「Core i7-3960X Extreme Edition」を検証
Intelは11月14日、コンシューマ向けハイエンドCPU「Core i7-3960X Extreme Edition(以下i7-3960X)」と「Core i7-3930K(以下i7-3930K)」および、対応チップセットの「Intel X79 Express」を発表した。今回、最上位モデルのi7-3960Xをテストする機会を得たので、Sandy Bridge-Eの開発コードネームで呼ばれてきたハイエンドCPUの実力をベンチマークテストで探っていく。
●6コア製品2モデルがラインナップされるSandy Bridge-EIntelのコンシューマ向けハイエンドプラットフォーム用CPUとして登場するSandy Bridge-Eは、まず6コアCPUを2モデルで市場に投入される。Sandy Bridge-E最初の製品となるのは、i7-3960Xとi7-3930Kの2製品で、いずれもHyper-Threading Technologyをサポートした6つのコアを持つ6コア12スレッドCPUだ。
両製品は動作クロックと共有L3キャッシュの容量以外は同じ仕様だ。どちらもCPU倍率の上限を変更可能な倍率ロックフリーモデルとなる。対応ソケットは新型のLGA2011で、過去のプラットフォームとの互換性はない。
Core i7-3960X | Core i7-3960Xの裏側 |
Core i7-3960XのCPU-Z画面 | Sandy Bridgeのダイレイアウト |
CPU | Core i7-3960X | i7-3930K | Core i7-990X | Core i7-2600K |
コア数 | 6 | 4 | ||
スレッド数 | 12 | 8 | ||
CPU動作クロック | 3.3GHz | 3.2GHz | 3.46GHz | 3.4GHz |
Turbo Boost時 最高クロック | 3.9GHz | 3.8GHz | 3.73GHz | 3.8GHz |
L2キャッシュ | 256KB×6 | 256KB×6 | 256KB×6 | 256KB×4 |
L3キャッシュ | 15MB | 12MB | 12MB | 8MB |
AVX拡張命令 | ○ | ○ | × | ○ |
製造プロセス | 32nm | |||
メモリチャンネル数 | 4ch | 3ch | 2ch | |
メモリクロック | DDR3-1600 | DDR3-1066 | DDR3-1333 | |
製造プロセス | 32nm | |||
TDP | 130W | 95W | ||
ソケット | LGA2011 | LGA1366 | LGA1155 |
Sandy Bridge-EのCPUコア周りの構造はLGA1155版のSandy Bridgeに近く、各コアで共有されるラストレベルキャッシュ(L3)を備え、拡張命令セットのAVXや、自動オーバークロック機能のIntel Turbo Boost Technology 2.0に対応している。
Sandy Bridge-Eの動作クロックは、Turbo Boostにより全コア利用時で最大3段階、1~2コアのクロックが上昇する場合は最大6段階CPU倍率が上昇する仕様となっている。このため、i7-3960Xの定格動作クロックは3.3GHzだが、Turbo Boost時には、全コア利用時で3.6GHz、1~2コア動作なら最大で3.9GHzまでクロックが上昇する。
IntelによるSandy Bridge-EのTurbo Boost 2.0の動作説明 | UEFI上の設定画面。i7-3960XのTurbo Boost動作はこのように設定されている | 実際に動作をみてみると、Turbo Boost動作を左右するTDPが130Wと高いこともあってか、全コアに長時間100%負荷をかけた状態でも3.6GHzで動作しており、Turbo Boost状態を維持していた |
アンコア部はLGA1155版Sandy Bridgeからの変更点が多く、PCI Expressインターフェイスやメモリコントローラが強化された一方で、CPUに統合されていたGPUは省略されている。
CPU内蔵メモリコントローラは、チャンネル数が2chから4chに強化され、メモリクロックもDDR3-1600をサポートした。これにより帯域幅は約51.2GB/secとなり、LGA1155版Sandy BridgeのDDR3-1333の2ch(約21.2GB/sec)や、LGA1366/DDR3-1066の3ch(約25.6GB/sec)を大幅に上回るメモリ帯域を実現した。
