【COMPUTEX 2011レポート】
【GIGABYTEインタビュー編】今後も引き続き他社にない機能の実装で差別化を

リチャード・チェン氏

会期:5月31日~6月4日(現地時間)
会場:Taipei World Trade Center Nangang Exhibition Hall
   Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1/3
   Taipei International Convention Center



 GIGABYTE Technology(以下GIGABYTE)は、古くよりASUSTeK Computer、MSIの2社とならび、マザーボードベンダの御三家の1つとして自作PCユーザーにはなじみ深い存在だろう。GIGABYTEは、Dual BIOSと呼ばれるBIOSの二重化技術にいち早く取り組むなど、他社との差別化を積極的に進めてきており、COMPUTEXでもそうした流れの延長線上にある新しい機能を搭載したマザーボードを発表している。

 本レポートではGIGABYTEのマザーボード部門の開発責任者であるGIGABYTE Technology製品センター担当副社長リチャード・チェン氏に話を伺う機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。

●スマートフォンやタブレットが普及しても依然としてPCは必要

 GIGABYTEのビジネスは実に多岐にわたっている。PCパーツ関連で言えば、マザーボードはもとより、ビデオカードも定評があり、現在はPCケースや、電源供給ユニット(PSU)、マウスやキーボードまで展開している。さらには、自社ブランドのノートブックPC、タブレット、スマートフォンや、大手OEMメーカーの製品を設計/生産するODMビジネスにも古くから取り組んでいる。日本の大手PCメーカーのODM生産も請け負っていて、GIGABYTEで製造されたPCが日本へも輸出されている。

 そうした多角化を進めるGIGABYTEだが、依然としてマザーボードビジネスが同社のコアビジネスであることは明らかだ。というのも、COMPUTEXのブースに行ってみれば分かるが、マザーボードは同社ブースの中心に飾られ、花形の位置を与えられている。

 ただ、それでも以前に比べれば、その比率はずいぶんと下がってきたと言ってよい。というのも、GIGABYTEに限らず、マザーボードビジネス全体が縮小傾向にあるからだ。その最大の要因はノートブックPCやタブレットなどのモバイル機器の市場への浸透が進んだことだ。デスクトップPCへのニーズは以前よりも減っており、もともとノートブックPCの比率が高かった日本市場だけでなく、米国や欧州など他の成熟市場でもノートブックPCの比率は高まってきている。

 しかし、チェン氏によれば、「タブレットやスマートフォンはPCと組み合わせて利用することが多い。それは単に設定に必要というだけでなく、それらで楽しむコンテンツ(音楽や動画)をトランスコードしたりエンコードしたりという作業にPCが必要になる」とのことで、今後もデスクトップPCへのニーズは存在し続けると睨んでいるのだという。こうした考えのもと、GIGABYTEではマザーボードビジネスへの投資を続けており、次々と新しい機能を開発して同社の製品に実装しているのだ。

GIGABYTEブースに展示されていたGIGABYTEブランドノートブックPCは台湾では人気GIGABYTEのブースに展示されていた薄型Mini-ITXマザーボードを採用した液晶一体型PC。ODM生産向けの参考展示で、OEMメーカーを募集中とのことだったGIGABYTEブランドのスマートフォンとなるG SMART

●ユニークな機能で他社との差別化に取り組んできたGIGABYTE

 マザーボードは差別化が非常に難しい製品だ。というのも、マザーボードの基幹部品であるチップセットは、事実上プロセッサベンダが提供する純正品だけになってきており、マザーボードベンダ側にメーカーの選択肢はないからだ。

 例えば、Intelの第2世代Coreプロセッサ・ファミリー(Sandy Bridge)のマザーボードであれば、Intel 6シリーズ・チップセットが唯一の選択肢であり、マザーボードベンダが決められる事と言えば、その中でどのSKU(モデル)を選ぶか、つまりハイエンドのZ68を選ぶか、ローエンドのH61を選択するか、ぐらいしか選択肢が無い。従って、我々報道する側は「Z68搭載マザーボード」という取り上げ方になるが、マザーボードメーカーの側から見れば、どんなにユニークなモノをつくってもZ68マザーボードというくくりでしか見てもらえないということになる。

