イベントレポート

マザーボードメーカー各社が第4世代Coreプロセッサ用マザーボードを展示

~6月に正式発表予定

Intel 8シリーズ・チップセットのハイエンド版「Intel Z87」
会場:ドイツ連邦共和国 ハノーバー市 ハノーバーメッセ

会期:3月5日~3月9日(現地時間)

 ヨーロッパのITソリューション展示会「CeBIT」が、今年(2013年)もドイツ共和国ハノーバー市にあるハノーバーメッセで開幕した。以前のCeBITはPC、モバイル、エンタープライズなど、IT関連の総合的なイベントとして開催されていた。ただ近年はモバイル関連の主要メーカーがスペインで先週行なわれたMWC(Mobile World Congress)に主眼を置くようになり、CeBITはPCやエンタープライズ関連など“旧来”からのITソリューションを展示する場となっている。

 このCeBITには、マザーボードやケースなどの自作PC向けパーツを販売するベンダーも多数参加しており、その年の半ばに販売を開始する予定の新製品を披露する場として活用している。特に今年は、6月のCOMPUTEX TAIPEIでIntelの新しいチップセットを搭載したマザーボードが発表される予定になっており、CeBITでも注目を集めている。

マイクロアーキテクチャが改良され、性能が向上する第4世代Coreプロセッサ

 今回マザーボードベンダー各社が展示したのは、開発コードネーム「Lynx Point」(リンクスポイント)で知られるIntelの次世代チップセット「Intel 8」シリーズを搭載したマザーボードとなる。

 Intel 8シリーズ・チップセットは、Intelが第3世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Ivy Bridge)の後継製品として開発している「第4世代Coreプロセッサ」(開発コードネーム:Haswell)向けとなる。なお、Intelの第4世代Coreプロセッサには、ノートPC向けとデスクトップPC向けの製品があるが、本記事では基本的にデスクトップPC版のみを説明していく。

 Haswellの開発コードネームで知られる第4世代Coreプロセッサは、従来世代となる第3世代Coreプロセッサと比較して以下の点で拡張されている。

・マイクロアーキテクチャの改良が行なわれCPU性能が向上
・オンダイ電圧変換機が搭載され、電源管理の効率が向上
・GPUが強化され、3D性能やトランスコード性能も向上
・新ソケットLGA1150を使用
・チップセット周りの機能を強化

 CPUマイクロアーキテクチャの改良についてはすでに2012年9月に米サンフランシスコで行なわれたIDF Fallで発表された通りだが、IntelがOEMメーカー向けに語っているところによれば、Ivy Bridgeに比べて10~12%程度の性能向上が期待できるとのことだ。

 また、第4世代Coreプロセッサでは、新たにFIVR(Fully Integrated Voltage Regulator)という仕組みが導入される。

 現在のCoreプロセッサのように、1つのダイにCPU、GPUやメモリコントローラ、システムエージェントなど多くのブロックを統合している場合は、それぞれのブロックに異なる電圧を供給する必要がある。例えばIvy BridgeではCPU、GPU、システムエージェント、I/O、PLLといった5つのブロックに異なる電圧を供給している。Ivy Bridgeまではこの5つの電圧をマザーボード上に用意されている電圧変換機(Voltage Regulator)で変換して供給しているが、この電圧変換機にヒートシンクが取り付けられていることからも分かるように変換損失が大きかった。

 そこで、Haswellではダイ上に電圧を変換する機能を用意しており、それぞれに必要な電圧を供給できるようになっている。ノートPCの場合には、電力効率の向上というメリットがあるし、デスクトップPCの場合には電力効率の向上はもちろんのこと、オーバークロック時の利便性も向上することになる。

内蔵GPUが強化されるが、デスクトップPC向けにはGT2まで

 内蔵GPUに関しても性能が強化される。最大の特徴は演算器の数が増やされることだ。Haswell世代の内蔵GPUは、GT3、GT2という2つのデザインがあり、GT2の機能限定版(つまり一部のエンジンなどを無効にすること)としてGT1.5、GT1というバリエーションが用意されている。

