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Pentium 4-Mによってアーキテクチャ的に分断されるIntelのモバイルCPU


●アーキテクチャ的に分断されるIntelのモバイルCPU

 新しい30WのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)枠でノートPC市場を4つにセグメント化するIntel。この戦略により、ノートPC市場は大きく2分されるようになる。デスクトップ代替のA4フルサイズノートと、モバイル向けのA4薄型以下のノートだ。デスクトップ代替は来年にはバリューラインまで完全にPentium 4アーキテクチャに移行する一方、モバイル用途は来年前半には新モバイルCPU「Banias(バニアス)」へと移行する。つまり、下のようなアーキテクチャ分類になる。

デスクトップ代替ノートデスクトップ用と同じCPUアーキテクチャ
モバイル用ノートモバイル用ノート

 こうして見ると、現在のPentium 4-MとPentium III-Mの分化は、BaniasがPentium III-Mを引き継ぐことを前提とした戦略だということがわかる。おそらく、2003年にデスクトップ向けにPentium 4後継の「Prescott(プレスコット)」が登場したら、デスクトップ代替ノートにもPrescottが入ってくることになるだろう。

 ここで重要なのは、デスクトップ系CPUアーキテクチャとモバイル系CPUアーキテクチャの境目が、デスクトップとノートという形態の違いにないことだ。アーキテクチャの境界線は、デスクトップ代替ノートとモバイル用ノートの間に来る。その結果、IntelのCPUは、下のような階層構造で構成されるようになる。

セグメントCPU種類TDP
通常デスクトップ(通常版)Pentium 4/Celeron76W
SFFデスクトップSFF版Pentium 4/Celeron45W
デスクトップ代替ノートモバイルPentium 4-M/Celeron30W
A4薄型ノートモバイルPentium III-M/Celeron22W
B5ノートLV版Pentium III-M/Celeron12W
サブノートULV版Pentium III-M/Celeron7W

 こうして見ると、デスクトップ代替とA4薄型を境に、上下でシームレスにCPUアーキテクチャがつながることがわかる。面白いことに、性能レンジ的には、デスクトップCPUのPentium 4ブランドとモバイルPentium 4-Mブランドがシームレスにつながる。例えば、今年の第2四半期のPentium 4が2.4~1.8GHzのレンジなのに対して、同時期のPentium 4-Mは1.7~1.4GHzレンジだ。つまり、デスクトップのローエンドの下にA4フルサイズノートが位置する格好になる。逆を言えば、デスクトップのCeleronレンジの性能が、モバイルのPentium 4-Mレンジの性能という位置づけになる。この美しいパーティショニングを実現するために必要なTDP枠が30Wだったということだろう。

 これを別な側面で見ることもできる。Intelのセオリーでは、モバイルの性能をデスクトップの70%程度のレベルで追わせるというのが理想らしい。この場合、TDPはデスクトップの50%になる。クロックを70%に落とすと、駆動電圧も下がるのでTDPは50%にできるというわけだ。実際、現在の計画でのデスクトップPentium 4に対するPentium 4-Mの性能は、およそ70%の比率にある。Intelは、セオリーを守ることができるわけだ。

●Pentium 4-Mを薄型ノートに入れる動きも

 きれいにセグメント分けをしたIntelだが、ひとつ問題が生じている。それは、アーキテクチャの切れ目が、デスクトップとノートの間ではなく、同じノートのカテゴリであるA4フルサイズとA4薄型の間に来てしまったことだ。

 例えば、何がうまくないかというと、A4フルサイズのCeleronとA4薄型のPentium III-Mを比べると、Celeronの方が性能が上なのに、価格はPentium III-Mの方が高いという逆転現象が起きてしまう。Pentium 4-M登場とそれほど離れない時期にIntelはPentium III-Mの価格も1段下にスライドさせると見られるが、それでもCeleronよりは高いだろう。

 Intelは、これまでパフォーマンス至上主義のマーケティングを行なってきた。そのため、多くのユーザーの意識は、デスクトップとノートの性能差が開き過ぎることを好まないし、クロックと価格でPCを比較するのが自然になってしまっている。つまり、同じ19万円のノートで厚い方が1.5GHz、薄い方が1.13GHzで並んでいた場合には、どうしても1.13GHzが不利になる。また、厚さが違うことで同じ1.2GHzのノートに16万円と22万円という価格差があったりすると、これもPCメーカーとしては売りにくい。