 チェン氏も「おっしゃる通り、現在のマザーボード開発は非常に差別化が難しい。例えば弊社ではハイパフォーマンス、ハイクオリティを目指した設計しており、他社よりも高品質なPCB(マザーボードなどに利用されているプリント基板のこと)を採用したり、コンデンサは日本製を採用したりしているが、なかなか気がついてもらえないのが現実だ」と、マザーボードメーカーにとって他社との差別化が悩みであることを率直に語る。

 そうしたこともあり、GIGABYTEは以前からさまざまなユニークな機能をマザーボードに実装してきている。以前から有名なところでは、Dual BIOSと呼ばれる機能がある。これは、マザーボード上にBIOS ROMを2つ搭載し、BIOSのアップグレードに失敗しても、もう1つのバックアップから起動することができるというもの。現在ではあたり前のようになっている機能だが、このDual BIOS以前は、ボード上にBIOS ROMは1つしか搭載されておらず、BIOSアップデートに失敗した場合には、そのマザーボードは使用不能になり、修理に出す(事実上は交換)してもらうしかなかったのだ。

 そのほかにも、VRMの数を増やして、より安定した電力をプロセッサやチップセットに供給できるような設計にいち早く取り組んだのもGIGABYTEだった。

 PCの電力は、コンセントからAC 100Vなどで供給される電気を、電源ユニットでDC 12Vや5Vなどに変換してからマザーボードやストレージなどに供給される仕組みになっている。プロセッサやチップセットが利用している電力はさらに低い1~3V程度の電圧になるため、VRMで変換、供給する仕組みになっている。

 一般的な設計では、VRMは1系統か2系統持つだけで十分なのだが、より安定した電力を供給しようと考えた場合、増やして搭載することが、安定動作に有効な場合がある。例えば、プロセッサのクロック周波数を、規定値以上にオーバークロックをする場合がその最たる例だ。

●Touch BIOSやHybrid EFIなどのBIOS関連のユニークな機能

 これらの設計にいち早く取り組みを始めたのはGIGABYTEだったかもしれないが、すぐに他のベンダも同種の機能を搭載したため、売りになっている期間はさほど長くなかった。

 そこでGIGABYTEは今も新しい差別化に挑戦している。例えば、COMPUTEXにおいては、Touch BIOSという新しい機能を、Z68マザーボードに搭載し、そのデモを公開した。Touch BIOSとは、その名の通り、タッチパネルのような操作感でBIOSセットアップを行なうためのWindowsユーティリティで、同社のWebサイトからダウンロードしてインストールして利用することができる。Touch BIOSによりユーザーは面倒なBIOS設定をより手軽にできるようになる。BIOSセットアップに入らなくても、Windows上からアイコンをタッチしたりクリックすることだけで設定できる。

 通常BIOSセットアップを行なうには、POSTと呼ばれる起動時のPCが自身の環境をチェックしていることを示す画面が表示されている間に特定のキー(F1やDelキーなど)を押すことで表示されるBIOSセットアップ画面に入る必要がある。そうしたBIOSセットアップの画面は、文字ベースの表示で、あまりユーザーフレンドリーとは言えない。しかし、Touch BIOSを利用することで、GUIを利用しての設定が利用できるため、非常に容易に設定ができるとする。

Touch BIOSのデモ。タッチパネルの液晶を利用していれば、タッチ操作でBIOS設定ができる。タッチパネル液晶ではない場合には、通常通りマウスで操作が可能

 なお、これとは別にGIGABYTEはクラウドオーバークロックと呼ばれる、スマートフォンやタブレットなどを利用したオーバークロックのコントロール機能を、昨年のCOMPUTEXで発表している。

 もう1つのユニークな取り組みとしては、Hybrid EFIと呼ばれる機能がAMD 9シリーズチップセットやIntel 6シリーズチップセット搭載製品などに実装されている。EFI(Extensible Firmware Interface)とは、既存のレガシーBIOSに変わる、新しいファームウェアの仕様。既存のBIOSは、3TB以上のパーティションから起動することができないため、3TBを超えるパーティションを含むHDD(ないしはRAIDアレイ)から起動しようとするには、EFIの実装が必要になる。Hybrid EFIは、従来のレガシーBIOSの体裁を取りながらも、3TB超パーティションからの起動に対応したもの。

