イベントレポート
ソニーモバイル・ラウンドテーブルレポート
~OSの選択は柔軟に考えているが、今はAndroidに集中する時
(2014/2/26 09:26)
日米欧のような成熟市場のユーザーにとって今回のMWCで最も興味を引く発表は、2月24日(現地時間)に行なわれたSamsung Electronics(別記事)とソニー(別記事)による最新端末の発表だっただろう。その両雄のうち、ソニーはフラッグシップ製品となるスマートフォンの「Xperia Z2」と、タブレット「Xperia Tablet Z2」の2製品を発表し注目を集めた(商品の詳細に関しては別記事参照)。
そのXperiaシリーズの商品企画を担当する、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社 UX商品企画統括部長兼クリエイティブディレクター 黒住吉郎氏のラウンドテーブルが開催されたので、その時の模様をお伝えしていきたい。この中で黒住氏は「OSの選択は常に柔軟に考えているが、今は先行するライバルをキャッチアップするタイミングで、Androidに集中すべきだと考えている」と述べ、将来的にAndroid以外を採用する可能性は否定しなかったが、2014年に関してはAndroidに集中していくという姿勢を明確にした。
ソニーだからできることをさらに詰め込んだXperia Z2
ラウンドテーブルの冒頭で黒住氏は、ソニーの記者会見での発表内容を復習する形で、ソニーモバイルコミュニケーションズ(以下ソニーモバイル)がどのような形で製品を開発してきたのかと説明した。
黒住氏は最初に同社のフラッグシップスマートフォンとなるXperia Z2について触れ、「今回のXperia Z2はやるのが難しい商品だった。というのも、Xperia Z1はワンソニーという旗の下ソニーの力を結集して作り上げた。それから、6~7カ月後に新製品をやるというのは、出来のよいお兄さんがいた学校に入る弟のようなモノで、非常に難しかった」と述べ、わずか半年のサイクルでXperia Z2を出すのはソニーモバイルにとっても楽な判断では無かったと述べた。
実際に製品化する上でさまざまな議論があったという。例えば、デザインはその端的な例だという。「ZからZ1へとデザインの基本コンセプトを引き継いで来たが、新製品でもそれで良いのかということは議論した。ただ、ZそしてZ1で基本的なコンセプトは高い評価を受けていたので、弱点を改善するアプローチを取った。例えば、Z1ではベゼルが大きいというお客様の指摘もあったので、そこをできるだけ細くするように努力し、Z2では本体の横幅は若干狭くなっているのに5.2型のパネルを入れ込むことができた。また、ディスプレイそのもののもBRAVIAに匹敵する色域を持ち、IPS液晶を採用することで、画質には充分満足できると考えた」とキープコンセプトを維持しながら、使い勝手だったり、画質だったりという部分にこだわった設計したのだと説明した。
そして2つ目のポイントとしてカメラを挙げた。黒住氏は「Z1のカメラはかなり高い評価を受けたこともあり、今度は何をすべきなのかを検討し、4Kの動画録画の機能で行こうと決めた。そのタイミングで、MHL3.0のサポートで行けそうと言うことが見えてきたので、BRAVIAの事業部と掛け合って、2014年型のBRAVIAのハイエンドでMHL3.0のサポートを実現してもらった」と述べ、カメラではZ1で高い評価を受けた静止画の機能をさらに改良しつつ、4K動画録画の機能にフォーカスを当てて設計したという。
3つ目のポイントとしてはオーディオへのこだわりだ。「Z1ではスピーカーにこだわらなかったということは無かったが、ユーザーから音が小さいなどの指摘を受けた。そこで、Z2ではスピーカーでの音にもこだわろうと決め、実際世界中の担当者に説明する際の最初のデモは常にスピーカーにしているのだが、高い評価を受けた。また、デジタルノイズキャンセリングの機能も搭載した」と、ソニーらしくオーディオにこだわった作りになっていると強調した。
なお、Xperia Z2ではオプションで用意されているUSB DACを利用することで、いわゆるハイレゾオーディオ(ソニーの定義ではCDの44.1kHz/16bitを越える音質のこと)の機能を実現している。ただし「システムとしてはハイレゾオーディオをサポートしているが、USB DACが別途必要になるので、今回は積極的にアピールするタイミングではないと思っている」とした。
Xperia Tablet Z2で、リビングでのユーザー体験を再定義したい
