「A NEW HP WORLD」イベントレポート
~AppleのiOSと同じ戦略を取るHPのwebOS

A NEW HP WORLDのイベント会場入り口

2月24日~25日 開催



 米Hewlett-Packardは、23日(中国時間)に開かれた「A NEW HP WORLD」のイベントで、HPの戦略やビジョンなどを紹介する基調講演を行なった。また、製品やソリューションを紹介するスペースも用意したほか、24日に製品やマーケティングに関するインタビューも執り行なった。本記事ではこれらのイベント内容をまとめてお伝えする。

●10年後を予測
Jos BRENKEL氏

 講演の冒頭では、Jos BRENKEL氏(Senior Vice President, Personal Systems Group, HP Asia Pacific and Japan)とTed CLARK氏(Senior Vice President and General Manager Notebook Global Business Unit Personal Systems Group)が、HPの製品取り組みや、新製品に採用されたイノベーションについて紹介した。

 BRENKEL氏によれば現在、インターネットコミュニティの形成により、資産を共有するトレンドが見られるという。自動車を例に挙げ、「自動車が駐車場に停車している時間は無駄である。そこでインターネットコミュニティを介して、複数の人が同じ車を共有する利用方法が生まれた。こういったコミュニティを形成できるバックエンドのソリューションも、我々から提供している」とし、同社が社会全体に対して、新しいライフスタイルを提供できることをアピールした。

 CLARK氏は、新製品に採用されている、ユーザーの利用状態を検出し、最適な冷却を行なえる技術「CoolSense」と、最大60度の傾斜がつけられるようになった「TouchSmart」を挙げ、「いずれもユーザー主導のもとに、イノベーションとして生まれたもの。特にタッチはPCとのインタラクションを直感的に行なえ、今後もPCはタッチによるユーザーインターフェイスへ向かうだろう」と述べた。

Ted CLARK氏CoolSenseのUI新しいTouchSmart

 続いて登壇したPhil McKINNEY氏(Vice President and Chief Technology Officer, Personal Systems Group)は、IT業界における5つの分野の今後10年間の予測について紹介した。

Phil McKINNEY氏2020年までの予測5つの分野における変化

 まず、ソーシャルネットワークについて、2016年にはビジネスにも本格的に使われるようになり、仮想経済が生まれるだろうとした。さらに2019年には、よりビジュアル的なものへと変化し、コラボレーションツールとしてビデオ会議などがより好まれるようになるだろうとした。

 ユーザー体験は、センシング技術の進化により、2013年頃には、家の中の電力消費などを監視し、住む人の行動パターンを自動的に分析していく「スマートハウス」が生まれるとした。また、2016年以降は医療分野にも本格的に普及し、自分の家にあるセンサーを使って健康状態を管理することもできるようになるだろうとした。

 ネットワークについては、2013年にはデバイスの増加によりネットワークトラフィックが爆発的に増え、帯域幅の制限が課せられるようになると予測。そして2016年にはモバイルでのインターネット利用が本格的に普及するだろうとした。そして2019年には、位置情報と組み合わせてユーザーに情報を提供できるインテリジェントなネットワークになるという。

 デジタルコンテンツ分野では、近年中にもダウンロードできる電子書籍の売上が、実際の書籍の売上よりも上回ることになるだろうとする。2013年には複数のデバイスが同一ユーザーのコンテンツを管理できるようになるだろうとし、2016年にはコンテンツのパーソナル化がより進むだろうとした。

 そして最後に携帯できるモバイルガジェットだが、複数のデバイスを所持するユーザーにとって情報の一元管理が必要であり、現時点でHPが考えている最適解が時計型の端末であるとし、Fossilと協力して開発した腕時計型の情報端末を見せた。その次のステップとして、いわゆるクラウド化、つまりこれらのガジェットがインターネットに常時接続でき、コンテンツのありかに関わらずアクセスできるようにする要求が増えるだろうと述べた。

ソーシャルネットワークの変化センシング技術の進化によるユーザー体験の変化ネットワークの変化
デジタルコンテンツの変化ガジェットデバイスの変化Fossilと共同開発した腕時計型の情報端末

●コンシューマ向けPCの「MUSE」コンセプト

 製品を紹介するブリーフィングセッションでは、PC製品担当のStacy WOLFF氏(Director of Notebook Design, Personal Systems Group)と、YAM Su Yin氏(Senior Director, Notebook PC, HP Asia Pacific and Japan)が、新製品の特徴を解説。

