Kindle |
前回に引き続き、Amazon.comの電子ブックリーダ「Kindle」の試用レポートをお届けする。中編である今回は、Kindle Storeにおけるコンテンツの購入体験記を中心に紹介する。
筆者個人の話で恐縮だが、10年ほど前、日本文学の英語版ペーパーバックを集中的に読んでいた時期がある。筆者は英語そのものはまったく不得手だが(TOEICも500点以下だ)、日本語で一度読んだことのある作品であれば、英語であっても前後の文脈から単語の意味を推測でき、読書体験としてはなかなか新鮮なものがあった。
そんなこともあり、今回はKindleストアで「日本文学の英語翻訳版」か、あるいは「筆者が日本語で読んだことのある海外文学の原著」を探してみたいと思う。やや偏りがあって恐縮だ。
さて、Kindleのメニューから「Shop in Kindle Store」を選んでKindle Storeにアクセス。日本文学の翻訳版を探してみた。海外で著名な日本作家ということで、村上春樹、三島由紀夫、吉本ばななをローマ字綴りで検索してみたが全滅。夏目漱石もヒットしなかった。いろいろ探すうち、村上龍の「ピアッシング」(Piercing / RYU MURAKAMI)が見つかったのでこれを購入した。価格は11.99ドル。もとが200ページもない作品であることを考えるとかなり高価だ。
また、あちらこちらと見ている過程で新渡戸稲造の「武士道」(Bushido, The Soul of Japan / Inazo Nitobe)があったのでこれも購入した。こちらの価格は3.17ドルと安い。ちなみに、この「Bushido」は著作権が切れているためさまざまな出版社から刊行されており、「japan」で検索するとリストがBushidoだらけになる。
なお、「武士道」については他の出版社のバージョンも合わせて購入してみたが、あきらかにおかしな位置で改行が入っているものもあった。同一タイトルで複数のバージョンがある場合は、購入前にサンプルを確認するのがよさそうだ。
MENU画面の「Shop in Kindle Store」を選択してKindle Storeにアクセスする | Kindle Storeのトップページ。基本的には最下段の検索フォームを使ってコンテンツを探すことになる | カテゴリ「Books」の一覧。これだけの数があるとさすがにドリルダウンで探すのは難しいので、作品名もしくは著者名でピンポイントで検索するのが吉 |
話が前後するが、Kindleでコンテンツを探す場合、検索方法は基本的にキーワード検索を用いる。カテゴリから探すには数が多すぎて非効率なので、結果的に作品名や著者名によるキーワード検索に頼らざるを得ない。もちろん検索は英語になるので、作品名や著者名を検索するなどしてつづりを確認し、キーボードで入力する流れになる。
また、これらの検索結果は「by Relevance」、つまり関連性が高いものから順に表示される。これ以外のソート方法は存在しないようで、絞込みもできない。Amazonの検索機能といえば、そのものズバリな型番を入れてもヒットしないなど、どういうロジックで動いているのかわからないことがあるが、Kindle Storeでもそれを受け継いでいるようだ。
●実際にKindle Storeで買ってみる(海外文学編)どうやら日本文学は望み薄であることが分かったので、次は海外作品に目を向けてみることにする。
まずはSFモノから「星を継ぐもの」、「夏への扉」、「2001年宇宙の旅」、「ハイペリオン」、「世界の中心で愛を叫んだけもの」などを検索してみたが全滅。特にダン・シモンズについては、長編がズラリと並ぶ中でハイペリオンシリーズの数冊だけがごっそり抜けているといった状況だ。
とりあえず、網羅性が高いH・G・ウェルズ作品の中から「タイム・マシン」(The Time Machine / H.G.Wells)を購入する。価格は4ドル。ちなみにこのタイムマシンも著作権が切れているようで、検索すると1ページまるまるThe Time Machineだらけという状態になる。
続いて思いついたところを手当たり次第に検索してみる。日本国内でも著名なファンタジー系を探したところ「指輪物語」がヒット。一方、「ハリー・ポッター」シリーズはいわゆる謎本などの関連書籍ばかりが検索にヒットし、オリジナルを見つけられなかった。海外の電子書籍の出版事情には明るくないが、こうした点を見るに、まだまだ海外の電子書籍のラインナップも盤石ではないと感じた。