 こうした状況で、当然の解としてPentium 4-MをA4薄型に押し込んでしまおうというアプローチが産まれる。もちろん、30Wというのは結構なチャレンジなので、A4フルサイズはともかく、A4薄型となるとかなり無茶がある。そのため、さすがに20mm厚クラスのノートに入れるという話は聞かないが、20mm台後半の厚みの2スピンドルタイプのノートに搭載しようという動きは確実にある。実際、Pentium 4-Mでも1.4/1.5GHzクラスなら、このクラスのノートに入れるためのハードルは低い。TDPで見ると、1.5GHzは26.9W、1.4GHzは25.8Wだからだ。

 こうした傾向が強まると、IntelはA4薄型もパフォーマンスを引き上げざるをえなくなる可能性がある。結局のところ、問題は、ユーザーがパフォーマンスではなくモビリティに価値を見いだしてカネを払うようになるかどうかにある。そして、それはIntelのマーケティングが、パフォーマンス至上主義を捨てるかどうかと密接に結びついている。もし、アーキテクチャの切れ目が、デスクトップとノートの間にあれば、マーケティング手法を変えることも容易だったろう。しかし、同じノートで異なる性格のアーキテクチャが混在してしまうため、Intelにとってマーケティングは非常に難しい。

●Pentium III-M向けには2つの新チップセットが登場

 IntelのPentium 4-Mのチップセットを見てみよう。IntelはPentium 4-Mについては2つのチップセットを用意している。いずれもIntel 845ファミリの派生品で「Intel 845MP(Brookdale-M)」と「Intel 845MZ」だ。2つのチップセットの違いはメモリサポートで、次のようになっている。

名称メモリ種類メモリ最大容量
845MPDDR200/2661GB
845MZDDR200512MB

 位置づけとしては845MPがパフォーマンスノート、845MZがバリューノートとパフォーマンスノートのエントリレベルという形となる。つまり、845MZはPentium 4アーキテクチャベースのCeleron市場もカバーする。ただし、この両チップはどちらもグラフィックスコアを内蔵していない(内蔵していたとしても使えないようになっている)。Intelは、モバイルチップセットではグラフィックス統合製品を投入する計画が年内はない。これについては、845Gのグラフィックスコアの消費電力が大きいためというウワサがある。

 もっとも、2003年のフェイズではIntelもグラフィックス統合チップセットを投入してくる。これは「Montara」と呼ばれるチップセットで、2003年第1四半期に登場する予定だという。以前、このコラムでIntelが“Monterra”と呼ばれるグラフィックス統合チップセットを開発していると伝えたことがあったが、どうやらMontaraが正しいらしい。

 また、以前はMonterraはBanias用チップセットだとレポートしたが、新しい情報はMontaraがPentium 4-M用チップセットだと伝えている。もっとも、Pentium 4-MとBaniasはシステムバスに互換性があり、バスクロックは異なるがバスアーキテクチャ自体は共通という情報もある。そのため、MontaraがPentium 4-MとBaniasの両対応という可能性もある。

 Baniasについては、この他にも多少の情報アップデートがあった。ある業界関係者によると、Baniasは1MBと大容量のL2キャッシュを搭載するという。ただし、Baniasは厚い秘密のベールに隠されているため、こうした情報のどこまでが正確なのかわからない。時期については、2003年の3~4月期に発表という昨年の情報からアップデートはまだない。

 話を元に戻すと、IntelはMontaraまでは、グラフィックス統合の新チップセットの計画を持たない。そのため、チップセットベンダーは、Pentium 4-M向けのグラフィックス統合チップセットをチャンスと見て力を注いでいる。特に今回は、VIA Technologies、SiS、ALiといったおなじみの顔ぶれだけでなく、ATI Technologiesもチップセットを投入する。これは「A4」と呼ばれるチップで、すでにATIはサンプルチップを出している。A4はRV200グラフィックスコアを使っていると言われるが、ATIは次世代コアの「A5」の開発も進めている。また、この他に、Athlon/Pentium III世代向けの「A3」もある。ATIは、Pentium 4-Mをテコに、チップセット市場に本格参入しようとしている。


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(2002年2月4日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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