【ESC SV 2009レポート】
一人気を吐くVIA Technologies

SATAドライブを最大8台搭載できるNSD7800。タワー型

会場:米国カリフォルニア州McEnery Convention Center
会期:3月30日~4月2日


 とにかくプロセッサベンダーの不在が目立つ今回のESC。MCUはまだしも、その上のグレードのベンダーが殆ど目立たなかった中で、唯一健在ぶりを示したのがVIA Technologiesかもしれない。実際、景気停滞期ほど、同社の様なTotal Solutionを提供できるベンダーほど有利になるわけで、そうした事もあってか積極的なラインナップ展開を見せていた。

●ストレージ&ネットワークソリューション

 昨今のNASを見ると、Marvellの「88F5182」などを使った製品が比較的多い。これは別に88F5181が凄く優れているというわけではなく、CPUというかSoCのみならず、EthernetのPHYなどを含めたパッケージの形で安価に提供され、かつデザインに必要な情報やソフトウェアもまとめて提供されるため、そこそこの性能のものが短いTATで安価に開発できるという点が大きい。

 もちろん同じMarvellの「PXA」を使った製品や、Freescaleの「PowerQUICC」系、あるいはその他のメーカーがやはりARMコアをベースとしたNAS向けSoCをリリースしているが、何れのケースでも選択の理由は大きくは変わらない。

 NASといってもピンキリで、ここで言っているのはSMB(Small/Medium Business)あるいは家庭向けをターゲットとした製品の事。こうしたマーケットであれば、絶対的な性能はそれほど高くなくて十分だから、性能面でどうこうという話はそれほどない。

 実際88F5182の場合、搭載しているのはARM9互換ながら3命令同時発行のアウトオブオーダを実装した「Feroceon」である。設計ターゲットはCortex-A8と同程度の性能/周波数だったはずだが、実質は400MHz駆動だから、そう高速なものではない。これはPowerQUICC II系も同じで、概ね1,000DMIPSいくかいかないかというあたりでしかない。PC系で言えば、Celeronの400MHz~500MHz位と考えれば良い。

 こうしたマーケットであれば、C3/C7やNanoといったx86系プロセッサでも十分に賄える。特にMicrosoftがこのマーケット向けにWindows Home Serverを投入したことで、x86系である事が大きなメリットとなってきている。

 そこで、こうしたマーケットに向けてVIAも以前から製品を投入していた。具体的には「NSD7800」とか「NSR7800」がこれにあたり、実際今回も展示されていたが(写真1、2)、これらのサーバーに搭載されているのがこちらのNAS7800(写真3)だ。

こちらは2Uラックにやはり8台SATA HDDを搭載できるNSR7800ほぼCD-ROMドライブ(というか、ちょっと奥行きのあるDVDドライブくらい)の大きさのNAS7800。C7コアにGigabit Ethernetを1ポート(オプションで2ポート)、8ポートのSATAを備える

 ただ8ポートというのはややハイエンド向けの扱いになるため、もう少し廉価なものとして今回登場したのが「NAS7040」(写真4)と、これを搭載した「NSD7200」(写真5)。あえてNAS7800より大きめなMini-ITXのフォームファクタにすることで、ケースなどの選択の幅を広げた構成である。今は通常のC7搭載Edenを利用したWindows Home Server対応アプライアンスが多いが、今後はこちらに切り替わっていくのではないかと想像される。

Mini-ITXのフォームファクタに、C7と4ポートのSATAと4ポートのUSB、1ポートのGigabit Ethernetを搭載する。多少サイズにゆとりが出たためか、DIMMスロットが2本に増強されているキューブケースにそのままNAS7040を搭載したようであるが、HDDをリムーバブルベイに搭載するためか、SATA HDD 2本までとなっているのがちょっと残念。起動用にCFスロットを搭載しており、ここからブートすることを想定している

 ネットワーク関係で言えば、「NAB7500」と、これを搭載した「NFR7500」も展示されていた(写真6、7)。こちらはNASから一歩進んで、FirewallやVPN/VoIPゲートウェイなどを構成する、いわゆるネットワークアプライアンス向けの汎用プラットフォームである。