次にミステリー系から、高校時代に集中的に読んでいたアガサ・クリスティー作品を検索してみる。こちらはあっさりとヒット。しかもかなりの数がある。「アクロイド殺し」、「そして誰もいなくなった」、「ABC殺人事件」などのタイトルが見つかった。今回は「そして誰もいなくなった」(And Then There Were None / Agatha Christie)を購入した。価格は6.79ドルとやや高い。
このほか、村上春樹ファンには馴染みの深いレイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」(The Long Good-Bye / Raymond Chandler、11.78ドル)やスコット・フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」(The Great Gatsby / Scott Fitzgerald,F.、10.69ドル)が見つかったので購入し、いったんここで打ち止めにした。
今回探した中では、H・G・ウェルズ作品とアガサ・クリスティ作品についてはそこそこの数があったので、これら著者の原著を読んでみたいという人にとっては、Kindleは魅力的な端末となりそうだ。
Kindleの電源を投入したのちKindle Storeにアクセスし「great gatsby」で検索、スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」(The Great Gatsby)を購入するまでの手順。Kindle Storeへのアクセス時、また検索実行中にやや待たされていることが分かる |
具体的な購入の流れについてだが、商品の個別ページにある「Buy」ボタンをクリックすることにより、自動的にダウンロードが開始される。カートに放り込んであとで一括精算するのではなく、Buyボタンを押すだけで決済されてしまう。ワンクリック購入に相当する仕組みだ。
もし、間違えてBuyボタンを押してしまった際は、次の画面に遷移する前に、同じ画面の下にある「Purchased by Accident? Cancel this Order」をクリックすることでダウンロードが取り消され、注文もキャンセルされる(ただしクレジットカードの明細上は、いったん計上されたのちに取り消し処理がなされるようだ)。
万一誤ってBuyボタンを押してしまった場合は、画面下部の「Purchased by Accident? Cancel this Order」をクリックすれば、ダウンロードが取り消される | キャンセルが実行され、ダウンロードされたアイテムがリムーブされた | キャンセル直後はまだダウンロード履歴が残っているようで、直後に同じコンテンツを再度購入しようとすると、すでに購入されている旨メッセージが表示される |
使ってみてやや気になったのは、検索結果ページの一覧に価格が表示されていないこと。Amazonでも、またiTunes Storeでも、検索結果の一覧には商品名の横に価格が表示されているが、Kindle Storeではそれがない。とくに前出のように、さまざまな出版社から同一のコンテンツが発売されている場合、価格が購入の決め手になることが多いので、いちいちクリックして確認するのが手間だ。PCからKindle Storeにアクセスするときちんと表示されているだけに、なんとも不可解だ。
ともあれ、大抵のコンテンツではサンプルが読めるようになっているので、まずは気軽にSampleから始めてみるとよいだろう。Sampleのダウンロード手順は購入手順と基本的に同一だ。
●コンテンツを読んでみるPCレスで60秒以内に手に入るというのが売り文句のKindle Storeであるが、ほとんどのコンテンツでは確かに60秒以内にダウンロードが完了し、読むための準備が整うことがわかった。次は実際にこれらの作品を読んでみることにしよう。
購入したコンテンツはHOME画面に一覧で表示されている。カーソルを合わせて四角ボタンを押し込むと、コンテンツのトップページが表示される。次のページに行く際は「Next Page」、前のページに戻る際は「Prev Page」を押す。基本操作はこれだけだ。当然のことながらレジューム機能も用意されているので、読みかけで中断した場合、次回同じコンテンツを開くと、前回読み終えた位置が表示される。
ページめくりに関しては、ある程度の先読みを行なっているようで、普通に読み進めていくぶんにはまったくストレスはたまらない。さすがにページをパラパラとめくって数ページ前に戻るといった操作では待たされるが、普通にページを次へ次へとめくっていくだけであれば、手を動かす必要がない分、リアルな書籍よりも高速だ。なお、電子ペーパーはその仕組み上スクロール表示が苦手であるため(その都度画面全体の書き換えが発生してしまう)、Kindleもページ単位の切替のみで、スクロールといった概念はない。
