レビュー

ハイエンドなのにコンパクトで空冷の「Radeon R9 Nano」を検証

Radeon R9 Nano

 AMDは8月27日、Fijiコアを採用したハイエンドGPU「Radeon R9 Nano」を発表した。今回同GPUを搭載したリファレンスデザインのビデオカードを借用する機会が得られたので、その性能を探ってみる。

カード長およそ153mmのハイエンドGPU「Radeon R9 Nano」

 Radeon R9 Nanoは、先だって発売された「Radeon R9 Fury X」および「Radeon R9 Fury」と同じ“Fiji”コアを採用したAMDのハイエンドGPUである。

 Radeon R9 Nanoに採用されたFijiコアは、Radeon R9 Furyと同じフルスペック仕様で、4,096基のStream Processor、256基のテクスチャユニットを備え、最大1GHzで動作する。VRAMには1GHz動作のHBMを4GB搭載。4,096bitのメモリインターフェイスでGPUコアと接続している。

【表1】Radeon R9 Nanoの主なスペック
Radeon R9 NanoRadeon R9 Fury XRadeon R9 Fury
アーキテクチャGCN(Fiji)
製造プロセス28nm
GPUクロック(最大)1,000MHz1,050MHz1,000MHz
Stream Processor4,096基3,584基
テクスチャユニット256基224基
メモリ容量4GB HBM
メモリクロック500MHz(1GHz相当)
メモリインターフェース4,096bit
メモリ帯域幅512GB/sec
ROPユニット64基
Typical Board Power175W275W

 Radeon R9 Nano最大の特徴は、約153mm(実測)という短いカード長にある。153mmという長さは、コンパクトなフォームファクタの代表格であるMini-ITXマザーボードの一辺の長さ(170mm)よりも短い。

 カード長の削減はGPUクーラーの放熱面積減少などのデメリットを伴うが、Radeon R9 Nanoは、GPUクロックを800MHz~1GHzの範囲で適宜調整することにより、同じ規模のGPUコアを持つRadeon R9 Fury Xでは275WだったTypical Board Powerを175Wにまで削減。消費電力と発熱を大きくカットすることで、この短いカード長を実現している。

Radeon R9 Nano
ディスプレイ出力ポート。DisplayPort×3基とHDMI×1基
補助電源コネクタは8ピン1径系統

 AMDはRadeon R9 Nanoの競合製品として、NVIDIAのGeForce GTX 970を挙げている。Radeon R9 Nanoの価格が649ドルなのに対し、GeForce GTX 970は329ドルで、両製品の価格帯は全く異なっている。それでもAMDがGeForce GTX 970を競合製品であるとしたのは、同GPUがMini-ITX向けのショート基板で提供されているNVIDIAの最上位GPUだからである。

 今回、Radeon R9 Nanoの比較用GPUとして、同じフルスペックFiji採用のRadeon R9 Fury Xに加え、ASUS製のGeForce GTX 970搭載ビデオカード「GTX970-DCMOC-4GD5」を借用した。

Radeon R9 Fury Xのリファレンスボード
GeForce GTX 970搭載ビデオカード「ASUS GTX970-DCMOC-4GD5」
Radeon R9 Fury Xとの基板サイズ比較
ASUS GTX970-DCMOC-4GD5との基板サイズ比較

 約170mmというショートサイズの基板を採用した「GTX970-DCMOC-4GD5」は、まさにAMDがRadeon R9 Nanoの競合として挙げるGeForce GTX 970の1つ。このビデオカードはGeForce GTX 970をオーバークロックして搭載しているが、現在のところリファレンス仕様のショート基板採用GeForce GTX 970が存在しないので、今回の検証では「GTX970-DCMOC-4GD5」の仕様通りのクロックで検証を行なう。

【表2】テスト環境
GPUR9 NanoR9 Fury XGTX 970
CPUCore i7-6700K
マザーボードASUS Z170-A
メモリDDR4-2133 8GB×2(15-15-15-35、1.20V)
ストレージ256GB SSD(CFD S6TNHG6Q)
電源Antec HCP-1200(1200W 80PLUS GOLD)
グラフィックスドライバ15.201.110AMD Catalyst 15.8 Beta (15.201.1151)GeForce 355.82 Driver
OSWindows 10 Pro 64bit

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマーク結果の紹介に移りたい。今回実施したベンチマークテストは、3DMark(グラフ1、2、3、4)、3DMark11(グラフ5)、アサシンクリード ユニティ(グラフ6)、The Witcher 3: Wild Hunt(グラフ7)、 ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド(グラフ8)、ベンチマーク MHFベンチマーク【大討伐】(グラフ9)。