表1 Haswell世代の内蔵GPUバリエーション
エンジン数サンプラ数
GT3404
GT2202
GT1.5122
GT1101

 デスクトップPC版の第4世代CoreプロセッサにGT3のダイは用意されず、GT2、GT1.5、GT1の3種類のみ(GT3はノートPC向け版のみに提供される)。具体的には以下のようなダイ構成となる。

表2 第4世代Coreプロセッサ・ファミリーのダイ構成
CPUGPU
4コアGT2(20EU+2サンプラ)
2コアGT2(20EU+2サンプラ)
2コアGT1.5(12EU+2サンプラ)
2コアGT1(10EU+1サンプラ)

 GT1.5、GT1はGT2の派生品なので、デスクトップPC向けHaswellのダイはクアッドコア+GT2、デュアルコア+GT2という2種類のダイがあることになる。なお、GT2のブランド名はIntel HD Graphics 4600となる予定だ。

 GPUの強化は内部エンジンの強化だけでなく、3D機能の追加、ディスプレイ周りの機能改善、動画再生のクオリティ向上なども実現される。従来のIvy BridgeではDirect3D 11、OpenGL 3.1、OpenCL 1.1へ対応というスペックになっていたが、第4世代CoreプロセッサではDirect3D 11.1、OpenGL 3.2、OpenCL 1.2といずれも最新のAPIに対応することになる。

 ディスプレイ周りの強化としては、従来はCPU側に1出力、チップセット側から2出力となっていたデジタルディスプレイ出力が、全てCPU側に実装されることになり、OEMメーカーがよりデザインしやすくなっている(なお、アナログRGB出力だけは依然としてチップセット側から出すことになる)。また、DisplayPort 1.2、4Kに対応した HDMI 1.4aとデジタルディスプレイ出力に関しても最新のバージョンに対応しており、ディスクリートGPUをリリースするほかのベンダーにようやく追いつくことになる。

 このほか、動画再生時の高画質化機能に対応したのも特徴だ。イメージスタビライゼーションと呼ばれる手振れやぼやけている動画を鮮明化する仕組みや、フレームレートコンバージョン、ガンマ拡張機能なども実装されており、これらを利用することで内蔵GPUでも動画を高品質で再生することが可能になる。

新しいCPUソケットとなるLGA1150が採用される

 また、プラットフォーム周りの改良も特徴の1つと言える。第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)では「Intel 7」シリーズ・チップセットおよび「Intel 6」シリーズ・チップセットを利用することができたが、第4世代Coreプロセッサではこれら従来のチップセットとの互換性がない。バス・アーキテクチャそのものに変更はないのだが、CPUソケットが従来のLGA1155から5ピン減ってLGA1150に変更されるためだ(厳密に言えば、CPUソケットさえ張り替えればLGA1150のIntel 7シリーズ・チップセットマザーボードも製造することはできるだろうが、IntelはOEMメーカーに対して保証もしないしデザインガイドなども提供しないということだ)。ただし、サーマルソリューションに関しては従来と変わらないので、95/65/45/35W用として提供されている現行のCPUクーラーはそのまま使える。

図1 第4世代Coreプロセッサ+Intel 8シリーズ・チップセットのブロック図

 チップセットとなるIntel 8シリーズは、内部が大きく設計変更されている。その最大の特徴はIntelが「I/O Port Flexibility」(柔軟性あるI/Oポート)と呼んでいる仕組みだ。これは、チップセット側に用意されているPCI Express Gen2(最大8レーン)、SATA 6Gbps(最大6ポート)、USB 3.0(最大6ポート)でコントローラなどを共有する仕組みで、3つ合計で18ポートまで利用することができる。例えば、PCIeを6レーン、SATAを6レーン、USBを6レーンという構成も可能だし、PCIeを8レーン、SATAを5レーン、USBを5レーンなどにもできる。OEMメーカーやマザーボードメーカーはそれぞれのポートの最大数と最大18ポートの範囲内で好きな組み合わせを選択できるので、デザインの自由度が向上する。