 Touch BIOSのような新しいインターフェイスの採用もあれば、従来のユーザーが慣れ親しんだレガシーBIOSのまま新機能に対応したりといった柔軟性のある取り組みが同社のおもしろいところでもある。

●Z68マザーボードではIntel Smart Response Technologyへの対応に注力

 Intel Z68 Expressチップセットを搭載した同社のメインストリーム向けマザーボードには、PCI Express Mini Cardのフルサイズのスロットが搭載されている。ここにはmSATAに対応したSSDを装着して利用することができる。このmSATAのモジュールは、Z68のIntel Smart Response Technology(SRT)用のもの。SRTとは、SSD(Intel製以外でも構わない)をHDDのキャッシュとして使える機能で、大容量のデータを保存出来るHDDをシステムドライブに使いながら、SSDのランダムアクセス速度の速さを得ることができる。GIGABYTEでは、このPCI Express Mini Cardスロットに、市販のmSATAのSSDをユーザーが自分でインストールすることを想定しているほか、最初からIntelのmSATA SSDをバンドルしたモデル「GA-Z68XP-UD3-iSSD」もを用意している。

 また、GIGABYTEはSRTをより簡単に利用できるようにするユーティリティをバンドルしている。というのも、「SRTを利用するにはSATAの設定をRAIDモードにするなど、設定が必要だからだ」(チェン氏)。そうした設定を「EZ Smart Responseユーティリティ」(EZ-SRユーティリティ)というツールで、自動で行なえるようにしている。

 なお、同社のZ68マザーボードには、黒い基板のハイエンド向けと、青い基板のメインストリーム向けの2種類のSKUが用意されている。このうちmSATA用のスロットが用意されているのは青い基板が採用されたメインストリーム向けだけとなる。この点についてチェン氏は「ハイエンドユーザーはそもそも容量が大きなSSDをシステムドライブに利用するか、キャッシュ用SSDをすでに持っていることが多い。このためハイエンド向けには必要ないと判断した」と説明する。

GIGABYTEのマザーボードGA-Z68XP-UD3に用意されているmSATA対応SSD用のPCI Express Mini Cardスロット。実装されているのはIntelのmSATA SSDmSATAのモジュールはIntelだけでなく、複数社から提供されている。COMPUTEXではSan Diskのブースでも展示されていた

●X79の製品展開はハイエンドが8DIMM/4PCIe

 COMPUTEXも終了し、すでに業界の目は今年の後半や来年に向け始められている。GIGABYTEはブースで今年の後半にリリースする予定のIntel X79 Expressチップセット搭載マザーボードを展示した。

 X79は、LGA1366用Core i7 Extreme/Core i7向けのチップセットであるIntel X58 Expressチップセットの後継となる製品で、LGA2011(Socket R)用のSandy Bridge-E(開発コードネーム)と呼ばれる、本来はサーバー/ワークステーション用に開発されたプロセッサと組み合わせて利用する。メモリはDDR3のクアッドチャネルで、PCI Express Gen3を2x16レーン、ないしは4x8レーンの構成で利用できる。

GIGABYTEが同社ブースで展示したX79搭載マザーボードGA-X79A-UD3

 現時点では詳細をIntelが公表していないこともあり、チェン氏はX79について詳しく語らなかったのだが、「PCBは8層基板となる。IntelのX79のデザインガイドが8層基板を前提にしていることもあるが、十分に対応することができると思う」と、現時点での同社のX79マザーボードは8層基板であることを明かした。

 メモリソケットとPCI Expressの構成に関しては、ハイエンド製品はメモリが8つ(各チャネル2DIMM)/PCI Expressは4本のx16スロット(電気的には2x16か4x8を選択可能)という構成になり、普及価格帯の製品に関してはメモリが4つ(各チャネル1DIMM)/PCI Expressは4ないし2本のx16スロットという構成を考えて設計を行なっていると説明した。

 今回GIGABYTEは自社ブースでGA-X79A-UD3という4本のDIMMとPCI Express x16スロットを搭載した製品を展示していたが、チェン氏の言葉通りであればこれはハイエンド製品ではないということになる。つまり、実際のリリース時期にはもっとハイエンドな製品が用意されているということであり、どのような製品がでてくるのか、楽しみだ。

(2011年 6月 15日)

[Reported by 笠原 一輝]