 汎用なので、特定の処理向けのアクセラレータなどは一切搭載されておらず、これで十分な性能が出るのかはちょっと疑問ではあるが、PCIバス経由で最大2枚まで拡張カードを装着できるので、必要ならこちらに専用アクセラレータを搭載せよということなのかもしれない。

オンボードで5ポートのGigabit Ethernetを持つボードも珍しい。ボード左端には、拡張用のPCIのコネクタエッジがある。ここにPCIのバックプレーンを挿せば、PCIボードの拡張も可能NAB7500を搭載した1Uのアプライアンス。5ポート目のGigabit Ethernetポートが開いてないのはどういう理由だろう

 ネットワーク繋がりで言えば、システム監視など向けのソリューション例も示されていた(写真8)。ベースになるのは「EPIA SN」(写真9)だが、これに特定用途向け拡張ユニットを組み合わせる事で専用システムを簡単に構築できる(写真10)というサンプルだ。

 このシリーズの最新の製品が「AMOS-3000」(写真11)で、その広い動作環境(-20~+60℃、振動は5Gmrs、衝撃が50Gまで)をウリとしていた。

こうしたシステムは、例えばビルの空調や照明・電力管理などのシステム制御、工場のさまざまな制御(照明や空調などから、機械の制御とか生産管理など応用は幅広く考えられる)など、さまざまな用途向けに考えられる。こうしたものはしばしばオーダーメイドに近い構成になるため、ハードウェアを新規に起こしているとコストが合わなくなる。だからといって汎用のPCをそのまま使うと、コストやサイズ、消費電力の点で厳しい場合が少なくない。そうした用途向けの提案であるChrome9が要るかと言われれば必要条件ではないだろうが、何らかの表示機能(液晶ディスプレイを使った掲示板など)が求められる場合もあるから、あっても困らないとは言える。拡張性が必要なら、PCI Express x16スロットにアクセラレータを装着することも出来る。
右側は電源ユニット。左下に並ぶのはデジタルI/Oで、その右がRS232C。シーケンサの制御などに使えそうだ。むりやりケースに収めたためか、蓋がゆがんでいるのはご愛嬌これは正面から。裏面にはRS-232CとミニD-Sub15ピン/DVI出力、Ethernet、それにDC電源入力を装備している。ボード上にDC/DCコンバータを搭載しており、単一電源(7V~36V)を供給すると、内部でこれを変換してくれるので、高価なPC用の電源が不要になるという仕組み
●マルチメディア系

 マルチメディア関係については、やはりS3のChromeシリーズの性能を誇示したものが多かった。S3 Chrome 500を搭載したBlu-ray Disc(BD)プレーヤー(写真12)とか、詳細不明のままH.264の再生デモを行なっているボード(写真13、14)などもあったり、2007年に発表したMobile-ITXの実物を展示したり(写真15)、あるいは自動車のインフォテイメントシステム向けの動作デモ(写真16)なども行なわれていた。何れの構成も、2D/3D表示を積極的にS3 Chromeに任せる事で、CPU負荷を低く抑えられるという点を特徴としている。

 もちろんBDプレーヤーにしろ、メディアプレーヤーや自動車向けインフォテイメントシステムにしろ、じっくりと開発期間を取ってきちんと設計すれば、もっと小型/低価格なシステムはできるのだろうが、昨今のTAT短縮や開発費縮小という流れの中ではこうした選択肢はとりにくい。

 それどころか、独自にボードを起こす事そのものも開発コスト増大やTAT短縮阻害の要因になると看做されているケースも珍しくない。ハイエンド向けはともかく、低価格向け製品の場合は、1つのボードでラインナップを複数用意することまで考えなければ、開発コストの回収も難しくなりつつある。

 別にこうした話はマルチメディア系に限った話では無いのだが、特に低価格向けとなると、さまざまなフォーマットやメディアのサポートがどんどん増えていくとか、ちょっとした新機能で差別化を図るといったソフトウェア側の比重が大きいから、ハードウェアに関してはなるべくコモディティで済ませたいところで、そうした用途向けにはこうした製品が便利だろう。