 同社がPC新製品の設計にあたって注力しているのは、業界のトレンドに則ったものであるという。そして現在のコンシューマ市場におけるトレンドとして、環境にやさしい材料の採用や、アートを取り入れたシンプルなデザインと色などを挙げ、同社は「MUSE」というコンセプトのもとこのトレンドに応えるとした。

 MUSEとは、マテリアル(Material)、ユーザビリティ(Userbility)、センサリー(Sensory)、エクスペリエンス(Experience)の4つのこと。マテリアルはその時点においてもっとも感触のよい、そして環境に配慮した素材。ユーザビリティは使いやすさを分析したインターフェイスの設計、特にキーボードの配列や感触などもユーザーの声を反映しているという。センサリーは箱を開封してから電源を投入するまでユーザーを満足させることであり、パッケージデザインから、よりよいサウンドとグラフィックスの体験を提供するという。最後にエクスペリエンスとはユーザーに刺激を与えるようなデザインといい、同社のデザイナーだけではなく、ワールドクラスのトップデザイナー(Vivienne Tamなどもその一例)を採用してデザインを行なっているとした。

Stacy WOLFF氏業界のトレンドコンシューマPCにおけるMUSEのコンセプト

 一方、MUSEのコンセプトを反映して製品やソフトウェアになった具体的な例として、より良いオーディオ環境を提供するBeats Audioを挙げ、トップクラスのミュージシャンと連携して開発したものであると強調。また、新しいTouchSmartシリーズも、大きく傾斜角をつけることで、より自然なタッチユーザーインターフェイスを実現できるとした。このほかユーザーの使用状況に合わせて放熱方法を変える「CoolSense」、指紋による複数のパスワード管理ができる「SimplePass」なども、トレンドやユーザーの声を反映して作られたものであると述べた。

YAM Su Yin氏Beats AudioではDACや配線などの見直しを行ない、音質向上を図ったユーザーの利用シーンにあわせて最適な冷却を提供する「CoolSense」

●webOSに関連するQ&A

 イベントの2日目となる23日には、Phil McKINNEY氏のQ&Aセッション、そして24日にはマーケティングやキャンペーンを担当しているJos BRENKEL氏と、九嶋俊一氏(日本ヒューレット・パッカード株式会社 パーソナルシステムズ事業統括 クライアントソリューション本部 本部長)にインタビューを行なう機会を得た。ここでは、もっとも注目度の高かったwebOSに関連する質問とその回答をまとめてお伝えする。

Phil氏

Q:webOSの今後の展開について教えてください。

Phil氏:webOSはスマートフォンやスレート端末だけでなく、ラップトップPCやデスクトップPC、さらにはプリンタなどへも展開していく。我々は7,000万台のデバイスを出荷しているが、webOSが我々のあらゆるデバイスで、共通したプラットフォームとして動作することで、アプリケーション開発者が増えていくだろう。

 我々はPalmを12億ドルで買収した。それを買収したからには、シェアナンバースリーとか中途半端なものではなく、ナンバーワンのシェアをきっちり取っていく。

Q:ラップトップやデスクトップPCにもwebOSを持ってくるということは、Windows 7と競合しませんか。

Phil氏:ここで重要なのは、webOSがWindows 7とは競合しないOSであるということだ。我々がwebOSをラップトップやデスクトップPCにもって来る際には、Windows上でwebOSが動くようにする。それがエミュレータなのか、仮想環境なのか、現時点ではお話しできませんが、webOSはハードウェアのプラットフォームを超えて、さまざまなデバイスとの接続性を持ち、シームレスに統合できるOSとなる。つまり開発者にも、エンドユーザーにもシームレスな環境を提供できるのが強みである。

Q:webOSをサードパーティにライセンスすることはお考えでしょうか。

Phil氏:まず言えることは、我々がもっとも注力しているのはwebOSの機能強化である。VPNやセキュリティ機能の充実は、エンタープライズ市場へ打って出るためのステップアップとなる。コンシューマにおいてもユーザーインターフェイスの改善に注力していく。そのリソース配分のため、サードパーティへのライセンスは行なわない。