続いて黒住氏は、タブレットとしては昨年(2013年)に発売したXperia Tablet Zに次ぐ製品となるXperia Tablet Z2を紹介した。「Xperia Tablet Zで世界最薄、最軽量、防水と、“これでもか”とやったので、それを上回るのは大変かもしれないという議論はあった。しかし、もう一度新しい製品をやろうとなったら、それは目指さなければダメだと考えた」と述べ、薄さ、軽さを優先して開発を進めてきたとした。かつ、カメラの画素数が800万画素であること、それに伴って4K動画の撮影ができないなどの一部の機能を除けば、基本的にXperia Z2でできることは、Xperia Tablet Z2でもできるように設計したという。
黒住氏は「我々がXperia Tablet Z2で目指したことは、どうやったらリビングの体験をタブレットで再定義できるかということだった。これまでタブレットはモバイル環境で使われる使われ方だったと思うが、それがリビングでTVとは異なるコンテンツの楽しみ方がでてきていいと考えている」と述べ、Xperia Tablet Z2はリビングでタブレットを使うときに新しい使い方を提案できる製品にしていきたいとした。
そのために、Xperia Tablet Z2には多くの純正周辺機器が用意されている。例えば、スピーカーを内蔵している充電台は、充電しながら音楽を楽しむことができるし、リモコンは電話機能の子機として動作する。
なお、Xperia Tablet Z2に搭載されているLTEモデムは、音声機能付きになっており、通信キャリアの選択によるものの、データプランとだけ組み合わせるだけでなく、音声プランと組み合わせて提供することも可能だという。そのように、タブレットにも新しい使い方を提案していくことで、リビングルームでの使い方を再定義する、それを目指していきたいと黒住氏は説明した。
また、1月のCESで紹介したソニーのライフログデバイスを今回のMWCで発表したことについて「1月のCESでプレビューしたSmartBandを今回のMWCで発表した。そしてカメラ付きのユニットも今回参考展示させてもらったが、ここでお見せしたということはコンセプトだけということではなく、実際に商品化を進めていきたい」と述べ、具体的にいつということは言わなかったものの、カメラ機能を内蔵したライフログデバイスを実際の商品化に向けて取り組む意向を示した。
近い将来のWindows Phoneの採用は否定的な表現に
以下、黒住氏と参加した日本からの報道関係者からの質疑応答になる。なお質問は筆者以外の報道関係者がしたものも含まれている。
Q:Android 4.4などでは基本的なUIの部分も変わっているが、そこへのUIのすり合わせはどうなっているか?
黒住氏:Android 4.4ではユーザーインターフェイスという意味でも変わっているが、それだけでなく、我々のアプリケーションのレベルでも変わってきている。
例えば、What's Newという機能があるが、それはソニーのコンテンツの更新を表示する。その表示は新しいエフェクトの機能を使いながらユーザーに効果的に見せるようにしている。それ以外にも、ウォークマンのアプリケーションで、Music Unlimitedの機能の統合をより進め、コンテンツをどのように集めてくるかが重要になっている。以前は、XperiaでMusic Unlimitedを利用する場合には若干使いにくい部分があったが、それを改善すべくMusic UnlimitedのチームとXperiaのチームが協力して改善を進めてきた。その結果としてウォークマンアプリからMusic Unlimitedにたどり着くまでのステップが減ったりして、より使いやすくなっている。
Q:ソニーはVAIO事業を売却することを発表したが、そのことはXperiaのビジネスに与える影響は? 例えば、Xperiaのソリューションには、VAIOがソニー製品として存在することを前提に成り立っていた製品もあると思うが?
黒住氏:影響はないと言えば嘘になる。現に今回発表した製品はVAIOがソニーの製品として存在しているということを前提に設計されている。それだけでなく、アプリケーションのユーザー体験、例えばウォークマンのアプリなどは、PCとスマートフォンで揃えてきている。その中で、先日の発表のように今回PC事業が移管されることが決定されたが、その決定からまだ短い時間しか経っていないこともあり、正直どのような影響がでてくるのかはまだ見えていない。
例えば将来的にXperiaブランドでPCをやるのか、なども含めて正直まだわからない。それがお客様にとって、必要ならやるかもしれないし、そうではないかもしれない。ただ、これまでであればVAIOがあるから……という議論をする必要があったのは確かで、それが無くなることは間違いない。
現在、モバイルとホームという境目がどんどんなくなっている。実際、タブレットとクラムシェル型PCの境界はどんどんなくなっているし、タブレットとスマートフォンの境界はなくなっている。そこが2年後どうなっているかは誰にもわからない。
Q:SoCベンダーは、1つのSoCで複数のバンドをサポートするソリューションを充実させているが、1つのSKUで、すべてのバンドをサポートするスマートフォンは作れないのか?