 似たような発想はIntelなども行なっており、CeleronなどをベースとしたSTBやプレーヤー向けソリューションをラインナップしてはいるが、あちらはあくまでもチップとリファレンスデザインのみの提供で、後はそのパートナー企業が目的に適った製品を作ってくれるのを待つというスタンスになる。

 Intelはこうしたパートナー企業を多数用意するというエコシステムの作り方をしたが、VIAは全てを自前でやってしまうというアプローチになっている。少なくとも今のところVIAのEmbedded関連の売り上げは好調であり、この自前でやるビジネスモデルがうまく動いている様に見受けられる。

 もっとも車に関してはまた別だろう。今のところVIAは自動車関連の1st tierメーカーには食い込めていない。これは、台湾には有力な自動車関連メーカーが無い事も関係しているかもしれない。とりあえず今回は出しただけという感じであり、当座は2nd/3rd Tierの、安価なインフォテイメントシステム向けをターゲットとしている感じではある。ただこれを応用して他の用途に使うというベンダーが出てきそうな構成ではある。

VIA NanoにS3 Chrome 500を搭載した「VIA Trinity Platform」の試作機。筐体がゴツイのは試作機だから致し方あるまい。最終的にはちゃんとワンボードになると思われるが、今回はおそらく「EPIA-SN」に「Chrome 530GT」あたりを装着した構成と思われる構成的には「VIA MMC7000」の後継製品と思われるWindows XPを動かし、この上でWindows Media Playerを全画面表示でH.264の再生をしながらCPU負荷を表示していた。概ね50%程度の負荷であることが判る。写真13でCPUやチップセットにヒートシンクをつけないままで動作させて問題ないことを示しているあたりが、このデモの最大のセールスポイントと思われる
携帯機器向けのMobile-ITX。ボードそのものは6×6cmで、それをI/O拡張用のキャリアカードに装着して動作をさせている図と思われる。ただ実際は結構なサイズのヒートシンクなどもついているため、あまり小さく見えない。やはりWMVフォーマットの動画再生を行なっていたIVP-7500」プラットフォーム。リンク先を見ていただければ判るが、拡張インターフェイスが完全に車載向け。HDDも1.8インチのPATA用とか、電源も+12V単一で動作するといったあたりが特徴的。GPSとかFMトランスミッタを搭載するのも目新しい
●I/O拡張系

 I/O拡張系というくくり方もどうか、という気はするが他に上手いくくりも見つからなかったのでまとめて。Embedded用途というと、非常に広範囲にわたり、特に最近では携帯とかIA(Internet Appliance)系が取り沙汰される事が多いからつい忘れがちになるが、Embeddedの原点は制御系であり、デバイスを繋いでなんぼの世界でもある。

 が、Mini-ITX以降の流れは、余分なI/Oを廃した省パッケージ化が随分進んできた。その最たるものがCOM Expressで、もうI/Oはキャリアボードで全部賄う形にしてしまえ、ということであるが、こうした省サイズの規格は反面高価でもある。というのはCOM Expressは非常にボードサイズが限られるので、CPUパッケージやチップセットには、ノート用などで使われる省パッケージのものが使われるし、PCI Express x16レーンを始め、結構な本数の信号が出るため、基板も4層では全然無理で、8層とか10層といった、これもノートと同じ実装技術が必要になる。省スペースが重要な要件となっていればこれも仕方ないが、I/Oが増えるとどうしても筐体が大きくなるのは避けられないし、そうなると「こんなに小さくなくていいんじゃないか」という疑問は当然出てくる。

 とりあえず価格面に関しては、もっと安価で拡張性の高い規格を、という形でPico-ITXをベースにPCI Expressを追加したものが「Pico-ITXe」である(写真17)。このPico-ITXeは、昨年もちょっと触れたSFF-SIGが制定するSUMITをベースとしたもので、会場ではCPUボードの「P710」(写真18~20)、I/O評価ボードの「EPIA-P710」(写真21、22)、Gigabit Ethernetを搭載する「PXE-GigE」、HD出力用S3 Chrome4300E搭載の「P710-HD」(写真24、25)、それと汎用I/Oの「PCO-UIO48」(写真26)が展示されていた。

