【WWDC 10レポート】
基調講演速報、iPhone OS 4あらためiOS 4を正式アナウンス
~デベロッパ向けにはプラットフォームの優位性を強調

会期:6月7日~11日(現地時間)

会場:米San Francisco「Moscone Center West」



 米Appleが開催するWWDC 10が、スティーブ・ジョブズCEOによる基調講演を幕開けとしてスタートした。会期は6月7日から11日の5日間に及ぶが、基本的には基調講演をのぞいて非公開で行なわれるデベロッパを対象としたカンファレンスである。

 例年の基調講演においても華やかな話題やサプライズはあるにせよ、基本的なスタンスは技術的な内容やマーケティングとなる。しかし今回はiPhone 4の発表を中心とした、いわゆる製品発表という側面も強い。先行して写真でレポートしたように、WWDCにおいて製品のハンズオンがこれほどの規模で行なわれたのは、PowerPC G5を採用したプロ向けデスクトップ製品「PowerMac G5」が発表された2003年以来と記憶している。

みずからFaceTimeのデモを行なうスティーブ・ジョブズCEO。デザイン部門のトップ、ジョナサン・アイブ氏とのビデオトークの際に、この笑顔を見せた

 強く印象に残ったのは、1時間50分に及んだ今回の基調講演はスティーブ・ジョブズCEOがほぼ出ずっぱりで講演を行なっていたという点だ。健康状態に不安があった前回はもちろんのこと、ここ数年はジョブズCEOが全体の進行をつかさどっていたとしても、テクノロジー分野のスコット・フォーストール氏をはじめとして同社のエグゼクティブが担当に応じて分担するスタイルがほとんどだった。しかし今回はiMovie for iPhoneのデモンストレーションと、サードパーティの3社がエンターテインメントアプリケーションの紹介を行なった以外は、すべてジョブズCEOがステージ上でプレゼンテーションからデモンストレーションまでをこなしていた。

 講演はおおまかに、先日国内でも発売になったばかりのiPadが発売以来短期間にもかかわらず大きな成功を収めていることを紹介。エンターテインメントを中心にApp Storeの現状を伝え、プラットフォームとしてのApp Storeの高い価値を、集まったデベロッパに強調した。事前にiPhone 4に関する情報が漏れるトラブルがあっただけに、もったいをつけることもなく製品を紹介し、そこに搭載される機能と、初代iPhone以来の大きな跳躍と位置づけるiOS 4の可能性をデベロッパに披露して見せたというのが全体の流れである。

 エンドユーザーとしてはiPhone 4の正式発表と、既存のiPhone、iPod touchのアップデート開始が21日に決まり、アップデートが無償で提供されることが発表されたことは嬉しい話題となる。またiPadでスタートしたばかりのiBookstoreが、その提供範囲を広げてiPhone、iPod touchでも利用ができるようになることもポイントだろう。

 4月に行なわれたiPhone OS 4(当時の名称)のプレビューイベントでは明かされなかったiPhone 4に特化する機能であるRetina displayやビデオコールのFaceTimeなど、iOS 4に搭載される新たなAPIは、集ったデベロッパには大きな期待として映ったと思われる。iOS 4は、基調講演の終了にあわせて最終の製品候補バージョンがDevCenterを通じて契約済みのデベロッパに提供された。デベロッパは21日のiOS 4正式リリースと、iOS 4が搭載されるiPhone 4への対応をこれから急ピッチで進めていくことになる。なおiPadのアップデート時期については言及されておらず、プレビューイベントで発表された秋頃という時期に変更はないようだ。

 商業的には、App Storeにおける(Appleの取り分を引いた)デベロッパ側の売り上げ総額が10億ドルに達したという点や、7月からスタートするiAdがすでに6,000万ドルの広告出稿を得ている点など、プラットフォームの優位性は講演の序盤と終盤にわけて紹介されておりデベロッパに対して大きなビジネスチャンスがあることを強調した。

