レビュー

AMD史上最速のAPU「A10-7890K」を試す

AMD A10-7870K

 AMDは3月1日、デスクトップ向けAMD AシリーズAPUの最上位モデル「A10-7890K」を正式に発表した。国内での発売開始は3月18日で、店頭予想価格は税別18,480円となる。

 国内での発売に先立ち、AMDよりA10-7890Kを借用する機会が得られた。今回は、AMD史上最速のAPUとされるA10-7890Kのベンチマークレポートをお届けする。

CPUクロックが最大4.3GHzとなったAPU

 A10-7890Kは、28nmプロセスで製造されたGodavariコアを採用し、SteamrollerアーキテクチャのCPUコアを4基と、Graphics Core Next(GCN)アーキテクチャの8 GPU Compute Unit(512 Stream Processor)を備えたAPU。CPUクロックはベースが4.1GHzで、Turbo CORE時は最大4.3GHz。GPUクロックは866MHz。

 そのほか、4MBのL2キャッシュ、メモリコントローラ(DDR3-2133、デュアルチャンネル対応)、16レーンのPCI Express 3.0を備える。A10-7890Kは、CPU倍率を上方変更してオーバークロック可能なアンロックモデルである。TDPは95Wで、対応ソケットはSocket FM2+。

 APUとしてのスペックは、これまでAMD AシリーズAPUの最上位モデルであった「A10-7870K」のCPUクロックを高めたのみで、機能面での変更はない。

CPU-Z実行画面
GPU-Z実行画面

A10-7890KA10-7870K
製造プロセス28nm
開発コードネームGodavari
コア数4
CPUクロック(定格時)4.1GHz3.9GHz
CPUクロック(Turbo CORE時・最大)4.3GHz4.1GHz
GPUコアRadeon R7
Streaming Processor (Radeonコア)512基 (64基×8GPU CU)
GPUコアクロック(最大)866MHz
TDP95W
倍率アンロック
対応ソケットFM2+

 A10-7890Kの新要素として、付属の純正CPUクーラーが静粛性と冷却能力を高めた新設計の「Wraith Cooler」にアップデートされた点が挙げられる。

 ヒートシンクと冷却ファンを大型化されたWraith Coolerは、従来型の純正CPUクーラーから動作ノイズを10分の1に抑えたとしている。A10-7870K搭載のGPUクーラーと比較すると、一回り大きくなっていることがわかる。

Wraith Cooler。92mmファンと大型化したヒートシンクを採用。従来型から冷却能力と静粛性を向上させた。
A10-7870K付属の従来型CPUクーラーとの比較。Wraith Coolerが一回り大きいことが確認できる。

ベンチマークテスト結果

 それでは、A10-7890Kのベンチマークテスト結果を紹介する。

 テスト環境は、A10-7890K対応版UEFIを適用した、AMD A88Xチップセット搭載マザーボード「ASUS A88X-PRO」と、16GB DDR3-2133メモリ(8GB×2枚)を用意。比較対象にはA10-7870Kを用意した。

テスト環境
CPUA10-7890KA10-7870K
マザーボードASUS A88X-PRO (UEFI:2502)
メモリDDR3-2133 8GB×2 (11-13-13-35、1.65V)
ストレージIntel SSD 510 (120GB/SSD)
ビデオメモリ1GB割り当て
電源玄人志向 KRPW-TI500W/94+ (500W/80PLUS TITANIUM)
グラフィックスドライバRadeon Software Crimson Edition 15.12
OSWindows 10 Pro 64bit

 まずはPCの総合的なパフォーマンスを測定する、「PCMark 8」と「PCMark 7」の結果だ。

 PCMark 8では、「HOME」と「WORK」が1%弱の差に留まった一方、「CREATIVE」ではA10-7890Kが約5%の差を付けてA10-7870Kを上回った。このスコア差は、両製品のCPUクロックの差とほぼ同じであり、CPUを多用する場面では、4.1~4.3GHzというCPUクロックの高さが効いているようだ。

 PCMark 7でも、A10-7890Kが1~3%程度の差でA10-7870Kを上回る結果となっている。両製品のスペック差がCPUクロックのみであることを考えれば、妥当な結果と言えるだろう。

