AMDは10月23日、同社のコンシューマ向けCPU最上位モデルとして、「2012 AMD FX Series Processor」を発表した。今回、AMDより同シリーズの最上位モデル「FX-8350」を借用できたので、新CPUのパフォーマンスをベンチマークテストでチェックしてみた。
●Piledriverコア採用の新AMD FXシリーズ今回発表された2012 AMD FX Series Processorは「Vishera」のコードネームで開発されてきたCPUで、2011年に発売されたBulldozerアーキテクチャ採用の「AMD FX(Zambezi)」の後継に当たる製品だ。Visheraでは、先日デスクトップ版も発売されたAPU「Trinity」のCPUコアに採用されたPiledriverアーキテクチャを採用しており、2つの整数コアと1つの浮動小数点コアを備えたモジュールを最大4基搭載している。
2012 AMD FX Series Processorは、8コアCPU 2製品と6コアCPU 1製品、4コアCPU 1製品の計4製品がラインナップされる。いずれの製品も従来のAMD FXと同じくCPU倍率のロックが解除されたUnlockedモデルとなっている。また、これらの製品はSocket AM3+とAMD 9 Seriesチップセットをサポートしており、BIOSが対応していれば現行のSocket AM3+対応マザーボードに搭載可能だ。
各製品の主な仕様は下記の通り。
CPU | FX-8350 | FX-8320 | FX-6300 | FX-4300 |
CPUコア数 | 8 | 8 | 6 | 4 |
CPU動作クロック | 4.0GHz | 3.5GHz | 3.5GHz | 3.8GHz |
Turbo COREクロック | 4.2GHz | 4.0GHz | 4.1GHz | 4.0GHz |
L2キャッシュ | 8MB | 8MB | 6MB | 4MB |
L3キャッシュ | 8MB | 8MB | 8MB | 4MB |
North Bridge | 2.2GHz | 2.2GHz | 2.0GHz | 2.0GHz |
TDP | 125W | 125W | 95W | 95W |
対応ソケット | Socket AM3+ | Socket AM3+ | Socket AM3+ | Socket AM3+ |
想定価格 | 195ドル | 169ドル | 132ドル | 122ドル |
Visheraのダイ写真 | 2012 AMD FX Series Processorの製品ラインナップ。最上位のFX-8350はIntel Core i5-3570Kの対抗モデルとなる。 |
【お詫びと訂正】初出時に、CPUコア数が誤っておりました。お詫びして訂正させて頂きます。
●テスト機材FX-8350 |
テストを行なうFX-8350は、2012 AMD FX Series Processorの最上位モデルであり、Visheraが備える全てのCPUモジュールが有効化されたフルスペックモデルだ。定格動作クロックは4GHzに到達しており、Turbo CORE動作時は最大で4.2GHzまで向上する。
今回は、このFX-8350をAMD 990FX+SB950チップセット搭載マザーボード「Crosshair V Formula」に搭載して各ベンチマークテストを行なう。比較対象としては、Zambeziの最上位モデルFX-8150のほか、Intel Core i5-3570K(以下、i5-3570K)、Intel Core i7-3770K(以下、i7-3770K)を用意した。
APU/CPU | FX-8350 FX-8150 | i7-3770K i5-3570K |
マザーボード | ASUS Croshair V Formula (BIOS:1605) | ASUS MAXIMUS V GENE (BIOS:1309) |
メモリ | DDR3-1866 4GB×4 (9-10-9-28、1.5V) | |
ビデオカード | Radeon HD 7970 GHz Edition | |
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | |
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | |
グラフィックスドライバ | Catalyst 12.8 | |
OS | Windows 7 Ultimate SP1 64bit |
●ベンチマークテスト結果
