イベントレポート

【詳報】CPUとGPUを刷新した高性能モバイルSoC「Tegra X1」

Tegra X1の概要を説明するスライド。256個のCUDAコアを備えるMaxwell世代のGPU、8コアの64bit ARMプロセッサ、4K/60fpsの動画のデコードが可能になるH.265/VP9の動画エンジン

 NVIDIAは、International CESが開催されているアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市内のホテルで記者会見を開催し、同社がErista(アリスタ)の開発コードネームで開発してきた次世代モバイルSoCを「Tegra X1」として発表した。

 Tegra X1は、GeForce GTX 980/970などに採用されているGPUアーキテクチャのMaxwell世代のGPUを採用しており、256個のCUDAコアを備え、CPUはCortex-A57とCortex-A53がそれぞれ4コアのオクタコア構成になっているなど、強力なSoCとなっている。

 NVIDIAのジェン・スン・フアンCEOは「Tegra X1はFP16において1TFLOPSの演算性能を備えている。これは15年前のスーパーコンピュータが500kWの電力を利用して実現した性能だ。それが数W程度で実現する」と述べ、Tegra X1が高い性能を持っていることをアピールした。さらに、講演の後半では自動車向けのソリューションを多数紹介し、現在NVIDIAがTegraのビジネスで最も力を入れている自動車向けの半導体としてTegra X1が最適であるとアピールした。

256 CUDAコアのMaxwell GPU+Cortex-A57/53オクタコアCPU

 会見の冒頭で、NVIDIAのフアン氏はいきなり新製品を発表した。それがTegra X1で、これまで開発コードネーム“Erista(アリスタ)”で知られてきた製品だ。Eristaの存在は昨年(2014年)の3月に米国で行なわれたGTCではじめて明らかにされ、その時点では「Maxwell GPUを搭載した次世代Tegra」としてだけ紹介されており、CPUは明らかにされていなかった。

 今回、Tegra X1のCPUコアはARMがデザインIPとして提供している64bitプロセッサであるCortex-A57とCortex-A53のそれぞれがクアッドコアで搭載され、合計で8コア、つまりオクタコア構成になっていることが明らかにされた(別記事参照)。

 ただ、Tegra X1の最大の特徴は、モバイル向けのSoCとしては初めてMaxwellアーキテクチャのGPUを採用していることにある。MaxwellはハイエンドGPUであるGeForce GTX 980/970にも採用されている最新世代のアーキテクチャで、Tegra K1に採用されていたKeplerから内部構造を見直すことで、電力効率を倍にしている。加えて、Tegra K1では192個内蔵されたいたCUDAコアは、Tegra X1では256個に増えた。フアン氏は「Tegra X1はFP16を利用した演算で1TFLOPSの高い演算性能を実現している。これは15年前のスーパーコンピュータが500kWの電力で実現した性能だが、それが今や数Wで実現することになる」と述べ、高性能をモバイル向けのSoCにもたらすとアピールした。

Tegra X1を手にもってアピールするNVIDIAのジェン・スン・フアンCEO
フアン氏が公開したTegra X1の性能比較データ。Tegra K1やAppleのA8Xと比較して1.5~2倍程度の性能を実現している
Tegra X1の特徴は電力効率がTegra K1に比べて改善していること。Keplerに比べて電力効率が2倍となるMaxwellをGPUとして搭載しているメリットが出ている
FP16での処理能力は1TFLOPSを超えている。これは15年前の最速スーパーコンピュータに匹敵する性能
IntelのCore i7がCPU+GPUで演算してもTegra X1にはまったく追いつかないとアピール

自動車向けのプラットフォーム製品となるNVIDIA DRIVE

 ついでフアン氏は、自動車向けの製品となる「NVIDIA DRIVE」シリーズを発表した。NVIDIAは自動車向けのソリューションの拡充に力を入れており、Audiなどの欧州の自動車メーカーや、日本の本田技研工業などで採用されている。フアン氏はそうした自動車メーカー向けのプラットフォーム製品として、「DRIVE CX」と「DRIVE PX」という2つのTegra X1を搭載した製品を発表した。