 3DMarkのFire Strikeでは、Radeon R9 NanoがGeForce GTX 970に約26%の差で上回り、Radeon R9 Fury XはそのRadeon R9 Nanoを約13%上回った。4K解像度のFire Strike Ultraではこの差が拡大し、Radeon R9 NanoはGeForce GTX 970に32%の差を付け、Radeon R9 Fury Xはそれを17%上回った。

 GPU負荷の低いSky DiverとCloud Gateでは、総合スコアの差は縮まっているが、Graphics ScoreではRadeon R9 NanoがGeForce GTX 970を10~17%上回っている。3DMark11のExtremeプリセットでは、各GPUのスコア差はSky DiverとFire Strikeの中間程度となっている。

【グラフ1】3DMark - Fire Strike (1,920×1,080ドット)
【グラフ2】3DMark - Fire Strike Ultra (3,840×2,160ドット)
【グラフ3】3DMark - Sky Diver
【グラフ4】3DMark - Cloud Gate
【グラフ5】3DMark11 [Extreme]

 アサシンクリード ユニティでは、フルHD(1,920×1,080ドット)時には10~20%だったRadeon R9 NanoとGeForce GTX 970のフレームレート差が、4K(3,840×2,160ドット)の「描画設定:普通」では42%にまで拡大している。このあたりは、HBMにより512GB/secという広大なメモリ帯域幅を実現したRadeon R9 Nanoの優位性がはっきりと見える部分だ。

 アサシンクリードほどではないものの、The Witcher 3でもRadeon R9 Nanoが4KでGeForce GTX 970とのフレームレート差を拡大している。VRAMが4GBの範疇に収まるという条件を満たせるゲームであれば、GeForce GTX 970よりもRadeon R9 Nanoがかなり優位であるようだ。

【グラフ6】アサシンクリード ユニティ
【グラフ7】The Witcher 3: Wild Hunt

 ファイナルファンタジーXIVに関しても、先に紹介したアサシンクリードなどと同じく、4KでRadeon R9 NanoがGeForce GTX 970を引き離しているのだが、フルHDのDirectX 11では僅か1%差に迫られている。

 MHFベンチマークでは、Radeon R9 NanoはGeForce GTX 970に対して、フルHDで約10%、4Kでは約30%の差をつけた。4KではGeForce GTX 970を圧倒する一方で、フルHDではGeForce GTX 970を上回りこそすれ、圧倒できるというわけではないようだ。

【グラフ8】ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
【グラフ9】MHFベンチマーク【大討伐】

 最後に消費電力の測定結果を紹介する。消費電力については、サンワサプライのワットチェッカーを使用して、アイドル時と各ベンチマーク実行時の最大消費電力を測定した。

 アイドル時の消費電力では、Radeon R9 NanoとGeForce GTX 970が40W前半でほぼ並び、水冷ユニットを備えたRadeon R9 Fury Xがやや高い電力を記録した。

 一方、ベンチマーク実行時の最大消費電力については、Radeon R9 Fury Xが400Wを超える電力を消費している場面でも、Radeon R9 Nanoの消費電力は200W中盤から後半で、今回測定したベンチマーク中に300Wを超えることは無かった。

 最大消費電力ではGeForce GTX 970を上回っているRadeon R9 Nanoだが、スコアで25~30%上回った3DMark Fire Strikeなどでは、MaxwellアーキテクチャのGeForce GTX 970を凌ぐ電力対性能比を記録している。

【グラフ10】システム全体の消費電力

コンパクトPCのためのウルトラハイエンドGPUという新機軸

 以上の通り、Radeon R9 Nanoの実力をベンチマークテストで確認してきた。さすがにRadeon R9 Fury Xとの間には1割強ほどの性能差があるものの、AMDの主張通りの大幅な省電力化と、それに伴う電力対性能比の向上が確認できた。小型のクーラーを搭載していることでファンノイズを心配していたが、想像よりも静粛性は高く、ベンチマーク中に著しくノイズが増大するようなことはなかった。

 Radeon R9 Nanoの販売価格は649ドルで、これはRadeon R9 Fury Xと同じ価格であり、ラインナップ上でNanoとFury Xは肩を並べることになる。Fury Xが従来通りの性能至上主義なウルトラハイエンドGPUであるのに対し、NanoはコンパクトPC向けにカードサイズと電力効率を重視した新機軸のウルトラハイエンドGPUと言ったところだろう。

 性能向上のため、ハイエンドGPUが犠牲にしてきた要素を敢えて取り入れたRadeon R9 Nanoが、この価格帯のビデオカードを購入するユーザーにどの程度受け入れられるのかは未知数だが、性能も電力効率も高いレベルにあることは間違いない。

(三門 修太)