Seagateから、2.5インチのハイブリッドHDD「Momentus XT」の750GBモデルが発売された。実売価格は15,980円~16,980円前後だ。今回編集部で1台購入したので、ベンチマークを中心としたレポートをお届けする。
●OSに非依存でよくアクセスするデータを高速化ハイブリッドHDDは、ランダムアクセスが低速ながら大容量を低価格で実現できるHDDと、小容量で高価ながら高速でランダムアクセスが実現できるSSDの特徴を組み合わせた製品だ。ハイブリッドHDDでは、ユーザーがよくアクセスするデータをSSDに置くことで、HDDの低速なランダムアクセスを回避し、実環境における体感速度の向上を図っている。
コンセプトとしてはIntelのRapid Storage Technology(RST)に似ており、SSDをHDDのキャッシュとして使うといったイメージだ。従来ハイブリッドHDDはOSに対応が必須だったが(Windows VistaのReadyDrive)、Momentus XTはその制限をなくし、どのOSでも恩恵を受けられるようになっている。現時点で唯一のハイブリッドHDDと言える存在だ。
初代のMomentus XTは2010年5月に発表され、当時はHDDの容量が最大500GB、SLC NANDフラッシュメモリの容量が4GB、インターフェイスがSATA 3Gbpsだった。今回の新製品は2011年11月に発表されたモデルで、HDD容量は750GB、NANDフラッシュメモリ容量は8GB、インターフェイスはSATA 6Gbpsと、高速化されているのがポイントだ。
そのほかの仕様としては、HDDの回転数は7,200rpmと比較的高速な部類に入るのも特徴。また初代と同様、よく読み書きするデータをフラッシュメモリ上に置くことで高速化を図る「Adaptive Memory」機能、アプリケーションの起動を高速化する「FAST Factor」機能を備える。
外観は一般的な9.5mmと大差はなく、ノートPCなどでも容易に換装できる。初代と比較すると、ケースこそ同一なものの、基板のパターンレイアウトが変更されているのがわかる。おそらくパーツなども変更されているだろう。
なお、実際の動作音は静かで、アクセス音はかすかに聞こえる程度。後述する5,400rpmのHDD「HTS545032B9A300」よりも静かなのは評価に値する。一方で振動は5,400rpm品と比較すると大きめで、モバイルノートに組み込むとパームレストでも振動が感じられる。
Momentus XT | 厚みは9.5mmで、通常の2.5インチHDDと交換可能だ | SATAインターフェイスは6Gbps |
本体底面 | 500GBモデル(写真右)との比較。ケースのデザインは一緒だ | 500GBモデル(写真右)との基板比較。基板が変更されているのがわかる |
●ベンチマークでは優位性が現れない
それでは実際にベンチマークに移って行こう。ノートにおける実利用を想定し、日本エイサー製のCULVノートPC「AS1830Z-A52C/K」を用意した。CPUはPentium U5400(1.20GHz、ビデオ機能内蔵)、Intel HM55 Expressチップセット、1,366×768ドット表示対応13.3型ワイド光沢液晶、OSにWindows 7 Home Premium(64bit)を搭載する。なお、メモリは標準2GBだったが、今回は8GB(4GB×2)に増設した状態でテストを行なった。
本体内蔵の320GB HDD「HGST HTS545032B9A300」(5,400rpm)と交換し、すべてのデータを移行した。また、比較用として、Samsung製の128GB SSD「470」シリーズを用意し、こちらにもデータをすべて移行した上でベンチマークを行なった。
まずはCrystalDiskMark 3.0.1の結果だが、シーケンシャルリードで111.6MB/sec、シーケンシャルライトで95.75MB/secをマークし、2.5インチHDDとしてはまずまずの結果だ。Samsungの470にはさすがに及ばないが、標準のHTS545032B9A300と比較するとそこそこ高速化されているのがわかる。実環境における利用で重要となる512KB/4KBランダムリード/ライトも順当に高速化され、純粋にHDDとしての性能も優秀ということだろう。
HTS545032B9A300のCrystalDiskMark結果 | Momentus XTのCrystalDiskMark結果 | Samsung 470のCrystalDiskMark結果 |
