イベントレポート
ARM、Cortex-A9改良のミッドレンジスマホ用「Cortex-A12」
~IntelのSilvermontの性能への反論も
(2013/6/3 16:30)
- 会期:6月4日~8日(現地時間)
- 会場:
- Taipei World Trade Center NANGANG Exhibition Hall
- Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1
- Taipei World Trade Center Exhibition Hall 3
- Taipei International Convention Center
英ARMは、COMPUTEX TAIPEI会場近くのホテルで記者会見を開催し、「Cortex-A9」コアの改良版となる「Cortex-A12」を発表し、顧客に提供開始したことを明らかにした。また、GPUコンピューティングの機能もサポートするGPUコア「Mali-T600」シリーズの新しいデザインとして「Mali-T622」も併せて発表した。
ARMによれば、200~350ドルのミッドレンジのスマートフォン市場は、2015年には10億台に達する市場規模が予想されており、これらのIPデザインをSoCベンダーに対して提供し、スマートフォン市場におけるARMの優位性をさらに拡大していく戦略だ。
2015年には10億台に達する見込みの200~350ドル前後のスマートフォン市場
すでに多くの読者がご存じの通り、ARMアーキテクチャのSoCは成長著しいスマートフォンやタブレットといった市場で大きなシェアを占めており、急速に成長している。
ARM ビジネス開発担当上級府社長兼CMO(最高マーケティング責任者)のイアン・ドゥルー氏は「2013年には10億台を超えるスマートフォンが全世界で出荷されることが予想されており、特に50ドル以下のスマートフォンや800ドルを超えるようなタブレットなどが今後成長するだろう。そして、今後タブレットはトラディショナルなPCを超えることになる」という見通しを語った。
「そうした広がり続けるスマートフォンやタブレットの市場の中で、200~350ドル程度のミッドレンジの製品の成長性が最も期待されている。2015年に予想されているのは、2010年からは740%、2012年から250%の成長を遂げ、5億台を超えるデバイスが出荷される見込みだ。これは2013年に出荷が予想されているノートブックPCの3倍に当たる」と、成長著しいミッドレンジに適した製品を供給していくことが重要だと指摘した。
その上でドゥルー氏は「ミッドレンジの製品に求められるのはコスト、パフォーマンス、消費電力すべてにバランスがとれていることが大事だ。ハイエンド向けの製品ほどは性能がでていなくても、コストや消費電力に関しては同じレベルを実現している必要がある」と、コストと消費電力にフォーカスした製品が特に求められると説明した。そうした市場向けに、新しいCPUのIPデザインCortex-A12、GPUのIPデザインMali-T622、動画エンジンのIPデザイン「Mali-V500」の3製品をIPベンダー向けに提供すると発表した。
「我々は初めて、これらの製品をセットで提供する。これにより、SoCベンダーはこれまでよりも容易にSoCへ実装できる」と説明した。ただし、ARMの関係者によれば、実際にはSoCベンダーがそれぞれを別に選択することも可能であり、GPUは他のベンダー(例えばImagination Technologiesなど)のIPを選択することも可能とのことだった。
Cortex-A9を改良して40%の性能向上を果たしたCortex-A12
ARMv7命令セット32bitプロセッサのスマートフォン/タブレット/モバイルPC向けIPデザインとしては、現在ではCortex-A9、Cortex-A15の2つのIPデザインを提供している。今回ARMが発表したCortex-A12は、Cortex-A9をベースに改良して同じ消費電力で40%ほどパフォーマンスをアップさせた製品となる。
ARMによれば、Cortex-A12の40%の性能向上は主にクロック周波数が引き上げられる部分から来るという。ただし、内部アーキテクチャはCortex-A9から改良が加えられており、デコーダ部分はシングルイシューからダブルイシューに変更され、パイプラインのステージ数も9ステージから11ステージに拡張されるなどしており、その結果としてクロック周波数が引き上げられるようになったと考えられるだろう。このほか、4GB以上のメモリへもアドレスできるようになるなどメモリコントローラ周りの改良も加えられており、これも性能向上に寄与しているとARMでは説明している。
コア数はクアッドコア(4コア)/デュアルコア(2コア)のデザインが可能で、SoCベンダーの選択によってはCortex-A7と組み合わせてARMの省電力技術であるbig.LITTLE(低負荷時に低消費電力なA7コアに切り換える事でより低消費電力を実現する技術)にも対応可能だという。ただし、その場合にはダイ上にA7コアを実装する必要があるため、SoCを製造するコストが上がってしまう。「実際にSoCベンダーが実装するかどうかはコスト次第だ」(ドゥルー氏)との通りで、ミッドレンジ向けという製品の性格を考えると、実装される例は少なそうだ。