まだ立ち上がったばかりなので、今のところは最小限のコンポーネントしか用意されていない。今後どの程度ラインナップが増えるかだろうCPUモジュール。これが一番下になる関係で、CPUの放熱をしっかりする必要があるためか、ビデオカードのようなクーラーが装着されていた横から。まさしくビデオカード用クーラーそのもの。ただし一般的なビデオカードとは逆に、中央のファンから吸気し、それをこのスリットを経由して横に排気するような構造に見える
裏面にSO-DIMMソケットが配される。左上のものは、電源供給用DC/DCレギュレータのヒートシンクのようだPCI Expressのx1とx4スロット、USBが2ポート、それと独自コネクタ(ボード上にVIAのVT1212 Super-I/O Liteが搭載されているから、LPC経由でシリアル/パラレルとかIDE、あるいはLPCやSPIを引っ張りだしているだけだと思われる)が搭載されている裏側はSUMITのDownlink側のみが実装されている
信号を見る限り、Connector AのPCI Express x1レーンにGigabit Ethernetコントローラを繋げただけに見える。PC/104用の信号を出すためにはLPCあたりにBridgeを繋いでISAを出す必要があるのだが、裏面実装なのかもしれないChrome 4300Eと2つのGDDRチップが目立つ構成
SUMITコネクタは裏面のみ。なのでこのカードは構成上一番上に来る事になる。流石に表面だけではGDDRは実装しきれなかったようで、裏面にも2チップが配されるConnector AのLPCにぶら下がる形でIDEを2ポート装備した例

 これをもっと推し進めると、「別に小型でなくてもいい」というニーズが当然出てくる。どっちみちI/Oの数が増えれば、どうしてもそれを接続するために筐体サイズは大きめのものとなる。であれば、無理に小型化して積層しなくても、もう少し大きなボードサイズで構わないというわけだ。

 こうした用途向けにVIAが制定したのがEm-ITX(Em-ITX)である。ボードサイズはMini-ITXよりはやや小さいが、それでもPico-ITXなどに比べると一回り大きいもので、CPUボードとI/Oボードの2層構造になることを前提とした構成だ。既に「EITX-3000」として製品は発表されているが、これが会場でも展示されていた(写真27~30)。Em-ITXの場合、基板を3枚以上積層することは考えていない(そうした用途には、SUMITを使ったExpress 104の方が適しているだろう)ようで、薄型構成で多数のI/Oを搭載するという目的にあわせた規格となっている。

 このところ、VIAは次々と新しいフォームファクタを提案し続けていたり、SFF-SIG以外にStackable USBやPC/104 Consortiumとの連携を深めたり、とインフラ廻りの動きが激しいが、改めて見てみると、とにかくx86をベースとしたさまざまなEmbedded向けモジュールを充実させることで、他社(これは対Intelのみならず、ARMとかMIPSなどをベースとしたSoCも念頭においているだろう)が介入しにくいほどラインナップを増やし、「VIAのモジュール+汎用OS(LinuxやWindows系)+クライアントのソフトウェア」という構図でアプリケーションを迅速に立ち上げるサイクルを作り上げようとしているようだ。

 この構図に乗り気なのがMicrosoftで、とにかくWindows CEに関してはVIAとの連携をかなり意識しているようだ。PCマーケットにおけるWintelの構図を、EmbeddedでVIAと上手く構築できるかがVIAのビジネスそのものの行方も決めそうに感じた展示であった。

こちらがCPUボード。NanoとVX800はボードの裏面に実装されるという斬新な構成。I/Oボードとは基板左端のコネクタで接続されるこちらが写真28の上にかぶさる形で実装されるI/Oボード。中央にあるのはS3 Chromeとフレームバッファ
こちらはシリアル/パラレルI/Oボード会場ではEMIO-3100を積んでの動作デモが行なわれていた

(2009年 4月 14日)

[Reported by 大原 雄介]