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「ITバスが行く」、衛星ブロードバンドや
3Dプリンタを搭載した「Mozilla Bus」誕生
(2013/9/20 11:41)
オープンソース・ソフトウェアのFirefox等の開発/提供を行なっている一般社団法人Mozilla Japanは、9月19日、「Mozilla Busプロジェクト(略称:MozBus(モズバス)プロジェクト)」を開始すると発表した。「MozBusプロジェクト」とは、自家発電機や衛星ブロードバンド車載局やPC、3Dプリンタなどを搭載したクルマを使って、学校での出張ワークショップや、防災インフラとWebの実験研究などをオープンプロジェクトとして行なうもの。10月から日本各地でワークショップや研究走行や展示を行なっていく。
「MozBusプロジェクト」は、Mozillaが2012年春に立ち上げた「Mozilla Factory」のプロジェクトの一環。「Mozilla Factory」とは、「オープンを軸としたモノづくりを学び実践する場」とされていて、それ以外は特に制約がない。代表理事の瀧田佐登子氏は「MozillaはWebやブラウザでのオープンソースものづくりを推進してきた。昨今、そのやり方を企業やソフトウェア以外のものづくりでも進めていこうという動きがある。そこで『オープンなものづくりを学び実践する場』としてMozilla Factoryを立ち上げた」と述べた。Mozilla Japanそのものが昨年(2012年)、六本木に引っ越しをし、その場を使ってオープンなものづくりを行ないたいと考えたのだという。
だがそれと同時期に、IT教育における地域格差の拡大や、科目としての「情報」をどう教えるのかといった、教育現場の戸惑いの声を直接聞く機会があり、Mozillaコミュニティでそれをサポートできないのかと考え始めた。また、東日本大震災の被災地のネットワークや教育をなんとかしたいという思いもあったという。その時のイメージは、TV番組の「キッチンバスが行く」のようなかたちで地元の人たちとふれあいながらその土地ならではのモノ作りを行なう、「ITバスが行く」といったような構想だったという。
車載用衛星アンテナやラッピングなど外装は整っているものの、このバスの内部が具体的にどのような装備になるかなど詳細は未定で、プロジェクトを実際に走らせながら、かたちを見い出していく予定だ。瀧田氏は、「これからはリアルなものづくりにも必ずWebが繋がる形になる」と述べ、「一度Webの外に出て創造することをやらないと、新しいネットの世界を作れないんじゃないか。研究と同時に楽しいワークショップをやっていきたい」と語った。みんなが学べる場を作っていきたいという。
会見にはこのバスを使って、研究活動そのほかを行なうメンバーとして、「日本のインターネットの父」として知られる慶応義塾大学環境情報学部長の村井純氏のほか、「ファブラボ」(Fab Lab)活動で知られる慶応義塾大学の田中浩也氏、同じくメディアアーティストでもある筧康明氏、東大から慶応義塾大学に移った地震研究者の大木聖子氏、国立天文台の大江将史氏、復興マップ等の活動も行なっているOpenStreetMap Foundationの古橋大地氏、IPSTAR社の田中靖人氏らが紹介され、ネット中継でそれぞれコメントを述べた。
田中浩也氏は「必要になったときに必要になったもののデータを送る」、そして、それを現地で3Dプリンタで作るといったことがこれからは行なわれるようになると述べて、「ネットとファブというのは兄弟のようなもの。フィジカルとデジタルとか、頭と身体とかの先にWebとファブがあって、情報とWebがいったりきたりする」とこれからの将来像を語った。
実世界とWebを繋ぐインターフェイスの研究やアーティストとしての活動を行なっている筧康明氏は「メディアアートでも体験しないと分からない作品が多い」と続け、「各地に出かけたときもその場にあるものを使って、その場にいる人と一緒に作品を作るという体験をしている。インタラクティブな装置がアートだけじゃなくて、教育や町おこしなどの活動にも繋がっている。今回のバスが人と人とのかけはしになれば」と語った。
誰もが書き込める地図であるOpenStreetMapの活動を推進している古橋大地氏は、被災地の地図作り活動において、オープンな地図は被災地のように大きく変化しているところには向いていると述べた。現地でワークショップをしているが、その場にWebがないことが少なくないという。今回のバスによって被災地での地図作りが今後加速するのではないかと期待を述べた。また、GPSを使ったり、UAVによる空撮も個人ができるようになっている状況から、例えば、いずれはデータだけ送れば、ファクトリーとなった「MozBus」で飛行機が作られて、飛んでいくようなことができれば面白いのではないかと語った。
国立天文台の大江氏は、情報ネットワークを駆使して、「すばる」望遠鏡と小学校や中学校を繋ぐ活動を国立天文台は行なっていると紹介。「バスがあるだけでさまざまな教育コンテンツを提供できるし、子どもたちからのフィードバックも受けられる。現場の研究者に返せるだけで子供たちの個性が出てくる。このバスはそういう可能性を持っている」と述べた。
村井純氏は、「グローバルなネットワークはだいたいできた、これからはローカルだ」と話を始めた。今の学生はインターネットがあって当たり前なので、ネットワークそのものにあまり関心がないという。世界中の人とやりとりができるのは当たり前で、そこから始まって何をすべきかということが大事になっている。また、東日本大震災の体験を踏まえて、その前後では大きく変わったと述べた。
そして「我々ができるのはインターネットを繋ぐこと。繋げばプラットフォームとしていろんな人が使う。疲れた子供にはエンターテイメントが提供できるし、大人は情報を得る。医師は薬の調達に使う。プラットフォームは大事だ」と述べた。MozBusは、震災時等にはライフラインになることが想定されている。村井氏は「非常時に使うものは、普段から使っておかないと役に立たない。日常活動していて、いざとなるとライフラインステーションになる」とMozBusの構想を語った。
今後Mozillaでは、このバスを走らせながら、具体的な運営方法そのものも徐々に作っていくつもりだという。広くさまざまなところに出かけていきたいと考えているが、どこでどのように何をするかは、今のところ決まっているもの以外は「行きあたりばったりで考えない」ことにしているそうだ。色々なことをやっているうちに徐々に人や土地との繋がりが生まれていくだろうから、その間にやれること、できる範囲がだんだん決まって来るだろうという考え方のようだ。
とりあえず3年間は走らせたいという瀧田氏は、「オープンであるからできる人と人とのつながりを大事にしていきたい。メディアの皆さんも、このバスをどう活用すればいいのかを考えてもらいたい」と語った。