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キヤノン、高齢者の運動機能測定システムを発売

~Windows PCとMicrosoftのKinectを利用

ロコモヘルパー

 キヤノンマーケティングジャパンとキヤノンITSメディカルは、運動機能測定システム「ロコモヘルパー」を6月1日から発売。介護予防事業所向けソリューション事業に参入する。

 ロコモヘルパーは、介護現場などにおいて、高齢者の運動機能測定を自動で行なう機能を持った製品で、日本マイクロソフトのKinectを使用。Windows 10を搭載したノートPCと、プリンタとの組み合わせで提供するシステム。システム価格は約60万円から。保守価格は年間3万円。製品化に当たっては、慶應義塾大学体育学研究所・山内賢准教授が監修している。

 Xboxなどでのゲーム用途で使われているKinectを、介護領域におけるBtoBソリューションに応用した事例の1つとなる。

日本マイクロソフトのKinectを利用している

 高齢になると運動器に障害が発生し、自立度が低下するロコモーティブシンドロームが問題となっており、政府では、これを改善し、健康寿命を延伸させるための事業に取り組んでいる状況だ。2014年度には全人口の26%にあたる3,300万人であった65歳以上の高齢者は、2050年度には全体の39%を占める3,700万人に拡大。高齢化に伴う健康寿命の延伸は、日本における重要な取り組みと位置付けられている。

 「キヤノンMJでは、2020年を最終年度とする長期経営構想フェーズⅢにおいて、独自成長領域の1つとして、医療ソリューションを掲げており、今回の製品は介護の領域から提案していくソリューションとなる」(キヤノンITSメディカルの伊原彰人取締役)。

キヤノンITSメディカルの伊原彰人取締役

 ロコモヘルパーでは、Kinectによる赤外線センサーを活用して、骨格情報をもとに、人の動きを運動として認識。これにより、筋力やバランス能力、歩行能力などを測定することができる。

 「介護のデイサービスでは、3カ月ごとに運動測定業務が義務づけられているが、高齢者の運動測定は、介護スタッフが複数名で対応する必要があるなど、作業負荷が大きかった。ロコモヘルパーでは、これまでメジャーやストップウォッチで測定していた作業を、Kinectによる赤外線深度センサーカメラ機能を用いて自動測定を行ない、計測時間を大幅に短縮できるほか、手作業で行なっていた記録作成をデジタル化するとともに、評価レポートを自動出力できる。評価レポートでは、それぞれの運動におけるコメントも自動で生成。本人や家族に対しても動画を使って改善状況を提示できるため、改善していることが体感できるというメリットもある」という。

 ロコモヘルパーは、ロコモの判断基準となる「開眼片足立ち」、「椅子立ち座り」、「最大一歩」、「通常歩行および最大歩行」、「TUG(Time up & go)」の5つの項目を自動測定することができる。

 それぞれの測定結果ごとに評価を行なうほか、理学療法士などがデータを見て、歩いたときの頭の動きの軌跡を見て、どんな変化があったのかを確認したり、今後、どんな運動が適しているのかを指導したりといったことが可能になる。測定状況を録画する機能を標準で搭載。また、策定した数値データは、Excelで表示することが可能だ。

 「経年変化を動画で比較したり、運動した際の骨格の軌跡や別の人との動き方の比較といったことが視覚的に表示できる。理学療養士の説明に加えて、実際の動画で歩き方を確認できるため、歩行の仕方が正しかったり、正しくなかったりといったことも視覚的に確認できる」という。

ロコモヘルパーの画面
ロコモヘルパーで測定を行っている様子
測定している画面の様子
ロコモヘルパーの基本構成
ロコモヘルパーで測定できる5つの項目
ロコモヘルパーから出力される評価レポート

 すでに、介護サービスを提供する社会福祉法人聖隷福祉事業団の聖隷藤沢ウェルフェアタウンで試験導入を行なっているほか、同じく介護サービスを提供するソラスト(旧日本医療事務センター)でも、全国46カ所の通所介護サービス事業所に、6月以降順次導入する。ロコモヘルパーを使用した介護スタッフからは、「簡便に体力測定が行なえ、事務作業を本来のケアの部分にあてられる。体力測定機器が不要になる」といった声が挙がっているほか、「高齢者も、楽しく体験してもらうことができるのに加えて、測定結果を視覚的に見られることから、変化も感じてもらえる」と、利用者から高い評価が挙がっていることを示した。

 使用するWindows 10搭載PCでは、CPUがCore i5以上、メモリ16GB以上、USB 3.0ポートが必要。また、Excel 2013およびPDFが利用できる環境が必要。

 キヤノンITソリューションズが、Kinectを活用したソリューションを開発するのは今回が初めて。「エンターテイメント性を持たせて、運動することに主眼を置いたシステムもあるが、ロコモヘルパーは、計測を主体とした製品に仕上げた。正しく計測をすることを重視することで、高齢者が運動能力の回復を理解しやすいようにした」という。

 同社では、国内約88,000施設の介護予防サービスおよび居宅サービスを対象に、今後3年間で1,000施設への導入を図る計画だ。

 なお、整形外科やクリニックなどの理学療養士が在籍する医療機関もあるが、医療機器の認可は取得しないことから、これらの市場はターゲットとしない考えを示している。

(大河原 克行)