Jos氏

Jos氏:我々のwebOSのビジネスは、AppleのiOSとまったく同じと考えてもらって良い。つまりハードウェアだけでなく、ソフトウェアとしてマージンを取るということだ。他のメーカーと比べてみましょう。AcerやLenovoの利益率は1.6%前後だが、我々は6.4%と5倍以上の利益率を達成している。この利益率を維持するためには、ソフトウェア面のマージンをきっちり取っていく必要がある。

 Acerも同様に、独自OSで独自のコンテンツホルダーを用意しているメーカーもあるが、そのOSはAcerによって独自開発されたものではないというのが私の認識だ。我々はOSを自社で開発している。Appleと同様、デバイスだけでなく、エコシステムとして展開していく。

Q:App Storeのような仕組みを用意するということでしょうか。

Jos氏:答えはYesだ。ユーザーが欲しいものの本質は“コンテンツ”であり、デバイスはそのコンテンツへアクセスする手段でしかない。コンテンツそのものはソフトウェアであったり、音楽であったりする。我々はAppleと同じビジネスを展開しようとしている以上、ソフトウェアのライブラリもコンテンツホルダーも用意しなければならない。そのため、ソフトウェアの開発者などにもきっちり利益をフィードバックできる仕組みを用意する。

 現時点ではソフトウェアのライブラリは用意しているが、そのほかのコンテンツに関しても用意していくことになるだろう。

Q:スレート端末では、家族で共有するといったシーンも増えていると思うが、マルチユーザーアカウントへの対応予定はあるのでしょうか。

Phil氏:確かに、家族での利用において、子供が勝手に支払い決済できないよう、ペアレントコントロールなどの機能を取り入れる必要があるだろう。そして個人情報に関しては、アプリケーション側がマルチユーザー管理できればさほど問題にはならないのも確かだ。しかし、コンテンツのパーソナル化が進むにつれ、OS側で真のマルチユーザーアカウントに対応する必要が出てくることも確かだ。それは今後対応していかなければならない課題だろう。

Q:webOSがiOSやAndroidに対するアドバンテージはなんでしょうか。

Phil氏:開発者の観点からすれば、まずほかのプラットフォームからの移植が容易であるということが挙げられる。例えば有名なゲーム「Angry Bird」は、iOSからAndroidへ移植する際に2カ月の時間を要したが、webOSへ外部のツールを使うことで、わずか3日で実現できた。

 また、webOSのアプリケーション開発にHTML5、CSS、Javaが使えることが大きなメリット。すなわち、Webアプリケーションの開発者が、すでに7年間使われているスタンダードな知識で、webOS上でのアプリケーションを制作できるということだ。

九嶋氏

九嶋氏:ユーザーの観点からすれば、OSそのものの機能が洗練されていることがメリットになるだろう。マルチタスク重視のUIや、ソーシャルネットワーキングサービスと統合されたソフトウェアなどだ。一方、エンタープライズ分野への対応もアドバンテージであり、より多くのExchangeのポリシーをカバーしている。

Q:日本での展開時期は。

Jos氏:まず、日本におけるローカライズを行なわなければならない。iOSやAndroidも日本へ投入する際、少しタイムラグが発生しているから、我々が大きく遅れているという認識はない。iPhoneやAndroidは既に日本語のローカライズが進んでいるので、新バージョンが出るたびにそれほど待つことなく日本語で使えるが、webOSはスクラッチから作ったOSであり、まだ日本語のローカライズが進んでいない。よって初回は投入がやや遅れてしまうだろう。だが日本は重要なマーケットだと考えているので、投入時期のスピードアップを図っていきたい。

九嶋氏:日本のローカライズに関しては、まだ日本法人が噛んでいない。ダブルバイト文字への対応は(先行する中国語バージョンによって)されているが、詳細はこれから詰めていきたい。

Q:webOSのバージョンの違いについて教えてください。

九嶋氏:スマートフォン向けは現時点では2.0であり、今後2.1と2.2がリリースされる。一方スレート端末向けは3.0が今後出る予定。2.xシリーズと3.0の主な違いはソフトウェアキーボードの有無、画面サイズの違いなど挙げられる。

 以上、A NEW HP WORLDのイベントレポートをお伝えしてきたが、どちらかと言えばPCよりもwebOSに重点が置かれていた。これはHPがAppleのようなビジネスモデルへの第一歩を踏み出したことを告げており、印象的なイベントとなった。

(2011年 2月 25日)

[Reported by 劉 尭]