NECパーソナルコンピュータ、世界最軽量Ultrabook「LaVie Z」の開発話を披露

NECパーソナルコンピュータ「LaVie Z」

8月1日 開催



 NECパーソナルコンピュータ株式会社は1日、「Tech Day Ultrabook LaVie Z 世界最軽量への挑戦」と題した説明会を開催。LaVie Zシリーズの開発エピソードなどを披露した。

商品開発・商品企画担当 執行役員 小野寺忠司氏

 まず、同社 商品開発・商品企画担当 執行役員 小野寺忠司氏が、会社の開発・企画方針を説明。レノボとの合弁になり、優先課題として、これまでの「安心・簡単・快適」をしっかり継続しつつ、イノベーションを起こすような商品を提案していくという。NECのコーポレートロゴには「Empowered by Innovation」の文字があり、これがNECの原点だとする。合弁によるシナジー効果を最大限に活かし、その第1弾が今回のLaVie Zだとした。

 企画・開発体制については、3つの要点を挙げた。それは「驚きと感動」、「先行して市場投入」、「世界一や世界初の技術」で、今回のLaVie Zは持った瞬間に驚いてもらえ、世界最軽量という分かりやすい指標を達成した。

 小野寺氏は「世界で1番すごい素材を持ってきて作れ」、「世界一ができないなら開発中止」と発破をかけたという。詳細は、僚誌クラウドWatchの「Close-up Enterprise」を参照いただきたい。

合弁後の優先課題イノベーションが原点企画開発の体制
コンシューマPC商品企画本部 中井裕介氏

 次に、同社 コンシューマPC商品企画本部 中井裕介氏が企画とコンセプトの背景を解説した。

 まず「なぜ世界最軽量を目指したか」という点。これは、モバイルノートPCの購入者に対するアンケートで、「軽さ」を最重要視する傾向があったという。CULVと呼ばれていた11~13型程度の製品、12型前後の本格的なビジネスモバイルPCのどちらのユーザーとも、4割近くが「軽さ」と回答。また、市場に薄型の製品も出始めたが、見た目は薄くても、持ってみると重くてガッカリすることが多く、中井氏も同様の体験をしたという。

 そこで、薄さを備えつつ、軽さで世界一を目指すことにしたという。

 目標は900g未満、800g台に設定。その理由を3つ挙げ、一般的な10型前後のタブレットが650g前後、Bluetoothキーボードが200g程度で合計すると800g台になること、NECのビジネスモバイル「VersaPro タイプVC」が868gだったこと。そして、2011年のUltrabookは13.3型が1.1~1.4kg、11.6型が1.1kg前後だったこともあり、2012年には1kgを切る製品の登場が予測され、それをさらに上回りダントツの世界最軽量として驚いてもらえるのが800g台だったという。

 中井氏は、「普段は企画側が無理難題を言って、それを開発側がたしなめるのだが、今回は開発側が牽引していく体制になっていた」と話した。

モバイルPCは「軽さ」を最重要視900g未満を目指した3つの理由
商品開発本部 柳澤恒徳氏

 続いて、同社 商品開発本部 柳澤恒徳氏が、LaVie Zで初採用した「マグネシウムリチウム合金」の開発について説明した。

 軽量合金はこれまで、鉄よりも軽い合金を用いた製品が開発され性能向上に寄与してきた。電車や飛行機、自動車といった一般的な乗り物からロケット、宇宙船に至る原動機で動く製品に用いることで、動力が少なくすみエネルギー効率や運動性能が向上してきた。また、人が持ち運ぶ製品に採用されたことで、疲労軽減や持ちやすさ、使いやすさといった効果があった。

 また、材料の比重差と構造による強化で筐体を軽量化できるとする。板の曲げ剛性を「D」とすると、「D=ヤング率×板厚の3乗/12(1-ポアソン比の2乗)」の計算式で求められる。板の剛性は厚さの3乗に比例するため、ヤング率の高い堅い金属を使うよりも、軽量合金で板の厚みを増やした方が剛性に対する効果は高い。今回のマグネシウムリチウム合金のヤング率は45、ステンレスは200だが、ステンレス0.5mmの剛性はマグネシウムリチウム合金0.8mmで同等だという。ステンレスの比重は7.9、マグネシウムリチウム合金の比重は1.36なので、同一剛性の重さは3分の1以下にできる。アルミニウム合金、マグネシウム合金も軽量だが、それよりも同一剛性で軽くできるのが今回の素材となる。

 新素材の検討段階では、調査結果や営業ヒアリングなどで、軽量PCへのニーズは明確だったこと、マグネシウム合金での軽量構造設計のノウハウを蓄積していたことなどが追い風となり、3年前に研究開発を始めたという。その技術調査の結果、最軽量金属であるリチウム(原子番号3、比重0.534)を添加した合金が存在することが判明。1950年代に米国バッテル研とNASAで研究された「LA141」(リチウム14%、アルミニウム1%)の比重が1.36でプラスチックに匹敵していた。さらに、リチウムを加えるとマグネシウムの結晶構造が変化し、常温での成型が可能になるというメリットもあったとする。