Mali-T622は、ARMが提供するGPU「Mali-T600」シリーズの最新製品となる。Mali-T600は3Dグラフィックスだけでなく、いわゆるGPUコンピューティングと呼ばれるGPUを利用した汎用演算をサポートした製品となる。これまでMali-T678(8シェーダコア)、Mali-T628(8シェーダコア)、Mali-T624(4シェーダコア)などのデザインが提供されてきたが、Mali-T622は公開された製品のブロックダイアグラムによれば2シェーダコアとなり、T600シリーズの廉価版という扱いが正しいと言えるだろう。消費電力は上位向けの製品に比べて50%削減され、上位製品と同じようにOpenGL ES 3.0、OpenCLに対応している。
動画エンジンのMali-V500はすでに発表されていた製品で、1080p/60フレームのフルHD動画のエンコード/デコードが可能になっており、将来的には4K動画のデコードなども可能になるという。元々設計そのものが低コストや低消費電力にフォーカスされて設計されており、Cortex-A12やMali-T622などとセットで提供されるIPとして選ばれたということだ。
TSMCとGFの28nmプロセスルールに最適化されたCortex-A12とMali-T622
ARMのドゥルー氏は「今回発表したCortex-A12、Mali-T622は、SoCベンダーが製造に利用するファウンダリのプロセスルールに最適化された状態で提供する。Cortex-A12はTSMCとGLOBALFOUNDRIESの28nmに、Mali-T622はTSMCの28nmに最適化して提供する」とし、SoCベンダーがいち早く製品を設計して生産可能にするため、ファウンダリへの最適化が済んだ状態で提供する。
このプロセスルールへの最適化というのは非常に重要で、CPUのデザインデータだけを渡された場合、SoCベンダーは自社でプロセスルールへの最適化をファウンダリと協力しながら行なっていく必要がある。それだけの能力がある大手のベンダーであれば問題ないが、そうした経験を持たないベンダーの場合には、その時間に膨大な時間がかかってしまい、結局出荷するまで膨大な時間がかかる結果になりビジネスチャンスを逃してしまう。そこで、ARMのようなデザインIPを提供するベンダーは、あらかじめファウンダリと協業してファウンダリのプロセスルールへの最適化を済ませた状態でのデータをSoCベンダーに渡すようにしている。これにより、さほど経験の無いベンダーでもプロセスルールの本来の能力を引き出す設計が短期間で可能になるのだ。
なお、Cortex-A12とMali-T622の製造プロセスルールに、2014年にも導入が予定されている進んだプロセスルールではなく、28nmを選んだことについて、ARMではコストと生産性などを勘案すると、ミッドレンジのスマートフォンに向けた製品を製造するプロセスルールとしては28nmが最適であると判断したと説明した。
IntelのSilvermontがARMを上回ったという主張に反論したARM
質疑応答では、先日Intelが発表した22nmプロセスルールのAtomであるSilvermontと比較してどうなのかという質問も出たが、質問に答えたARMのノエル・ハーレー氏(プロセッサ部門マーケティング・戦略担当副社長)は「すでに28nmのCortex-A15は、22nmのSilvermontよりも同じ電力消費でより高い性能を実現している。そしてbig.LITTLE技術を利用することでより低い消費電力のA7コアに切り換えて利用できる」と、IntelのSilvermontの性能に関する主張に反論した。
また、「ARMも今後は20nmや16/14nmなどより進んだプロセスルールを導入する計画がある。これらはいずれも今年(2013年)テープアウトする。また、ソフトウェアの互換性は何よりも重要だ。例えば世界で上位15位までのゲームにおいて85%はARMネイティブなコードが利用されている」と述べて、IntelがSilvermontを導入したとしても、ARMの優位性は動かないとアピールした。
ARMによればCortex-A12のライセンスはすでに3社に対して行なわれているとのことだったが、その中の1社が台湾のVIA Technologiesであることが明らかにされた。VIAは、子会社のWonderMediaがCortex-A9ベースのSoCを出荷しており、特に中国などの低価格なAndroidデバイスを採用するベンダーで採用されている。VIAが自社ブランドでCortex-A12を搭載した製品を出すかどうかは不明だが、自社ないしはWonderMedia経由でCortex-A12に対応した製品が出荷されることになる。
Cortex-A12を搭載したSoCの出荷について、ドゥルー氏は「2014年中の出荷を目指している、今から1年後以降だ」という見通しを明らかにしており、2014年後半頃には、実際に搭載した製品が登場することになるだろう。