Sandy Bridge-Eでは、LGA1155版Sandy Bridge同様CPUにビデオカード接続用のPCI Expressインターフェイスを内蔵しているが、Sandy Bridge-Eでは新規格のPCI Express 3.0に対応した。レーン数はLGA 1155版Sandy Bridgeの2倍となる40レーンに増強されており、ビデオカード向けに「x16+x16+x8」や「x16+x8+x8+x8」といった接続を提供可能となった。.なお、PCI Express 3.0を利用するためには、マザーボードの対応と接続するPCI Expressデバイス側の対応が必要となる。
Sandy Bridge-EとIntel X79のブロックダイアグラム。グラフィックカードの接続はPCI Express 2.0と表記されている | PCI Expressについての注釈では、一部のPCI Express対応デバイスが、X79チップセットベースのプラットフォーム上でPCI Express 3.0(8GT/s)の転送レートを実現できる可能性について言及するにとどまっている |
Sandy Bridge-Eでは、新ソケットのLGA2011を採用したことによりCPUパッケージサイズも大型化した。また、マザーボードにはLGA1366と同じ位置に穴が用意されているものの、通常この穴は塞がれているため、LGA1366対応のCPUクーラーをそのまま使うことはできず、LGA2011対応製品を用意する必要がある。
CPUクーラーについては、i7-3960Xとi7-3930KにはCPUクーラーが同梱されない。このため、ユーザーが別途対応製品を用意する必要がある。Intelからは、CPUにクーラーが同梱されない代わりに、LGA2011に対応した水冷ユニットとトップフロー型CPUクーラーの発売が予定されている。
●Sandy Bridge-Eを支える新チップセット「Intel X79 Express」
LGA2011プラットフォームでは、新チップセットのIntel X79 Expressが採用される。ハイエンド向けチップセットとしては、LGA 1366プラットフォーム向けチップセットだった「Intel X58 Express」から、Intel 6シリーズをスキップしてIntel 7シリーズへの変更となる。
従来のLGA1366プラットフォームでは、ビデオカード接続用のPCI Expressインターフェイスを提供するIOH(Input/Output Hub)と、サウスブリッジ機能を提供するICH(I/O Controller Hub)の2チップ構成だった。これに対し、Sandy Bridge-Eでは、CPUにメモリコントローラとPCI Expressインターフェイスを内蔵したため、チップセットはIntel 6シリーズなど同様、PCH(Platform Controller Hub)のみの1チップ構成となった。CPU-チップセット間は20Gbpsの帯域幅を持つDMIで接続されている。
Intel X79のブロックダイアグラム |
Intel P67のブロックダイアグラム |
Intel X58のブロックダイアグラム |
Intel X79の備える機能は、現時点ではIntel P67 Expressとほぼ同じものとなっている。SATAポート6本のうち、SATA 6.0Gbpsに対応しているポートは2本のみで、残り4ポートはSATA 3.0Gbps対応となっている点や、USB 2.0の本数、PCI Expressインターフェイスのレーン数なども同じだ。Intel Z68 Expressで採用された、SSDをHDDのキャッシュとして利用するIntel Smart Response Technologyには対応していない。
●Intel純正のX79マザーボード「DX79SI」今回のテストでは、Intelの「DX79SI」でテストを行なった。DX79SIは、PCI Express 3.0に対応したPCI Express x16スロットを3スロット備えており、3-wayのCrossFireXとSLIに対応する。ストレージはIntel X79 ExpressのSATA 6.0Gbps×2基とSATA 3.0Gbps×4基を備え、メモリスロットは8スロット実装されている。
USB 3.0は、内部ヘッダーとバックパネルに各2ポートずつ用意されており、いずれもルネサス エレクトロニクス製の「D720200AF1」によって提供されている。このほか、ボード上には電源スイッチやリセットスイッチ、POSTコード表示用の7セグメントLEDが実装され、オーバークロックなどケース外での使用を意識していることが伺える製品だ。
メモリスロットはCPUソケットの両側に各4本ずつ実装されており、4chでメモリを動作させる場合は同じ色のスロットにメモリを取り付ける必要がある。なお、テストにあたってメモリを8枚実装時の動作を確認した結果、4GBメモリ8枚差しでDDR3-1600動作と32GB認識することが確認できた。
利用したメモリは両面にメモリチップを実装したダブルサイドモジュールだが、この状態でも各ベンチマークテストは正常に動作していた。ただし、CPUがES品のため、必ずしも製品版でデュアルサイドモジュールの8枚実装が可能とは限らない点に注意していただきたい。