CrystalDiskMarkの結果は空き領域に読み書きした結果なので、物理的にもプラッタあたりの密度が高いMomentus XTが当然優位だ。そこで、全域に渡ってリード速度を計測できるHD Tune 2.55を使用してみたが、こちらではMomentus XTがリード最大117.2MB/secだった一方、HTS545032B9A300がリード最大73MB/secと、やはり大差をつけることができた。Momentus XTではディスク終盤でも53.9MB/secと高速であり、容量がいっぱいになった時でも比較的快適に利用できそうだ。
また、平均アクセスタイムも7,200rpmである分高速で、HTS545032B9A300の18.4msに対して15.5msと、かなりの差をつけている。
HTS545032B9A300のHD Tune結果 | Momentus XTのHD Tune結果 | Samsung 470のHD Tune結果 |
高速性が証明できたとはいえ、これらのベンチマークはテンポラリファイルによる計測なので、独自のAdaptive Memory機能とFAST Factor機能が動作するはずもなく、「高速な7,200rpmのHDD」という印象でしかない。
●起動タイムを計測そこで、Adaptive MemoryとFAST Factorの実力を見るために、Windows 7の起動タイムを計測することにした。今回は2月28日時点でのすべてのWindows Updateを適用したほか、実環境でよく利用するであろう「Microsoft Security Essentials」、「エレコム マウスユーティリティ」、「Intel HD Graphics」、「Synaptics ポインティングデバイス」、「MyWinLocker」、「EmEditor」、「インテル ラピッド・ストレージ・テクノロジー」、「インテル PROSet/Wireless WiMAX」、「インテル My WiFi テクノロジー」、「DAEMON Tools Lite」などのユーティリティを常駐させている。公平性を期すために、WindowsのSuperFetch機能をOFFにしている。
また、Momentus XTに関しては、何度か起動しないとAdaptive MemoryとFAST Factorが機能しないので、あらかじめ3回起動を行ない、その後のタイムを測定している。
測定は下の動画でも示した通り、電源を投入して電源ランプが点灯してから、Windowsのログイン画面が現れ、さらにHDDのアクセスランプが一区切りしたまでのタイムを計測した。
【動画】Windows 7の起動時間比較 |
動画を見てわかるよう、圧倒的なのはSamsung 470で、わずか約33秒で起動した。一方Momentus XTは約56秒、HDDは約1分6秒だった。この結果だけみると、Momentus XTはHTS545032B9A300から高速化されているものの、回転数のハンディキャップもあり、一概にAdaptive MemoryとFAST Factorによる恩恵を受けたとは言えなさそうだ。
そこで、アプリケーション起動も交えたテストを行なった。こちらはWindows 7が自動ログインするように設定した上で、「Word 2010」、「Excel 2010」、「PowerPoint 2010」、「Outlook 2010」、「Firefox」、「ペイント」、「ワードパッド」、「iTunes」、「Internet Explorer」、「PowerDVD 11」という10個のアプリケーションをスタートアップフォルダーに登録。電源を投入して電源ランプが点灯してから、Windowsが起動し、すべてのアプリケーションの起動が完了、HDDアクセスランプが一区切りしたまでのタイムとなっている。また、このテストでもMomentus XTであらかじめ3回起動を繰り返し、Adaptive MemoryとFAST Factorによる性能向上を図った。
【動画】Windows 7+アプリケーション10個の起動時間 |
こちらも、やはり圧倒的だったのはSamsung 470で、わずか1分で起動した。一方で注目すべきはMomentus XTで、1分18秒ですべてのアプリケーションの起動完了している。これはSSDに肉薄する優秀な結果と言えるだろう。HTS545032B9A300の結果は2分42秒だったので、それに比べると半分以下の時間で起動できた計算だ。アプリケーションが多くなれば差がさらに大きくなるので、Momentus XTの実力はかなり高いと言えるだろう。
●一般的な使い方でパワーを発揮する製品以上見てきたように、Momentus XTは大容量ながらアプリケーションの起動が高速、なおかつSSDと比較して圧倒的に容量あたりの低価格を実現した製品と言える。つまり、「アプリケーションを高速に起動したい、でも動画と音楽を多数入れて楽しみたい」という、欲張ったニーズに応えた製品だ。750GBという容量で2万円を切る低価格なので手が出しやすく、ノートPCのアップグレードパスとして非常に魅力的な製品と言えるだろう。
(2012年 2月 29日)
[Reported by 劉 尭]