軽量金属の実用例金属の比重と剛性の差マグネシウムリチウム合金を調査

 ただし、1960年代には高純度化や表面処理といった課題の克服が困難で、ミサイルや宇宙船向けの軽量部品など特殊用途しか検討されず、一般向けの実用化は実現していなかった。

 この課題に対応するため、リチウムの高純度化と加工技術に優れた会社からマグネシウムリチウム合金の開発意思表明があり、2009年から共同検討を開始。また、金属表面処理の有力企業と協業して、共同開発することになった。ここで本格的に開発をスタートしたという。

 全く新しい素材のため、1つの目的を目指して連携させる開発体制、チームを構築。今回の製造工程は、素材作成から、圧延、研磨、切断、プレス、表面処理、塗装を6社で分担し、NECパーソナルコンピュータに納入される。開発には6社の40名以上が関わったという。

1960年代当時の課題とその克服6社と協力して新材料を実用化へ

 開発中にはさまざまな課題に遭遇した。まずは不純物による特性の低下。断面をとっても不純物が少ないと思っていたら、ある角度の断面で線状のものがたくさんあった。次に、表面処理と塗装において、サビ止めと塗装の下地、導電性が必要だが、改良を進めるために極力、薬液の配合を開示してもらったという。塗料も新材料向けのものを開発。新材料のため設計のやり方が根本的にわからないといった課題には、プレス会社と試作を繰り返し、量産可能な形状を詰めたり、0.1mm単位の交渉を行なったりと、デザインガイドを策定をしたりした。

 プレス成形では、曲げたところの表面がざらつく「肌荒れ」状態になったり、塗装すると表面に凸凹の縞模様が見えるといった問題もあったが、材料メーカーと圧延会社、研磨会社の連携で対処した。力づくで解決しようとするのでは無く「材料の声を聞き」解決策を考える必要があったという。柳澤氏は「7人(NECと6社)の侍で実現した。多くの関係会社とのチームプレー」と評した。最後に、今回の実用化を活かし、マグネシウムリチウム合金をさまざまな製品に採用していくとした。

 開発をお願いしたところには、封筒に試作機を入れて持って行き、封筒から出して見せ、モチベーションをあげてもらっていたという。

開発時にさまざまな課題が浮上し、各社の協力で対応

商品開発本部 梅津秀隆氏

 機構設計については、同社 商品開発本部 梅津秀隆氏が、ダントツの世界最軽量のために行なった、いくつかの要素を紹介した。

 1つは筐体一体型の液晶パネル。通常は金属フレーム付きで納入される液晶モジュールを、バラバラにしてマグネシウムダイカスト成型の天板に直接組み込み、金属フレームの強度をマグネシウムの外装で補う。金属フレームが無くなり、厚さで0.3mm、重量で4g削減した。

 マグネシウムリチウム合金の底面の採用については、キーボード面のカバー部分を実績のあるマグネシウムダイカスト成型で主骨格とし、複雑な形状を集約。マグネシウムリチウム合金はプレス成形のシンプルな形状とし、カバー部分で包み込んで強度を高めている。

 キーボードは、キーボードモジュールをキートップ部分に穴を開けた井桁のカバー部分に裏側からはめ込み、裏から64カ所をネジ止めする構造とした。これには、Android端末コンセプトモデル「MGX」の技術を流用したという。通常の上からキーボードをはめ込むバスタブ構造よりも1mm薄くなり、重量は15g削減した。キーボードのモジュール自体は柔らかいが、カバー部分にはめ込みネジ止めして一体化すると、ふかふかした感覚は無くなり剛性も高まるという。

軽量化の概要天板と一体の液晶キーボードの薄型化
キーボード面の本体カバーの裏側。キートップ用の多くの穴と、その間にネジ穴があるキーボードのモジュールにもネジ用の多くの穴がある。裏側からはめ込むため、ネジ穴の部分はカバーで隠れ見えない

 基板については、従来は面積を小さくできる高密度化を重視していたが、今回は薄型化のため面積よりも層を減らし、軽量化のため銅箔が減る貫通ビアを採用。VersaPro タイプVCでは10層基板(ビルドアップ)、重量約98gだったが、LaVie Zでは、8層基板(貫通ビア)で厚さが0.8mm、重量は約92gになった。

 梅津氏は軽量化のエピソードとして、「デザイナーが“LaVie”のロゴを光らせたいと言っていたが、光らせるためにLEDを入れると1gほど重くなるので、ホログラムにしてもらった」という。カラーバリエーションについては「塗料で数g増えてしまうので現状は軽さ優先の1色」と軽さ優先を最後まで強調した。

基板の薄型化マグネシウムダイカスト成型のメーカーとともに問題を分析キーボードは64本のネジで剛性を確保した

(2012年 8月 1日)

[Reported by 山田 幸治]