 なお、Intel 7シリーズ・チップセットでは、一部のSKUにはPCIバスが残されていたが、Intel 8シリーズでは全てのSKUがPCIバスに対応しない。マザーボードベンダーがPCIバスを実装したい場合にはPCI ExpressからPCIバスへ変換するブリッジチップで対応する必要がある。

CPUとチップセットのSKU

 OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは第4世代Coreプロセッサにおいて、以下のようなSKUを用意しているという。

表3 IntelのデスクトップPC向け第4世代Coreプロセッサの出荷時点のSKU(筆者予想)
ブランドプロセッサー・ナンバーベースクロックL3キャッシュコア数/スレッド数メモリクロックターボ時最高クロック倍率アンロックグラフィックスコアグラフィックスクロックTDP
Core i74770K3.5GHz8MB4/81.6GHz3.9GHzGT21.25GHz84W
47703.4GHz8MB4/81.6GHz3.9GHz-GT21.20GHz84W
4770S3.1GHz8MB4/81.6GHz3.9GHz-GT21.20GHz65W
4770T2.5GHz8MB4/81.6GHz3.7GHz-GT21.20GHz45W
4765T2.0GHz8MB4/81.6GHz3.0GHz-GT21.20GHz35W
Core i54670K3.4GHz6MB4/41.6GHz3.8GHzGT21.20GHz84W
46703.4GHz6MB4/41.6GHz3.8GHz-GT21.20GHz84W
45703.2GHz6MB4/41.6GHz3.6GHz-GT21.15GHz84W
44303.0GHz6MB4/41.6GHz3.2GHz-GT21.10GHz84W
4670S3.1GHz6MB4/41.6GHz3.8GHz-GT21.20GHz65W
4670T2.3GHz6MB4/41.6GHz3.3GHz-GT21.20GHz45W
4570S2.9GHz6MB4/41.6GHz3.6GHz-GT21.15GHz65W
4570T2.9GHz6MB2/41.6GHz3.6GHz-GT21.15GHz35W
4430S2.7GHz6MB4/41.6GHz3.2GHz-GT21.10GHz65W

 基本的なSKU構成は現在の第3世代Coreプロセッサと一緒で、プロセッサー・ナンバーの一番最初の数字が4になり、これが第4世代であることを示している。また、プロセッサー・ナンバーの最後にKが付く製品はCPU倍率がアンロックされているバージョンになる点も同じだ。

 同じくOEMメーカー筋の情報によれば、チップセットにはZ87、H87、H81、Q87、Q85、B85の6つのSKUが用意されており、下記のような機能となる。

表4 Intel 8シリーズ・チップセットのSKU(筆者予想)
Z87H87H81Q87Q85B85
ソケットLGA1150
ディスクリートGPUサポートx16×1/x8×2/x8×1+x4×2x16×1/x8×2x16×1x16×1x16×1x16×1
RST-AHCIのみAHCIのみ
Dynamic Storage Accelerator-----
SRT-AHCIのみAHCIのみ
vPro-----
Anti-Theft-----
Small Business Advantage--
I/O Port Flexibility---
USBポート数(USB 3.0最大)14(6)14(6)10(2)14(6)14(4)12(4)
SATA(SATA 6Gbps最大)6(6)6(6)4(2)6(6)6(4)6(4)
最大PCIe Gen2886888
メモリスロット/チャネルあたりのDIMM数2/22/22/12/22/22/2
CPUオーバークロック機能-----

 ビジネス向けのQ/BシリーズはIntel 7シリーズとほぼ同じ位置付けだが、コンシューマ向けのZ/Hに関しては若干変更されており、7シリーズでは用意されていたZ75に相当する製品がなくなっている。また、7シリーズではなく6シリーズのH61がそのまま利用されていたバリュー向けの製品はH81となる。

