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次世代DRAM「DDR II」の状況
--JEDECのキーパースン、デジー・ローデン氏インタビュー

 DDR IIはいよいよ規格策定の最終段階に入っている。次世代DRAMの開発促進を行なうAdvanced Memory International(AMI)の社長兼CEOで、JEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)のBoard of DirectorsのChairを務めるデジー・ローデン(Desi Rhoden)氏に、規格化の状況をうかがった。



●常に移行を続けるDRAM技術

Advanced Memory International デジー・ローデン社長兼CEO

[Q] あなたは長年に渡るJEDECのキーパースンだ。業界でのあなたの役割と、あなたが今回のDRAM移行期をどう見るのかを聞かせて欲しい。

[ローデン氏] 私自身は、AMIの社長であると同時に、JEDECのメモリコミッティ(正確にはSolid State Memories)のチェアマンで、JEDECのボードオブディレクタ(Board of Directors)のチェアも務めている。

 今を移行期と言う人もいるが、それは正しくない。今回に限らず、DRAMは継続的に進歩を続けている。それは、プロセステクノロジが進歩を続けているため、必然的にメモリも進歩しなければならないからだ。

 例えば、プロセスがシュリンクすると、ある時点で電圧を下げなければならなくなり、高電圧をサポートできなくなる。また、カスタマ側はプロセスの進歩につれて、より高パフォーマンスのメモリを求めるようになる。各DRAMベンダーは、およそ3年に2回づつ彼らのデバイスを進歩させる。だから、我々もそれに合わせて進歩させる必要がある。それが、SDRAMからDDRへの移行と、DDRからDDR IIと呼ばれる次のDDRへの移行だ。

 ただし、DDR IIは、我々が開発する時に使う名前にすぎない。規格としては、これはDDR400/533/667になる。つまり、DDR規格が継続的に進歩する。基本的な違いはI/O電圧が1.8Vに下がることだ。

[Q] DRAMでは、ここ数年はかなり混乱があったように見える。次の汎用(Commodity)DRAMが何になるのか、カスタマ側からはよくわからなかった。

[ローデン氏] あなたに前に会ったのは…… 確か2年ほど前だったと思うが、あの時は市場がどうなるかよく見えていなかった。あれから、DDRについてはかなり進展があった。おそらく、ベストニュースは、もう混乱がないということだ。(汎用)DRAMは、同じDDRテクノロジの中で、連続的に性能の向上と電圧の低下を図る。メディアは、すぐに衝突があると書きたがるが、業界内ではもうたいした衝突はない。

 では、今は何が次世代DRAMについて起きているかというと、規格に含める機能についての議論をしている。そうした議論の中で、確かに衝突もある。しかし、幸運なことに、衝突のほとんどはエンジニアリングの問題だ。政治的なものではない。

 例えば、一般に、DRAMサプライヤは、よりシンプルな製品を望むが、カスタマはより高パフォーマンスの製品を望む。だから、我々は両者がそれぞれ満足できるようにコストとパフォーマンスのトレードオフの間のバランスを試みる。それによって、両者(サプライヤとカスタマ)ともハッピーになるようにする。それが、私の仕事だ。


●メモリ業界は常にJEDECで標準化される

[Q] JEDECとは別に活動していたADTも完全にDDRに融合するのか。

[ローデン氏] ADTについては誤解がある。これは、例えると次のようなことだ。あるグループがある部屋で規格を策定していて、別のグループが別の部屋で策定している。これを見て、異なる規格をやっている、衝突に違いないと報道するわけだ。

 ところが、真実は違う。というのは、業界は完全に一本化されているからだ。つまり、全てのメモリは、JEDEC内部で標準化される。異なる部屋で策定していても、最終的にJEDECに持ち寄られる。非常にシンプルだ。

[Q] あなたは以前、ADTもJEDECに戻って来るだろうと予言した。その通りになったわけだが、そうするとADTの役割は何だったのか。

[ローデン氏] ADTというのは、本質的には複数のDRAM製造メーカーが共同で、次世代DRAMのローレベルのディテールを策定するために作った団体だ。次世代メモリを開発するには、多くのシミュレーションをする必要があり、ADTはそれを担当している。こうした作業にはどの会社も寄与できる。その時に、誰と一緒にやるかは各社の自由だ。

 ただし、誤解のないように言うと、これは(JEDECとは)分離した規格を作ることを意図した活動ではない。業界は、常に同じ方向を向いている。DRAMのカスタマ、例えば、Intel、AMD、他の誰に聞いてもわかるが、彼らは皆、ただ一種類のDRAMを望んでいる。そして、JEDECでそれが標準化される。


