大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

パソコンが売れていないのに「品薄」!?
積極派のソニー、慎重派のNEC/富士通、台風の目のアップル


●売れていないけど品薄だったパソコン

 年末年始のパソコンの売れ行きは決して良くはなかった。いや、むしろ、予想以上に低迷したといっていい。

 だが、それにも関わらず、パソコンメーカー幹部の口からは、「年末は、主力製品の品薄によって販売店、お客様にご迷惑をかけた」というコメントが聞かれる。パソコンが売れていないにも関わらず、品薄とは、どういうことなのだろうか。

 まず、年末年始のパソコンの市況がどのように推移しているのか、という実態から見てみたい。

 全国の主要パソコンショップ556店舗のPOSデータを直接集計しているBCN総研の調べによると、12月のパソコン販売台数は、デスクトップパソコンで前年同期比47.1%減、ノートパソコンで24.9%減という落ち込みぶりとなった。

 とくに、Windows XPが発売になった11月16日以降、パソコン本体の前年割れ傾向はますます進展し、最も底を打った12月3日~9日の週では、デスクトップパソコンで53%減と前年同週比実績で半分以下、ノートパソコンでも36%減と驚くべき落ち込みとなっているのだ。もともとWindows XPの発売によって市況は上向くと見ていたはず。それが、結果としては散々なものになったのだ。

 業界団体である社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、四半期ごとにパソコンの出荷統計を発表している。10~12月の出荷統計については2月上旬にも正式発表されるが、関係者の声などをまとめると、10月は十数%の減少、11月は前年並み、12月は10%減程度との見通しであり、第3四半期(10~12月)としても、前年同期比10%減程度の数値になりそうだ。

 BCN総研の発表数値に比べると落ち込みは少ないが、このなかには比較的堅調な企業向けの数値が含まれていることを勘案しなければならない。つまり、企業向けの数値を除くと、かなりの落ち込みになると見込まれている。

 これだけの需要停滞ぶりにも関わらず、主要パソコンメーカーの幹部は異口同音に、パソコンの品薄状況により販売機会の損失につながっていることを指摘する。NECソリューションズの富田克一執行役員常務は、「年末から当社のパソコンが品薄になり、結果として販売機会の損失につながっている。とくに、売れ筋モデルの品薄が響いている」と話す。一方、富士通の杉田忠靖副社長も、「商戦期の最後までパソコンが足りずに、販売店、お客様にご迷惑をおかけすることになった」と、人気モデルを中心にほぼ完売したことを明かす。NEC、富士通の2大パソコンメーカー幹部が、こう口を揃えるのは、Windows 98発売以降のパソコン市場の成長期以来のことだ。


●対照的なNEC/富士通と、ソニー

 だが、その一方で、「個人需要回復の糸口を掴んだとは思えない」(杉田副社長)というように、依然として市場の回復に対しては、慎重な見方をしているのも事実だ。それはなぜか。

 実は、年末年始商戦向けの製品については、もともと主要各社が、かなり生産量を絞り込んでいる。あるメーカーでは、コンシューマパソコンに関しては前年比4割減というところまで生産量を絞り込んでいるといわれる。

 つまり、すべてのコンシューマパソコンを売り切っても、最初から前年比6~7割というのが限界だったのだ。それだけ、パソコンメーカー各社は慎重な姿勢で年末商戦に向かっていたというわけだ。しかも、品薄になっても増産をするというような体制をとらずに、売り切ったら、次はモデルチェンジまで待つという仕組みとした。

 そうした意味でも、今年春の新製品発表が例年よりやや早かったのは、冬モデルを売り切ったという要因が影響しているのかもしれない。マイクロソフトの阿多親市社長が、10~12月のWindows XPのOEMがそれほど伸びていないことに言及していたが、これだけメーカーが慎重な姿勢を見せていては、その結果も当然のことだといえるだろう。

 NEC、富士通が慎重な姿勢を見せたのに対して、強気な姿勢を崩さなかったのがソ ニーである。商戦期もほとんど商品を切らすことなく、積極的な施策に打って出ており、唯一といっていいほど、実績を伸ばした。

 今年12月のメーカーごとの伸び率をBCN総研のデータから拾ってみると、NECが31.9%減、富士通が43.8%減と前年実績を大きく割り込んだのに対して、ソニーは3.1%減と、まさに一人勝ちの状況だ。