黒住氏:SoCのレベルでは出来るようになってきている。しかし、無線(RF)部分やアンテナという観点ではまだ難しい。ソニーモバイルの製品でも、米国でT-Mobile向けに提供しているXperia Z1fは、日本とはバンドが異なるのでアンテナの配置も異なっている。そうしたことにすべて対処するには1つのSKUでは難しい。
Q:Windows PhoneをXperiaに採用する可能性は?
黒住氏:OSに関してはステップバイステップだと考えている。OSにはこだわりはなく、我々が提供したいユーザー体験が実現できることが最も重要だ。そこにWindows Phoneや、彼等の将来の製品がミートするかどうかが重要なポイントだ。現在の我々はより上位の競合他社をキャッチアップする段階にあり、2014年はそのブレークスルーになる年だと考えている。そのタイミングで経営的な判断も含めて考えると、今の時点ではAndroidにフォーカスするのが正しいと考えている。
また、我々は新しいOSへの対応を検討している時は、オープンにすることを心がけている。実際昨年Firefoxとテレフォニカとの提携で、Firefox OSの搭載デバイスを商品化に向けて検討していることを発表した。このように実際にやっているときにはオープンに話していきたいと考えている。
Q:Xperia Z2のデザインは、Z1から大きく変わっていないように見えるが?
黒住氏:我々としてはデザインの継続だと考えている。ただ、継続が難しいのは、停滞していると受け取られる可能性があること。そこで、我々なりの進化をさせている。例えば、今回のXperia Z2ではサイドにシルバーのアクセントを入れることで薄く見える工夫をしている。確かに大きな変化では無いが、お客様のニーズを細かく取り入れた進化だと思う。
Q:AppleのiPhoneのように、基本的なデザインは2年間は変えないということか?
黒住氏:技術の進化がそれ以上に進んでいるのでそこにこだわっているわけではない。我々がこだわっているのは、最先端の技術として持っているものを、デザインとしてどのように反映していくかだ。
Q:ハイレゾオーディオに関してですが、どのようなアーキテクチャになっているのかもう少し詳しく教えて頂けないでしょうか?
黒住氏:Xperiaでのハイレゾに関しては、現時点では技術的なお話は詳しくお話しすることは差し控えたい。
Q:ウォークマンの事業部でもAndroidベースのハイレゾウォークマンを発売されていますが、技術はそちらから来たと考えて良いのでしょうか?
黒住氏:ウォークマンの事業部と一緒になって動いているのは事実。ただ、どの部分が一緒か、どのように協力しているのかは現時点ではお話することは差し控えたい。現状のハイレゾは1号機であって、今あるソリューションも最終的なモノでは無く、誤解を生む可能性があるのでもう少し時間が欲しい。
Q:今年のMWCでは低価格帯のデバイスが話題ですが、ソニーモバイルの戦略は?
黒住氏:我々もさまざまな価格帯の製品を提供しているし、今後も提供していく。どうやって低価格帯を攻めていくかは、ソニーなりの攻め方があると考えていて、価格だけでは決して勝負したくない。ソニーの強みはよいデザインであり、綺麗なディスプレイであり、よいカメラであり、楽しい音楽だと考えている。そこの部分を欠いてしまうと、ソニーがスマートフォンを提供する意味が無くなってしまう。
ソニーも大会社なので、価格だけ勝負するのは難しいということもあるし、すでに他社がそこでポジションを築いている中で参入して勝てる公算はなかなか見いだせない。各価格セグメントの中で、我々の強みが出せるプレミアム商品を展開していくことが重要だと考えている。
Q:この半年という短い期間で製品を出すというのは、色々な意味で大変だと思うが、その経緯は?
黒住氏:正直に言えば、マーケットの進化がものすごく早い。フラッグシップというところを保つためには、このスピードでやっていかなければ、我々の持っているポジションをキープすることすらできない。我々としてはこのフラッグシップのポジションを維持したいと考えており、一番最新の一番良いモノをユーザー様に真っ先に届けていく必要があると考えている。その結果としてこのタイミングになった。
Q:敵が1年なら、こちらは半年ということか? 今後もそのペースは維持するのか?
黒住氏:そのペースでやっていかないと勝てない。我々の開発も加速しており、1年待って出すよりは半年で出せる体制になっている。将来どのタイミングで商品を出すのかに関してはコメントできないが、我々としてユーザー様にお届けしたい新しい技術が半年で一杯になるので、新しい商品を作っている。それが将来は1年になるかもしれないし、2年になるかもしれないが、今のペースが維持できるならそのペースでやっていきたいと考えている。