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エプソン、産業分野の印刷にも適用できるインクジェットプリントヘッドの新技術

9月24日(ベルギー時間) 発表

ベルギーで開催されたLabel Expo 2013でPrecisionCoreを発表するセイコーエプソンの碓井稔社長

 セイコーエプソンは24日(ベルギー時間)、ベルギー・ブリュッセルで開催された業界最大の国際展示会「Label Expo(ラベルエキスポ) 2013」において、インクジェットプリントヘッドの新技術「PrecisionCore」(プレシジョンコア)を発表した。

 会見では、セイコーエプソンの碓井稔社長が出席。「この技術は、幅広い領域において、ピエゾインクジェットを支配的な印刷技術にしてしまうだけのポテンシャルを持っている」と自信を見せた。

 セイコーエプソンが発表した「PrecisionCore」は、薄膜ピエゾプリントヘッド技術の総称となる。その中核となるのは、新開発のプリントチップだ。

 エプソンが長年培ってきたマイクロピエゾ方式のプリントヘッド技術に、超薄膜ピエゾを形成する材料分野を見直し、高精度な MEMS製造技術を融合。小型、高精密でありながら、高い応答性と超高精度のインクドットコントロール性能を有しており、高速かつ高画質な印刷を実現するという。

 また、エプソン製プリントヘッドが持つ高い耐久性や幅広いインク対応性といった特徴を継続。精密なドットコントロールとマルチサイズドット技術が、高品質なテキストとグラフィックスを実現するとともに、優れたインク技術や幅広いインク対応性を有する。大量印刷や高速印刷においても、最高レベルの画質と、印刷物の耐候性を実現でき、ビジネス文書や写真、屋外看板、商用ラベル、パッケージ、捺染などのあらゆる用途での印刷が可能になるとする。

 「PrecisionCoreは、印刷速度や画質など、商業・産業分野で求められるインクジェット印刷の高度な基本性能を、幅広い分野にまで広げることができる新開発のプリントチップとなる。このプリントチップを用途に応じて最適に配列することで、産業印刷機向けのラインヘッドから、オフィス向けデスクトッププリンタ用ヘッドまで、同一のプリントチップを用いて、柔軟で幅広いプリントヘッドの構成が可能になる。産業分野においては、既存のアナログ印刷からの置き換えにも適したものになる」(碓井社長)としている。

 アクチュエータは、独自のオートノズルチェックシステム(Automatic nozzle state analysis system)を実現したことで、外部に検知システムなどを設けていなくてもノズルからインクが吐出していることを検出。この検知システムは、印刷システムの設計をシンプルなものとし、メンテナンスも単純化させ、さらに信頼性の向上、ダウンタイムの最小化にも繋がっているという。

 同社では、アクチュエータを形成するピエゾ材料の開発を独自に行なうほか、製造プロセスも自社で開発し、生産効率が高い生産ラインを、長野県富士見町の諏訪南事業所と、山形県酒田市の東北エプソンに設置。2013年度内にも発売するビジネス向けおよび産業向けプリンタから、新たな技術を採用したプリントヘッドを順次搭載していく予定だ。

PrecisionCoreのプリントチップとラインヘッド
PrecisionCoreのプリントチップの構成
電圧を加えることで変形するピエゾ素子の特性を用い、ノズル状態を自己診断する

 碓井社長は、「PrecisionCoreをインクジェット印刷の基本プラットフォームとして展開していくとともに、今後も継続的に進化させ、競合優位性を強化したい」と述べた。

 Label Expo 2013の会場においてPrecisionCoreを発表した碓井稔社長のコメントからは、この技術に対して並々ならぬ思いを込めていることが伝わってくる。会見の冒頭では「ラベル印刷を始めとした印刷分野の成長領域において、エプソンが主要な役割を果たしていく、という決意を再確認するためにブリュッセルにやってきた」と切り出した。

 さらに、「私は1990年代当時、ピエゾ開発チームを率いており、小型ピエゾプリントヘッドを開発。1993年には同プリントヘッドを搭載した初代インクジェットプリンタ『EPSON STYLUS 800』(国内向けMJ-500)を製品化した。この初代モデルは機能的に限られていたが、この技術は商業・産業領域の印刷にも耐えうるポテンシャルを持ち、印刷速度と画質において、最大限の性能を発揮するプリントヘッドを作り出せると考えてきた。それは開発のみならず、商品の生産を外部委託することなく自らの手でゼロから作り出すことを信条としてきたエプソンだからこそできるもので、エプソンのキーとなる強みは、『art and science of manufacturing』と訳される、『ものづくり』にある」などとした。

 また、PrecisionCore技術については、「幅広いインク対応性によって、高濃度の顔料や溶剤、UVインクといった、新たなお客様に要求される幅広い種類のインク吐出が可能となる。拡張性(Scalability)と、インク対応性(Flexibility)、プリントヘッドの耐久性(Durability)というエプソンの強みを、新たな市場において最大限に活用していきたい。またピエゾ素子とシリコン製プリントチップは耐久性に優れており長寿命である」としたほか、「PrecisionCoreプリントチップは、さまざまな形でモジュラー部品を配置できることから、産業印刷の専門家から一般的なビジネスマンといったあらゆる主要な顧客セグメントにおいて、高性能な印刷システムをテイラーメイドで作り出すことができる。高額な設置コストをかけることなくオンデマンド印刷を可能にすることもできる。PrecisionCoreは、これまでのどんな技術とも異なり、ピエゾインクジェットを幅広い領域において、支配的な印刷技術になるだけのポテンシャルを持っている」などとした。

 さらに、「エプソンにとって、品質と信頼性とはコインの表と裏のようなもの」とし、「精密さ(Precision)は、今も将来に渡っても、エプソンの事業の中核(Core)を成すもの。PrecisionCoreの名称には、そうした意味を込めている」とした。

 続けて、「私たちは、まだスタートしたばかりである。今後も、薄膜ピエゾ技術の開発を絶えることなく行ない、PrecisionCoreテクノロジーを磨き続けていく。すでに、さらなるイノベーションに向けた研究開発が始まっている」などとし、今後の技術的進化についても強調した。

レーザープリンタとの印字の比較
レーザープリンタ(図中B)と同等の色域を表現できる

(大河原 克行)