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複雑化するAtom搭載タブレットPCの性能評価

~細かく熱を制御するIntel技術、「某ブラウザゲームに特化したBIOSも可能」

11月27日 発表

マイケル・キャンベル氏

 インテル株式会社は27日、都内で記者説明会を開催し、タブレット向けSoC「Atom」シリーズに搭載された数々の技術についての説明を行なった。

 冒頭では、同社 クラウド・コンピューティング事業本部 事業開発本部 モバイル事業開発部のマイケル・キャンベル氏が挨拶。現在タブレット市場が大きく拡大し、画面サイズとOSによる違い、そして価格の違いにより選択肢が大幅に増え、日本国内だけでも700万台を超える市場になっていることを紹介した。

 これまでARMを筆頭とする競合に押され気味だった市場だが、IntelもAtomプロセッサの搭載によって、Windows/Androidタブレット市場を開拓。具体的には、Acer、ASUS、Dell、富士通、HP、Lenovo、NEC、テックウインド、東芝などが搭載製品をリリース。これによって消費者に製品の新たな選択肢を提供したとアピールした。

 競合に対するアドバンテージとしては、Webブラウジングにおける性能、長いバッテリ駆動時間、そして互換性の3点に集約される。特に、今もなおWindowsプラットフォームのブラウザでしか動かない金融系のWebサイトや、これまでユーザーが築いてきたWindowsソフトの資産が多数存在することから、これらがAtom搭載タブレットを使用するメリットであるとした。

タブレット市場の拡大
多様化するPCの種類
インテルのタブレット向け製品
インテル搭載タブレット製造メーカーの増加
Atom搭載製品の例
Atom搭載タブレットの利点

Atomに搭載されたさまざまな技術

平井友和氏

 続いて、同社 モバイル&コミュニケーションズ事業部 カスタマー・テクノロジー・ソリューション プラットフォーム・ハードウェア・エンジニアの平井友和氏が、Atomのアーキテクチャや、搭載されている技術について解説した。

 Atomプロセッサのマイクロアーキテクチャは45nmプロセスの「Bonnell」コアから始まり、32nmにシュリンクした「Saltwell」を経て、今回の「Silvermont」に至る。Silvermontでは22nmプロセスを採用し、マイクロアーキテクチャを一新することで、最大で3倍の性能向上と、同一性能においては80%の消費電力削減を実現した。

 プラットフォームとしてのコードネームはBay Trail。SKUとしては、Z3000番台でDが付くモデルと、Dなしモデルを用意。いずれも4コアで2MBのキャッシュを搭載する点は同等だが、D付きモデルは廉価なDDR3L-RSをシングルチャネル、Dなしモデルはやや高価なLPDDR3をデュアルチャネルでサポートする点が異なる。

 また、D付きモデルのメモリ帯域は10.6GB/sec、容量は2GBまでという制限があるが、Dなしモデルでは帯域が17.1GB/secまで、容量は4GBまでとなる。メモリ帯域の違いによりディスプレイの最大解像度も異なり、前者は1,920×1,200ドット(WUXGA)、後者は2,560×1,600ドット(WQXGA)までのサポートとなる。

 Atomプロセッサはタブレット向けのSoCとなっているため、各種センサーやカメラセンサー、SDカードスロットやNFC、GPS、3G/LTEモデムなどに直結可能なバスを用意している。一方デスクトップPCではポピュラーなPCI ExpressやSATAなどは消費電力が高いため省かれているという。

 従来のClover Trailと比較すると、SDIOが2.0から3.0にアップグレードされたほか、USB 3.0の標準サポート、Gen7と呼ばれるIntel HD Graphicsの内蔵などが、大きく異なる点である。また、先述の通り、2コアで1モジュールという構成となったため、2コア間の性能が最適化されたという。

 低消費電力のCPUでアウト・オブ・オーダー実行を実現するにあたり、インテルは注意深くアーキテクチャを設計した。「メインストリーム向けCPUのノウハウを取り入れ、アウト・オブ・オーダーとしての性能を高めながらも、ほぼフルスクラッチでアーキテクチャを再設計した」とした。

 例えばアウト・オブ・オーダーで並べ替えた命令を、プログラムが本来持つべき処理順序に戻すリオーダー・バッファ/リネーム・バッファの実装、分岐予測アルゴリズムの改良や、ループ処理を検出するループ・ストリーム・ディテクターの実装などが挙げられる。また、通常L2キャッシュの容量を増やすとレイテンシも比例して増えてしまうが、そのインターフェイスも改良を行なうことで従来の2倍の容量を実現しながらレイテンシが削減されているという。

Silvermontアーキテクチャの位置づけ
Silvermontアーキテクチャの特徴
SKUとインターフェイス
Bay Trailのブロックダイアグラム
Silvermontの内部アーキテクチャ

Intel Dynamic Platform & Thermal Frameworkという仕組み

デバイスマネージャーやタスクマネージャーからも認識できるDPTF

 さて、最新のBay Trail世代のみならず、Clover Trail世代から、実はIntel Dynamic Platform & Thermal Framework(以下DPTF)という仕組みが採用されている。