それでは、CPUベンチマークのテスト結果から紹介する。実施したテストは、「Sandra 2012.SP5c 18.74」(グラフ1、2、13、14、15、16)、「PCMark05」(グラフ3、4)、「CINEBENCH R10」(グラフ5)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ6)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ7)、「Super PI」(グラフ8)、「PiFast 4.3」(グラフ9)、「wPrime 2.09」(グラフ10)、「PCMark Vantage」(グラフ11)、「PCMark 7」(グラフ12)だ。
FX-8350は、マルチスレッドが有効なテストではFX-8150に対して10~15%程度の高いスコアを記録しており、AMDが競合製品として挙げるi5-3570Kに対しても優位な結果を記録しているテストが少なくない。8基の整数コアと拡張命令セットが活用されるSandraの「Multi-Media Integer」や、「x264 FHD Benchmark 1.01」では、Ivy Bridgeの最上位モデルであるi7-3770Kをも凌ぐスコアを記録している。
一方、初代AMD FX Zambeziが苦手とするコア当たりの性能が問われるテストについては、Piledriverアーキテクチャを採用したFX-8350も同じように苦手としており、CINEBENCHのSingle CPUやSuper PIではIntelのCPUに大きな差をつけられている。ただ、Super PIのスコアについてはFX-8150にも劣る結果となっているため、BIOSやドライバになんらかの問題が生じている可能性も考えられる。
続いて、3Dゲーム系のベンチマークテストの結果を確認していく。実施したテストは「3DMark06」(グラフ17)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ18)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ19)、「3DMark Vantage」(グラフ20、21、22)、「3DMark11」(グラフ23、24、25、26)だ。
FX-8350は、3DMarkをはじめとするマルチスレッドに対応したベンチマークソフトでFX-8150より15~20%高いスコアを記録している。FX-8350の4GHzという高い定格動作クロックは、ハイエンドGPUのパフォーマンスを引き出すにあたって有効に作用しているようだ。
ただし、シングルスレッドパフォーマンスに優れるIntel CPUとの比較では芳しくない結果となっている。CPU系ベンチマークテストでは優位な結果が少なくなかったi5-3570Kに対し、FX-8350が確実に優位なスコアを記録しているのはMHFベンチマーク【大討伐】と3DMark VantageのPhysicsスコアのみで、残りのスコアは良くて同程度、悪いと7割近い大差をつけられている。
GPU負荷の高まる高負荷設定になればi5-3570Kやi7-3770Kとのスコア差は縮まる傾向にあるが、最上位モデルのFX-8350であっても、Radeon HD 7970 GHz Editionとの組み合わせではGPUのボトルネックとなってしまうようだ。
最後に消費電力の比較結果を紹介する。消費電力は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を用いて各テスト実行中の最大消費電力を測定している。
【グラフ27】システム全体の消費電力 |
FX-8350の消費電力は、CPUにフルスレッド負荷を掛け続けるOCCT4.3.1のCPUテスト時に4W高い数値を記録した以外、FX-8150より若干低い消費電力となっている。ほぼ同等の消費電力でパフォーマンスアップを果たしているということは、ワットパフォーマンスが若干改善されたことを示している。
しかしながら、競合製品であるi5-3570Kや、その上位製品であるi7-3770Kとの消費電力差は非常に大きい。シングルスレッドで約40W、マルチスレッドで約110Wという消費電力差は、i5-3570Kとのパフォーマンス差に見合うものであるとは言い難いものだ。
●コストパフォーマンスは良好ながら、非常に高い消費電力以上、FX-8350のパフォーマンスをベンチマークで確認してきた。結果として、CPU系のベンチマークテストではAMDが競合とするi5-3570Kを上回る場面もあり、想定価格195ドルのCPUとしてはなかなか優秀なパフォーマンスであると言える。動画のエンコードなど、FX-8350が得意とする処理が自分の使い方と合致するのであれば、コストパフォーマンス的には魅力のある製品だろう。
コストパフォーマンスという魅力はある一方で、競合となるIntelのIvy Bridge製品との消費電力差は非常に大きく、消費電力あたりのパフォーマンスでは到底及ばないと言わざるを得ない結果だ。FX-8350が得意とする動画エンコードなどが、長時間CPUに高負荷を掛ける使い方であることを考えると、この消費電力の高さは悩ましいところだ。
(2012年 10月 23日)
[Reported by 三門 修太]