4GBモジュール8枚差し、総メモリ容量32GBでのDDR3-1600動作を確認した | メモリの認識テストには、Intel X79対応のG.SKILL製メモリ「F3-17000CL9Q-16GBZH」を2セット利用した。本来はDDR3-2133 9-11-10-28動作のメモリだが、今回はCPU仕様に合わせてDDR3-1600 9-9-9-24で利用している |
●テスト環境
それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。i7-3960Xの比較対象には、「Core i7-990X Extreme Edition(以下i7-990X)」と「Core i7-2600K(以下i7-2600K)」のIntel製CPU、AMDの「FX-8150」を用意した。
テスト時のメモリクロックについては、各CPUがサポートする最高クロックでテストを行っている。また、テスト項目が同じなので、i7-2600KとFX-8150の検証データについてはFX-8150検証時のデータを流用している。
【表2】テスト環境CPU | Core i7-3960X | Core i7-990X | Core i7-2600K | AMD FX-8150 |
マザーボード | Intel DX79SI | ASUS SABERTOOTH X58 | ASUS P8P67 Rev3.0 | ASUS SABERTOOTH 990FX |
メモリ | DDR3-1600 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | DDR3-1066 4GB×3 (7-7-7-20、1.5V) | DDR3-1333 4GB×2 (9-9-9-24、1.5V) | DDR3-1866 4GB×2 (9-10-9-28、1.5V) |
内蔵GPU | Radeon HD 6970 | |||
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | |||
グラフィックスドライバ | 8.901-110923a-125757E-ATI (Catalyst 11.10 preview) | |||
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | |||
OS | Windows 7 Ultimate x64 SP1 |
●ベンチマークテスト結果
まずはCPUベンチマークのテスト結果から見ていく。テストは「Sandra 2011.SP5 17.80」(グラフ1、11、12、13、14)、「PCMark05」(グラフ2、3)、「CINEBENCH R10」(グラフ4)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ5)、「Super PI」(グラフ6)、「PiFast 4.3」(グラフ7)、「wPrime 2.05」(グラフ8)、「PCMark Vantage」(グラフ9)、「PCMark 7」(グラフ10)だ。
CPU系のベンチマークテストでは、ほぼ全てのテストでi7-3960Xが最高スコアを記録した。CINEBENCHのように6コア12スレッドが活きるベンチマークテストだけでなく、Super PIのようなシングルスレッドで動作するベンチマークテストでも、i7-2600Kを凌ぐスコアを記録している。最大3.9GHzに達するTurbo Boostと大容量キャッシュが有効に機能した結果と言えるだろう。
同じ6コア12スレッドのi7-990Xや、8つの整数コアを持つFX-8150に対しても総じて高いスコアを記録しているが、特にSandraのMulti-Mediaでは、Multi-Media Integerでは整数コア数で上回るFX-8150に14%程度の差をつけ、Multi-Media Float/Doubleのパフォーマンスは新たにサポートしたAVXの効果でi7-990Xを大幅に上回った。
メモリ帯域については、DDR3-1600メモリの4chアクセスに対応したi7-3960Xが頭一つ抜けた記録している。Sandraの「Memory Bandwidth」の37.55~37.60GB/secという結果は、規格上の最大帯域である約51.2GB/secの7割強(約73%)にあたる。これは比較製品中、i7-2600K(約78%)に次ぐなかなか優秀な結果だ。
キャッシュについても、総じてi7-990Xに比べ高速化されており、レイテンシのサイクル数も概ね減少している。特にL3キャッシュについては実効速度で4倍近い差をつけており、Sandy Bridgeアーキテクチャが備える共有L3キャッシュの優秀さが際立つ結果となった。