 詳しくは詳報として追ってお伝えすることになるが、基調講演で示された主なスライドの写真から、今回の講演全体の流れを速報として紹介する。

今回のWWDCには、世界の57カ国から5200人を超えるデベロッパが参加している。カンファレンスのチケットは発表から8日で売り切れた。会期中には120を超えるセッションとラボがそれぞれ用意され、会場では1,000人を超えるAppleのエンジニアが対応にあたる米国をはじめ、iPadが発売された日の世界中のニュース映像をビデオクリップとして上映した。もちろんこれには日本国内での報道内容も含まれている。右上のアナログの文字はちょっと寂しい発売から最初の65日間で500万冊の電子書籍がダウンロードされた。いまのところiPad 1台あたり、2冊半ほどが販売されていることになる
現在App Storeには約225,000本のアプリケーションが登録されており、これまで50億回のダウンロードがあった。総売上のうち70%がデベロッパに支払われているが、その額は10億ドルに達したという。米国におけるスマートフォンのシェア。iPhoneはRIM(Blackberry)に次ぐ28%となっているが、インターネットアクセスを目的とした利用率では58.2%と他を圧倒しているというデータを紹介
最初のiPhone(日本国内では未発売)以来、最も大きな進化を遂げるとしてiPhone 4を紹介。煙をたてて登場するKeynoteのエフェクトはかなりお気に入りなのか、この日は何度も使われていた
従来に比べて4倍のピクセル数(960×640)を表示するRetina display。左側が従来の480×320表示。日本語やポートレイトを表示して、その精細さを強調した。1インチあたり326ピクセル相当になり、一般的に人間の目で識別できる基準の約300を超えていると説明した。総ピクセル数ではiPadの78%にあたる
iPhone 4の内部構造を説明。容積の大部分を占めるのがリチウムイオンバッテリ。Micro SIMの採用は、本体内のスペースをより効率的に確保するための選択3G通話は7時間。ブラウジングは3Gで6時間、Wi-Fiで10時間。ビデオ再生10時間、音楽再生は40時間、待ち受け300時間iPhone 4には、iPadと同じA4プロセッサを採用した
製造過程や廃棄におけるエコチェックの紹介は最近の製品発表では定番三軸のジャイロセンサーを搭載。従来より搭載していた加速度センサーと組み合わせて、六軸のモーションセンサーとして機能するという。ジョブズCEO自ら行ったデモはジェンガ。ジョブズCEOがその場で体の向きを変えると、それにあわせて視点も変わる。iPhone 4だけを動かせば、上から見たり下から見たりもできる
背面には500万画素のカメラとLEDフラッシュを搭載。これを使って撮影した写真の数々をスライドに映し出してみせる
「iMovie for iPhone」のデモは、米Appleのビデオアプリケーション担当チーフアーキテクト、ランディ・ユービロス氏が行なった。サンフランシスコ市街で撮影した数々のビデオクリップを素材に、iPhone 4のマルチタッチインターフェースだけを使ってショートムービーに仕上げてみせた。iMovie for iPhoneの価格は4.99ドル
フォルダ機能のデモの様子。これまでアイコンの移動を行なっていた操作とまったく同じ手順だが、アイコンを重ねるだけでそれらをグループとしてフォルダ化。すでにフォルダになっているものには、ドラッグ&ドロップで移動ができる。サーチエンジンの選択肢に、米マイクロソフトの「Bing」が加わった。ユーザーは、Yahoo!、Google、Bingの中から好きな検索エンジンをデフォルトにすることができるiPhone 4が発売されることも踏まえ、iPhone、iPod touch、iPadなどiOSの動作する端末は6月中に1億台に達する見込み
iBooksを、iOSの動作する端末すべてに拡張。いったん購入したコンテンツを同一のユーザーが利用する場合は端末ごとの追加料金は不要。また、作成したノートや栞の機能を他の端末で共有できる。例えばiPadで途中まで読んだ本の続きからiPhoneで読むこともできるiTunes Store、iBookstore、App Storeと、デベロッパが各種コンテンツを提供できる場所(ビジネスチャンス)を次々に拡大していると説明。
iAdは7月1日から開始。無料や低価格のアプリケーションでも収益を得ることができる仕組みを提供するという。詳報でさらに紹介するが、日産、ユニリーバ、キャンベル、そしてディズニーなど誰もが名を知る大規模広告主がローンチパートナーとして名を連ねているデモされた日産が提供するiAd。バナーをクリックするとコンテンツが利用できる。内容は燃費の経済性や、製品特徴を紹介するもの。なかにはプレゼント企画なども用意されているようだ
まだスタートしていないiAdだが広告料はすでに6,000万ドルを獲得。これは米国市場におけるモバイル広告売上額である2億5,000万ドルのおよそ4分の1。7月にスタートするiAdは半期にあたるので、半期あたりなら48%のシェアを取るという。これは8週間のセールスで達成した数字。ビデオコール機能の「FaceTime」。iPhone 4のみで利用できる機能だ。フロントサイドのカメラを搭載したことにより実現。2010年内はWi-Fi接続を前提として提供されるが、いずれ電話回線でのサービスも開始するという
米国におけるラインナップ。これまでは存在しなかったiPhone 3GSの8GBモデルが新たに加わり、従来の低価格製品iPhone 3G 8GBと置き換わる形で提供される注目されたiPhone 4の発売日は6月24日の木曜日。先行予約は15日から開始される。15日は米国でのゲーム関連イベントE3の初日にあたり、任天堂の「3DS」お披露目の日でもある……と考えるのはうがちすぎか……米国をはじめ、フランス、ドイツ、イギリスそして日本の計5カ国で24日に同時発売。以降、7月、8月、9月と発売される国と地域を増やしていき、9月には88の国と地域に達する見込み
iPhone 4のアクセサリーとして発売される専用のドックは29ドル先行したiPhone 4レビューでも紹介したバンパーは各色29ドル。計6色が用意される既存のiPhone OS対応機器向けには、6月21日にiOS 4へのアップデートが無償で提供される。製品の世代によってはiOS 4自体の対応ができなかったり、マルチタスクなど一部の機能が制限される場合もある

(2010年 6月 8日)

[Reported by 矢作 晃]