 DRIVE CXは自動車メーカー向けのボックス型のモジュールで、自動車メーカーがメータークラスタ(運転席のメーターのこと)やカーナビゲーションのディスプレイに表示するデータを、Maxwellの強力なGPUパワーを活用してよりリッチにすることなどに利用できるという。発表会ではDRIVE CXを利用してメータークラスターやカーナビゲーションのサンプルを展示し、従来製品よりもリッチな表示をデモした。

 DRIVE PXは、ADAS(先進安全運転システム)と呼ばれる自動運転を含む自動車の安全実現システム向けのボードで、2つのTegra X1がボード上に実装されているシステムになる。2.3TFLOPSの処理能力、12個のカメラ入力、CUDAによるプログラマブルな仕組みなどを利用して車載コンピュータが物体認識などを自律的に行ない、より高い安全性を実現できる。

 現在自動車産業では、こうしたプログラマブルなSoCを利用したADASの実現が1つのトレンドになっており、中でもGPUを利用した汎用コンピューティングを他社に先駆けて実現しているNVIDIAには注目が集まっており、昨年の3月に行なわれたGTCでは深層学習(Deep Learning)の研究成果などがいくつか発表されており、今回のDRIVE PXはその成果を搭載した具体的な製品となる。今回の発表会では、そのDRIVE PXを利用したADASのデモとして、自動車が自律的に物体を認識しそれを学習して見分けていく様子などがデモされた。

 フアン氏は「NVIDIAは自動車向けのソリューションを半導体としてだけ提供するのではなく、半導体、ソフトウェア、ミドルウェア、開発ツール、開発ボードなどをセットにして提供している」と述べ、半導体だけやソフトウェアだけでなく、自動車メーカーがデジタル機器を自動車に搭載する際にはすべてパッケージとして提供できる点がNVIDIAのアドバンテージであるとアピールした。

自動車のデジタル化は日々進展しており、デジタル表示可能なディスプレイが増えつつある
NVIDIAでは自動車に搭載されるデジタルディスプレイの総ピクセル数は増え続けると予想しており、2020年に生産される自動車では2,000万ピクセルを超えると予想している。つまりそれだけGPU性能が必要になるということだ
NVIDIAが発表したDRIVE CX。Tegra X1が搭載された自動車向けのモジュールユニット
DRIVE CXのモジュール
カーナビゲーションに利用するのにせよ、メータークラスターに利用するのにせよ、現在よりもリッチな表示が可能になるとアピール
デモに利用されたメータークラスターとセンターコンソールのカーナビゲーションのリファレンスデザイン
GoogleのAndroid Autoの仕組みを利用してスマートフォンの画面をセンターコンソールに表示させることも可能に
従来は物理的な素材を利用して作られていたメーターも、デジタル化することでデザインの自由度が大幅に高まる
自動車メーカーが次に向いているのがADAS(先進安全運転システム)。CPUやGPUを利用して物体認識をして、自動車が自律的に事故を避けたりする。現在はアナログ的に処理を行なっている場合が多いが、それをGPUなどによりデジタルで処理することで、より高度なADASが実現できる
NVIDIAのDRIVE PX、ADASなどに利用することができるTegra X1を2個搭載したボード。2.3TFLOPSの処理能力を利用して、CUDAのプログラムにより深層学習などが実現できる
Tegra X1を2つ搭載しているDRIVE PXのボード
DRIVE PXの仕組み、カメラから入力された映像を、SoCの演算エンジン(CPU、GPUなど)を利用して処理し、自動車の制御やドライバーへの通知などを行なう
NVIDIAの深層学習の研究を実際の製品へ応用し、自動車が自分で学習して認識率を高めたりという機能が実現される
DRIVE PXを利用したADAS機能の例、速度取締機やパトカーを機械が認識するのだとジョークを飛ばして観客の笑いを誘っていた
ステージにはNVIDIAに関係の深い自動車メーカーとしてドイツAudi社の電気設計開発担当上級副社長リッキー・フーディー氏が登壇し、NVIDIAの半導体を利用したデジタルメーター、カーナビゲーション、自動運転システムなどについて語った
NVIDIAのSurround Vision機能を利用した自動駐車機能のイメージも公開された

(笠原 一輝)