Logitech(ロジクール)が設立30周年を迎え、日本でも記念イベントが開催された。マウスやキーボード、また高級イヤフォンやスピーカーなどのオーディオ機器など、PCの周辺機器のみならず、デジタルに関わるさまざまなデバイスのベンダーとして知られる同社の創立はは1981年10月2日だ。この日、ダニエル・ボレル(Daniel Borel)氏、ピエルルイジ・ザパコスタ(Pierluigi Zappacosta)氏、およびジャコモ・マリーニ(Giacomo Marini)氏の3名は、Logitech International S.A.をスイスのApplesという小さな村で創業した。
イベントに伴い来日した創業者の1人、ダニエル・ボレル氏(現取締役会非常勤メンバー、1988~2007年は取締役会長、1992~1998年はCEO)に話を聞いてきた。
-30年間という歳月は、企業としてのLogitechをどう変えたのでしょう。
ダニエル・ボレル氏 |
【ボレル氏】山あり谷ありの30年でした。コンシューマの夢をかなえるのだという大きな見返りを抱いてビジネスを続けてきました。それはある種のスリルといってもいいでしょう。びっくりするような夢を見られるようなものを届けるスリルです。
競争も厳しかったし、傷ついたこともありました。でも、バランスをとってやってこれた30年だったと思います。
そういえば、創業当時は、No Microsoft、No Intel、No Appleでしたね。そのあたりが今とは大きく異なる点です。でも、何かが起こりそうだなと感じることはできました。
-そしてマウスといえばLogitechというくらいの企業になりました。
【ボレル氏】コンピュータは四角い箱に過ぎません。そこにマウスやキーボード、カメラ、ジョイスティックといったデバイスがつながり、テクノロジと人の間に立ちます。私たちのビジネスは、まず、そこに注目したのです。それが今は、スマートペリフェラルと呼ばれるようにまでなりました。
ビジネスをスタートさせた当時には、PCが常に中心にありました。PCとそれを取り巻くペリフェラルの間に人間がいたのです。
今、PC以外のデバイスはバリエーションに富むようになり、さまざまなものがデジタルワールドを構成しています。でも、PCが企業等で使われている以上、それがなくなることはありえないし、大量のマウスを供給するようなLogitechのビジネスは、これからもきっと残ることになるでしょう。
ハードウェア、ソフトウェア、そしてインターネットにより、デジタルワールドは変わりました。そして、低コストで高いクオリティのものができるようになり、競合との戦いは激しくなる一方です。でも、これからも自分たちの技術を使って、いろいろなことができるはずだと信じています。
-これからもマウスはまだまだ使われ続けるのでしょうか。
【ボレル氏】ダグラス・エンゲルバート博士はマウスの発明者として知られています。彼が作ったマウスは、今から考えればとてもベーシックなものでした。でも彼は、マウスを構成する基本的な部分すべてを発明したのです。しかも、彼の業績は、マウスの発明だけではありません。当時、彼が生んだアイディアは、人とコンピュータの間にあるもっと広範なところをカバーしていました。それが今、ジェスチャや音声認識、マルチタッチなどによってコンピュータに意思を伝えるスタイルとなって今なお生きているのです。
その一方で、1983年、ヒューレットパッカードはHP-150というコンピュータをこの世に送り出しました。タッチスクリーンによって、指でPCを操作できるというものです。でも、彼らは発売の半年後に、タッチスクリーンをやめてしまいました。操作のたびに腕を動かすのはつかれるし、画面が汚くなってしまうことを嫌ったからです。ユーザーもそれを受け入れなかったのでしょうね。
でも、マウスはとてもナチュラルです。だからマウスが残ったのでしょう。今、コンピュータの音声認識がかなり賢くなって、声でPCを操作したり、文章を入力することができるようになっていても、キーボードがなくならないのと同じで、マウスはなくならないかもしれません。
大事なことは、ものごとをやる方法はたった1つではないということです。だからこそ、そこにあらゆる可能性が見つかるのでしょう。
-ロジクール自身が、音声認識などの技術に取り組むことはあるんでしょうか。
【ボレル氏】それはなさそうですね。音声認識は、従来の操作方法に置き換わってしまうものではありません。音声こそがナチュラルなインターフェイスであるとは限らないでしょう。これから精度はまだまだ上がっていくでしょうが、他の方法に取って代わることはないでしょうね。ただ、音声認識がポピュラーになるなら、いかに快適にスマートに音声をコンピュータに伝えられるか、それをかなえる方法を提供することが私たちのビジネスなのでしょうね。
-未来のコンピューティングは、どうなると考えていますか。
ダニエル・ボレル氏 |
【ボレル氏】デジタルワールドがリアルワールドになるのが未来だと思います。未来には、今よりもずっとたくさんの人がたくさんのコンピュータ的なデバイスを持つようになるでしょう。そして、ビデオや写真、音楽を楽しみます。必然的に、新たな顧客が誕生します。それがデジタルの世界に新たなトレンドを生みます。
たとえば、われわれのHarmony Linkという製品をご存じでしょうか。これまでの多機能型リモコンを発展させ、スマートフォンなどにアプリとして提供しているものです。このソフトを我々のHarmony Linkデバイスと組み合わせることで、さまざまなデバイスをコントロールすることができます。
つまり、私たちは、リモコンというハードウェアではなく、インテリジェンスを売らなければならないと考えます。音楽をオーディオセットで聴くというだけで、いったいどれだけの操作が必要とされるのか想像してみてください。リモコンを駆使して、いろんな機器をコントロールすることは、これまでのやり方をよりシンプルにするということでもあります。だって、たった1つのリモコンで複数の機器を複合的にコントロールするのですからね。
次の段階では、クラウドミュージックにおけるビジネスもありますね。リモコンで操作すれば、クラウドから自分の音楽が落ちてきて、目の前のスピーカーで再生されるんです。テクノロジとして、エレクトロニクスとインターネットがつながることこそ、成功のカギとして欠かせないと考えます。
-30周年記念の画期的なマウスの発表が期待されていましたが。
【ボレル氏】残念ながら間に合いませんでした。でも、用意はしているんですよ。しかも、複数のカテゴリでね。1つはマウスになるでしょう。私たちも30周年を記念した製品を、このタイミングでお見せしたかったのですが、実際に内部では日常的に使っているものの、まだ、お見せできる段階にはありません。でも、もうすぐです。完成したら、すぐにお知らせしますから。
-来年はWindows 8も出てきて、PCと対話するための方法論に大きな変化が訪れそうです。
今、世界の8割の人々がWindowsを使っています。その最新版としてWindows 8が登場することで、タブレットからテレビまで、いろいろなものが変わってくるでしょう。きっとジェスチャー的な要素も当たり前のものになっていくはずです。私たちとしても、あらゆることをビジネスチャンスにしたいと考えています。もちろん、エンジニアたちはWindows 8にきちんと対応するべく作業を進めています。新しい眼をもち、既成概念を超えた様相になっていく状況を楽しもうと考えています。
-ありがとうございました。
(2011年 10月 18日)
[Reported by 山田 祥平]