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京都大学、「時差ボケ」の原因を数学的に解明
~渡航前日に早起きすると時差ボケが軽減
2017年4月28日 16:00
京都大学は、数学とコンピュータによるシミュレーションにより「時差ボケ」の原因を解明したと発表した。
時差ボケは、時差によって体内時計が影響を受け、現地の昼夜のリズムと体内時計が一致せず、日中の眠気や夜間に寝付けないといった現象を指す。
体内時計は細胞1つ1つが持っているが、時計細胞とよばれる脳の中の神経細胞の集まりがそれらを束ねており、時計細胞の各々が約24時間周期で遺伝子発現を繰り返し、このリズムのタイミングを集団で合わせることによって全体で強いリズムを作りだし、そのリズムが体中の細胞に影響を与えることで体内時計が機能している。
例えるなら、昼夜の1日のリズムを指揮者のリズムとすれば、オーケストラの演奏者のリズムが脳の時計細胞のリズム、聴衆のリズムが体中の細胞のリズムにあたる。時差は、指揮者が突然そのリズムを変更したようなもので、演奏者や聴衆が、その新たなリズムに追従するのに少し時間がかかるというのが“時差ボケ”と言える。
過去の研究から、時差を与えると脳内の時計細胞のリズムが大きく乱れることは知られていたが、振る舞いが複雑なため詳しい観察が難しいという。
そこで、山口賀章 京都大学薬学研究科助教、岡村均 同教授、郡宏 お茶の水女子大学准教授らの研究グループは、リズム集団の振る舞いを数式化し、その数式を解いたり、コンピュータによるシミュレーションを行なうことで時計細胞集団のリズムを予測した。
結果、現地時間が遅れる(1日が長くなる)時差では、時計細胞のリズムは現地の昼夜のリズムよりも先行した状態になるが、集団のリズムが良く揃ったまま、数日で現地のリズムに合わせられることが判明したという。
しかし、現地時間が早まる(1日が短くなる)ような時差では、時計細胞のリズムが昼夜のリズムより遅れるだけでなく、集団のリズムがバラバラになり、全体としてのリズムがほぼ失われた状態に陥ることが判明。この状態にいったん陥ると、時計細胞同士のリズムを再び合わせるのが困難になり、加えて、乱れた周りの時計細胞の影響で昼夜のリズムにもタイミングを合わせることができず、時差ボケからの回復が長引くという。
研究グループは、時計細胞のリズムがバラバラになるのを防げれば、時差ボケから早く回復できるという予想を立て、8時間の時差を2日間に渡り4時間ずつ与えることをシミュレーションで試した結果、リズムはバラバラにならず、時差からの回復が数日早まることが確認できたという。この結果から、ネズミを使って同様の実験を行なったところ、シミュレーションの予測と同様に時差ボケからの回復が数日早まることが確認されたとしている。
すなわち、東向きの長距離旅行時には、出発前日に早起きすると時差ボケが軽減されることが示されており、研究者チームは、これまでに提案されてきた時差ボケの軽減方法と比較して、脳内の時計細胞集団の振る舞いを考慮に入れている点が画期的な点であるとする。
京都大学では、薬などを使わない時差ボケの軽減方法のほか、シフト労働者の体の負担を軽減するようなスケジュール作りにも応用できる可能性があるとしている。