 この数字は、シェアにも大きく反映している。とくに象徴的なのが、春モデルの新製品発表を前にして、NEC、富士通が完全に製品を切らした1月7日~13日の集計だ。BCN総研によると、デスクトップとノートをあわせた実績で、ソニーは31.0%のシェア を獲得したのに対して、NECは15.4%、富士通は13.9%と、ソニーとの格差は2倍以上に広がった。なかでも、NECとソニーとの差がここまで広がったのは初めてのことである。あまりにも、NECの事業戦略が慎重すぎたといわざるを得ないだろう。

【各メーカーのシェア】
2002年1月7日~2002年1月13日
BCN総研調べ
1ソニー31.0%
2NEC15.4%
3富士通13.9%
4アップル12.0%
5シャープ8.5%
6その他19.2%


●シェアよりも黒字化を優先

 しかし、NEC、富士通の幹部は、これだけシェアが減少しているにも関わらず、異口同音に次のようにコメントする。「品物が余るよりは、よかった」

 この背景には、昨年夏までの間に見られた各社のパソコン事業の業績悪化の最大の要因が、パソコンの不良在庫にあったことがあげられる。見込み生産となるコンシューマパソコン事業においては、シェア獲得を優先するあまり、大量に製品をつくり、これが不良在庫となり、逆に収益性を悪化してきたという経緯がある。

 とくに、NECのように、下期のパソコン事業の黒字転換が至上命題となっていれば、シェアを追求するよりも、収益をあげることができる出荷量に留めておいた方が得策というわけだ。

 富士通の杉田副社長は、「先頃発表した春モデルでは、年末の反省を踏まえて、やや生産量を増やしている」というが、その上昇率は、それほど大きくはないようだ。つまり、今年の春モデルについても、NEC、富士通の出荷計画は、依然として、慎重 な姿勢は変わらないままのようである。


●「発売前からトップシェア」のiMacが台風の目に

1月8日に発表された新型iMac
 では、3月をピークとするこれからの商戦期で、どんなことが起こるのだろうか。すでに、発表された製品を見る限り、各社とも基本的には冬商戦の商品コンセプトを踏襲する形になっているため、商品力でずば抜けたものは見あたらない。つまり、NEC、富士通がこれまでと同様に慎重な戦略をとっている限り、両社のコンシューマ分野におけるシェアは、年末年始商戦同様、10%台に留まるのは間違いないといえるだろう。そして、ソニーが同様に積極戦略を打ち出していけば、20%台中盤から30%近いシェアを獲得する可能性もある。

 さらに、今後の商戦期に向けてもうひとつ注目される動きが、アップルコンピュータの新iMacの動きである。新iMacは、発表直後から、すでに予約が入り始めており、BCN総研のデータでも、デスクトップ部門で、予約のみながら、すでにトップシェアを獲得している。ここの集計にカウントされるユーザーは、すでにお金を全額支払って予約しているユーザーの数であり、そうした意味でも、出足は予想以上のものだといえよう。


【デスクトップ 機種別台数シェア】
2002年1月7日~2002年1月13日
BCN総研調べ
順位ベンダー品名台数シェア
1アップルiMac G4-800
M8535J/A
6.00%
2富士通FMV-DESKPOWER
FMVCE885L
4.93%
3ソニーVAIO J
PCV-J21ML5
4.12%
4ソニーVAIO LX
PCV-LX53/BP
4.06%
5NECVALUESTAR
LvVL300/1D
3.62%
6ソニーVAIO LX
PCV-LX33/BP
3.47%
7ソニーVAIO J
PCV-J21V5
2.87%
8NECVALUESTAR C
VC500/1D
2.45%
9ソーテックPC STATION
S2110XP-L5
2.31%
10富士通FMV-DESKPOWER
FMVCE811LT
2.30%

 アップルコンピュータの原田永幸社長は、「'98年のiMacブームと同じ盛り上がりとなるかどうかは明言はできないが」と前置きしながらも、「まだ広告展開や、展示用のマシンが日本に7台しかないという現時点で、これだけ多くの方に予約をしていただいたことは、強い自信につながる」とコメントする。

 新iMacは、今月末に最上位モデル、2月に中位モデル、そして3月には普及型モデルがそれぞれ出荷されることになるが、日本市場に需要に見合った安定した数が入荷するようになれば、NEC、富士通のシェアを脅かす可能性もある。すでに、1月7日~13日のメーカー別シェアで見ても、アップルと、NEC、富士通との差が、一気に縮まってきていることがわかる。この調子でいけば、春商戦においては、アップルコンピュータが台風の目になることになるのは間違いないだろう。

 各社の置かれた事情や、事業戦略、そして事業に臨む姿勢を見れば、今年の春は、コンシューマパソコン市場における、ソニー、NEC、富士通、アップルのシェアが大きく変化する可能性がありそうだ。



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(2002年1月21日)

[Reported by 大河原 克行]


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