 Z87で新しく追加される機能としては「Dynamic Storage Accelerator」がある。これは、OSの電力設定がパフォーマンスモードに設定してある場合に、SSDのスループットを25%ほど引き上げて性能を向上させるものだ。もちろんその結果、消費電力の増大をもたらすので、デスクトップPCなどで電力消費にあまり気にしない場合にのみ利用できるという機能になる。OSとしてはWindows 7/8でのサポートが予定されており、デスクトップPCでSSDを利用しているユーザーには気になる機能となるだろう。

ASRock、BIOSTAR、MSIから搭載マザーボードが展示される

 今回のCeBITでIntel 8シリーズ・チップセットを搭載したマザーボードを展示したのは、ASRock、BIOSTARの2社で、MSIも秘密保持契約ベースで顧客にだけ開示するという形でサンプルマザーボードを展示していた模様だ。日本で馴染みがありシェアも高いASUSとGIGABYTEは、今回のCeBITには本格的なブースを設置しておらず、残念ながら展示などはされていなかった。

BIOSTARが展示したIntel Z87搭載ATXマザーボード「Hi-Fi Z87W」。PCI Express Gen3 x16が2本、PCI Gen2 x1が2本、PCIが2本
BIOSTARが展示したIntel B85搭載microATXマザーボード「Hi-Fi B85S3」。PCI Express Gen3 x16が1本、PCI Express Gen2 x16が1本、PCI Express Gen2 x1が1本
BIOSTARが展示したIntel Z87搭載ATXマザーボード「Hi-Fi Z87X 3D」。PCI Express Gen3 x16が2本、PCI Express Gen2 x16が1本、PCI Gen2 x1が3本
BIOSTARが展示したIntel H87搭載microATXマザーボード「Hi-Fi H87S3」。PCI Express Gen3 x16が1本、PCI Express Gen2 x1が1本、PCIが2本
ASRockが展示したIntel Q87搭載microATXマザーボード「IMB-380L」。PCI Express Gen3 x16が1本、PCI Express Gen2 x4が1本、PCIが2本
ASRockが展示したIntel Q87搭載ATXマザーボード「IMB-780」。PCI Express Gen3 x16が1本、PCI Express Gen2 x1が1本、PCI Express Gen2 x4が2本、PCIが3本
ASRockのIntel Z87搭載ATXマザーボード「Z87 Extreme6」。PCI Express Gen3 x16が2本、PCI Express Gen2 x16が1本、PCI Express Gen2 x1が1本、PCIが2本
ASRockのIntel Z87搭載microATXマザーボード「Z87 Pro4-M」。PCI Express Gen3 x16が1本、PCI Express Gen2 x4が1本、PCI Express Gen2 x1が2本
ASRockのIntel H87搭載ATXマザーボード「H87 Pro4」。PCI Express Gen3 x16が1本、PCI Express Gen2 x1が3本、PCIが2本

 マザーボードメーカーによれば、具体的な出荷時期はIntelの発表後ということだったが、OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは6月に台湾で行なわれるCOMPUTEX TAIPEIの期間中ないしはその直前に発表することを予定しているようで、各マザーボードメーカーもこのタイミングに合わせた製品の発表、出荷を計画している模様だ。ハイエンドのIntel Z87搭載マザーボードにフォーカスを絞っているようで、日本のようなハイエンド向けの市場ではこちらを搭載した製品が多数登場することになりそうだ。

 なお、6月の時点で発表される第4世代Coreプロセッサはクアッドコアベースの製品のみで(4570TはクアッドコアのCPUを2つ無効にしたバージョン)、デュアルコア製品に関しては第4四半期になってからの投入となる。このため、第4世代CoreプロセッサのPCをいち早く自作したい場合には、クアッドコア製品がターゲットになるだろう。

(笠原 一輝)