PCMark 8 v2.6.517
PCMark 7 v1.4.0

 続いて、3D系ベンチマークテストの結果だ。

 定番ベンチマークテストの「3DMark」では、Fire Strike、Sky Diver、Cloud Gate、Ice Storm Extremeの4テストを実行したが、総合スコアの差はいずれも1%未満という結果となった。CPU性能が問われるPhysics Scoreでは、Fire StrikeやSky Diverで3~4%程度の差をA10-7890Kがつけているものの、CPU性能のアドバンテージは、3DMarkでの総合スコアを押し上げることはできなかったようだ。

3DMark - Fire Strike (Default)
3DMark - Sky Diver (Default)
3DMark - Cloud Gate (Default)
3DMark - Ice Storm Extreme (Default)

 このほか、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」、「PSO2キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」、「MHFベンチマーク【大討伐】」の3つのベンチマークテストを試したが、これらでも両製品のスコアには誤差程度のスコアしか付かず、ほぼ同等と言える結果となった。

ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
MHFベンチマーク【大討伐】(フルスクリーン)
PSO2キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4

 次は消費電力の比較結果だ。消費電力については、サンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を用いて、ベンチマークテスト実行時にPCが消費した最大電力を測定している。

 アイドル時の消費電力はほぼ横並びだが、ベンチマーク実行時の消費電力については、A10-7890Kが3~11Wほど高い消費電力となった。A10-7890Kは4.1~4.3GHzという高いCPUクロックを実現するためか、CPU電圧が高め(テストした個体では1.5V)になっており、このことが両製品の電力差に影響を与えているものと思われる。

システム全体の消費電力
A10-7890K搭載時のUEFI画面。CPU電圧は自動で1.5V(1,500mV)に設定されていた。

 最後に、A10-7890Kに搭載されたWraith Coolerのパフォーマンスをチェックする。このテストでは、室温26℃の環境下において、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」を実行。「HWMonitor 1.28」を用いて、ベンチマーク実行中のファン回転数、CPU温度、GPU温度の最大値を取得する。

 A10-7890KはWraith Cooler搭載時のデータ、A10-7870KはWraith Coolerと、従来型CPUクーラーをそれぞれ搭載した際のデータを取得した。なお、ファンの制御については、マザーボードのA88X-PROが備えるファン制御機能「CPU Q-FAN Control」のStandardプロファイルを使用した。

ベンチマーク中のCPU温度とGPU温度(最大値)
ベンチマーク中のCPUクーラーのファン回転数(最大値)

 結果として、Wraith Coolerの方が従来型CPUクーラーより、CPUとGPUの温度を低く抑えられていることは間違いないが、マザーボードのファン制御機能を利用しているため、温度差自体はそれほど大きくない。しかし、ファンの回転数を見てみると、Wraith Coolerは最大で1,700rpm弱の回転数なのに対し、従来型CPUクーラーは3,139rpmという高い回転数で動作しており、Wraith Coolerの冷却能力により、低速回転でも十分な冷却が行なえていることが分かる。

 Wraith Coolerは92mm、従来型は70mmと、ファンの口径が異なるため、回転数の差=動作音の差という訳ではないが、やや高い動作音が耳につく従来型に対し、搭載ファンが約1,700rpmで回転している際のWraith Coolerの動作音は極めて静かだった。

新型クーラー「Wraith Cooler」の静粛性は大きな魅力

 以上の通り、A10-7890KのパフォーマンスをA10-7870Kと比較してみた。スペック差がCPUクロックのみという条件であるため、内蔵GPUを用いた3D系ベンチマークテストではA10-7870Kに対する有意性を示せなかったA10-7890Kだが、CPU性能は順当に向上している。

 ただ、A10-7890Kにとって最大の魅力と言えるのは、性能の向上ではなく、純正CPUクーラーとして同梱されるWraith Coolerの存在だろう。APUを購入した時点でこのレベルのCPUクーラーが付属していれば、静音化を目的にサードパーティー製のCPUクーラーを購入するコストを削減できるため、人によってはA10-7870Kよりコストパフォーマンスの高い製品となりそうだ。

(三門 修太)