続いて、3Dゲーム系のベンチマークテストの結果を確認していく。
検証したテストは「3DMark06」(グラフ15)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ16)、「MHFベンチマーク【絆】」(グラフ17)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ18)、「3DMark Vantage」(グラフ19、20、21)、「3DMark11」(グラフ22、23、24)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ25)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ26)だ。
LostPlanet 2のDirectX 9や3DMark06のような、マルチスレッドが有効かつGPU負荷のあまり高くないテストでは、i7-3960Xが優勢な結果となっている。一方で、GPU負荷の高いDirectX 11系のテストではi7-2600Kと同程度に留まるテストもあり、ほぼ全てのテストで優位だったCPU系ベンチマークに比べると、i7-3960Xが明らかに優勢といえる場面は限られている。
もっとも、これはi7-3960Xが3D系ベンチマークを苦手としているという訳ではないだろう。CPU系ベンチマークテストに比べ、6コア12スレッドをフルに活用できるテストが少なく、GPU自体がボトルネックになっている場合もある。それを考えれば、奮わないテストでもi7-2600Kと同程度のスコアを記録したi7-3960Xの結果は決して悪くない。プラットフォーム自体の成熟度合も加味すれば、現時点でこの結果は上出来と言って良いだろう。
最後に消費電力の比較結果を紹介する。この比較では、環境によりメモリの枚数やクロック、チップセットなどマザーボード上の実装部品に違いがあるため、CPUの消費電力差として横並びの比較はできない点に注意していただく必要がある。
消費電力の測定は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を利用して行なった。アイドル時の消費電力のほか、CINEBENCH R11.5でスレッド数を制限して実行した際と、ストレステストツールの「OCCT Perestroika 3.1.0」で、CPUに負荷を掛ける「CPU:OCCT」を実行した際の消費電力をそれぞれ測定した。
さて、i7-3960Xの結果を見てみると、意外なことにアイドル時の消費電力が比較製品中最も低い72Wを記録している。マザーボードが追加チップの少ないシンプルな構成であることも関係しているのだろうが、i7-2600K相手に10W、最もアイドル時消費電力の高いi7-990Xには44Wもの差をつけたことには驚かされた。Sandy Bridge-Eが備える省電力機能の優秀さを示す結果と言えるだろう。
負荷時の消費電力については、最も負荷の高いOCCTによる負荷を実行した際にi7-990Xと2W差という結果になったが、いずれのスレッド数でもi7-990X搭載システムの消費電力を下回った。さすがににTDP 95Wのi7-2600Kとの消費電力差は大きいが、同じTDP 130Wのi7-990X搭載システムや、TDP 125WのFX-8150搭載システムより低い消費電力に抑えていることと、発揮されるパフォーマンスを考えれば優秀な結果と言える。
【グラフ27】システム全体の消費電力 |
●ジャンルを問わず優れたパフォーマンスを発揮するオールラウンダー
i7-3960Xは、コア当たりの性能も高いSandy Bridgeアーキテクチャを採用した6コア12スレッドCPUらしく、シングルスレッドとマルチスレッドのいずれも高いパフォーマンスを発揮した。消費電力面でもi7-990X搭載システムに対して優位な結果を示しており、CPUについては理想的な世代交代が果たされたと言えるだろう。
プラットフォーム全体をみると、CPUの完成度が高い一方で、チップセットのIntel X79のスペックは今ひとつぱっとしない。USB 3.0やCOMPUTEX当時は期待されていたSAS 6.0Gbpsのサポートはなく、ストレージ周りに関してはSATA 6.0Gbps×2本にSATA 3.0Gbps×4本という、Intel P67 Expressと同程度のスペックに留まっている。ICH10Rよりスペックアップしているものの、チップセットとしての機能に目新しさが感じられないのは残念だ。
なにはともあれ、今回のテスト結果も示すように、ジャンルを問わず高いパフォーマンスを発揮するSandy Bridge-Eとそのプラットフォームが、パフォーマンスを求めるユーザーにとって強力な選択肢であることは間違いなさそうだ。
(2011年 11月 14日)
[Reported by 三門 修太]