 タブレットを設計する際には、性能もさることながら、熱設計を慎重に行なわなければならない。タブレットは基本的にファンレスが前提だからだ。

 一般的なタブレットの設計を見てみよう。環境温度は25℃~35℃とした場合、筐体の素材(金属か、プラスチックか)によって人間が熱いと感じ取る温度は異なるし、ディスプレイをタッチする際は表面温度が40℃以上だと熱いと感じることがある。また、内蔵されるコンポーネントも許容温度が異なり、SoCであれば90℃程度でも動作するが、メモリは85℃、ディスプレイだと50℃が限界だということも考えられる。さらにバッテリを急速充電する際は大きな発熱が生まれるし、無線LANモジュールもトラフィックが多いと多くの熱を発する。

 そこでDPTFでは、筐体内に多くの温度センサーを搭載し、それぞれの温度をリアルタイムに監視し、SoCや液晶輝度などの制御を行なうようにした。DPTFでは30以上のパラメータを用意し、BIOSやファームウェアで変更できる。製品発売/出荷後でも、OTAでBIOSをアップデートして再調整が可能なほか、利用形態などによっても柔軟に変更できるという。

 一例としてDPTF Passive Limitという1つのパラメータを50℃に設定すると、50℃に近くなるにつれCPUのブーストクロックを段階的に落とし、発熱を抑えて50℃を超えないようにできる。また、部品の配置位置によってパラメータを変更したりすることで性能と発熱のバランスが取れるという。

タブレットの設計で考慮すべき要素
DPTFの仕組み
一例としてDPTF Passive Limitを50℃に設定した場合の挙動

 つまり、同じAtomのSKUでも、メーカーやモデルの設計や構造の違い、さらには利用方法によって性能が異なるということだ。例えば、無線LANモジュールとAtomが近い距離にある小型モデルでは、無線LANモジュールの発熱の影響を受けやすいため、ネットワーク通信によって性能が低下する可能性がある。一方で筐体が大きく熱設計に余裕がある場合は、高い性能を維持できるといった具合だ。

 また、単純な3Dベンチマークであれば、Atomとメモリの発熱が大きいが、その筐体で放熱しきれればスコアが高い。しかし実際の3Dオンラインゲームプレイになると無線LANモジュールが発熱するため、筐体で冷やしきれなかった分、実際のベンチマークスコアとは異なり低い性能を示す場合がある。バッテリの充電も同時に行なわれている場合さらに発熱が増すので、性能がさらに下がる可能性がある。

 よって、一見Atomタブレットは表記スペックが横並びでも、ユーザーの使い方によって、モデルごとに性能が異なる。また、それぞれの部品の許容温度のパラメータのチューニングもメーカーによって異なり、OTAのBIOSアップデートでも変更可能になるため、一概に「当初ベンチマークスコアほかのモデルが低かったので、低性能のまま使い続けることになる」とは限らない。

 さらに言えば、メーカーがユーザーの使い方を分析し、最適化したBIOSを提供することも可能だ。「例えば昨今、日本国内ではAtomを搭載したWindowsタブレットで某ブラウザゲームを動かすことが大流行しているが、極端に言えばメーカーがその日本市場向けのみに、某ブラウザゲームに特化したBIOSを作ることも可能だ」と平井氏は言う。

 なお、DPTFはハードウェアで動作するのではなく、デバイスマネージャー上からはデバイスとして認識され、タスクマネージャーでもプロセスが動作していることが確認できるが、以上の仕組みのため、デバイスを無効にしたりプロセスを切ったりするようなことはしないよう呼びかけた。

実機で動作しているDPTF関連のデバイスとプロセス
DPTFデバイスの削除やプロセスの終了はしないよう呼びかけた
Bay Trailによってもたらされる体験

IAタブレットが実現するストレスフリー

 最後に平井氏は、インテルアーキテクチャ(IA)搭載タブレットが実現するストレスフリーの体験について、デモを交えながら解説。未だプリンタなどのデバイスはWindowsとの親和性が高く、フル機能を体験できるほか、WindowsのみならずAndroid、そして32bit/64bit双方のサポートがIAの強みだとした。また、各種ブラウザやFlash/Silverlightのようなプラグインとの互換性、対応ファイルフォーマットの広さなどでも分があるとし、これらが競合に対するメリットであると訴えた。

 発表会に自前のデバイスを持ち込んだ同氏は、2-in-1 Ultrabookの「VAIO Duo」からAtom搭載の「ARROWS Tab」へMicro USB経由で充電を行ないつつ、マウス/キーボードを共有できるケーブルでシームレスに操作やデータのやりとりが行なえることアピールした。

IAタブレットによってもたらされる体験
デモで自前のデバイスを持ち込んだ平井氏
周辺機器との互換性
WindowsとAndroidのサポート
Webブラウザやプラグイン、ファイルフォーマットとの互換性

(劉 尭)