好印象なのは、全ページに対する既読の割合が、画面の最下段にプログレスバーのように表示されることだ。リアルな書籍の場合「あとどのくらいページが残っているか」は残りページの厚みで予測できるが、電子書籍ではそれを直感的に知る術がない。国内の全電子書籍をチェックしたわけではないが、この問題にきちんと対応できている電子書籍が少ないことは、個人的に電子書籍に馴染めない要因の1つになっている。
そもそも、電子書籍は文字サイズが変更できることから、画面あたりの文字量は決まっておらず、従って「Page」という概念が本のそれとはやや異なる。文字サイズが最小であれば全ページ数は200ページなのに、文字サイズが最大であれば1ページあたりの文字数が減少することから、全ページ数は500ページに膨れ上がるといったズレが発生するわけである。そのため、読み終えたページ数を記憶していても、次回読む前に文字サイズを変更すると、開始位置が変わってしまうといったことが起こりうる。
そこでPageに代わる概念としてKindleが採用しているのが「Location」だ。Locationの総数は画面右下に、例えば「4096」といった具合に表示されている。その隣、画面中央下には現在のLocation番号が表示されている。例えば「2074-81」といった具合だ。これを見ると、全部で4000ほどあるうち2000を超えたところだから、だいたい半分を過ぎたところなのだな、と理解できる。メニュー画面にある「Go To Location」から番号を入力することで、指定のLocationにジャンプすることもできる。
ちなみにこのLocationの概念だが、ピリオドがある度に1つのLocationという説もあれば、ひとまとまりの段落という説もあり、いまいちはっきりしない。今回購入したコンテンツでいくと、日本語版が584ページある「ロング・グッドバイ」が6731Locations、同じく367ページの「そして誰もいなくなった」が3545Locationsあるので、だいたい書籍版(日本語)の1ページ= 10Locations相当ということになる。
Location以外でリアルな書籍との大きな違いといえば、本をたわませて読めないことだろう。ハードカバーでない普通の本は片手でたわませて読むといったことができるわけだが、Kindleではそれができない。筆者はそれほど気にはならなかったが、このあたりは好みが分かれそうだ。
また、枕元で寝転がって読むというスタイルにおいては、革製カバーは邪魔になる場合が多い。個人的にはカバーよりもポーチのような形状のほうが使いやすい場合もあるのではないかと感じた。いずれにせよ、全般的には好印象であり、ハードウェアとして大きな欠点は見当たらない。書籍の使い勝手をよく研究して作られていると感じた。
●NewsPaperやMagazineを読んでみるKindle Storeでは「Books」のほか「Newspapers」や「Magazines & Journals」のカテゴリが用意されている。「Newspapers」では、日本向けのコンテンツとして唯一「The Mainichi Daily News」が用意されている。14日間のフリートライアル版があるので、まずはこちらをクリックして購入してみる。前回紹介した辞書機能などはBookよりもむしろNewspaperとの相性がよさそうだ。ちなみに有料版は月額13.99ドルとなっている。
次に「Magazines & Journals」カテゴリも見てみよう。本誌読者であれば馴染みやすいと思えるのは「PC Magazine」だろう。こちらも14日間のフリートライアル版が用意されている。
カテゴリ「Magazines & Journals」の一覧。今回は「PC Magazine」を選択 | こちらも14日間のフリートライアル版をダウンロード | 「PC Magazine」の本文。これはScanSnap S1500のレビュー記事 |
これらのフリートライアル版については期間満了後は自動的に本契約(月額プラン)に移行し、クレジットカードからの引き落としが発生するとのこと。購読しないのであれば、忘れずに解約するようにしよう。ちなみに解約はKindleからできず、PCからする必要があるようだ。
以上、Kindle Storeでのコンテンツ購入についてお届けした。次回は、コンテンツのアーカイブについて、さらにPDFなど他フォーマットの表示についてチェックしてみたい。
(2009年 11月 19日)
[Reported by 山口 真弘]