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●Intelのモバイルのセグメント分けが変わる
これまで、IntelのノートパソコンCPUのセグメントは実質的に言って下の4つだった。
セグメント | CPU | TDP |
---|---|---|
A4パフォーマンスノート | Pentium III | 22~25W |
A4バリューノート | Celeron | 25W |
B5ノート | 低電圧(LV)版CPU | 12W |
サブノート | 超低電圧(ULV)版CPU | 7W |
これが来月から変わる。モバイルPentium 4-Mの登場で、実質的に5つのセグメントになる。
セグメント | CPU | TDP |
---|---|---|
A4フルサイズノート | Pentium 4-M | 30W |
A4バリューノート | Celeron | 30W |
A4薄型軽量ノート | Pentium III-M/Celeron | 22W |
B5ノート | 低電圧(LV)版CPU | 12W |
サブノート | 超低電圧(ULV)版CPU | 7W |
見ての通り、Pentium 4-M(Northwood:ノースウッド)が加わることで、新しいセグメントができる。ノートPCの熱設計の目安であるTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)で見ると、新しく30Wのエンベロープができる形となる。つまり、より熱いCPUを搭載できるように、上へ熱設計の基準が張り出す。また、フォームファクタとして見るとA4パフォーマンスノートのA4フルサイズとA4薄型への分化が進むと見ることができる。
もちろん、今までも、実際のノートPCのフォームファクタは、30mm以上の筺体厚のフルサイズノートと、10数mm~20数mmの薄型軽量ノートという区分けがあった。しかし、CPU性能はそれほど大きくは変わらなかった。CPUアーキテクチャも、同じPentium III/Celeronだった。だが3月のPentium 4-M発表以降は、Intelのセグメント分けでは、A4フルサイズとA4薄型に明確に分かれるようになる。デスクトップ代替はPentium 4アーキテクチャ、モバイル用途はPentium IIIアーキテクチャという区分けになるのだ。
これは、CeleronラインのバリューノートPCについても同じだ。Intelは今秋にPentium 4アーキテクチャベースのCeleronを1.5GHzで投入すると言われている。この段階で、バリューノートもA4フルサイズはPentium 4アーキテクチャに移行し始め、TDPも30Wに上がる。そのため、奇妙な現象が起こり始めている。Pentium III-M(Tualatin-512k:テュアラティン)とCeleronのパフォーマンスがクロス、逆転し始めたのだ。
●CeleronとPentium III-Mのクロックが逆転に向かう
今年1月に0.13μm版Celeron(Tualatin-256k:テュアラティン)が1.2GHzまでのクロックで投入されたことで、現在1.2GHzのPentium III-Mとのクロック差はなくなった。そして、今後は、Celeronの方がどんどん高クロックになってゆく。今年秋冬時期で比べると、CeleronがPentium 4アーキテクチャの1.5GHzに到達するのに対して、Pentium III-Mはおそらく1.33GHzに止まる。実質性能はともかく、クロックはCeleronの方が上になる。そのため、2002年中盤以降のIntelのモバイルCPUは、周波数レンジでは次の順番で並ぶことになる。
Pentium 4-M > Celeron > Pentium III-M > LV版 > ULV版 |
CeleronとPentium III-Mのパフォーマンスが入れ替わり始めたのは、A4フルサイズをターゲットにしたCeleronのTDPが引き上げられたからだ。下のTDPロードマップを見るとわかる通り、CeleronのTDPは今の段階で25Wワクにまで上がり、今年の後半には30Wへと向かう。これまで、CeleronのTDPはPentium III系より低かったのが、ここで逆転を始めた。TDPが高ければ、CPUをより高クロックにできる。Celeronの性能レンジがPentium III-Mを追い越すのは当然なのだ。
Intel モバイルCPU TDPロードマップ |
TDPロードマップをもう少し詳しく見てみよう。Intelは、OEMベンダーに対してA4薄型ノート向けに提供するCPUのTDPを22W、B5ファイルサイズノート向けを12W、サブノート向けを7Wと約束している。一応、昨年後半のラインナップはほぼこのレンジに収まっていた。そして、今年も、現在の予定ではこのTDP枠を堅持する計画でいる。Pentium 4-Mの30W枠フルサイズノートは、その上に新しい張り出しとして登場した格好になっている。
ここで興味深いのはCeleronのTDPだ。CeleronのTDPは、昨年中盤までは常にPentium IIIの下だったのが、昨秋でPentium III-Mより上の25W枠にまで達し、今後もぐんぐん上がってゆく。つまり、各Pentium III-MがきっちりそれぞれのTDP枠に収まっているのに、CeleronだけがTDPを向上させてゆくという構図となっている。
●Pentium 4-Mに引きずられて上がるCeleronのTDP
IntelにとってTDP引き上げは、諸刃の剣で、ライバルメーカーも同レベルのTDPのCPUを出せるようになる。つまり、A4フルサイズのTDPが30W枠に上がるなら、原理的にはAMDも30WまでのモバイルDuronを投入できることになる。だから、Intelも30W枠ぎりぎりまでCeleronを高性能化する必要が出てくるというわけだ。特に米国のA4フルサイズで多いBTOモデルなどでは、同じ筺体で上下のラインナップを揃える必要がある。Pentium系とCeleron系でTDPを揃える方がいいわけだ。
また、A4フルサイズだけで見た場合には、Pentium 4-MとCeleronの性能レンジを、できるだけシームレスにつなげたい。デスクトップ同様に、Pentium 4-Mのローエンドのすぐ下の性能レンジにCeleronが位置するようにしたいわけだ。そのため、Celeronのクロック&TDPを引き上げる必要が出たと考えられる。
Intelの製造上でもTDPの引き上げは有利だ。Pentium III-Mは、Tualatinの中から、低電圧&低(リーク)電流のダイを選別して、それぞれのTDP枠を維持しつつ性能を向上させると見られる。それに対して、通常電圧版のCeleronは、TDP枠を大きく取ることで歩留まりを上げることができる。
こうした理由から、CeleronのTDPは、がんがんと上がってゆくと見られる。もちろん、PCメーカーはA4薄型ノートでも、製品ラインナップのためにCeleronを必要とする。そのため、IntelはCeleronの全ラインナップを高クロック&高TDPに引き上げてしまうのではなく、実際には22Wの枠に収まる1GHzまでのチップも供給し続ける。
(2002年2月4日)
[Reported by 後藤 弘茂]