念ながら赤字からの脱却はできないままだ。
NECの松本滋夫取締役専務は、「下期のパソコン事業は100億円の赤字。黒字化は、来年秋以降になる」と赤字体質からの脱却が長期化することを明らかにした。今年度のパソコン事業の赤字は、上期の百数十億円の赤字を加えて、200億円を超えるのは間違いない。
松本専務によると、シェアを捨ててまで臨んだ第3四半期(10~12月)は赤字のまま推移。第4四半期も赤字になる見通しだという。さらに、来年度上期は、利益ベースでトントンとし、下期からの黒字化を目指すというシナリオだ。当初は、リストラ効果などもあって、この下期からの黒字化を目指すとしていたが、残念ながらその計画は、1年後送りとなってしまった計算だ。
言い換えれば、現在のように、「シェアを捨てて利益を取る」という取り組みが、あと1年は続くということになる。これでは、NECのシェアは落ちるばかりだ。
縮小均衡型のビジネススタイルは、長期化すると、社員の志気にも影響してくるのは明らかだ。
NEC社内のある関係者は次のように漏らす。
「昨年10月に、コンシューマパソコン事業が、本体からNECカスタマックスに移管されたことで、コンシューマパソコン事業担当者は、NECからNECの子会社に移ったという意識がある。それだけでも志気が低下しているのに加えて、今年4月には、さらに大幅な組織改革があるとの噂もある。これも、社内の雰囲気を落ち着かせていない原因のひとつ」。
コンシューマパソコンを全面的に担当するNECカスタマックスは、かつての府中部隊、本社スタッフ部門、そしてNECカスタマックスの前身となったNECパーソナルシステムの3部門が統合して発足した。その同社において、昨年10月の発足後、初の組織改革が今年4月に予定されているのだ。ここで重複部門や人材を対象にした配置転換、人員削減が行なわれるとの噂が社内で蔓延しており、これが志気にも影響しているというのだ。
ソフトメーカーや周辺機器メーカー幹部から、「以前に比べて、NECの対応が遅い」という声は、昨年来よく聞くようになった。このあたりにも、NECの事業体質が脆くなっている点が見受けられる。
シェアを落としながら、赤字体質からは依然脱却できないままというのも気になる。
社員の志気向上や、事業に専念できる体質への早期転換が必要なのではないだろうか。
●2002年度は回復基調へ
では、第4四半期以降のNECのパソコン事業はどうなるのだろうか。
NECカスタマックスの片岡社長は、「第4四半期は、年末に比べてやや生産量を増やす考えだ」と話す。
前年実績を下回る生産量であることには間違いないが、それでも、年末に比べて、やや強気の生産体制へと転換する。
NECの西垣浩司社長も次のように話す。
「パソコン事業が問題だということは認識しているが、追加リストラなどにより、 デルモデルに近い体制へと切り替えることができた。また、121wareなどのサービスポーションの強化などもすすんでいる。2002年にはパソコンの需要は回復すると見ており、それほど悲観はしていない」。
西垣社長によると、NECでは生産革新運動をすすめており、昨年のNEC長野での西垣社長自らが参加しての泊まり込みでの改革に続き、今年3月にはノートパソコンの生産拠点であるNEC米沢で、同様の取り組みを行なうという。
「CPUやメモリといった集約して購入することでメリットが出るもの以外は、部品調達を含めて中国シフトを進める。サプライチェーンの強化で、部品から完成品まで、いらないものは作らないという仕組みできた」という。
事業再編では、昨年9月にはレーザープリンタ事業を富士ゼロックスに売却、量販ハードディスク事業の収束に向けてフィリビン工場を12月に閉鎖、今年3月にはNEC茨城をEMSのソレクトロンに売却するといったパソコン周辺事業の再編をすすめ、同時に、人員をスリム化するといった動きも見せている。今期は、パソコン関連事業でのリストラ費用として当初300億円の特別損失を計上していたが、さらに100億円の上乗せを行なった。引き続き、積極的なリストラを推進していく考えだ。
また、需要回復についても、「西暦2000年問題での過剰投資が、その後の需要の足を引っ張ったが、新しい投資を行なうといった機運が出始めており、SI(システムインテグレーション)事業が回復している。SIの先にはパソコンの端末需要がある。また、Windows XPも、いままでのようにドンチャンやるのではなくて、製品の良さを評価したユーザーがジワジワと導入しはじめる。さらに、TVinPCのように、新しい展開が見込まれる。いつまでも前年比マイナスではない。2002年度は回復傾向に向かう」とした。
だが、シェアの追求を捨てた、NECのパソコン事業には、以前のような「迫力」がないのも事実だ。
生産体制の革新、デルモデル型への転換といった内的な変革に加え、パソコン需要の回復を予測する同社だが、そこには、シェア追求の姿勢が感じない。
かつては「ガリバー」、「巨人」とさえ称されたNECのパソコン事業だけに、春以降の動きに目が離せない。
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積極派のソニー、慎重派のNEC/富士通、台風の目のアップル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0121/gyokai21.htm
(2002年2月4日)
[Reported by 大河原 克行]