●メモリセルの周波数を変えずに高速化する

[Q] 現在、次世代DDRはどんな段階にあるのか。

[ローデン氏] JEDECでは、年4回のミーティングがある。最近では、それぞれのミーティングの間にスペシャルミーティングを開くので、合計で年8回となっている。回数が増えているのは、次世代技術への移行のために話し合わなければならない事項が非常に増えているからだ。前回のミーティングは、全て次世代DDRについての規格を完了するために費やした。

 次世代DDRについては、すでに、予備(Preliminary)スペックは完了しているが、それはJEDEC内部でレビューするためのスペックだ。レビューの後、我々はプロトタイプを作り、プロトタイプシステムでそれを評価する。そこで、再び修正する必要が出て来た場合には、議論に戻り、最終的な規格を策定する。3月に開催するJEDEX(JEDECのカンファレンス)では、我々は次世代のDDR400/533/667について、かなりまとまったディテールを多く明かすことができるだろう。DDR400/533のデバイスも、今年の後半か来年に登場してくる。

[Q] DDR677はDDR II世代の技術なのか。そうではないと言う人もいたが。

[ローデン氏] 混乱しているようだが、多分、いちばんいい情報ソースはJEDECだ(笑)。(※注)

 DDR400、533、667はいずれも同じ技術をベースにする。これは、非常に論理的で簡単にわかる話だ。どうしてかというと、DRAM内部を見ると、セル自体は長年ほとんど変わっていないからだ。セルの周波数は同じまま、Prefetch技術で周波数を上げている。だから、次にどうなるかを予測するのは簡単だ。

 例えば、SDRAMはPrefetch 1(セルとインターフェイスの周波数が同じ)で、PC100は100MHz、PC133は133MHzだ。次にDDR200/DDR266/DDR333を見ると、これらはいずれもPrefetch 2によって2倍の周波数になっている。つまり、PC100を2倍にするとDDR200、PC133を2倍にするとDDR266になる。これを、次にPrefetch 4(DDR IIの技術)に移行させたら周波数はさらに2倍になる。つまり、400MHz、533MHz、667MHzになるということだ。

 だから、業界の内部には、DDR400/533/667を、DDR 2Xと呼ぼうという意見もあった。“200 2X”、“266 2X”、“333 2X”みたいなものだからだ。結局は、DDR400、DDR533と呼ぶことになったが。

※注:つまりローデン氏自身ということ。


●最初にDDR400/533を規格化、次にDDR667に向かう

[Q] これまでDDR667スペックが議論されていなかったのはなぜなのか。

[ローデン氏] 思い出してほしい。現在のDDR200/266では、我々はDDR266に最初フォーカスして規格を策定、それから最近になってDDR333にフォーカスした。SDRAMも同様に66~100MHzから始まり、次に133MHzを規格化した。同じことが次の世代でも起こる。

 我々は、今、DDR400とDDR533の両スペックを一緒に規格化している。DDR400とDDR533はコモンスペックだ。だから、最初のデバイスはDDR533までに限られるが、時間が経つにつれてDDR667へと規格を拡張して行く。確かに、まだ、誰もDDR667についての議論をしていないが、それはDDR533でもやらなければならないことが数多くあるからに過ぎない。

 そして、DDR667から先は、さらに次世代のメモリテクノロジへと移行することになる。我々は、すでにこの第3世代のDDRテクノロジ(DDR IIIと呼ばれている)の開発をスタートさせている。これは、DDR800、DDR1200といったレンジの技術だ。この規格については、まだ予備的な議論に入った段階で、規格の定義には入っていない。

[Q] DDR400/533/667の3規格は、同じダイ(半導体本体)で製造できるのか。

[ローデン氏] 基本的にはその通りだ。最初のデザインでは、高い歩留まりで採れるのはDDR400になるだろう。しかし、時間が経ち、プロセス技術が進むにつれて、DDR533が段々高いパーセンテージの歩留まりで採れるようになる。同じ技術で、スピードが上がってゆく。

 これは、今日のDDRと同じだ。同じダイのうち、まず最初はDDR200がもっとも高いパーセンテージを占めていた。しかし、今はDDR266の歩留まりが非常に高く、DDR200はほとんど消えつつある。そして今は、DDR333も採れるようになり始めた。DDR333は、まだ割合は非常に少ないが、さらにダイシュリンクが進むと、DDR333が大きな割合を占めるようになる。

[Q] DRAMでは今年、0.13μmが立ち上がる。各社ともDDR400/533の最初のデバイスは0.13μmを予定しているようだが。

[ローデン氏] その通りだ。次世代DDRでは、0.13μmが最初に使われるだろう。しかし、実際に使われるようになる時には、0.11μmのプロセス技術になると思う。0.13μmでもDDR533はある程度は採れる。しかし、次のプロセスでダイをシュリンクすると、さらにDDR533を高いパーセンテージで採れるようになる。


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(2002年2月20日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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