イベントレポート
「nano tech 2015」レポート
~究極のメモリ誕生か?「スキルミオンメモリ」が提案される
(2015/3/5 17:44)
2015年1月28~30日、東京ビッグサイトで、ナノテクノロジーに関する総合展示会「nano tech 2015」が開催された。この展示会は、今回で14回目となる展示会であり、内外の企業や研究機関、大学などの最新の研究成果が発表される場として定着している。nano techの開催にあわせて、関連展示会も多数併催されており、そのうちの1つが、すでにレポートした「3D Printing 2015」である。ここでは、nano tech 2015の出展の中から、特に本誌読者が興味を持ちそうな話題を紹介していきたい。
理化学研究所がナノサイズの渦状構造「スキルミオン」を利用した究極のメモリを提案
理化学研究所のブースでは、「スキルミオンメモリ」に関する展示が行なわれていた。スキルミオンとは、ある種の磁性体に現れる、ナノサイズの渦状構造である。通常、磁性体では、電子スピンの向きが揃っており、それによって磁性が生まれるのだが、近年、磁性体の中で、電子スピンが渦状に倒れる現象が発見された。この構造をスキルミオンと呼んでいるが、スキルミオンのサイズは1~100nmほどと極小であり、スキルミオンの生成/消去を制御できれば、高集積化が可能なメモリとして使うことが可能になる。スキルミオンは、リフレッシュ動作が必要なDRAMと違って、保持に電力を消費する必要がなく、フラッシュメモリなどと同じ不揮発性メモリとして利用でき、書き込みや消去に必要な時間も数十ps~数μs秒と非常に短時間だ。スキルミオンメモリは、現時点で最速のメモリであるSRAMよりも高速で、現時点で最も集積度の高いNANDフラッシュメモリと同等の高集積が可能な、まさに夢のメモリになるポテンシャルを秘めている。
理化学研究所創発物性科学研究センターの金子良夫氏らは、磁性体の一部に切り欠きを作り、電流を流すことで、スキルミオンの生成や消去に成功しており、今後、メモリとしての実用化に向けて、さらなる研究を進めるとのことだ。スキルミオンメモリは、現在のSRAMやDRAM、フラッシュメモリなどの置き換えだけでなく、HDDの置き換えも狙えるという。もちろん、スキルミオンメモリは、まだ基本原理が発見されただけであり、メモリとして利用するには、長年の研究開発が必要である。しかし、その潜在能力の高さは、ポストDRAMやポストフラッシュメモリとして大いに期待できそうだ。
CNT透明導電フィルムやウェアラブル電極インナーを展示していた東レ
東レは、カーボンナノチューブ(CNT)を利用した透明導電フィルムに関する展示を行なっていた。透明導電フィルムは、液晶やタッチパネルなどになくてはならないもので、現在は、ITO導電フィルムが広く使われている。CNT導電フィルムは、繰り返し曲げたり、延ばしたりしても、特性が劣化しにくいことが利点である。透過率についても、ITO導電フィルムと遜色のないものができているという。ただし、透過率と表面抵抗値はトレードオフの関係にあり、透過率を高めると、表面抵抗値も高くなってしまう。ブースでは、CNT透明導電フィルムを使った3D成形タッチパネルやタッチスイッチ、電子ペーパーなどが展示されていた。
また、ウェアラブル電極インナー「hitoe」に関する展示も行なっていた。hitoeは、ナノファイバー生地に高導電性樹脂を特殊コーティングした素材であり、耐久性に優れ、生体信号を高感度に検出できることが利点だ。hitoeは、NTTドコモのトレーニング支援サービス「Runtastic for docomo」用のトレーニングデータ計測用デバイス「C3fit IN-pulse」に使われている。
カーボンナノチューブヤーンやナノファイバーに関する展示を行なっていた帝人
帝人は、カーボンナノチューブをよじりあわせた連続糸「カーボンナノチューブヤーン」に関する展示を行なっていた。カーボンナノチューブヤーンは、100%カーボンナノチューブで構成されており、金属と同等以上の熱伝導率と優れた電気伝導性を実現していることが特徴だ。電気伝導性の高さを活かして、オーディオケーブルなどの応用が考えられる。
また、直径700ナノメートルという超極細のナノファイバー「ナノフロント」を利用したアンチスリップ素材や遮熱シートについての展示も行なわれていた。ナノフロントの表面積は、通常の繊維の数十倍あり、それを活かすことでアンチスリップ機能や高い遮熱性を実現できるという。
そのほか、ポリ乳酸繊維を圧電体として利用し、電極に導電繊維、摩擦によって密着性を上げるため、ナノフロントを複合させた圧電ファブリックに関する展示や金属や色素を用いることなく、ナノオーダーのポリマー層を数百層重ねることで、構造発色を実現した「モルフォテックス」に関する展示も興味深かった。
NEDOがカーボンナノチューブを利用したアクチュエータのデモを行なう
NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のブースでは、CNT(カーボンナノチューブ)やグラフェンを利用した材料のデモなどが行なわれていた。CNT関連では、単層CNTを使ったアクチュエータのデモに注目が集まっていた。この単層CNTアクチュエータは、CNTとイオン液体、ベース樹脂からなる電極2枚の間に、イオン液体とベース樹脂からなるゲル電解質を挟み込んだ構造をしており、数ボルトという低い電圧で動作することが特徴だ。このCNTは、産総研ナノチューブ応用研究センターらが開発したスーパーグロース法を利用して作製されている。スーパーグロースCNTは、従来のCNTに比べて純度が極めて高く、量産化がしやすく、価格も安くなることが期待されている。
また、電極にCNTを使ったカーボンナノチューブキャパシタやグラフェンを利用した超軽量フレキシブル透明導電膜のデモも行なわれていた。カーボンナノチューブキャパシタは大容量を実現できるため、バッテリ交換時のメモリバックアップ用途などにも向いている。
科学技術振興機構が体に貼る生体情報センサーや高効率高輝度照明を展示
科学技術振興機構のブースでは、体に直接貼る生体情報センサーやナノ中空粒子を用いた高効率高輝度照明に関する展示などが行なわれていた。この生体情報センサーは、有機トランジスタを利用したもので、非常に薄く、粘着性ゲルを用いて生体に貼り付けるため、生体が動いても位置がずれず、正確に生体情報の計測が可能なことが利点だ。
LEDは省エネ光源として広く用いられているが、指向性が強く、液晶バックライトや照明に使う際には、光を拡散する必要がある。通常は、拡散フィルムなどを利用しているが、照度が低下してしまう問題があった。そこで、ナノサイズのシリカの中空粒子を作成し、拡散フィルムに分散させることで、全透過率を低下させずに、拡散透過率を高めることができ、従来に比べて約2倍の明度を実現したという。同じ明度なら、LEDの消費電力を下げることが可能であり、バックライトの低消費電力化にも貢献できる技術である。