45nm世代の半導体が不良との闘いを振り返る
半導体デバイスの信頼性技術に関する世界最大の国際会議「国際信頼性物理シンポジウム(IRPS:International Reliability Physics Symposium)」が現地時間の4月28日よりカナダのケベック州モントリオール市で始まる。IRPSは40年を超える歴史を有しており、半導体デバイスの信頼性を揺るがせた、数多くの不良モードが公表されてきた場として知られる。以下では、2009 IRPSの注目講演を紹介しよう。
●初日:論理回路のソフトエラー初日の午前は、プレナリセッションと呼ばれる基調講演のセッションである。プレナリセッションはすべて招待講演であり、IRPS実行委員会が依頼した研究者が講演する。今年は2件の基調講演が予定されている。最初にIBMがアライアンスによる半導体製造技術の共同開発について述べる(講演番号1.1)。続いてBroadcomが、製造設備を持たない半導体ベンダー(ファブレス半導体ベンダー)による半導体デバイスの品質管理手法を解説する。
昼食休憩の後は一般講演となる。午後の前半は、4つのセッションが並行して進む。セッションのテーマは「トランジスタ(BTIとトラップ)」、「化合物半導体トランジスタ」、「新型メモリ」、「極限環境」である。
この時間帯は「新型メモリ」のセッションに注目したい。Numonyxが、相変化型メモリの微細化を議論する(講演番号2E.1)。NECは、抵抗変化型メモリの読み出しディスターブ耐性について述べる(講演番号2E.3)。富士通研究所は、MRAMの記憶素子である磁気トンネル接合の絶縁膜破壊特性を調べた結果を報告する(講演番号2E.4)。
休憩を挟んで午後の後半も、3つのセッションが同時に進行する。テーマは「トランジスタ(BTIとトラップ)」、「光エレクトロニクスおよび薄膜」、「アセンブリとパッケージング」、「ソフトエラー」である。
ここでは「ソフトエラー」のセッションが興味深い。Intelが、組み合わせ論理回路と逐次論理回路のアルファ線ソフトエラーと中性子線ソフトエラーについて述べる(講演番号2H.3)。メモリと違い、論理回路では冗長構成が採りづらい。これまで論理回路のソフトエラーについて半導体ベンダーは公表を避けてきただけに、注目のテーマだ。ソニーは、SRAMの微細化トレンドとアルファ線ソフトエラーおよび中性子線ソフトエラーの関係を報告する(講演番号2H.4)。人工衛星の開発企業であるBoeing Satellite Systemsは、IBMのASICを衛星に採用した経験に基づく不良解析事例を紹介する(講演番号2H.6)。
●2日目:高誘電率膜/金属ゲートの量産技術2日目の午前は、3つのセッションが並行して開催される。前半が「ファブレスとファウンドリ」、後半が「製品の品質保証」となるセッションと、「フラッシュメモリ」のセッション、前半が「不良解析」、後半が「レイトペーパー」となるセッションである。
「ファブレスとファウンドリ」のセッションでは、FPGAの大手ベンダーであるXilinxとAlteraがそれぞれファブレス半導体ベンダーとして信頼性をどのように確保したかを述べる(講演番号3A.1および3A.2)。また「フラッシュメモリ」のセッションでは、東芝とSanDiskの共同研究チームが3bit/セル方式のNANDフラッシュメモリの信頼性について報告する(講演番号3C.7)。
昼食休憩を挟んで午後も、3つのセッションが同時に進行する。テーマは「プロセスと集積化」、「ナノエレクトロニクス」、「高電圧デバイス」である。「プロセスと集積化」では、Intelが45nmの高誘電率膜/金属ゲート技術を開発して量産化に至るまでの経緯を紹介する(講演番号4A.1)。
この日の夜は、ポスター発表(ポスターセッション)とレセプションが同じ会場で開催される。ポスター発表とは、研究概要を記した10枚前後のポスターをパネルに貼っておき、研究者がパネルの前で参加者の質問に直接答えるというセッションである。2時間という長くない時間枠に80件前後のポスター発表が予定されており、参加者にとっては非常に忙しいセッションだ。なお今年は、銅配線のエレクトロマイグレーションに関する発表が多い。
●最終日:銅金属多層配線の信頼性を議論最終日の午前は、3つのセッションが並行して開催される。午前の前半は「エレクトロマイグレーションとストレスマイグレーション」、「高誘電率ゲート膜のリーク電流と絶縁破壊」、「MEMS」に関するセッションである。
「エレクトロマイグレーションとストレスマイグレーション」のセッションでは、IBMが銅配線のエレクトロマイグレーション寿命を論じる(講演番号5A.2)。TSMCは銅配線にマイグレーションを引き起こす電流密度を報告する(講演番号5A.3)。IMECは銅金属と低誘電率絶縁膜の配線系で機械的な応力が初期のボイド(空孔)を誘起するメカニズムを解説する(講演番号5A.4)。
「高誘電率ゲート膜のリーク電流と絶縁破壊」のセッションでは、高誘電率膜/金属ゲート技術の信頼性評価結果が続出する。IBMとAMDの共同研究チームが、高誘電率膜/金属ゲートのnチャンネルトランジスタに正バイアスのストレスを与えたときに誘起されるリーク電流と欠陥発生を論じる(講演番号5C.1)。Intelは、高誘電率膜/金属ゲート技術によるトランジスタの寿命評価手法を述べる(講演番号5C.3)。
午前の後半も3つのセッションが同時に進む。テーマは「低誘電率層間絶縁膜」、「ゲート絶縁破壊とホットキャリア」、「レイトペーパーとESD」である。「レイトペーパーとESD」のセッションでは、IBMらの研究チームが、基板の方向を45度回転させることで性能を30%向上させ、リーク電流33%低減させたPowerPCプロセッサを発表する(講演番号5F.2)。
昼食休憩を挟んで午後も、3つのセッションが並行して開催される。「層間絶縁膜の絶縁破壊」、「回路の信頼性」、「ESD」のセッションである。
「層間絶縁膜の絶縁破壊」に関するセッションでは、多層配線の層間絶縁膜に使われる低誘電率材料のTDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)寿命を調査した結果が相次いで報告される。IBM(講演番号6A.1)、STMicroelectronics(講演番号6A.2)、Chartered Semiconductor Manufacturing(講演番号6A.3)、TSMC(講演番号6A.4)が発表を予定している。
このほかにも興味深い発表が少なくない。詳しい内容は現地から随時、レポートをお届けする。
(2009年 4月 28日)
[Reported by 福田 昭]